歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
今日から劇の練習。
ちょっと待った…え、覚えなきゃいけないセリフこれほとんど全部。
あぁ…結構大変かも。
しかも部長さんもすごく気合い入ってるし、期待を裏切りたくない。
「あ、そうだわ。あのね、ことりが衣装を作ってくれるみたいなのよ」
「え、そうなの!?」
てことはものすごく本格的な衣装が出来上がる…すごい…!
「えぇ。それで、採寸したいからきてほしいって言ってたわよ」
「う、うん。わかった」
*
ってことでやってきた被服室。毎回ここ来る時って作る時のお手伝いばっかだったからなぁ…ちょっと新鮮。
「ことり」
「あ、みいちゃんやっときた!」
「ごめんね。待たせちゃったみたいだね」
「うん。ずっと待ってたんだよ?」
なんだかメジャーを持ったことりがじりじりと近寄ってくる。
笑顔だけどなんか怖い…
「ちょ、こ、ことりさん!?」
そのあとは…まぁ、ここまで密着しなきゃいけないのかなって思ったりするところがかなりあったけど…
これからのことりの仕事の量を考えたら許せる範囲かも。それに、ことりといちゃいちゃできてうれしかったし。
廊下を早歩きで進みながら、もしかしたら緩みきっているかもしれない顔を引き締める。
「戻りました〜」
「あ、戻ってきたね!よし、キスシーンの練習しよっか!!!」
え、そんないきなり?って、部長さん…絶対楽しんでるじゃん。
はぁあ…
「わかりました」
「よーっし!じゃあ、みはねちゃんロミオの希ちゃんジュリエットね!」
「ウチから!?ま、ちょ」
希が強制的に寝かせられる。
暴れる希を押さえつける部長さん。ちょっとかわいそうなんだけど…
「はい。希ちゃんはそこで大人しく待っててね。みはねちゃん!よろしく!」
「はーい」
希は真っ赤になっちゃってるし、絵里は遠くから前のめりになってみてるし…
ま、自分なりにやってみよう。
「おぉ、愛しのジュリエット。まだ唇や頬がうす赤く染まっている。ジュリエット、なぜまだこんなに美しい?」
ゆっくりと希の頬に手をそえる。
二度三度と親指ですべすべの頬をさすると希がぴくりと反応した。
「ジュリエット!今こそ私のすべてを君に捧げよう!」
表情が見えるように前髪を優しく横にながす。
希の目はぎゅっとつぶられていて見ているこっちまで恥ずかしくなってくる。ただ、フリをするだけなのに。
そんな顔されたら我慢できなくなってしまう。
目を閉じゆっくりと顔を近づけて行く。あと5センチ、1センチ。ここで止まればオッケーのはず。
だけど私は止まることなんかできなくて、後ろには見えないようにキスをした。いや、してしまった。
その瞬間顔を真っ赤にした希の目が見開かれた。
「み…はね…?今…」
希が小さなつぶやきが耳に入って我にかえる。顔を一気に離した時にはもう遅かった。
希は起き上がると教室を走って出て行った。
一瞬だけ見えた希の横顔は涙で濡れていたと思う。
傷つけちゃった…?嫌われた…?
「ど、どうしよう」
「あれ?希ちゃん恥ずかしくなっちゃったのかな?」
部長さんまた、絵里も含め周りの人は、希が泣いていたことに気づいていないようだ。
「みはねちゃん。すごくよかったよ!本番もこの調子でお願いね!」
「あ、え、あの…」
「ん?どうしたの?」
「公演はやっぱり希がジュリエットで絵里がロミオがいいと思うんです。私は裏方のほうがいいなぁって…」
周りがざわつき始める。
部長さんも急なことで混乱してしまったみたいで口をパクパクさせている。
「ちょ、みはね!こっちきなさい!」
絵里に腕を引っ張られて廊下に連れてこられた。なんだか罪悪感で胸がいっぱいになってくる。
「さっき、希の様子がおかしかったけどそれと関係あるの?」
「うん。実は…希にキスしちゃった」
「そ、それだけ?」
絵里はなにが問題なの?とでも言いたそうな顔をしている。
「ん。さっき出て行った時、希泣いてたの。だから、嫌だったのかなって」
「はぁ…そんなことね」
絵里は心底呆れたような表情で私を見る。
「みはねのこと大好きな希が、キスされて嫌なことなんてあるわけないわよ」
希のことは信じている。けど、それとこれとは話が別なような気がするのだ。その、お互いそういう雰囲気になってないと嫌かな、とか。許可なしにしたら…とか。
「でも…」
「じゃあ、いいわよ。みはねは裏方でも。私と希でロミオとジュリエットやるから」
説明してくるわね。と言って絵里は教室に入っていった。
*
〜絵里〜
ほんとにめんどくさい性格してるわね。それに、みはねにキスされたなんて羨ましい。って、そんなこと考えてる場合じゃなかったわ。もう…
とにかく希に電話で居場所を聞くと思った通り屋上にいるそうで…
とにかく急いで屋上まで来た。
ドアを出ても誰もいなくて周りをキョロキョロと見回してみるとドア横にうずくまっている希がいた。
「希」
「え、えりちぃ…!」
とつぜん抱きつかれた。ちゃんと受け止められてよかったわ。みはねっていつもみんなのことこんなふうに受け止めているのね。尊敬するわ。
びっくりするくらいに希はまだ泣きじゃくっている。
「どうしてそんなに泣いてるの?聞いてあげるから、ほら」
ハンカチをさし出して希の頭を優しくなでる。みはねみたいにはできてないと思うけど少しでも希が落ち着いてくれたらいいな。みはねの手は不思議な力があるのかしらね?
「あ、のね。みはねがキスしたん」
「ええ、みはねから聞いたわ。でもそれで泣いちゃったの?」
希は手をブンブン振って全力で否定する。
「ちが、ちがくて。恥ずかしいのとうれしいので頭がついていかなくて…」
「ふふっ。ほんと羨ましいわよ。あのみはねが我慢できなくなるなんて、ね?」
「ごめんなぁ…」
「そういえば、みはねは希に逃げられちゃったことがショックでロミオの役やらないみたいよ」
「え、そ、そうなん!?」
「私に押しつけて自分は裏方やるつもりみたい」
希は下を向いて考え込んでしまった。
私は別にみはねが裏方やりたいならそれでもいいと思うけど。
「でも、ウチ、またみはねとキスシーンなんてできへん…」
「はぁ…じゃあ、公演は1日にしましょうか」
「…うん。えりちごめんなぁ…」
私はつくづく親友にも恋人にも甘いみたい。
だって二人ともかわいいんだもの。普段はとても頼りになるのにね。
「ふふっ。じゃあ、演劇部のみんなにも伝えなきゃね」
「そうやね」
「あ、そうだ。みはねと後でちゃんと話し合うのよ?」
「がんばる」
えらいえらい。と頭をなでたら真っ赤になった顔で怒られた。
まったく、素直じゃないんだから。
あの後一緒に帰っている姿を見届けてから一人で帰った。
ちゃんと話し合えたってことかしらね。
私…みはねともロミオとジュリエットやりたかったな…
いきなりキスシーンから練習させるとか、部長さん絶対楽しんでますよね…笑