歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
まずは生徒会に許可を取りに行こうとしていたはずなのだが…
今私たちは理事長室にいる。それに、私たちだけではなく、生徒会である絵里先輩と希先輩もだ。
なぜかって?それは簡単。なぜか私たちの活動をよく思っていない絵里先輩がいる生徒会に申請しに行くよりも、直接理事長に許可を得てしまえば…という安易な考えのもとだ。
で、理事長室にきたらばったり生徒会の二人と会ってしまったというわけ。
「へぇ…ラブライブね…」
とりあえず理事長にラブライブのことを説明したわけだけど…
「私は反対です」
予想された通り、絵里先輩は私たちの行動をよく思っていないみたい。
「理事長は学校のために、学校生活を犠牲にすべきではないとおっしゃいました」
学校生活を犠牲に…か。ちょくちょく絵里先輩が理事長室で理事長とお話ししているのは知っていたけど、そんなこと言われてたんだ。
でも、それって。学校生活を犠牲にしているのは絵里先輩の方ではないだろうか?私たちは、μ'sはスクールアイドルをやりたいっていうメンバーが集まっているわけで、別に嫌々やっているわけではない。それに、ラブライブに出たいのだって、学校存続のためにというのも一理あるが、自分たちが出たいから申請に来たのだ。
「そうねぇ。でも、いいんじゃないかしら?エントリーするくらいなら」
理事長は穏やかに言う。自然と私たちは笑顔になる。が、やっぱり絵里先輩はとても不服そうな顔をしていた。
「ちょっと待ってください!どうして彼女たちの肩を持つんですか!?」
「別にそんなつもりはないけど…」
「だったら、生徒会にも学校を存続させるために活動させてください!」
絵里先輩は私たちがいるのをおかまいなしに理事長に詰め寄る。
「うん…それはだめね」
理事長は真っ直ぐに絵里先輩を見据えて答える。即答だった。
「意味がわかりません…」
「そう…簡単なことよ?」
理事長の言いたいことがなんとなく私にはわかる気がする。希先輩がなにも言わないのも、きっとわかっているからだろう。
今の絵里先輩は、とてもじゃないけど見ていられない。
「ただし、条件があります」
絵里先輩を見つつも内心安心していた私たちに理事長は目線を向ける。
「今度の期末試験で一人でも赤点をとるようなことがあったら、ラブライブへのエントリーは認めません。いいですね?」
あぁ…もしかしたら、エントリーできないかもしれないなぁ…
がっくりと肩を落としている穂乃果先輩、にこ先輩、凛ちゃんを見たらそう思わずにはいられなかった。
*
部室に戻って会議が始まった。もちろん議題は赤点回避について。
幸い一、二年生は教えられる人がいたのだが、問題は三年生のにこ先輩。
他に三年生がいないため、教えられる人がいない。
困っていたところに外で盗み聞きしていた希先輩が先生役をかって出てくれた。
こうして私たちの赤点回避大作戦?は始まったわけだが…
正直なところ私は特にやることがない。
マネージャーなのにな…
必死になって勉強している三人と、教えている五人の声をBGMにうつらうつらと船をこぐ。
ここ、日が当たるからあったかいんだよね。
「ふわぁ…」
ねむいけど、今寝ちゃったらみんなに悪いしなぁ…
何かやることないかな、と周りを見渡してみると、机の上に放置されている教科書が目に入った。
ことりちゃんの、だね。
いくつかあったのでぺらぺらと目を通していく。あ、これ意外と簡単かも。
実は、一年生の範囲は何度も教科書を読んでいるせいでほぼ完璧、だと思う。
記憶力が案外いいのか一回読むとすぐ覚えてしまったり…
まぁ、そのせいで漫画や小説にも感化されやすかったりもするみたいだけど。
こう、なんで自分のことは思い出せないのに記憶力はいいのかな…
矛盾してるに程がある。まったく。
結局、テストの日までに3年までの教科書をほぼ覚えてしまい、先輩にも勉強を教えることになった。
私でも役に立つことができて嬉しかったなんて、恥ずかしいからみんなには内緒だ。
みんなの努力もあって、全員が赤点を回避することができてμ'sはラブライブにエントリーすることになった。
***
〜絵里〜
あの子たちがラブライブにエントリーしたと希から報告を受けて数日、最近なかなか生徒会に来なかったみはねが突然やってきた。
「失礼します。最近来れなくてすみませんでした」
みはね…
「べつに、忙しそうだもの」
「…っ」
なんでそんなに悲しそうな顔するのよ。
「みはねちゃん、お仕事手伝ってほしいなぁ」
「いいですよ」
なんで、希には笑顔なのよ。
「あ、棚の上の資料取らなあかんなぁ」
「私が取るので希先輩は座っててください。また、落ちたら私がいやなので」
「うん、ありがと」
なんで、希にはそんなに優しいのよ…
なんで、希のことはなでてあげるのよ…
なんで、なんで、なんでーーー
私だって頑張ってるのに。褒めてほしい。優しくしてほしい。なのに…
「あ、そうだ。希先輩、ちょっと」
みはねは希の耳に顔を近づけて何か話している。やけに近い二人にイライラする。
今は、仕事中じゃない。集中するべきよ。
「ん、了解や。じゃあまたな。えりち」
みはねと話し終わると希はカバンを持って帰って行ってしまった。
どうすればいいのよ…
とりあえず仕事を進める。すると突然みはねに背後から抱きつかれた。
え…なんで…?どういうことなの?
「私は、絵里先輩が頑張ってるの…ちゃんとわかってますからね」
みはねはいったん離れると、椅子を私の隣に置いて座って私を見つめる。
手を優しく包み込まれる。
「絵里先輩は、自分が生徒会長だっていう義務感だけで働きすぎです。頑張り屋さんなのは絵里先輩のいいところだと思います。でも、絵里先輩のしたいことは…?」
一呼吸置くとまた続ける。
「私は自分のこと我慢して欲しくないです。
ちゃんと、思ってること教えてほしいです。私、年下だし知り合ってあんま経ってないし頼りないと思います。でも、絵里先輩の支えになりたい…もっと頼ってほしい。私の前だけなんてわがまま言わないから、素直になってほしい…それで、私の力にもなってほしい…!だめ…ですか?」
少し怒ってるように、でも優しく、力強くそう言ってきた。
わ、たしは…
ぽたぽたと涙がこぼれる。
「う、みはね…私、わたしっ…もっと、みはね…のこと、たよっ、て、いいの…っ?」
恥ずかしいけど涙が止まらない。
「いいんだよ」
優しく頭をなでられて、正面を向かされて抱きしめられたかと思えばまたなでられる。
あたたかい…
「もう少しだけ…甘えててもいいかしら…?」
「時間なんか決まってません。甘えたいときに甘えてください」
じゃないと疲れちゃいますよ、と。
「あり…がとう」
しばらく、みはねの腕の中で泣いた。
みはねは泣いている私になにも言わず、優しくあやすように背中を叩いてくれていた。
「もう、大丈夫よ。ありがとう」
久しぶりに心の底から笑えた気がした。これもみはねのおかげね。心に張り付いていた重りが少し軽くなった。
「いえ、その…こんなときに言うのもあれなんですけど…」
「なぁに?」
「μ'sのダンスのコーチ、やってみませんか?先輩、バレエやっていたんでしょう?」
「な、なんでそのこと…」
「亜里沙と希先輩から聞きました」
「そう…」
亜里沙のこと呼び捨てにしてるのね…
まぁ、亜里沙の部屋で寝てから二人の距離はぐっと近づいた気はしてたけど…
「い、いわよ…」
「ありがとうございます!じゃ、今から早速行きましょう!」
早く、と言って私の手を取るみはね。その繋ぎ方は無意識なのか恋人繋ぎ…
「すみません。いきなり」
「大丈夫よ。むしろ嬉しい」
「今、私たち恋人同士に見えてるのかなぁ?」
とっても優しく微笑んでそんなことを言ってくる。みはねが…恋人……
って、何考えてるのよ私!?
「じゃじゃーん!ダンスコーチ連れてきましたよ!」
みはね…それはかなり恥ずかしいのだけど…
「えぇ!生徒会長!?」
驚いていたり怪訝そうな顔をしていたり、反応はさまざまだ。
私なんか…
みはねはμ'sのみんなといると、とても眩しい笑顔で笑う。
ーーー私も一緒に笑えたらいいのに。
「よろしく。じゃあ、基礎から始めるわよ」
「おぉ。えりちやる気満々やね?」
希!?なんでこんなところに…
「みはねちゃんに頼まれたんよ」
心読まれていることに驚く。
はぁ…あの時話してたのはこのことだったのね…
μ'sのダンスは、基礎からちゃんとできていなかった。かなり厳しくしてしまったかもしれない…
なぜか流れで明日の朝練も参加することになった。みはねの頼みなんだから、断れるわけないじゃない…
***
私が屋上に来た時はすでに、みんな昨日の基礎練をやっていた。自分でもわからないがその姿にイライラする。
「なんでそこまでするのよ!これ以上やったって結果なんか同じだわ!」
いつの間にか、私はそう言って屋上を飛び出していた。頭の中がぐちゃぐちゃで、自分がなにをしたいのかわからない。
階段を降りたところで希に呼び止められる。
「えりち…えりちの本当にやりたいことは?えりちの好きなこと、やりたいことをやればいいやん」
「私だって、好きなことやって、それだけでなんとかなるんだったらそうしたいわよ!」
「えりち…」
「今さらアイドル始めようなんて、私が言えると思う?」
私はそう言い残して逃げた。
廊下を走って走ってたどり着いたのは自分の教室。なにも考えず、ただ自分の席に座る。
「絵里先輩」
優しい声色。この声は間違えようもないみはねの声。
「絵里先輩はえらいですよ。いつも頑張ってる。でも、先輩のやりたいことやってほしいんだけどな…」
みはねのその言葉に胸がぎゅっと苦しくなる。
私のやりたいこと…
私を見つめながら悲しそうに微笑むみはね。
その姿がとても儚げで、触れてしまえば消えてしまいそうで…
うまく表現できないが、とてもきれいだった。
「絵里先輩!お願いがあります!」
みはねの後ろから、μ'sのメンバーが姿を見せる。高坂さんは笑顔で私に近づいてくる。みはねは私の隣に立っていた。
高坂さんが右手を差し出す。
「絵里先輩、μ'sに入ってください!私たちには絵里先輩が必要です!」
そう言われた瞬間。
あぁ…もう、頑張りすぎなくてもいいのかなって思った。私は、私のやりたいことは…
みはねと一緒に…!
「私をμ'sに入れてください…っ」
「はい!喜んで!」
私は差し出された高坂さんの手をとる。高坂さんは太陽のような笑顔で私を見ていた。
立ち上がった瞬間、みはねにふわっと抱き寄せられた。
私の耳もとに顔を近づけて
「やっと素直になってくれた」
そう囁いた。
私の頬を両手で包みこんで、こつん、とおでこをくっつける。
「これからは一緒に頑張りましょう?私はずっと絵里先輩のことちゃんと見てるから、支えになるから」
その言葉に涙が出そうになる。みはねはずっと私のこと見ていてくれたんだ。
みはねが遠くに行ってしまったと思っていたのは自分だけで、それは大きく間違いだったことに今さら気付く。
「えぇ…!」
私は力強く頷いた。
すると、みはねはふんわり微笑んでありがとうと言って私のおでこにキスをした。
あ、今私の顔真っ赤になってるかも…///
そんな私の頭をポンポンと優しくなでてくれた。
なんであなたはそんなにキザなことをするのよ。ロシアの血が流れている私でさえも照れてしまう。
「さ、これでμ'sは私を入れないで九人になったわけだ」
みはねは満面の笑みでみんなを見る。
九人…?
「え?みはねちゃんを入れて九人じゃないの?」
リーダーである高坂さんもよくわかっていないようだ。
「えー?ちゃんと名付け親の人には責任を持ってμ'sに入ってもらわないとね」
名付け親?この子は何を言っているのかしら?
みはねの視線の先では、ほおを赤く染めて気まずそうな顔をしている希がいた。
「ちょ、ちょお!みはねちゃん気づいとったん?」
「当たり前じゃないですか〜」
の、希!?じゃあ…
「さ、希先輩にもμ'sに入ってもらいますよ!みんなも、いいよね?」
その言葉に、メンバーみんなが笑顔で頷く。
「こ、これからよろしくな?」
あら、希もまんざらでもなさそうね。嬉しそうに笑っちゃって。ふふっかわいいんだから。
きっと、本当はずっと前から仲間に入りたかったのかもしれない。でも、私のせいで言いだすことができなかったのね。
「よし、じゃあ、練習しよっか!」
みはねはよほど嬉しいのか、さっきからずっとにこにこしている。
「みーいーちゃーんー?」
「みはね!破廉恥ですよ!」
「先輩たちばっかりずるいよー!」
「凛たちにもやるにゃー!」
「やっぱり、花陽みたいな子じゃ…」
「このにこにーをほったらかしにして!」
「はぁ…お仕置きが必要ね…」
そんなみはねに誤魔化されないとでもいうようにみんなが不満やらなんやらを口にする。
うわ、みはねってやっぱりモテモテね…
三年生の間でもかなり話題になってるし。
こんなにかわいくて、しかもかっこよくちゃ当然よね…
それにものすごく優しいし…
「わ、私何かした!?」
あ、逃げた…
「ほら、早く練習するよ!」
みはねは教室を出ると廊下を駆け出した。
みんな怒ってはいるけど、笑顔でみはねのことを追いかける。楽しそうね。ほんと…
誰にも負けないわよっ!