歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
〜絵里〜
ライブが終わってすぐ、みはねの姿を探す。
端っこのほうで頭を抑えている姿が目に入って急いで駆けよったが、みはねの体がぐらりと傾いた。
「みはね!?」
ギリギリのところでキャッチして、顔を覗き込む。表情は穏やかで、ただ寝ているだけのようだ。
ほっと安堵の息をこぼして、みはねをお姫様抱っこで抱きかかえた。
控え室に、ソファがあったわよね。
とりあえず、そこで寝かせてあげましょう。
今日の朝、私が起きた時に、みうはすでに起きていた。
私の隣で体を起こして、布団を握りしめていて。起きた私に気づいていない様子で、ずっと目の前にある壁をぼんやり見つめていた。
「みう…?」
私が声をかけると、少しの間固まってから、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
「絵里っ…ご、ごめんなさい。私…」
そう言って涙を流しながら、抱きついてきた。
その様子を見て私は直感的に思った。彼女はみはねだと。
「みはね、なのね?」
確認を取るように顔を覗き込むと、私の右手の袖をを掴んだまま、体だけ離して小さく頷いた。
聞きたいこと、言いたいことがたくさんあったはずなのに、いざみはねを前にしたら全部吹き飛んでしまった。
「おかえりなさい」
ただそれだけ言うと、みはねはもう一度抱きついてきた。
「うん、ただいま。ごめんね…絵里」
「謝ることなんてないわよ。でも、その…みうは?」
嬉しさとともに感じていた不安。
私はまだ、彼女になにも伝えられていない。
「今、絵里に言いたいことがあって、一時的に変わってるだけだから」
「そう、なのね…」
みはねの笑顔が、心をぽかぽかとあたたかい気持ちにさせる。久しぶりのことで、より強く感じて、胸が苦しくなる。
みうとみはね、やっぱり全然違うのね。
やっぱりわたしはみはねのことが好き。でも、今はみうのこと…
「そんな心配そうな顔しなくても、大丈夫だよ」
突然、右手の袖をぐいっと引っ張られた。みはねはそのまま寝っ転がる形になり、バランスを崩した私はそれに覆いかぶさるようになってしまった。
「ど、どうしたの?」
「少しだけ、甘えたくなっちゃった」
自分で言っておいて、少しだけ目を横にそらして照れている。
「ねぇ、絵里。みうのこと…好き?」
じっと見つめられると、吸い込まれてしまいそう。みはねが今なにを考えているのかは、正直全くわからない。
「…好きよ」
「じゃあ、これから先も、みうとずっと一緒にいたいと思う?」
何かを試されているかのような質問。どっちに答えても、きっと私は傷つくと思う。それと同時に、どちらかを傷つける。
「それは、もちろん…思うけど……」
「けど?」
「私は、どちらかなんて選ぶことできないわ。…二人と、一緒にいたい」
少しの間、みはねは驚いた様子で固まっていた。しかし、しばらくすると目元を和らげた。
「そっか。ありがとう」
絵里は優しいねって、本当に優しい声で言うから。なんだか涙が出そうになってしまった。そんな私の頭を優しくなでて、私の唇に小さくキス。
離れた顔は、悲しそうで。
「…みはね?」
「絵里。私ね、みうとひとつになろうかなって思ってるの」
ひとつに…なる?
「それ、どういうこと?」
みはねは小さく息を吐くと、笑顔を作った。
「元に戻るんだよ。二つの人格を、一つに戻すの。二人で一人になるんだよ」
「そんなこと…可能なの?だって、今は二人いて、でも、一人になるんだったら…っ」
どちらかが消えてしまう。
その言葉は、音になることなく消えた。
みはねの唇が、私の唇にゆっくりと合わさる。最初は優しく、だんだんと深く。
まるで、その言葉を言わせないとでもいうように。
「んっ…み、はね…」
苦しくても、離してくれない。いや、私が離れたくないのかもしれない。それくらいに、久しぶりのこの感触が気持ちいい。
いつの間にか、みはねは私のなすがままになっていて。上にいる私が離れなければ、キスは深くなるばかりだ。
気持ちもなにも、止まらなくなって。私はもっともっととみはねを求める。
「絵里、ストップ」
キスの合間に名前を呼ばれれば、待てと言われてしまった犬のように固まる。現に待ってをかけられているわけだけど。
「絵里の言いたいことはわかるけど。でも、私はこれが1番いいと思う」
「………」
「絵里?」
「…みはねがいいなら、私は止めないわ」
嘘よ。聞き分けのいいふりをしているだけ。私はきっと、みはねに嫌われることがこわい。
みはねが消えてしまうことより、みうが消えてしまうことより、みはねの心が私から離れてしまうことが、何よりこわい。
「ありがとう、絵里」
みはねはそう言って微笑んだけど、とても悲しそうな、苦しそうな顔をしていた。
ねぇ、私ちゃんと待てたわよ。
あなたに言われたこと、しっかり実行できたの。だから、ごほうびをちょうだい。
みはねのことを気にしながらも、私は自分の気持ちを優先する。なんてずるいんだろう。
「どっちの意識が主になるかはわからないけど…」
まだ話し続けるみはね。聞かなきゃいけないのに、もうそろそろ限界。
ねぇ、ほしい。
そう目で訴えれば、あなたは悲しげな瞳で私に口づけをした。
ーーー私のこと、好きでいてね。
そのまま、みはねは静かに寝息を立てた。
そして、数秒後に、みうが目を覚ました。
*
ソファで眠る彼女の手を握る。
温かくて、やわらかくて、少しでも力を入れれば壊れてしまいそうな小さな手。
……私はこの手でいつも守られてきたのね。
みはねと出会ってから、つらいことも悲しいことも、たくさんあった。そのぶん、嬉しいことや楽しいこともたくさんあって。
どんな時でも、みはねは変わらず私にその温かい手を差し伸べてくれた。
私は、いつもその手に甘え、支えられていた。
今考えてみると、みはねは無理してたんだと思う。
みうと出会ってからは、その手の冷たさを知った。身体は同じはずなのに、中身はまったく違くて。最初の頃のみうは心も身体も表情も、全てが冷たかった。
突き放されてる気持ちになって、悲しくもなったけど。そのぶん、心の距離が近くなることが嬉しかった。
私が守ってあげなきゃ、なんて思っていたのね。きっと。
「…ねぇ、早く声が聞きたいわ」
みはねもみうも、思い出されるのは優しい声。「絵里」と呼ばれるだけで、心が羽になったかのように軽くなる。大好きな声。
手の甲にキスを落とす。
すると、ぎゅっと握り返された。
「え、り…?」
少しだけ掠れた声。
でも、やっぱり優しくて。涙が出そうになってしまった。
彼女はみはねなのか、みうなのか。
「みはね、なの…?それとも…みう?」
答えを急かすかのように抱きつく。
でも、私の質問になかなか答えてくれなくて。かと思えば、いたずらっ子のような笑顔でこちらを見てくる。
少し距離が開いてしまったのが悲しい。
「……どっちだと思う?」
なんて意地悪な問題。
見た感じで判断しろって?
そんなの、わかるわけないじゃない。
とりあえず……
「あ、えっと…みう?」
「ううん」
彼女は首を横に振る。
「じゃあ、みはねなのね?」
「ぶっぶー」
私の中にはこの二つしか選択肢がないのに。
何がしたいのかわからない。
そんな気持ちを込めて睨んでみせる。
「絵里、怒らないでよ」
「怒ってないわ。呆れているの」
「ははっ。それで、答えは見つかった?」
表情を崩して笑う姿はすごく自然で。
ゆっくりとこちらに手を伸ばしてきたかと思ったら、親指の腹で頬をなでられた。
こんな小さなことがとても嬉しく、くすぐったい。
「…見つかったわ」
「教えて?」
ふんわりと微笑む彼女は、本当に天使なんじゃないか。そう思ってしまうくらいに、きれいで。
「おかえりなさい、
これでもかってくらいに抱きつくと、苦しいよってみはねは笑って。
「絵里。たくさん迷惑かけてごめんね。ずっと一緒にいてくれてありがとう」
笑顔の彼女になんだか涙が出てきてしまう。
みはねも少し目が潤んでいて、お互いがそれに気づくと、笑みがこぼれた。
もうそこからは、二人とも泣き笑い。
「ねぇ、みはねってことは、みうはどうなったの?」
「え?みうも私だよ」
うーん…?
なに言ってんの?って顔で見られても、私にはわからないんだもの。
私の困った様子にみはねは苦笑い。
「じゃあ…こう考えてみて。前のみはねは赤色の、うん。絵の具かな。それで、みうは青色の絵の具」
「…うん」
真っ白なパレットの上に、赤い絵の具と青い絵の具が出されていることを想像する。
それとこれと、どう関係があるの?
表情に出てたのか、「うまく説明できなかったらごめんね」とみはねは笑った。
「これって、絵の具なのは一緒でしょ?それは、同じ人間ってことね。でも、色は同じ?」
「全く違うわ」
赤と青。全くべつの色ね。
「そう。色は違う。私たちは同じ人間だけど、中身は全く違ったの」
「えぇ。だから、みはねが残ったなら、みうはどこに行ってしまったの?」
「今の私たちは、その絵の具を混ぜた状態。想像できる?」
さっき頭の中で想像した絵の具たちを、パレットの上で混ぜる。
「どうなった?」
赤と青の絵の具を混ぜたのだから…
「紫色の絵の具になるわね」
「うん。それが、今の私だよ」
紫の絵の具が…今のみはね……
「紫の絵の具は、どっちの色の特徴も持ってるよね。私は、完全にどちらかじゃなくて、中間ってこと…かな」
ある意味本当の私だから、と。
なんとなく、言いたいことはわかった。まぁ、でも、どんなあなたもあなただから。
「もう、なんでもいいわ。あなたが戻ってきてくれたのなら」
なんでもいいの。
「好きよ、みはね」
そう言って、不意打ちでキスをする。
みはねは目を丸くして固まっていたけど、もう一度触れるだけの軽いキスをすると、答えるようにキスをくれた。
「約束したじゃない。好きじゃなくなるなんて思った?」
あの時、私はキスを優先したけど。一番に、あなたの気持ちを優先したいって思いは変わらないから。
みはねは私にぎゅうっと抱きついた。
「…思ってない。ありがとうっ」
表情は見えなかったけど、声は震えていて。泣いているんだなってわかった。
落ち着くまで、もう少しこのままで…なんて思っていた矢先。外からバタバタと足音が聞こえてくる。
私とみはね、考えていたことは同じなようで。顔を見合わせて思わず笑ってしまう。
「みはねちゃーん!!!」
ドアが開くと同時に穂乃果の必死な顔。
それでさらに笑いがこみ上げてきた。
「な、なんで笑ってるの!?ツバサさんが、みはねちゃんが倒れて絵里ちゃんに運ばれてたって言ってて…」
穂乃果はよろよろとこちらまで歩いてくると、私にぎゅっと抱きついた。
「大丈夫そうでよかったです。みんな心配していたのですよ?………穂乃果はもう少し落ち着きを…」
海未は私を見るなり柔らかい表情になったが、穂乃果が抱きついてるのを見て少しだけ眉間にシワが寄った。
「海未ちゃん、今回は許してあげよう?みいちゃんのことでなんだし」
そう言って海未をなだめることりも、少しだけ顔が不機嫌だ。
「はは…みんな、心配かけてごめんなさい。もう、大丈夫だから」
みんなに向けて、今できる最高の笑顔を向ける。みんなの表情から、不安が消えた。残っているのは安心や喜びだろうか。
少しだけ軽くなった空気の中、私の心は重くなった。
私は、みんなに、今の私の気持ちを伝えなければならない。
お読みいただきありがとうございます!
思ってたよりダラダラと続いてしまったので、中途半端ですが途中で切りました。
調子乗って、表紙を描いていたら更新が遅くなりました…
すみません……
表紙のほうも見ていただけると嬉しいです(*´꒳`*)