歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
「ねぇ、なんで一緒じゃないの」
「お母さんから許可が下りたのに、どうしてなの」
「少しでも、離れるのは寂しいです」
そう駄々をこねる穂乃果たち二年生を、無理矢理に沖縄に送り出した。彼女たちは、これから修学旅行でしばらく学校を留守にするのだ。
一週間ほど前、わがままを言ったことりに、理事長は呆れたように特例を出した。
「みはねちゃんも、一緒に沖縄に行ってもいいわよ…?」
それを断ったのは私。
もちろん、一緒に行きたいとも思った。でも、それよりも何よりも、学校に残る他のメンバーのことを考えたら、行くに行けなかったのだ。
それに、穂乃果たちが修学旅行から帰ってきたらライブがある。絵里がどこからか受けてきた、ファッションショーでのライブが。
そのことを考えると、やはり私は残って万全の状態に準備をするべきだと思う。
それに
「みはね、こっちの資料まとめておいたわ」
「ありがとう、絵里」
私まで居なくなったら、生徒会の仕事が大変なことになってしまう。
*
「もー!最近ずーっとみはねちゃん練習きてないにゃ!」
放課後、生徒会を少しだけ抜けさせてもらって部室に来ると、凛は駄々っ子のように座りながら手足をばたつかせた。
「ご、ごめんね?」
さすがに危ないのでやめさせる。
そんな捨てられた子犬のような顔をされても、すごく困る。
「それに、ずっと4人で練習だよ!?」
「り、凛ちゃん、二年生が修学旅行なんだから仕方ないよ。それに、絵里ちゃんたちは生徒会の手伝いをしてるし…」
花陽のフォローも虚しく、凛はほっぺたを膨らませてそっぽを向く。
「そうよ。気合いが入らないのはわかるけど、やることはやっておかなきゃ」
「絵里!」
「今日も生徒会?」
真姫は、すぐさま問いかける。なんだかんだ、寂しいのだろう。
「絵里たちは、練習に出てもいいよ?私だけでも、なんとかなるし」
「ダメよ。こういう時こそ頼ってほしいわ」
絵里は、取りに来た資料を私の頭に軽く乗せる。むしろ、頼りすぎてて申し訳ないなんて言ったら、本気で叩かれてしまいそうだ。
「そうやで。みはねはすぐ無理するから、ウチらが見張っとかないとなぁ」
希と絵里は、目を合わせると呆れたようにため息をついた。真姫はそれを見てくすりと笑うと、今度は凛に視線を向ける。
「どちらにせよ、みはねが来ないと駄々をこねる子がここにいるもの」
私の制服の袖を掴んで離さない。ちっちゃい子みたいだ。
「また凛たちだけで練習…」
凛は、ほんの少しだけ涙目だ。
うちの末っ子は、本当にかわいすぎる。
「穂乃果たちが帰ってきた次の日にライブなんだから、練習しないと、ね?凛」
「早く、仕事終わらせてね」
下から見上げてくる凛があまりにもかわいくて、ついつい頭をなでてしまった。
「ん、了解。怪我しないように気をつけるんだよ。真姫、花陽、よろしくね」
「ちょっと!なんで私には頼まないのよ!?」
にこは、なにが気に入らないのか声を荒げる。
「うるさいよ、にこ」
「はぁ!?なんなのよほんと!」
まだぶつぶつ呟いているにこの肩に手を置く。
「元気なのはいいことだけど、怪我しないようにね」
私はそのまま部室を出た。
早く、仕事終わらせなきゃ。
生徒会室に戻るなり、絵里と希は話し始める。
「ほんと、みはねは強いわね」
「誰も敵わないんちゃう?」
なにが言いたいのかさっぱりだ。
「あ、そうだった。あのこと、穂乃果たちに連絡しとかないとよね」
「絵里に任せるよ」
絵里は生徒会室に戻るなり、穂乃果に電話をかける。
「あ、もしもし穂乃果?忙しい中ごめんなさい」
希はどこかに行ってしまったようで姿が見えない。
私も電話の邪魔になるし、自分の仕事に戻ろうとすると、絵里に腕を引っ張られた。
なに、と口パクで聞いてみるが、答える気はないらしい。
一旦私から目を逸らしたかと思えば、嫌な笑顔でこちらを見つめてくる。
「えぇ。私たちも同じ意見よ」
ばーか。
一瞬眉をひそめた。反応しちゃってかわいーの。
「…わかったわ。えぇ、そうね」
それでも何事もなかったかのように電話する絵里に、次の攻撃。
ばーか、ばーか。エリーチカ。
むっとした顔になるが、すぐ元の顔に戻った。
悪口はバカしか言ってないんだけど。
「………」
私の口パクを、はじめこそは気にしていないふりをしていたが、だんだんと不機嫌そうに眉間にシワが寄ってくる。
「…いえ、なんでもないわ」
穂乃果との話は終わったのだろうか。そろそろ切りそうだ。
絵里が電話を切ってしまう前に、携帯を奪い取る。
「もしもし穂乃果?」
『みはねちゃん!?』
「うん。って、あ!」
絵里に携帯を奪い返されてぶつりと切られる。
「あぁ…」
「エリーチカは、悪口ではないのだけど…?」
不機嫌な顔をした絵里と目があう。
片手でまた後で連絡するね、と穂乃果にメッセージを飛ばしてから、にこりと笑顔を向ける。
「悪口で言ったんじゃないし。悪口言われたって思う絵里が悪いんじゃない?」
私のこと無視するからじゃん。
「いや、無視したわけじゃないわよ?」
言葉に出てしまっていたみたいだ。
「じゃあ、なに」
「そばにいてほしかったの」
気づいてよ、と上目遣いで見てくるからずるい。
「なにやってるん?怒られたいの?」
戻ってきた希が訝しげな目でこちらを見ている。
よく考えたら、最近ずっと一緒じゃん。って言ったら、拗ねちゃうかな。
***
「えぇー!?凛には無理だよ!」
私たちが考えていたのは、穂乃果達がいない間だけでも仮にリーダーを作ろうって話だ。
今、昨日まとまった意見を伝えたわけだが…
「なんで凛なの?他の人でも…」
そう。みんなの意見は凛で一致した。
そしてそのことを伝えたら、こんなにも反発されてしまったのだ。
「みんな凛がいいって言ってるんだよ?」
「みはねちゃん…でも…凛には無理だよ」
でも、なんで、無理、そんな言葉ばかりが凛の口から出てくる。
なんでそんなに、自分に自信がないのか。
いつもとちがう様子の凛に、なんて言葉をかければいいのか。うまく出てこない。
「あ、ほら!一年生から選ぶなら真姫ちゃんとか!歌もうまいしリーダーっぽいし!真姫ちゃんで決まり!」
いつもの元気な笑顔とはちがう、繕った笑顔。名指しされた真姫は、すごく怒った顔をしている。
「みんな、凛がいいって言ってるのよ」
ぴしゃりと言い放つ。
凛はすごく困った顔をした。
「意外ね。凛なら調子よく引き受けると思ってたのに」
あまり会話に参加しなかったにこは、ちらりと凛を見て不思議そうな顔をした。
「凛ちゃん、結構引っ込み思案なところあるから…」
「特に、自分のことに関してはね」
黙り込んでしまった凛の代わりに、凛のことをよく理解している2人が答える。
うーん。
「いきなり言われて戸惑うのはわかるけど、みんな凛が適任だと考えているのよ。その言葉…ちょっとだけでも信じてみない?」
「み、みはねちゃんっ」
助けを求めるかのような瞳で制服の裾を掴まれる。
甘やかすのは簡単だけど、ずっとそれでは意味がない。そう思うから。
「う、えっと。凛なら大丈夫だよ」
そう言って頭を撫でると、ぎゅっと抱きついてきた。
「2人がそこまで言うなら、やってみる…」
私に顔を埋めたままぽそりと呟く。
ホッとはしたものの、不安が消えるわけではない。
「さぁ!そろそろ雨も止みそうだし、放課後の練習を始めて!」
絵里が声をかける中、花陽の肩を叩く。
「どうしたの?」
「何かあったら、誰にでもいいから相談してね?穂乃果でもいいし」
「うん、わかってるよ」
少しだけ頼もしい笑顔を向けられる。
それにちょっと驚きながらも花陽たちの背中を見送った。
今なんで、胸がチクチク痛いんだろう。
お久しぶりです。読んでいただきありがとうございます。
なかなか、うまくいかないもので。
短いですが…