歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜   作:YURYI*

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69.好きの重さ

 

 

 

 

 

 

なんで、こんな状況になったんだっけ。

あれ、これは私が望んだこと?それとも…

 

 

だって、こんなのーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は少し前。

ラブライブの地区予選、まだ私がみうだった時のことだ。

あの時は、A-RISEと一緒にライブをした。忘れようにも忘れられない、μ'sにとってすごく大きなイベント。

それと同時に、私とA-RISEのメンバーとの距離がぐっと近づいた日だったとも思う。

 

あの日連絡先を渡したA-RISEのメンバーの一人、統堂英玲奈から連絡が来たのは予想外だった。

内容はいたってシンプルで。

 

"少し、相談したいことがある。もし大丈夫なら、この後UTX近くの○○カフェに来てほしい。"

 

その日、とくに生徒会の仕事もμ'sの練習もなかった私はすぐに返事をした。

 

 

 

 

指定されたカフェにつくと、英玲奈は窓際の席で本を読んで待っていた。

 

「まさか、本当に来てくれるとは思わなかった」

 

本を閉じると、ふっと目元を和らげる。

 

 

「なんで?」

 

「いや、キミもなにかと忙しいだろう」

 

何がいい?と、メニューを私に差し出す。

英玲奈がいつも以上に大人っぽく見えるのは、お店の雰囲気のせいだろうか。

とりあえず、アイスコーヒーを頼むことにして、席に着いた。

 

 

「で、相談って?」

 

しばらくの間、お互いの近況報告で盛り上がった後、頼んだコーヒーが出てきたことで本題に入ることにする。

 

「それがだな………」

 

英玲奈の悩み事はいたって単純だった。

最近、ツバサとあんじゅの二人が練習に集中できていない。いや、A-RISEの活動に集中できていない、と。

 

「英玲奈のことだから、理由はわかっているんでしょ?」

 

「あぁ…それは、そうなんだが」

 

そう言葉を濁す英玲奈。

言いにくいと思ってくれているのは、気をつかってくれているからなのか。

 

「原因はみはね…キミなんだけど。わかっているだろう?」

 

きっと私が「わからない」と言えば、優しい彼女は困った顔をする。

そして私は、その困った顔に弱い。

 

「少しだけ」

 

目をそらしながら、そう言うのがやっとだった。

 

「ははっそうか。まぁ、キミが責められることでもないが…」

 

「英玲奈もそういうことあるの?」

 

なんだか、私のほうが不利な気がして。

少しでも動揺してくれないかな、なんて浅はかな考え。

 

「みはねは、好きな人はいないのか?」

 

質問に対して質問で答えられる。

 

「ずるい」

 

むっとすると、テーブル越しに頭をなでられる。

 

「すまない。しかし、私もキミのことが好きだと言ったら、困るだろう」

 

カラン。

氷が溶けてコップにあたり、音を立てる。

どきりと心臓が跳ねた。じっと見つめられて、さらに心臓の主張が激しくなって。

それを誤魔化すように、コーヒーを一気に口に入れた。

 

「…にっが!」

 

そうだ、まだコーヒーが来てからまったく手をつけていなかったんだ。

恥ずかしくなって下を向くと、英玲奈がふっと笑みをこぼして、コーヒーを自分のほうへ持っていった。

ちらりと視線を上にあげて、英玲奈の行動を盗み見る。

ガムシロップとミルクを少し多めに入れて、くるくるとかき混ぜた。

その後、一瞬私の元へ戻そうとしたが、それを中止して自分の口元へ。

少しだけ飲むと、また私のところへ戻した。

 

「うん、これならちょうどいいだろう」

 

それは、あくまで味見をしただけ。

 

「なっ…え」

 

そこで動揺した私が悪い。

反射的に顔を上げて、英玲奈を見つめる。

くすりと笑う彼女は意地悪そうだが、どこか艶やかだ。

これって…間接キスになるよね…

私の考えていることを見透かしてか、英玲奈はにんまりと口角をあげる。

 

「キス…だな」

 

「間接ね!?」

 

重要なワードが抜けていて、思わず大きな声をあげてしまった。

 

「ふ、ははっそんなのわかってる」

 

英玲奈の笑い声が店内に響く。

 

「後輩いじめだ」

 

わざとらしく拗ねてみせると、笑い声はもっと大きくなった。

 

「そんなことはない。私は後輩に優しいよ。特に、キミにはね」

 

そう言って頭をなでられてしまえば、返す言葉なんてなくて。

やっぱり、ずるい。

コーヒーを飲むと、今度は甘すぎるくらいだった。甘いの、好きだからいいけど。

 

「さて、そろそろ話を戻そう。今回、それを踏まえてみはねに頼みがあるんだ」

 

「ん?」

 

ストローをくわえたまま、目線だけ上げる。

 

「今日1日だけでいい、A-RISEのマネージャーをやってくれないか?」

 

 

 

やっぱり私は、困った顔に弱いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、いつ見てもすごい学校だねー…」

 

「そうか?私からしたら普通なんだが」

 

そりゃ、毎日通ってますもんね。

音ノ木坂もすごいとは思っているけど。こう、UTXは見た目が学校っぽくないし。

てか、側から見たらビルじゃん。

 

「その表情は、私になにを訴えかけているんだ?」

 

「何でもないですぅ」

 

わざとらしく、ほっぺたを膨らませる。

 

「かわいいな。今からでもUTX(ここ)においで」

 

人差し指で私のほっぺたをつんつんと突っつきながら、本当に楽しそうに笑う。

そんな様子を見て、私までつられて笑顔になってしまう。さらっとかわいいとか言っちゃうあたり、絵里みたいにキザな人なのかもしれない。

そんなやりとりをしていると、下校する生徒が英玲奈の存在に気づいてか、視線を感じるようになった。

 

「すまない。少し急ごうか」

 

ぐいっと強引に手を引かれて、建物の中に入る。

しばらくは生徒がいたが、エレベーターに乗ると二人きりになった。

 

「英玲奈ってば、強引だね」

 

繋いでいるほうの手をぶらぶらと揺らすと、英玲奈は目をぱちくりさせた。

 

「ん?あぁ、手を繋いだままだったな」

 

と言いつつ、離す気はないらしい。

しばらくして目的の階についたのか、ドアがゆっくりと開く。

 

「みはねちゃ〜ん」

 

ドアが開ききる前に、待ち構えていたであろうあんじゅが抱きつこうとしてきた。しかし、英玲奈が私の手を引っ張ったため、あんじゅは壁に激突した。

 

「いった〜い…なにするのよっ」

 

「そういうことは、練習の後だ」

 

あんじゅは座り込んだまま、英玲奈を涙目で睨みつける。

 

「あんじゅ、大丈夫?」

 

怪我はしていないようだ。

英玲奈と繋いでいない方の手を差し出して、あんじゅを立たせる。あんじゅは何も言わず、ただぎゅうっと私の腕にくっついてきた。

 

「練習、するぞ」

 

練習すると言っているわりには、英玲奈の手に力が入っている。繋いでたら、できないよ。もう。

 

「ねぇ、二人とも、いつまでそうしてるの?」

 

ツバサは、仁王立ちをして腕を組んでいた。

思わずため息が出てしまった。

これ以上は、本当にまずい。

 

「ほら、練習するんでしょ!準備しよう?」

 

「わかったわ…」

 

「あぁ」

 

二人は、渋々といった様子で私から離れて行った。

ただ、怒っているツバサだけが、この場に残っていて。まだ、何か言われるのかな。

 

「みはね」

 

声をかけられて心臓が跳ねた。

しかし、それを悟られないように笑顔を向ける。

 

「ん?」

 

「なんで英玲奈にだけ、連絡先あげてるのよ」

 

それだけ言うと、英玲奈とあんじゅの元に行こうと背を向けてしまった。

思わず、ツバサの腕を掴んでいた。

 

「なに?」

 

こっちを見もしないで、返事だけが帰ってくる。

 

「私、今日英玲奈と待ち合わせたカフェでバイトすることになったんだ」

 

実は、あそこのお店の店長さんに頼み込まれてしまって。英玲奈にも、私が学校の近くにいるなら会いに行きやすい、とか言う理由で押しに押され。

とりあえず、断れなかったのだ。

なんてことは置いておいて。ツバサはこっちを向く気は今はないらしい。

 

「ふ、ふーん」

 

気にしていないように返事を返されたが、一瞬言葉が詰まっていた。動揺しているのは明らかだ。

 

「だから、今度ツバサにも来てほしいんだけど…」

 

ツバサは急にこっちに振り向くと、睨みつけてきた。

 

「それとこれと、どう関係があるのかしら」

 

「もし来てくれるなら、連絡先渡しておこうかなって。そしたら、シフト入ってる日教えられるし」

 

なんて、ほんとはこんな口実なんてなくても渡すけど。ツバサのことだから、自分が言ったからくれたって思いそうだし。

 

「い、いいわよ」

 

ふい、と顔をそらす。

耳、赤くなってるよ?という言葉を飲み込んで、ツバサに笑顔を向ける。

 

「ふふ、ありがとう」

 

番号を教えると、私の携帯が鳴った。

ツバサにじっと見つめられて、仕方なく出ることにする。

 

「もしもし」

 

ツバサは後ろを向くと、自分の携帯を耳に当てる。

 

『ありがとう。でも、関係ないことでも連絡するから』

 

ツバサの声が二重になって耳に届く。

なんだかそれが面白くて、ついつい笑ってしまった。

 

「あはは、了解」

 

それだけ答えると、勝手に切られた。

ツバサの番号を登録していると、今度はメッセージが送られてくる。

 

"好き"

 

たったそれだけ。

なんだこの、むず痒い感じ。

付き合いたてのカップルか!?なんて、ツッコミを入れてしまいそうな。

そんなやりとり。

 

 

 

「みはねちゃん、顔赤いわよ?」

 

あんじゅが心配そうに私の顔を覗き込む。

ツバサはいつの間にかストレッチを始めていた。

 

「き、気のせいだよ。てか、近いよ」

 

近いし、女の子らしい甘い香りがする。

やっぱり顔、赤くなってるだろうなぁ。

やんわりと肩を押して遠ざけると、あんじゅはわざとくっついてきた。

 

「今は、マネージャーでしょ?私のこと、甘やかしてくれてもいいと思うの」

 

「へっ?」

 

「だって、μ'sはすっごく甘やかされてるじゃない。気に入らないの」

 

いつもの大人っぽさからかけ離れた、拗ねた顔。なんだろう、やっぱり、μ'sもA-RISEも変わらないじゃないか。

 

「そっか」

 

ふんわりとした髪をなでると、腰に手がまわってきて、そのまま抱き寄せられた。

甘やかすのって、難しいな。なんて考えてると、英玲奈から集合をかけられた。

 

 

 

 

 

 

しばらくして練習が始まると、3人の顔はライブの時のように…いや、それ以上に真剣になった。決して、お遊びでアイドルをしているわけじゃないということがよくわかる。

やはり、μ'sとは目指すところが違うのだろう。μ'sの本気とは違う、A-RISEの本気。

 

不意に窓の外を見ると、空がいつもより少し近くて。なんだか、μ'sのみんなに会いたくなった。

 

 

「…っ!?」

 

「ツバサ!」

 

英玲奈の声に視線を戻すと、ツバサが右足を抑えて座り込んでいた。

英玲奈とあんじゅが心配そうな顔をしている。

 

「ひ、捻っただけよ。大丈夫」

 

どんな状況で、どんな風に捻ったのか見ていなかったことを後悔した。マネージャー失格だ。

しかし、今この状況ですべきことは後悔ではない。

私にだって、ツバサが強がっていることくらいはわかる。

 

 

「練習おしまいでいいよね?いや、終わり」

 

そう言って、英玲奈とあんじゅに片付けを頼む。

 

「なっ、待って。まだ始めたばかりよ」

 

ツバサは私の制服をくしゃくしゃになるまで掴む。

 

「ダメ」

 

その手をそっと離させるが、ツバサはきつく私を睨みつけた。

 

「今は私がA-RISEのマネージャーなの。家まで送るから、帰るよ」

 

嫌がるツバサを無理やり抱き上げる。

 

「こんなことして、怒られるわよ」

 

「誰に?」

 

「あなたの事が大好きな人たちによ」

 

そんなこと、今はどうでもいいのわかんないのかな。今ここでツバサに無理されるほうが嫌に決まってる。

ツバサに返事をしないで英玲奈にツバサの家の場所を聞く。

 

「ツバサは車で登下校している。下に呼んでおいたから、それで帰るといい」

 

「ちょっと!ほんとに帰る気!?」

 

「英玲奈、後で連絡する。あんじゅもまたね」

 

それだけ言ってエレベーターに乗り込んだ。

ツバサがうるさいから、制服には着替えさせてあげたけど、そこからは逃げないようにまたお姫様抱っこをする。

抱き上げるとき、顔を赤くして照れていることは、本人には内緒だ。

 

 

下に着くと、英玲奈の言っていた通り一台の車が止まっていた。リムジン、というやつだ。

 

「これ?」

 

「そうよ。それより!もう下ろして!」

 

下ろしたら逃げるくせに。

車の近くによると、運転手らしき人がドアを開けてくれた。

中に入ってドアが閉まってから、ツバサを座らせる。

 

「あなたくらいよ、私の言うこと聞かないの」

 

ようやく自由になったツバサは、恨めしそうにこっちを見ていた。

 

「わがままになっちゃうよ?…あ、もうなってるのか。こういうのって、アメとムチが大事だよね」

 

おどけたように笑うと、ツバサのほっぺたが膨らむ。

きっと、甘やかされてきたわけではないのだろう。ツバサの言っていることは、わがままではない。

ツバサの言っていることが正しかったから、誰も逆らえなかっただけなのだろう。

 

「みはねは、ムチなんて使わないじゃない」

 

「使うよ。だから、私のこと怒らせないでね」

 

少し低めの声でそう言うと、ツバサはなにも答えないで、家に着くまでの間、ずっと私の手を握っていた。

まるで、怒られた子どもがご機嫌とりをしているかのように。

そんなに怒られるの、嫌だったのかな。

 

車が止まる。

 

「ツバサ、着いたみたいだよ」

 

「そうね」

 

家に着いたはずなのに、ツバサが降りる気配はない。

 

「降りないの?」

 

「ん!」

 

ツバサは私に向けて両手伸ばしてくる。

 

「なに」

 

上目遣いで見つめてくる彼女を、私は真顔で見つめ返す。

 

「だから、さっきの!」

 

さっきのとは、きっとお姫様抱っこだろう。

いや、でも、さっきは嫌がってなかったっけ?

 

「足、痛いの。だから…」

 

「わかったよ、お姫様。いや、女王様?」

 

車のドアまでは自分でてきてもらってから、ツバサを抱き上げる。

ツバサの部屋まで案内してもらって、ベットの上にツバサを降ろした。

 

しゃがみ込んで、捻挫したところがどうなっているのか確認する。

 

「ねぇ、今日、泊まっていって」

 

ふいに頭上からツバサの声が降ってくる。その言葉は、予想もされていないことだった。

 

「それより、お家の人は?」

 

話を逸らさないで、と怒られる。

 

「帰ってくることは滅多にないわよ。忙しい人たちだもの」

 

これは、話をそらすために聞いた質問を間違えたかもしれない。

くいっと少し腫れているところをひねる。

 

「いっ、なにするのよ!」

 

「寂しいの?」

 

今度はそこに口づけをしてから湿布を貼る。

早く治りますように。そんなことを考えながら。

まぁ、思っていたよりもひどくはないみたいだ。

 

 

「寂しいのって聞いてるんだけど」

 

さっきから、顔を真っ赤にして黙り込んでいるツバサを見上げる。

 

「さ、みしい。なんて、言えるわけ…ないじゃないっ」

 

顔をそらして、でも、横顔はすごく悲しそうだった。

私と同じだ。記憶もなくて、あの部屋で毎晩過ごしていた頃の私と。

記憶がない事が大きかったのか、みんなに優しくされると悲しくなって。1人の空間がよかったはずなのに、みんなといる時間が増えるたび、寂しさが増していった。

今は、μ'sのみんながいるからそんなことはないけど。

そんなことを考えていたら、断る理由がなくなってしまっていた。

 

「泊まってく」

 

返事の代わりに、抱きつかれた。

しかし、すぐに離れて私の顔を覗き込む。

 

「あ、でも、みはねはμ'sの皆さんと付き合っているんじゃなかったかしら?」

 

それは悪いわね、と。

ツバサって変なの。普通だったら、こういう状況で他の人のこと気にしないものじゃないの?

 

 

「今は、誰とも付き合ってないよ」

 

私の言葉に、ツバサが嬉しそうに目を細める。

 

「それは、私にもチャンスがあるってこと?」

 

立ち上がって、ツバサの隣に腰を下ろすと、甘えるようにすり寄ってきた。恥ずかしさを隠すように、私は天井へと顔を向ける。

 

「うーん、どうなんだろうね?」

 

自分でもよくわからない。自分が何をしたいのか。何を基準に物事を考えているのか。

好きも。

記憶が戻ってから、余計にわからなくなってしまった。

虚無感。私の心の中に空いた穴は、何で満たされるのか。

 

「みはね」

 

「ん?」

 

手を握られて、名前を呼ばれる。

ツバサのほうに顔を向けると、私たちの距離はゼロになった。

 

「ん、好き。だから、一緒にいて」

 

ほら、まただ。心臓はドキドキと音を立てていて、顔も熱いのに。どこか冷静な私がいる。

私は、今は誰からも好きをもらう事ができない。言うならば、呪い。何かが足りない。その何かを見つけられるまでは、私に答えを出すことはできないのだ。きっと。

でも、私と同じツバサなら、この心にぽっかりと空いてしまった穴を、埋めてくれるかもしれない。

そんな少しの期待を胸に、ツバサをベッドに押し倒した。

そんな私を受け入れるかのように、ツバサは私の首元に腕を回す。

それを合図に、私はツバサにキスをした。

角度を変えて、何度も。

 

「ん、んぅ、ちゅ……みはね」

 

ツバサがキスの合間に私の名前を呼ぶ。

さらに、すがりつくように抱きつかれると、私の心が少しだけ満たされたような気がした。

ツバサのブレザーを脱がせてベッドの端に追いやると、今度は私もブレザーを脱ぐ。ツバサのネクタイを緩めて第2ボタンまで開け、細く伸びる首筋に顔を埋めると、ツバサはくすぐったそうに身をよじった。

 

「あっ、みはね、キス。ほしいの」

 

かわいくおねだりされて、自分の口角が上がったのがわかった。もう一度ツバサにキスをあげる。

今度は私がリボンを取って、自身のシャツを第二ボタンまで開けると、ツバサが上半身をあげて私の首元に吸い付いてきた。

チクリとした一瞬の痛み。何をされたのかはすぐに理解ができた。

 

 

「あなたの好きはいらないから、そんなわがまま言わないから。私があなたを愛していたいの」

 

だから、と言葉を続けようとするツバサの邪魔をした。ツバサの口を、自身の唇で塞ぐ。

重さの釣り合わない愛。

私のほうが下になることは決してない、そんな天秤でも彼女はいいと言っている。

私がそれにひどく安心したのも事実だから。

 

 

「んっ、いらないの?わがまま、言ってもいいよ?」

 

ゆっくりと唇を離すと同時に、ツバサが閉じていた目を開ける。

今までで一番近い距離で見つめ合う。

少しでも、罪悪感を減らしたい。ただ、それだけだ。

 

「好きって、言って」

 

きゅ、と心臓が跳ねて。一瞬言葉にならなかった。なんだろう、このかわいい生き物は。

 

 

「好きだよ、ツバサ」

 

これは、恋愛ではない。

私を愛したいツバサと、それを利用した、ただ愛されたいだけの私との残酷な契約。

首元に顔を埋めるように、下からしっかりと抱きついてくる。

 

「もっと…っ」

 

「好き」

 

またしても、私の首筋にキスマークをつけられる。今度は噛みつかれて、きつく吸われた。

まるで、私の心を見透かしているかのようだ。

 

「それ、もっとつけていいから。私の前では、わがままになっていいよ」

 

もう1つ、目立つであろうところに印をつけられる。

 

 

「ねぇ、今日はこのまま一緒に寝て」

 

甘えるように私を見上げられる瞳。

私が、それに答えるようにきつく抱きしめると、ツバサはさらにくっついてきた。

温かくて、やわらかい。

 

 

ああ、私は記憶がなかった時と何1つ変わっていない。

 

 

 

 

記憶があるかないかなんて、大したことじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「離さないで」

 

 

 

 

それは、どっちが言った言葉だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこんなの、ただの裏切りだ。

 

 

 

 





閲覧ありがとうございます!
こんな状況でも、仕事がたくさんあると言う事実…
どうすればこの事態は終わるのだろうか。(早く休みの日に遊びに行きたい)

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