ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/14 句読点や細かい部分を修正


第185話 家族の絆、プレイヤーの絆

「お帰り、ユイ。久しぶりだな、キズメル」

「パパ!」

「姿は違うが、その気配はハチマンか。また会えて嬉しく思う」

 

 ユイは嬉しそうにハチマンに抱き付いた。一方キズメルは、ハチマンの下に駆け寄り、

そのまま抱き付くかと思われたのだが、チラッとアスナの方を見て、その手を止めた。

それを見たハチマンとアスナは、ん?と思い、顔を見合わせた。

キズメルは何かを葛藤しているように見え、アスナはこっそりとハチマンに耳打ちした。

 

「キズメルって、前はもっと開けっぴろげな感じじゃなかった?」

「そうだな、恥じらいとかは、特に何も感じてなかったように見えたのは確かだな」

「でもあれ、抱き付きたいのを我慢しているように見えない?」

「確かにそんな感じだよな」

 

 ハチマンは、アスナのその意見に同意した。

そしてアスナは少し心配そうにハチマンに言った。

 

「まさか……バグ?もしくは何か制限がかかってる?」

「そんな事は無いと思うが……ハラスメント関係の問題か?」

「どうなんだろうね……ちょっと聞いてみようか」

「だな」

 

 アスナは、極力何でもない風を装って、キズメルに話し掛けた。

 

「ねぇキズメル、どうしたの?何を躊躇っているの?」

「自分でもこの気持ちが良く分からないのだが、アスナとハチマンは、つがいなのだろう?」

「え?う、うん」

 

 アスナは、そのいきなりの質問に面食らったが、

キズメルにとっては大事な質問なのだろうと思い、素直に答える事にした。

 

「人の世では、番になった男女が別の異性に接触する事は、不愉快な行為なのだろう?

私は何度か、色々な人間を観察して、そう推測していた。

なので今私がハチマンに抱き付きたいと感じている事は、

アスナにとっては不愉快な行為なのではないかと思ってな」

「え?ハチマン君、これって……」

「ああ、間違いない。AIが進化している」

 

 二人は驚きと共に、そう結論付けた。ハチマンは、

何故キズメルにだけこんな高性能のAIが搭載されているのか疑問に思ったが、

その答えはいくら考えても浮かばかなった。

 

(晶彦さん、貴方はAIを、どんな方向に導きたかったんですか?

そういう話も、もっともっとしてみたかった……)

 

 茅場晶彦が目指したAIが、どんな物だったかは結局分からず仕舞だったが、

このキズメルに搭載されたAIは、いずれとある事件を経て、

とある少女の中で結実する事となる。

そんな考えを巡らすハチマンをよそに、アスナはキズメルに声を掛けた。

 

「えっとね、キズメル」

「ああ」

「私達は確かに番だけど、こうしてユイちゃんはハチマン君に抱き付いているでしょう?

それは家族だからなんだよ。そしてキズメルも私達の家族なんだから、

同じようにしても、何も問題は無いんだよ」

 

 キズメルはその言葉を聞いて、言われてみればと思い、ユイの方を見た。

ユイはキズメルに、こくこくと頷いた。

 

「なるほど、家族か……そうか、私達は家族になれたのだな」

「うん!あ、でも、キズメルの家族は私達だけなんだから、

他の人にそういう事をしちゃだめだからね?」

「ああ、分かった」

 

 アスナに頷いたキズメルは、おずおずとハチマンの下に向かい、その背中に両手を回した。

ハチマンはキズメルに正面から抱きしめられる形となり、

まごまごしながらアスナの方を見た。アスナはにっこりと笑いながら、

ハチマンとキズメルの両方の背中に両手を回し、二人を同時に抱き締めた。

ハチマンもそれを見て、二人の背中に両手を回した。

 

「家族の再会だよ」

「そうだな」

「パパ!ママ!キズメルお姉ちゃん!」

「お姉ちゃんか……うん、家族というのは、とてもいいな」

 

 この中ではキズメルが一番年上に見えるのだが、この時ばかりはキズメルも、

まるで二人の娘のように見えた。血の繋がりどころか、

四人のうち二人はバーチャルな存在だったが、そこには確かに家族の絆が存在した。

 

 

 

 一方その頃、残りのメンバー達は、のんびりと二十二層に到達し、

今まさに、門のアクティベートを終えた所だった。

 

「よし、アクティベート、完了だ」

「それじゃあ皆、こっちだよ。分かりにくいから案内するね」

 

 キリトが門のアクティベートを終え、リズベットが先導すべく、そう声を掛けた。

その瞬間、誰かが転移してくる気配がした。

そして次の瞬間、門から、一人のシルフの少女が飛び出してきた。

 

「よっと!噂を聞いて門の前で待機してたけど、

まさかこんなに早く二十二層が解放されるなんてね。

おかげで誰もいなかったし、私大勝利!ってね」

 

 その少女を見て、最初に声を掛けたのはサクヤだった。

 

「なんだ、フカ次郎じゃないか。たった今門をアクティベートしたばかりなのに、目聡いな」

「サクヤさん!どもどもっす!さすがですねぇ!」

 

 その、フカ次郎と言う変わった名前の少女は、元気よくサクヤに挨拶した。

そんなフカ次郎に次に声を掛けたのは、顔見知りなのだろう、リーファとレコンだった。

 

「フカちゃん、久しぶり!」

「フカさん、こんにちは」

「リーファ、レコン!ずるいよ!何でいきなりこんな……」

 

 そう言うと、フカ次郎はぐるりと周りを見回しながら、言葉を続けた。

 

「すごい人達の仲間になってるの?」

「え、え~っと……」

「あ、あは……」

 

 どう説明したものかと困るリーファとレコンを無視して、フカ次郎は更に続けた。

 

「『ヴァルハラ・リゾート』だっけ?出来たばっかりなのに、既に最強って噂になってるよ?

あのバーサクヒーラーに、絶……ユキノがいて、今はいないみたいだけど、リーダーの人と、

そう、この人!キリト君だっけ?ユージーン将軍より強いんでしょ?

そこに更に、絶……ソレイユさんが加わるなんて、一体どんなチートギルドなのよ!」

 

 フカ次郎はキリトを指差しながら、そう一気にまくしたてたが、

さすがにユキノの前で、その二つ名を呼ぶ事を避ける程度の冷静さはあったらしい。

キリトはその勢いにたじたじとなりながらも、リーファに尋ねた。

 

「なぁリーファ、この人は?」

「あ、フカ次郎ちゃんは、シルフ四天王の一人で私の友達だよ」

「フカ次郎でっす!宜しくお願いします!」

「よ、宜しく……」

 

 その後も挨拶をして回るフカ次郎を横目で見ながら、キリトはユージーンに尋ねた。

 

「なぁ、あいつの事、知ってるのか?」

「ああ、あいつは中々強いぞ。まあ俺には及ばないがな」

「へぇ~」

 

 一通り挨拶を終えたフカ次郎は、そのままリーファ達と会話を続けていたが、

ハチマン達を待たせている事もあり、とりあえずキリトは、移動の指示を出す事にした。

 

「それじゃあそろそろ、新拠点に向かうとしよう」

「新拠点!?」

 

 当然フカ次郎は、その言葉に食いついた。このままだとついてきそうな勢いだったので、

困ったキリトは、ユキノに相談する事にした。

 

「えっと……どうしよう?」

「そうね……いずれ知れ渡る事だから、別にほっとけばいいとは思うけど、

幸い今ここには、まだ他のプレイヤーの影は無いのだから、ハチマン君に断った上で、

拠点に連れていって、その代わりという条件で口止めをすればいいのではないかしらね」

「なるほど、それじゃそうするか」

 

 そして直ぐに通信でハチマンの許可を得て、

フカ次郎は運よくゲスト扱いを受けられる事となった。

フカ次郎は興味津々でリーファの隣を歩いていたが、興味津々なのは他の者も同じだった。

旧SAO組でさえ、秘密基地がどう変化しているか気になっていた。

そしてリズベットの案内で、一同はついに町外れの塔の前に到着した。

 

「えっと……本当にここ?何も無いように見えるよ?」

「入り口の無い塔みたいなオブジェくらいにしか、あーしにも思えないけど」

 

 ユイユイは周囲を見回しながらそう言い、ユミーもそれに同調した。

他の者も、戸惑うようにキリトを見ていた。キリトは気にせず、塔の前に向かった。

 

「なぁ、確か、この辺りだよな?」

「ああ、間違いないぜ!懐かしいなぁ」

「ちょっとクライン、余計な事言わないの!」

「あっと……」

 

 うっかりと、懐かしい、という言葉を発してしまい、

しまった、という顔でフカ次郎の顔を見たクラインの様子を見て、

フカ次郎は、何でもないかのように言った。

 

「あ~、もうこの中の何人かが、SAO出身の人だって噂は聞いてるんで、

そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな、少なくとも私には」

「そ、そうなのか?」

「クライン、ハチマンはそれも織り込み済みだから、気にするなって。

むしろ、気付かれない事の方がありえないって言ってたぞ」

「まじかよキリト」

「うん、まあそんな感じ?」

 

 フカ次郎が、そのキリトの意見に同意した。

 

「今一番ホットな話題は、この中に何人か、SAOで四天王って呼ばれてた人がいるって、

そんな眉唾な噂なんだよね~……で、それって本当なの?」

 

 フカ次郎のその物怖じしない質問に、キリトは苦笑しながらリーファとサクヤの方を見た。

 

「フカ次郎、約束通り、ここで見たり聞いたりした事は、絶対に秘密だぞ」

「サクヤさん、もちろん!私は仲間を売ったりはしないよ!」

「まあそこらへんは信用してるよ、長い付き合いだしね」

「リーファ、ありがとう!」

 

 二人が問題無いという風に頷いた為、キリトはフカ次郎に言った。

 

「それは多分、元SAOのプレイヤーが流した噂だろうな。

SAOの時と名前も一緒だし、噂になるのもまあ当然だな」

「えっと……それじゃあ?」

「このギルドには、いわゆる四天王のうち、三人が所属している。一人は俺だ」

 

 三人、と聞いた時のフカ次郎の顔は見ものだった。

フカ次郎は、ポカンとした顔で固まっていたが、しばらくして我に返った。

 

「噂は本当だったんだ……しかも三人もいるんだ……

そりゃ最強に決まってるわ……えっと、残りの一人は?」

「今はもう、どこにもいない」

「あ……ごめんなさい」

「いや、いいんだ」

 

 フカ次郎は、そのキリトの言葉の意味を理解し、思わず素に戻って謝罪したが、

キリトは何でもないという風に頷いた。

 

「……で、その三人の、残りの二人は」

「俺と」

「私だよ」

「ハチマン、アスナ!」

 

 どこからか突然声が聞こえ、一同はきょろきょろと辺りを見回した。

いつの間にか、塔の根元に入り口が開いており、そこに、ハチマンとアスナがいた。

 

「遅かったな、黒の剣士」

 

 ハチマンが、ニヤニヤしながらキリトにそう言った。

何か言い返そうとしたキリトの機先を制して二人に問いかけたのは、フカ次郎だった。

 

「タンクには見えないし、神聖剣じゃない。も、もしかして、銀影に、閃光?

そしてキリト君が黒の剣士!本当だったんだ……すごい」

「……あんたがフカ次郎か、どこでその名前を?」

 

 ハチマンは虚を突かれたが、表面上は冷静に問いかけた。

 

「ネットの噂!都市伝説ってやつ!」

「なるほどな……やはり人の口に戸は立てられないって事だな」

「でもでも、キャラネームまではどこにも書かれて無かったの。

本当かどうかは分からないけど、ゲームの中から助けてくれた英雄で、命の恩人だから、

名前は絶対に出さないんだって。いい話だよね!」

「そうか……」

 

 ハチマンはそれを聞き、涙腺が緩むのを感じたが、上を見上げ、必死に我慢した。

アスナはそんなハチマンにそっと寄り添い、他のSAO組の者達も嬉しそうにしていた。

そしてハチマンは気を取り直し、その場にいる者達に言った。

 

「メンバーの皆、そしてゲストの五人も、よく来てくれた。

ここが俺達の新しい拠点にして、終の棲家『ヴァルハラ・ガーデン』だ」


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