歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
〜絵里〜
朝からずっと、いや、もしかしたら昨日からずっとそわそわしているかもしれない。
だって、告白するのよ?さすがの私でも緊張くらいするわよ。ええ、するに決まってる。
さっきから生徒会室をうろちょろして、生徒会長の面影なんて微塵もない。
「希、大丈夫かしら…」
なんて、今は親友の心配より自分を落ち着かせることに専念したほうがいいわね。
自分の席に座って深呼吸。
落ち着くのよエリーチカ。そう、私ならできる。
そう意気込んだと同時に生徒会室のドアが開いた。
「み、みみみはね!好きよ!!!」
突然のことに混乱してそんなことを叫んでしまう。
あぁ…やってしまった。だって、そんなにすぐ来ると思わないじゃない。
生徒会室のドアからは、目を見開いて固まっているみはねと呆れた顔をした希の姿があった。
「えりち…それはウチがいなくなった後に言うべきやん?いや、普通の人ならそうすると思う」
「ご、ごめんなさい。いろいろとタイミングが良すぎて…」
そんなの言い訳だとばかりの顔で睨まれてしまえば段々と語尾は弱くなっていって。
「はぁ…ほな、ウチは行くから。部室で待ってるからね」
「希!ありがとう!」
「ウチのことはいいから、この固まってるみはねをなんとかするのが先やで」
希はみはねを部屋に押し込むと、手をひらひらと振って去っていった。
沈黙。
二人きりになったはいいけれど、あんなことをしてしまった手前どうすればいいのやら。
みはねはさっきから私から少し離れたところに座っていて、下を向いてしまっている。
「あ、あの。みはね?」
「っな、なに?」
声をかけるとあからさまにびくりと反応するみはねに少し苦笑する。
そんなに身構えなくてもいいじゃない。
「その、さっきのことなんだけど…ほんとなのよ?」
すると、さっきまでの強張った顔をしていたみはねはどこへいったのやら、最初は我慢して、だんだんとこらえきれなくなったのか声を出して笑い始める。
「は、はは…っそ、そんなの気にしてたの?」
そんなのって、少しひどいわよ。私からしたら一世一代の告白だったんだから。
「き、気にするわよ!本当はもっとかっこよく伝えるはずだったんだもの」
「そうなんだ。でも、ドアが開いた瞬間に叫んじゃうくらい私のこと考えてくれてたんだなぁ…って嬉しかったよ」
そう言ってさっきまでと違って優しく微笑むから、ほんとにずるいと思う。
「その、でも、ちゃんと言い直してもいいかしら?」
みはねは私の隣の席に座り、しっかりと頷いてくれたのを確認してからまた私は口を開く。
「私はあなたのことが好きよ。もしかしたら、一目惚れかもしれないわ。でも、仲良くなって、近くでいろいろなみはねを見るたびに…もっともっと好きになった」
きっとこれからも、新しいみはねを知ってはどんどん好きになる。そんな気がするの。
一緒にいるだけでこんなにドキドキして、誰かと仲良くしているのを見るだけでもやもやして嫌だって思って。この気持ちを一人で抱えるのはもう辛くなってしまった。
ごめんなさい。だから、みはねにぶつけてしまいたくなってしまった。
本当は、伝えてはいけない気持ちなのかもしれない。それでも私は…私たちは伝えることを決意した。
「好きよ。どうしようもないくらい大好き」
だって、誰にも取られたくないんだもの。
私たちの知らない人が、みはねの隣に立つなんて絶対に嫌よ。
「ありがとう。私も好きだよ」
はにかみながらみはねはそう言う。
好き。私が待ち望んでいた言葉なのに、いざ受け取るとなると心に重くのしかかる。
全然、私の中の気持ちは軽くならない。これじゃあ、意味ないじゃない。
「う、れしいわ…」
ひとつ、また一つと瞳から涙が溢れる。
なんで私は泣いているのだろうか。泣くつもりなんてまったくないのに、なんで。
「絵里ちゃん?泣いてるの…?」
「ご、ごめんなさい。すぐに止まる、から」
いくら拭っても全然止まってくれない。
どうしよう、みはね困らせてしまう。
がたり、と椅子の音がなったと思ったら腕を引っ張られて立たされる。そして、そのままみはねに抱きしめられた。
「絵里ちゃん。どうしたの?」
すぐ耳元で私の大好きな落ち着く声がする。
その問いかけに何も答えることができない私は、ただ涙をこぼすのみ。
みはねはゆっくりと離れると、今度はおでことおでこをくっつけてきた。
「絵里ちゃん…?」
これでもかってくらい優しく名前を呼ばれれば、無意識のうちに心の奥底にしまったはずの気持ちが顔を出す。
「ごめんなさい。みはねの好きをみんなももらってるって思ったら、悲しくて」
優しく人差し指で涙をすくわれる。少しだけくすぐったい。
「こっちこそごめんね」
「いいえ、違う。みんなに言っている好きは軽いと思っていたのに、抑えきれなくなるくらいに重くて。だめね、私」
「やっぱり悪いのは私だよ。こんなの最低だって、わかってる。でも、誰も傷つけたくない」
苦しそうにつぶやくその声にさらに悲しくなる。
みはねが悪いわけじゃないのはみんなわかってる。こんなことになったのは私たちのせいだもの。
優しいみはねは誰か一人だけを選ぶなんてことあるわけがない。
そして、それが悪いことだって思ってしまう。
本当は、私たちがそうさせたのに。私たちが、自分たちの重さをみはね一人に押し付けたのだから。
わかっていたはずなのに、だから、言うつもりなんてなかったのに。やっぱり私は優しいみはねに甘えてしまった。
「ごめんなさい。今のは忘れてちょうだい」
「…無理しなくていいよ」
苦しいのは、辛いのはみはねも同じなはずなのに、彼女はなおも私の心配をしてくれる。
「こんな気持ちにさせちゃってるのは私なんだしさ。それに、私にはみんなにそんなことを言ってもらう資格はないんだよ」
すっとくっついていたおでこを離すとみはねは悲しそうに笑った。
そんな顔をしてほしくなくてみはねの頰に向けて手を伸ばすが、その手が何かに触れることはなかった。
さっきよりもきつく抱きしめられる。
行き場のなくした手をゆっくりとみはねの背中に回す。もう片方の手はもっとみはねと密着するようにみはねの後頭部へ。
「みはね?」
「絵里ちゃん。私ね、みんなのこと好きだよ。絵里ちゃんのことも大好き」
「ええ、わかっているわ」
「こんなのおかしいよね。だって、こんなの」
そのまま口をつぐんでしまうみはね。
「いいの。私たちはそれだけで十分よ。きっとみんなもそう思ってるわ」
だから、あなたは何も間違っていない。少しも私たちに悪いことをしてるって思う必要なんてないの。
ゆっくりと彼女の髪をなでる。
しばらくすると、みはねはありがとうと呟いて離れた。
その顔は何やら吹っ切れたかのような晴れ晴れしい笑顔。そして、その漆黒の瞳は少しの曇りもなく、輝きを放っていた。
このままいい感じで終わるはずだったが、一つだけ忘れていたことがあった。
「ねぇ、さっきみんなにそんなことを言ってもらう資格はないって言ったわよね」
「う、うん。言ったよ…?」
「それ、間違ってるわよ。だって、あなたのことを好きになるのは私たちの自由じゃない。だから、そんなこと言わないで」
「ご、ごめんなさい…」
少しだけ強く言うと、しょぼんとした顔で謝る。
「わかってくれればいいのよ。ただ、そんなこと言われると私も悲しくなってしまうわ」
こくりと頷くみはねの頭に手を置くと、みはねはもう一度ごめんなさいと呟いた。
「ふふったまには先輩らしいことしないとね」
年下のあなたに甘えっぱなしの私じゃないんだから。
「先輩禁止なのに?」
「もう、それとこれとは別よ。こういう時は先輩なの」
「なにそれずるい」
だって、みはねのことも甘やかしたい。こう、なんていうのかしら。甘えてほしいというか、ね?
不服そうに頰を膨らませるみはねを、いつも妹の亜里沙にやるようになでるとまんざらでもなさそうで。
「はぁ…いつも頼りにしてるよ。絵里ちゃんのこと」
「ふふっありがとう」
「うぅ…もう、先行くからね!」
抱きしめようとしたら、そんなことを言ってするりと腕から抜けられてしまった。
がっくりと肩を落とすが、こんなことで落ち込んでなんかいられない。先に廊下へ出てしまったみはねを追いかけて急いで私も廊下へ出る。
絶対に先に行ってしまっていると思っていたのに、ドアを出てすぐのところで待っていてくれた。
こういう小さな優しさが嬉しかったりするのよね。
「ほら、部室でみんな待ってるよ」
「ええ、早く行きましょう」
閲覧ありがとうございました。
さぁ、やっと全員終わりました。長かった…思いつきでこんなことをしてはいけないなと痛感しています…
次回からもよろしくお願いします!