ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1037話 朝のふたコマ

 しばらくして香蓮も落ち着き、女性陣は仲良く洗濯物を干し始めた。

八幡はそれを手伝う訳にもいかない為、脱衣所を使い、制服に着替えた。

 

「おお、リーダーの制服姿!」

「八幡君、めんこい………」

 

 香蓮はもじもじしながらそう呟き、舞はそんな香蓮に呆れたような視線を向けた。

 

「その表現はどうなの」

「で、でも確かにめんこいよな?」

「う、うん………」

「まあそれ自体は否定しないけど」

 

 舞にしてみれば、八幡はめんこい、ではなく格好いい、である為、

二人とはやや違った感想になるのであろう。

 

「それじゃあ俺は先に行くわ、優里奈も遅れないようにな」

「はい、行ってらっしゃい!」

「「「行ってらっしゃい!」」」

 

 四人に見送られ、八幡はニコリと微笑んで出かけていった。

内心では、誰かに送り出してもらえるってのは幸せな事だ、などと考えている。

 

「さて、優里奈ちゃんももうすぐ出るよね?」

「はい、私もそろそろ制服に着替えないと」

「洗い物とかは私達がやっておくから、優里奈ちゃんは先に着替えてきちゃいなよ」

「ありがとうございます、お任せしますね!」

 

 優里奈はそう言って自分の部屋へと戻っていった。

三人はそのまま洗い物を済ませて寛いでいたが、そこに制服姿の優里奈が姿を現した。

 

「おお、優里奈ちゃんの制服姿は初めて見た!」

「っていうか、胸が縮んでる!?」

「八幡さん以外に見られるのは嫌だから、普段はこんな感じですよ」

「なるほど………」

「徹底してるんだね」

「はい、私は八幡さんのものですから!」

 

 優里奈は恥らう様子もなくあっけらかんとそう言い、

それじゃあ、と三人に手を振りながら出かけていった。

 

「おいコヒー、優里奈ちゃんのああいう所を少しは見習えよ」

「朝の事ならあれは美優のせいでしょうが!」

「でもリーダーに見られて、恥ずかしかったけど嬉しかったんだろ?」

「う………そ、それは否定しないけど」

「だったらもっと私に感謝するんだな、ははははは!」

 

 美優は強気な態度でそう言い、香蓮と舞はため息をついた。

 

「で、これからどうする?まだヤミヤミとたらおとの約束の時間まで結構あるけど」

 

 舞のその言葉に、美優はドヤ顔でこう言った。

 

「それじゃあ私のニューパンツを買うのに付き合ってよ!」

「え?」

「ニューパンツって………」

 

 下着のストックは十分用意してきているはずなのに、

何故わざわざ買い足すのか分からなかった二人は困惑した。

 

「何で?」

「まあ聞いてくれ、さっき優里奈ちゃんに教えてもらったんだけど………」

 

 そう言って美優は、優里奈から聞いた話を二人に披露した。

 

「な、なるほど………」

「納得しないで舞さん、本来見られちゃいけないものだから!」

「あ、私は仕事が仕事だから、そういうのは案外気にしないの」

「そ、そうなんだ………」

 

 その舞の男前な言葉に、香蓮は戸惑いつつも納得した。

 

「もちろん私も平気だぜ!むしろリーダーの前では常に下着姿でいいまである」

「美優は欲望塗れすぎだから!」

「何言ってるんだコヒー、私はチャンスさえあれば絶対にリーダーとヤるぜ」

「ヤっ………ヤるって………」

 

 香蓮は顔を真っ赤にしながら下を向いたが、そんな香蓮に美優は容赦しない。

 

「それが私とコヒーとの違いだぜ、私は自分が幸せになる為ならもじもじなんかしない!」

「わ、私は………」

 

 香蓮はそれ以上何も言えず、美優はそんな香蓮を鼻で笑った。

 

「はっ、結局コヒーはそうやって恥ずかしがってりゃいいさ、

その間にリーダーは私が美味しく頂くぜ!」

「………………って」

「ああん?」

 

 香蓮が何か呟き、美優はそんな香蓮の顔を下から覗き込んだ。

 

「私だって、そんくらい出来るべ!」

 

 そう言って香蓮は美優をキッと睨んだ。

その瞬間に美優は、ニコリと微笑んで香蓮に拍手をした。

 

「おお~、その意気だコヒー、一皮剥けたな!二人で頑張って幸せになろうぜ!」

「へっ?」

「三人で、よ。それと美優、わざと煽りすぎだから」

 

 そこに傍観していた舞も乗った。

 

「あはははは、こうでもしないとコヒーは一生もじもじしてるだけだと思ったからさ」

「確かにそれは否定しないけどね」

 

 二人はあっけらかんとそう言い、香蓮はぽかんとした。

 

「えっ、ど、どういう事?」

「いやぁ、前から思ってたんだけど、いくらなんでもコヒーは大人しすぎだと思ったからさ、

もうちょっとアピールしないとライバル達には勝てないんじゃないかってな」

「ごめん、実は来る途中の飛行機の中で、そんな話が出たんだよね」

「そ、そうなんだ」

 

 確かに香蓮には、常に自分が一歩引いてしまう自覚があった。

 

「そ、そうだよね、私ももうちょっと頑張らないと!」

「でもそれでコヒーのいい所を潰さないようにな!」

「それじゃあ美優のニューパンツとやらを買いに出かけましょうか」

「そうだね、私もデザインとかもう少し考えてみようかな………」

 

 香蓮は基本そんな派手な下着はつけないが、地味なりに派手な下着でも探してみようかと、

自分なりに八幡へのアピール手段を探る事にしたようだ。

 

「この辺りだとどこがいいのかな?」

「ごめん、私はそういうのに疎くて………」

「それじゃあ分かる人に相談しよう!」

「あ、待って、その前にソレイユに挨拶に行かないと」

「そういえばそうだった!それじゃあそのついでに誰かにお薦めのお店を教えてもらおうよ」

「いい考えだね、そうしよっか」

 

 こうして話はまとまり、三人は先にソレイユに向かう事にした。

 

「「「おはようございます!」」」

「あっ、みんな、来たんだ!」

 

 そんな三人を出迎えたのはかおりであった。

 

「うん、昨日来たんだけど、夜遅かったからさ、今日改めて挨拶をと思って」

「どうしよう、とりあえず社長かな?」

「うん、まあ忙しそうなら今度また出直すから」

「今確認してみるね」

 

 かおりは慣れた手付きでインターホンを取り、陽乃にお伺いを立てた。

どうやらすぐにオーケーが出たようで、直ぐに薔薇がこちらにやってきた。

 

「薔薇さん!」

「みんな、よく来たわね、今社長の所に案内するわ」

「ありがとうございます」

「いいタイミングだったわね、まだ間に合うんだけど、

あと少しで社長は京都に向かう所だったのよ」

「あっ、そうだったんですね」

「セーフ!」

「ふふっ、滑り込みって感じね」

 

 そのまま三人は社長室に案内され、陽乃と対面した。

 

「みんな、いらっしゃい!」

「ソレイユさん、おはようございます!」

「「おはようございます!」」

「そんなに堅苦しい挨拶をしなくてもいいのよ?

フカちゃんとシャリちゃんは半月くらいこっちにいるのよね?

私は来週半ばまでは京都だけど、その後機会があったらまた遊びましょうね。

もちろんレンちゃんも」

 

 陽乃は笑顔で三人にそう言った。

 

「「「はい、是非!」」」

「さて、そんな訳で私はもう出ないといけないのよ、

はぁ、まったく年末は忙しくてたまらないわ」

「いやいや、年末はちょっとは遊びたいから、

今のうちに仕事を片付けるって無理してるのはボスの意思だろうが」

 

 そう横から突っ込んできたのはレヴェッカであった。

 

「それはそうなんだけどね、それじゃあそろそろ行きましょうか、そうだ、京都へ行こう!」

 

 そう言って陽乃は三人に手を振って部屋を出ていった。

 

「三人とも、そんな訳だから、俺ともまた今度遊んでくれよな」

「うん、是非!」

「レヴィもお仕事頑張ってね」

「護衛なのよね?気をつけて」

「ははっ、まあこれを使うような事にはならないと思うけどな」

 

 そう言ってレヴェッカは、舞に懐に忍ばせた銃をチラリと見せ、そのまま去っていった。

 

「舞さん、あれってもちろん本物だよね?」

「まあそうでしょうね、私はそっちには詳しくないから種類は分からないけど」

「さて、それじゃあ私達もお暇しよっか」

 

 そう言い出した香蓮を薔薇が止めた。

 

「待って、その前に今日の会場に案内するわ」

「えっ、会場ってここなんだ?」

「そうなの、今回は秘匿性を重視したいから、普通の店でやるのはやめたのよね。

食べ物と飲み物は、うちの社員食堂のねこやにお願いしたわ」

「へぇ、そうなんだ」

 

 そして会場に案内された三人は、飛び上がらんばかりに驚いた。

 

「え、何ここ」

「ゲームセンター?」

「ここは八幡が作ったうちの遊戯室よ、

もし暇になっちゃったらいつでも遊びに来ればいいわ。もちろん全部タダよ」

「「「おおおおお!」」」

 

 例えば舞はほとんどこういったゲームはやらないが、それは別にやりたくない訳ではなく、

ただ機会が無いだけである。

香蓮も似たような感じであり、比較的こういった場所によく行くのは美優くらいのものだ。

 

「くっ、このままここで遊びたい………けど………」

「まあまた今度だね」

「あっ、そうだ忘れてた!それよりも薔薇さん、ちょっと相談が!」

「そうだった、忘れてたね」

「むしろそっちが主目的なのにね」

 

 三人はしまったという顔でそう言い、薔薇は首を傾げた。

 

「ん、何?」

「私、ニューパンツが欲しいんです!」

「え?」

 

 三人はそのまま今朝のやり取りを踏まえ、薔薇にいい店が無いか尋ねた。

 

「そういう事か………って事は、ブランド物とかの店じゃなく、

地味でありながらそれでもかわいい品を扱ってる店とかの方がいいのね」

「ですです!」

「私はそういう店は知らないけど、秘書室の子達なら知ってるかなぁ」

 

 四人はそのまま移動し、秘書室へと向かった。

中にいたのはクルスと明日香、それと雪乃だった。

 

「あっ、クルスに雪乃!」

「あら、お久しぶりね」

「久しぶり!」

「えっと、こちらは………」

 

 この三人の中で、明日香と面識がある者は存在しない。

 

「今度秘書になる渡来明日香さんだよ、事情は知ってるから普通に話していいからね」

「そうなんだ」

「宜しくね!」

 

 四人は自己紹介をし、雪乃が追加で三人の情報を明日香に伝えた。

 

「ああ、フカちゃんとレンちゃんとシャーリーさん!」

 

 明日香はヴァルハラ・ウルヴズのメンバーについては勉強している為、

すぐに脳内でリンクさせられたのか、うんうんと頷いた。

 

「で、この三人が相談があるらしいんだけど」

「相談………ですか?」

「うん、実はさ………」

 

 美優に説明され、雪乃達はううむと唸った。

 

「なるほど、八幡君にはそういった面もあるのね………」

「勉強になる………」

「えっ、そんな反応!?」

 

 まだソレイユに不慣れな明日香だけが戸惑っていたが、

八幡を取り巻く環境としてはまったく普通の光景である。

 

「そういう事なら力になりたいのだけれど、私は生憎そういう店は知らないのよね」

「雪乃はお嬢様だから、こういうケースには向かないね」

「言うほどお嬢様ではないのだけれど………」

 

 雪乃は少し悔しそうにそう言ったが、実際知らないのだからそう言われても仕方がない。

 

「そういう事なら私は案内出来るよ」

「私も出来るかな」

「それじゃあクルスか明日香、どっちかが付いてってあげるといいわ」

 

 薔薇が快くそう許可を出してくれ、二人は普通にジャンケンをし、

それで同行者はクルスという事に決まった。

 

「それじゃあ行こっか」

「お世話になりま~す!」

「クルス、ありがとね」

「よ~し、いいニューパンツを見つけるぞ!」

 

 こうして四人は買い物に出かける事となった。


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