ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/12 句読点や細かい部分を修正


第158話 クラインの男の道

「すまんみんな、待たせたな」

「ごめ~ん、お待たせ!」

 

 数分後、ハチマンとアスナは、かつて最初に攻略会議が開催されたあの広場で、

無事に街探索チームの仲間達と合流していた。

二人が合流した直後にリズベットが、冗談のつもりで、笑顔でアスナに言った。

 

「どうせアスナの事だから、お風呂に入りたいってハチマンに駄々をこねてたんでしょ」

 

 アスナはリズベットに向かって笑顔で駆け寄ろうとしていた最中だったのだが、

そのリズベットの言葉を聞いた瞬間、ピタッと停止したかと思うと、そのまま顔を背け、

頭の後ろに両手を回して、鳴らない口笛を吹き始めた。

 

「えっ?……ちょっとアスナ?」

 

 そのリズベットの怪訝そうな問いに、アスナは必死にこう返事をした。

 

「ち、違うのリズ!ちょっとだけ使い心地を確認しようと思っただけなの!

これはあくまで公益性を優先しようと思っただけで、私は全然悪くないの!」

「アスナ……その言い回し、ハチマンそっくりよ……」

「えっ……?そ、そうかな?そんな、ハチマン君と一緒だなんて恥ずかしいけど嬉しい」

 

 リズベットはもちろん呆れてそう言っただけだったのだが、

アスナは何を勘違いしたのか、恥ずかしそうに頬を赤らめ、くねくねと身をよじらせ始めた。

リズベットは愕然とし、助けを求めるように周囲の仲間達を見たが、

全員すぐに顔を背け、決してリズベットと目を合わせようとはしなかった。

それを見たハチマンは、話を元に戻す為に、仕方なく助け船を出す事にした。

 

「あ~……アスナ、風呂の調子は問題無かったのか?」

「うん!」

「そうか、それなら今日の探索が終わった後、女性陣みんなで観光気分で一緒に入ればいい」

「そうだね、みんな、そうしよう!」

 

 リズベット、シリカ、ユキノ、ソレイユは、う、うん、といった感じで曖昧に頷き、

そこでこの話はとりあえず終わりとなった。

次にハチマンは表情を引き締め、街の探索状況を仲間達に尋ねた。

 

 

「どうだ?街の様子に何か大きな違いはあったか?」

 

 仲間達は、思い思いに気が付いた事を述べ始めた。

 

「黒鉄宮の迷宮はやっぱりまだ解放されてないみたいで、存在も未確認かな」

「監獄エリアは無くなってたな。まあハラスメント対応くらいにしか使い道が無いしな」

「基本街の施設は前と一緒だったと思うぜ!」

「生命の碑だけが、どう変化してるのかわからなかったです」

「生命の碑?」

「それは一体何なのかしら?」

 

 雪ノ下姉妹が同時にそう尋ねてきたので、ハチマンは生命の碑の事を説明した。

 

「そう……墓標、という訳ね」

 

 ユキノが少し悲痛な声でそう言った。同じように悲痛な表情を見せていたソレイユは、

やや暗くなりかけた雰囲気を明るくしようと思ったのか、こう提案してきた。

 

「とりあえず一旦それは置いておいて、後で全員揃った時にお参りしましょう」

 

 一同はその提案に乗る事にし、とりあえず情報交換を続ける事にしたのだが、

さすがに始まりの街は、最大の広さを誇る街だけあり、

SAO組も、かつて街を全て回ったとは言い難かった為、さしたる情報は得られなかったが、

おおよそ知っている範囲を回った結果得られた分の情報から、

以前とほぼ同じ状態だと推測される、という結論で落ち着いた。

 

「まあとりあえずこっちに関しては問題無さそうだな。さて、それじゃあ最後にクライン」

「ん?どうしたハチマン?」

「一発殴らせろ」

「何でだよ!」

 

 そのいきなりのハチマンの言葉に、クラインは即そうツッコミをした。

 

「まあ待て、別にふざけて言っている訳じゃないんだ。昔と同じかどうか、

俺達にはもう一つどうしても確認しておかないといけない事があるだろう?」

「圏内の扱いについてだな」

 

 エギルが重々しい声でそう言い、クラインは、ああ、という風に頷いた。

 

「なるほどな、それは確かに検証が必要だよな。

って、それは分かるけどよぉ、何で俺が殴られる役なんだよ!」

「ん、何となく?」

「何となくかよ!」

 

 そのクラインの抗議を聞いたユキノが、にっこりと笑いながら、こう提案してきた。

 

「それなら、女性陣の誰かが鉄拳制裁をするというのはどうかしら。

いずれあなたもその洗礼を浴びる事になるかもだし」

「えっ?」

「ああ~、静ちゃんならやりそうだね!」

 

 きょとんとしたクラインに、ソレイユが平塚の事を説明すると、クラインは葛藤し始めた。

 

「確かにその洗礼を浴びる事になるかと聞かれると、高確率でそうなるかもしれないが……」

「否定はしないんだね……」

 

 ソレイユが、かわいそうな人を見るような目でクラインを見つめながらそう言った。

クラインは、その視線に気押されながらも、毅然とした態度で言った。

 

「自分でも気付かないうちに、相手を怒らせちまう時ってあるからな。特に俺はな。

そういう時には、やっぱり男として、しっかり罰を受けないといけないだろ?」

「クラインは確かに色々とやらかしそうではあるな」

「だろ?やっぱり男だったら反省の意味もこめて、しっかり相手の拳を受け止めないとな!」

 

 エギルの感想に対し、クラインは何故か得意げにそう言った。

それを見たハチマンは、その機会を逃さす、畳み掛けるようにクラインに言った。

 

「俺もかつて、先生の鉄拳制裁は何度もくらった事があるが、

最初の時は心構えが無かった分、やっぱりきつかったからな。

クラインも、そういう意味で一度経験しておくと、後々多少は楽になるかもしれないよな」

「そうなのか!それじゃあやっぱりここは俺の出番だよな!」

 

 クラインは当初から、徐々に自分が攻撃される事を許容し始めていたが、

ここに至ってそれは、さらに前向きなものとなった。

 

「よしクライン、未来の幸せの為に、男を見せてくれ。いや、魅せてくれ」

「おう!任せろい!男の生き様、魅せてやるぜ!」

 

 ハチマンは、クラインの肩をぽんぽんと叩きながら、女性陣に向き直った。

 

「さて、先生の鉄拳の威力に近いのは誰かな。なあ、ユキノはどう思う?」

「何故それを私に聞くのかしら?」

「まあ、俺が実際に殴られている所を一番多く見ているのはユキノだろうからな」

 

 ユキノは、納得したという風な反応を見せ、少し考え込んだ。

 

「そうね……ゲームの中だと、強さの基準が現実世界とは少し違うから、

中々断定し難いというのが正直なところかしらね」

「まあそうだよな……正確を期す為には、複数のサンプルが必要か?」

「そうね、何通りか試してみればいいかもしれないわね」

「と、いう事なんだがクライン、それでいいか?」

「おう、何発でもどんとこいだぜ!」

 

 調子に乗ったクラインは、精神的に無敵状態だった。

それを見たハチマンは、まず最初にユキノを指名した。

 

「やっぱり最初は、一番近接攻撃力の低そうなユキノからだな」

「私は人をグーで殴った事は無いのだけれど……」

「ユキノちゃん、こういう機会は今後一生無いかもしれないから、

後学の為にも、この際一度やってみてもいいんじゃないかな」

 

 ソレイユがユキノにそう言い、ユキノは溜息をつきながら言った。

 

「分かったわ姉さん、それならまあ、やってみるわ」

 

 ユキノは覚悟を決めたのか、恐る恐るといった感じでクラインの前に出て、

慣れないのは確かなのだろうが、しかし不思議と様になる構えをとった。

クラインはそんなユキノの構えには気付かずに、余裕そうな態度を見せながら言った。

 

「さあ、思いっきりやってくれ!」

「え、ええ……それじゃあいくわ」

「あっ、やっべ……」

 

 ユキノの構えに気付いたハチマンがボソッとそう呟いたのを、アスナは聞き逃さなかった。

 

「ハチマン君、どうしたの?」

「ああ、実はな……」

 

 クラインは知らなかった。ユキノは体力が無いだけで、運動神経は抜群だという事を。

幼い頃から姉の背中を必死で追っていたユキノである。

当然姉に倣い、武道も一通りかじっていた。ハチマンはユキノの立ち姿を見て、

その事を思い出したと、アスナに説明した。

実際ハチマンも、ゲームの中でのユキノの印象が強かった為、

すっかりその事を失念していたのだった。

 

「ユキノってそんなに強いんだ」

「ま、まあ、死にはしないだろ多分……」

 

 ユキノは普段はヒーラーに徹しており、基本的に攻撃も魔法メインで行うのだが、

近接攻撃に必要なステータスも、真面目な彼女らしく、そこそこ高い数値を誇っていた。

そんなユキノが、拳のダメージも気にする必要がないゲームの中で、

思いっきり拳を振りぬくと、果たしてどうなるのか。

ちなみに力ではなく技の部分で、ユキノの拳の威力はきっちりと底上げされていた。

 

「破っ!!!!」

 

 ユキノは気合の篭った掛け声と共に、クラインの腹に攻撃をした。

一同が、その思ったよりもしっかりとした掛け声を聞いて驚く暇も無く、

クラインは、その攻撃によって、ぐほっという悲鳴を上げ、

体をくの字に曲げた状態のまま、後方へとぶっ飛ばされ、

少し遅れて、攻撃不可とのメッセージがその場に表示された。

 

「………」

「………」

「………」

 

 エギル、リズベット、シリカの三人は、ユキノの攻撃の威力を見て、

目を点にしたまま絶句していた。直前に話を聞いていたアスナも、その威力に驚いたようだ。

ハチマンとソレイユは、ゲーム内でも決してユキノを怒らせないようにしようと、

目と目で合図を交わしていた。ちなみにユキノは、攻撃の直後からずっとおろおろしていた。

しばらくその場を沈黙が支配していたが、やがてハチマンが、咳払いをしながら言った。

 

「ど、どうやら街の仕様は昔と同じみたいだな。おいクライン、生きてるか?」

 

 その声で我に返ったのか、一同は慌てて倒れたままのクラインに駆け寄ったが、

予想に反してクラインは、自力で立ち上がり、拳を振り上げながらこう言った。

 

「静さんの拳に、何とか耐えきってみせたぜ……」

 

 一同は、そんなクラインに、心からの惜しみない拍手を送った。

そして誰も、次は誰が攻撃するかとは言い出さなかった。

その直後にハチマンの元に、キリトからのメッセージが入った。

それを見たハチマンは、呆然としながら皆に言った。

 

「キリトの奴、フィールドボスを倒しやがったみたいだ」


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