歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
桜みはね。もし、もう一人の人格の名前が桜みはねなのだとしたら、私という人格はなんという名前になるのだろうか。
ふとそんなことを考える。
「ねぇ、とりあえずこの後どうするつもり?というか、どうすればいいの?」
私が黙り込んでからしばらく経って、絵里は少し困ったように笑った。
私の過去を話した後も、普通に接してくれている。彼女ならもしかしたら…
「絵里…私、名前がほしい」
「へっ?名前?」
私の突然の質問にヘンテコな声をあげて、絵里はかわいらしく首をかしげた。
「そう。だって、桜みはねはもう一人の名前でしょ?」
「そ、そうね。確かにあなたを呼ぶのに少し困るかも…?」
じゃあ…と考え始める絵里の顔があまりにも楽しそうで、少しだけ心がほんわかとする。
さっきまで、感情なんてものほとんどなかったのに、本当に不思議だ。
「いや、でも、名前なんてつけなくてもいいんじゃないかしら…?」
少し気まずそうな顔をされて。もしかしたら、私なんかに名前をつけるの、嫌だったのかもしれないなんて思って。
「なんで」
少しぶっきらぼうに。
「だって、みはねじゃない。私にとってはあなたも本物のみはねよ」
その言葉は素直にうれしい。
「でも」
欲しい。私の名前が。私だっていう証が。私だけのものが。
絵里はそんな私を見て、ため息をひとつついた。
「わかったわ。じゃあ、こうしましょう。心羽、これで"みう"って読むの」
「み、う…?」
「ええ。これからは、みうって呼ばせてくれるかしら?」
眩しいくらいのきれいな笑顔。思わず見惚れてしまった。
「うん。ありが、とう…」
これは、私だけの呼ばれ方。みう。
「ふふ、どうしたの?にこにこしちゃって」
「し、してない!」
「そう?それよりも、さっきより表情が豊かになってきて嬉しいわ。やっぱり、笑っていてくれたほうがいいわね」
そう言って頭をなでられる。初めてだが、自分の顔が赤くなっていることがわかった。それくらいに、顔が熱い。
誰かに優しくされることがこんなにも嬉しいことだったなんて。
このままずっと…なんて、そんなずるいことを思う。でも、それと同じくらいにもう一人に早く返してあげたい、そう思った。
「みう。難しいこと考えてるでしょ」
「……早くこの体をみはねに返してあげたいなって思って。でも、私…誰かに優しくされることなんて初めてだからーーーっ」
言葉の途中で絵里に抱きしめられた。
「今は、私に甘えてもいいのよ。それに、返すも何も、あなたのものじゃない。そんなに深く考えなくていいと思うわ」
「絵里は、早くみはねに会いたくないの?」
そういうわけじゃないわ、絵里はくすりと笑って。
「私は、みはねが私に会いたくなるまで待つことにしたの。いや、待つだけじゃなくて、ね?」
そう言ってぽんぽんと頭をなでる手が優しくて。あたたかくて。心がぽかぽかになって。
強張っていたはずの体も、いつしか力が抜けて、自然と絵里に預けていた。
「心の奥にいる時もね、絵里の、みはねの周りにいる人みんなの優しさ、感じてたよ。ありがとう」
「ふふ、もう少しだけ、こうしていてもいいかしら」
「しょうがないなぁ」
まるで、絵里が望んだから仕方がなくなんて言い方をしているのに、むしろ、私のほうが絵里を離さないように抱きついて。
色々考えなくちゃいけないことはたくさんあるけど、もう少しだけこのままでいさせて。
*
あれから絵里は、私のことを探していた真姫に連絡をとって。元生徒会長が授業をサボるなんてことできないので、私を部屋まで送りつけると教室に戻っていった。
「…というわけなの」
そして今、放課後になって、絵里がみんなを部室に集めて全てを説明してくれた。
事情を聞いたみんなは私のことをじっと見つめている。
「ねぇ、今までと同じように接しても問題ないよね?」
穂乃果…は、笑顔で私に問いかける。
とりあえず、こくりと頷く。
「よかった」
穂乃果は変らず笑顔で。それが、私にはあまりにも眩しすぎて、目を伏せた。
「みいちゃん」
声の主、ことりのほうを向くと、もう一度みいちゃんと呼びかけられた。
「な、に…?」
「大丈夫だよ」
気付いた時には、ことりの腕の中にいた。
とっさに体が離そうとしたが、ことりがぎゅっと力をいれたので、離れることができなくて。それに戸惑い、どうすればいいのかわからなくなる。
でも、どこか安心する。以前にもこんなことがあったような。そんなことを考える。
「なるほどなぁ。でも、なんか、本当に別人やね」
ことりから解放されると、今度は頭の上に小さな重みが。そのまま希はゆっくりと私の頭をなで始めた。
なんだか、そわそわする。やめてほしいけど、やめてほしくない。矛盾した気持ち。
「別人、だからね」
「わかっとるよ。なんだか、家に来たばっかりの猫さんみたいやね」
な、真姫ちゃん。と、希は突然真姫に話を振った。
「なんで私に聞くのよ。意味わかんない!」
「それはぁ、真姫ちゃんがぁ、家に来たばっかりの素直じゃない猫みたいだからじゃない?」
にこの言葉に真姫がかみつく。
「はぁ!?希は素直じゃないなんて言葉いれてなかったわよ!」
てんやわんやとしてきた部室。
もしかしたら、みはねはこのみんなと一緒だからこそ、あそこまで感情を豊かにすることができたのかもしれない。
まぁ、すぐ泣いちゃうところは、あの物語の主人公と一緒だけど。
「みんな、改めてありがとう。これからも、いろいろとよろしく」
深く、深く頭を下げる。
頭をあげると、みんなの驚いた顔。
「どうし…あっ」
ぽたぽたぽた。
目から涙が溢れだす。
みんなの心配した顔が目に入って、それもすぐ歪んでしまって。一生懸命に拭うが、どんどん溢れだして。
「とまん、ない。ははっどうしよ」
笑ってみたが、笑えなかった。
こんな顔、見られたくない。
そう思って、下を向こうとした瞬間、穂乃果の両腕が私の首元に伸びてきて。気がついたら、頭を抱えるようにして抱きしめられていた。
「みはねちゃんの泣き虫」
耳元で笑われる。
「そんなことない。これは、泣きたくて泣いてるわけじゃ…」
子どもの言い訳のようなことを言う私に、穂乃果はくすりと笑みをこぼす。
「ばかだなぁ、みはねちゃんは。人間ってね、ものすごく悲しい時とか、ものすっごく嬉しい時とか、勝手に涙がでちゃうんだよ」
だから、我慢しなくていいんじゃないかな?
「そうよ。泣きたい時は泣きなさい。にこたちが、一緒にいてあげるから」
ふふん、と鼻を鳴らして自慢げに。にこが、先輩ぶるから。
「うるさい」
「んな!?あんたねぇ…!」
「にこちゃん、落ち着いて」
私の言葉に怒ったにこを、花陽がなだめる。
そうしている花陽のほうが、にこよりもお姉さんに見えるのはなんでだろう。
あ、いろいろとちっちゃいからかな。
「ちょっと!全部声に出てるわよ!」
「ふっ、あはは!みはねちゃんすっごく毒舌だにゃ」
「そんなことない、はず」
凛に小さく返して。さっきまで怒った顔をしていたにこも、その周りにいるみんなも、私を見てにっこり笑う。
穂乃果の肩に、顔を押しつけるようにしてぎゅっと抱きつく。
「みはねちゃん?どうしたの?」
わかってるくせに、穂乃果はおどけたようにそう聞いてくるから。もっと、痛いくらいにくっついて。
「なんでもない」
「えー」
頭をゆっくりとなでてくれる。
「穂乃果に、子ども扱いなんてされたくないんだけど」
かわいげがないことを言っているのに、やめないで優しく接してくれる。
それに嬉しくなって、もっとって抱きついて。抱きしめられて。
「とりあえず、明日からはちゃんと授業には出てくださいね。これからのことは、一緒に考えましょう」
海未が優しく頭をなでる。
「みいちゃん。もうどこかに行っちゃダメだよ?」
ほっぺをつんつんと突っつかれて。ことりにごめんなさいと謝る。
でもその言葉は、みはねに聞かせてあげたいな。そんなことを思った。
「みはねちゃん、困ったことがあったらすぐに相談してね」
花陽ににっこりと微笑まれる。それに、ありがとうと返すと、凛が横から。
「みはねちゃんは、凛とずっといっしょにいるにゃ」
手をぎゅっと握って。私もそれに握り返して、こくりと頷いた。
「凛とっていうより、私たちとね。みはね、私の目の届く場所に居なさいよ」
そう言った真姫の顔は、すごく優しくて。
「でも、私はみんなのマネージャーのみはねじゃない。いいの?」
「当たり前だよ!だったら、みはねちゃんはμ’sの二人目のマネージャーってことでいいんじゃないかな」
穂乃果の人懐っこい笑顔。もう、本当にこの人たちには敵わない。
「まったく、次このにこにーに心配かけたら、絶対許さないんだから」
「にこっちは今回なんもしてへんやろ。えりちたちに感謝しないとなぁ」
にこと希の会話を聞きながら、ちょっとだけ笑う。
すると、突然お腹に手を回されて、後ろに引っ張られた。
「そうよ。みうは私が見つけたんだから」
頭の上から絵里の声。
「み、みう?」
穂乃果は目を丸くして、そうしているのは穂乃果だけじゃなくて。
「そうよ。一番最初に見つけた私だけの、特別な呼び方」
そう言って、楽しそうに笑うから。
その顔が見たくなって、もぞもぞと腕の中で体を反転させる。
優しげな青色。
「絵里だけの、特権ね」
「ええ、ありがとう。みう」
今は、ここが私の居場所。
でも、必ず返さなきゃいけない場所。
いや、必ず返したい場所。
お読みいただきありがとうございます。
更新がつらい…
がんばります。(´;ω;`)