歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
「あっ、みはねちゃんや」
μ’sの控え室に戻る途中、トイレから出てきた希とばったり会った。
ツバサといろいろあった後で、変に緊張していたのか、穏やかな笑みを浮かべる希を見て少しほっとした。
「希…さ、緊張してる?」
私の問いに、希は少し考えるそぶりをして。
「まぁまぁかな」
そう、へらりと笑った。
よく考えてみたら、さっき私が控室にいた時、希はいなかった。
その時から緊張、してたのかな。しないわけないよね。
真姫のように、私の前で強がっていつも通り笑おうとする希を見て、ふとあることを思いつく。
「そっか。ねぇ、こっち来て」
呼んでから後悔した。よく考えたら、すごく恥ずかしいことしようとしてるかも。なんて。
「なぁん?」
かわいらしく微笑む希。
ここまできたら、なんでもないですなんて言えるわけない。
希の腕を引っ張って、自分の近くまで来させる。希は笑顔のまま首を傾げている。
ん?と顔を覗かれて、やっぱり恥ずかしくなったが、ここまできたらやりきるしかない。そんな義務感みたいなものを感じながら、希にぎゅっと抱きついた。私のなんともぎこちない動きに、希は体を強張らせたが、すぐにふっと力が抜かれた。きっちり3秒心の中で数えてから離す。
「…終わり?」
きょとんと目を丸くしている希に、こくりと一つ頷いて下を向く。
「そっか。ありがとうなぁ。みはねちゃんのおかげで緊張が解けたみたいや」
その言葉に嬉しくなって、顔を上げる。
「…ほんと?」
「ほんとやで。ありがとなぁ」
頭をなでなで。
それにいい気になって、もう一度控えめに抱きついた。希の肩に顎を乗せ、首元にぐりぐりと頭を押し付ける。
「ん、希。希の匂い、優しくて好き」
「………みはね…?」
希が何かつぶやいたが、なんて言ったのかはちゃんと聞こえない。そのあとなにも言わないのも不思議に思い、顔を上げてじっと見つめる。
「あ、あはは、くすぐったいやん?もう、ほんま猫さんみたいやなぁ」
誤魔化すように前髪をくしゃっとなでられて、なんだか納得がいかない。
むっとした表情を希に向ける。
「いつも、猫みたいって言う」
そう言って、ずっと頭の上にある希の手を掴んで、すりすりと頭を擦りつける。
ちゃんとなでてほしいの。気づいてよ。
そんな私に、希は苦笑い。
しかし、しばらくすると、ゆっくりと私の頭をなで始めた。
気持ち、ちゃんと伝わったのかな。そうだったらいいな、なんて。私はなにを考えているんだろう。
「かわいいってことやん?よし、みはねちゃん、そろそろみんなの所へ戻ろか」
優しくもうひとなでされて、自然に手を繋がれる。恥ずかしいとかそんなこと考える暇すらなくて。むしろ、あったかいなとか喜んでいる自分がいて。
「希、ライブがんばれ」
「うん、ありがとう。それ、みんなにもちゃんと伝えてあげんとね」
「ん」
優しく微笑んでくれる希に、少しだけ勇気をもらった。
すっかり忘れていたけど、早くみんなのところに戻らないと。
*
ドアの前で深呼吸をしようと思っていたが、希が普通に開けるから、心の準備というものが全くできなかった。
「みう、おかえりなさい。大丈夫だった?」
私を見るなり、絵里は心配そうな顔をして近寄ってくる。きっと、ツバサとのことを心配してくれているのだろう。
「平気。ツバサとは、仲良くなった…かな」
「そ、それは…よかったのかしら?」
絵里は一瞬微妙な顔をしたが、まぁよかったわ、と頭をなでた。
「絵里は過保護すぎるのよ。まぁ、野放しにしとくとその辺の人たちに手を出されてるこいつも悪いけど」
「にこ。意味わかんないこと言わないで。それと、絵里はすごく優しいの」
口調からにこが私と絵里のことを悪く言っているのはわかりきっていて。思わず反抗的なことを言ってしまった。
「にこっちのほうが過保護やんなぁ。みはねちゃんにも愛情たっぷりすぎてウチ妬けちゃうわぁ」
しかし、希の言葉を聞くなり顔を赤くしてそっぽを向くにこを見て、なんだか穏やかな気持ちになる。
にこも、すごく優しいとは思う。
「他の人たちみたいに包容力はなさそうだけど」
その薄っぺらいのは抱き心地が悪そうだ。
「あんた、今それどこ見て言った?喧嘩売ってんの?」
こんなやりとりも、今ので最後なのかな。
「みんなに、言いたいことがあるの」
普通に言ったはずなのに、思いのほか部屋に響いた私の言葉。それを聞いて、みんながこっちを向く。座っていたメンバーは、わざわざ立ち上がってこっちまで来てくれた。
「あの、ね」
こんなに緊張して、声が震えるのはなんでだろう。
みんなに見られているから?
普段言わないようなことを言葉にしようとしてるから?
それともーーー
「ありがとう。私、みんなのおかげで楽しかった。みはねが、とっても大事にされてることも知ることができて、本当によかった」
本当はもっと、たくさん言うことがあるんだろうけど。私の中ではなかなかうまく言葉にならないし。
なんか、みんなを悲しい気持ちにもさせちゃいそうだから。
「だから、ありがとう。ライブがんばって」
私、今どんな顔してるのかな。
みんなに見られすぎて、いい加減下向きそう。
「みはねちゃん。なんかいろいろ言いたいことあるけど、穂乃果うまく伝えられないと思うから。あのね、この気持ち全部歌に込めるよ。だから、ちゃんと聞いてね!」
ぎゅーっと正面から痛いくらいに抱きつかれる。
今回のライブは、みはねを呼びもどすためって、そう言う目的だったくせに。ぶれぶれじゃないか。
「そうですね。ありがとうは、私たちからあなたに伝えるべき言葉でもあるのですよ。そのこと、しっかりとわかってくださいね?」
「海未…うん。もう、わかってるつもりだけど…ね」
「いいえ。まだまだ足りません!」
海未は私の頭に手をやると、ライブ期待しててくださいと。
「そうだなぁ。みいちゃんってば、人からもらうの苦手そうだし。溢れるくらい、いっぱいあげなきゃだね」
ことりは人差し指を私の口元に持ってきて。そのままにこっと微笑む。
「そうだね。みはねちゃん、とっても不器用だから」
花陽まで、ことりの味方して。
「もう、わかったから」
「わかってないにゃ。だってみはねちゃんだもーん!あははっ」
でしょ?なんて首を傾げて、私の顔を覗き込んでくる凛。
そんなこと言うけど、みんなほんとに私のことそんなにわかってるの。
「そうね。彼女もあなたも、似てるもの。私たちの気持ち、これでもかってくらいにあげるから。ちゃんと聞いておくのよ、私の音。少しでも聞き逃したら怒るから」
彼女はみはねのことで、あなたは私のことだよね。私の考えてたことは、真姫にはバレバレだったようだ。
「うん」
嬉しい。素直にそう思える。
「よーっし!じゃあ、そろそろA-RISEのライブが始まるし、移動しよう!今日もファイトだよっ!」
私のありがとうを受け取ってくれたみんなは、それぞれに言葉を返してくれて。二年生、一年生と部屋を後にする。
「まぁ、にこたちも言いたいことは山ほどあるけど」
「それは全部、歌で!ってことやんな」
にこと希は私の頭をなでると出て行った。
ただ一人だけ、なにも言わずに残っている。
「絵里」
「ん?なぁに?」
二人だけになってしまったこの空間。さっきまで賑やかだったのが嘘のようだ。
「約束、覚えてたの?」
近づいてきて、そっと手をとる。
「当たり前じゃない。だって、みうとの約束よ?」
ふっと顔を緩める絵里は眩しくて。さっきもそんなような顔どこかで見たな…
そうか、英玲奈の時だ。絵里が、亜里沙と話しているときみたいな。そんな、表情。
「なにそれ」
「なにそれじゃないの。まったくもう、素直じゃないんだから。ね、話って?」
こんなすぐに振られると思ってなくて、今さらになって心臓がばくばくと鳴り出す。心臓、出てきそう。
「えっと、ね。私、絵里のことが…」
顔、すっごい熱いし。
今までで一番緊張する。
できることなら、このまま逃げ出してしまいたい。でも、それ以上に伝えたい。
「ほら、落ち着いて?」
そう言って、優しく微笑む絵里。
落ち着いてなんか、いられるわけないでしょ。これから私が言おうとしてること、知らないくせに。
息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
もう、言うしかないよね。
「絵里のことが好き」
「え、えぇ?私も好きよ?」
絵里は私の言葉を聞くなり、抜けた声を出してそんな言葉を返してくる。
「そう言うことじゃなくて。特別な意味で好きなの。みはねじゃなくて、私を選んでほしいの…!」
そこまで言葉を吐き出して、ようやく気持ちがすっきりした。
私、すごく最低なこと言ってるのに。
黙ったまま固まっている絵里を見れば、余計に罪悪感でいっぱいになる。でも、どうしても伝えたかった。このまま、この気持ちを持ったまま消えるのは、嫌だった。
「………ごめんなさい」
しばらくして、絵里が出した答えは私の予想通りだった。
「ん、わかってた」
そういうことじゃないの。と、絵里は悲しげに眉を曲げた。
「私、選ぶなんてできないわ。みはねとかみうとか、どっちが好きでどっちがいいとか。どっちも大切だもの。みはねが戻ってきてほしいから、みうに消えてほしいとも思えない。でも、みはねが戻ってこないのは嫌なの。だから、ごめんなさい」
泣きそうで、自分を責めてるようなそんな顔。優しいこの人のことだから、今相当傷ついているんだろう。
みうに消えてほしいとも思えない。
みはねが戻ってこないのは嫌。
もう、答えは明白じゃないか。
「絵里が謝ることじゃない。わがまま言って、困らせてごめんね」
「そんな。私は嬉しかったわ。後になって、こんなのいらないかもしれないんだけど、これ受け取ってもらえないかしら?」
絵里が渡してきたのは、四つ折りにされた紙だった。ゆっくりと開く。
「これって、ユメノトビラの歌詞…?」
絵里のきれいな字で、これからライブで歌う『ユメノトビラ』の歌詞が書かれていた。
「ええ、そうよ。今日は歌わないんだけど、2番の歌詞を変えてもらったの」
「え?」
「みうへの気持ちを、私なりに歌詞にしてみたわ」
ほとんど海未に手伝ってもらったんだけどって、絵里は照れたように笑った。
「ライブ、楽しみにしてて」
「ん、わかった。がんばれ、絵里」
外からすごい歓声が聞こえる。
そろそろA-RISEのライブが始まるのだろう。
絵里は、黙って私の手をとると、微笑んでから走り出した。
私、きっと、絵里に手を引かれるのが好きなんだな。この瞬間だけは、絵里を独り占めしていられるから。
絵里、いつも一緒にいてくれて、私のこと見ていてくれて、本当にありがとう。
屋上のステージに着くと、ちょうどA-RISEのライブが始まるところだった。
お読みいただきありがとうございます!
私は、みうと絵里が約束していたこと忘れてたよ…
いや、思い出したけども。
早くユメノトビラを歌ってくださいよ…!