「ねぇヒッキー、ゆきのん、なんかね、
知り合いの伝手で集めた同窓会っぽいのをやるみたいなんだけど、来る?」
久しぶりに三人で集まった席で、唐突に結衣がそう言い出した。
「ぽいって、学年全体から適当に集めるのか?俺は行かないぞ」
「私も行かないわよ」
「即答!?」
当然八幡と雪乃がそんなイベントに興味がある訳もなく、二人はそう即答した。
「ええ~?たまにはいいじゃ~ん。ヒッキーはさ、
もう隼人君や戸部っちとも仲良くなったんでしょ?あ、彩ちゃんも来るってよ!」
「やっぱり行く」
「やった!」
八幡は、明日奈を救い出した時の、あの病院での葉山や戸部との交流を思い出し、
久しぶりに話もしたいなと思い、行く事に決めた。
もっとも実際は、戸塚の参加が行く理由の九十九%を占めていた事は間違いない。
「ゆきのん、駄目?」
結衣のその、上目遣いでのお願いを受け、雪乃もしぶしぶと参加を承諾した。
「はぁ……仕方ないわね、少しだけよ」
「やった、それじゃあ明日ね!優美子も来るから、
もし迷惑じゃ無かったら、ヒッキーの車で行かない?」
「明日だと!?それを最初に言えよ……」
「それはまた、唐突な話ね……」
「ごめんね、あたしも聞いたのが今朝だったんだぁ。
で、今日中に人数が分からないと予約がとれないって話でさぁ……
えっと、もしかして、用事とかあったりした?」
結衣はかなり恐縮した様子で二人に問いかけた。
「私は別に問題ないわ。八幡君は?」
「俺は……」
実は前日、GGOで、こんな会話があった。
「あ、いたいた、シャナ、シズ~」
「ピトか、偶然だな」
「ピト、どうしたの?」
「えっと、実はね、今日は仕事の最終日でね、さっき東京に帰ってきたんだけど、
おみやげを買ってきたからさ、もし良かったら、明日時間があるならそこで渡すから、
是非二人に食べて欲しいなって思って」
二人はそのピトフーイの心遣いに喜び、有難く受け取る事にしたのだが、
生憎その日は、明日奈は両親と久々に食事に行く予定があった為、
八幡が一人で受け取りにいく事になったのだった。
(まあ、おみやげを受け取って少し話すだけなら、時間的にも問題は無いか)
そう考えた八幡は結衣に、俺も問題ないと答えた。
「良かったぁ、それじゃ、明日の待ち合わせ場所が決まったら連絡するね!」
「おう」
「ええ、分かったわ」
こうして八幡は、同窓会っぽい集まりに参加する事となったのであった。
そして次の日八幡は、ピトフーイに指定された場所に行き、おみやげを受け取っていた。
「わざわざすまないな」
「ううん、気にしないで。シャナはこれから時間はあるの?」
「いや、実はな……」
八幡は、急遽同窓会っぽい集まりに参加する事になった事をピトフーイに告げた。
「そうなんだ~、いいなぁ、私も行きたいなぁ」
「お前は別に同窓生じゃないだろ」
「そうだけどね~」
「まあ今回の集まりは、適当に横の繋がりで声を掛けた集まりみたいだから、
そんな厳密に、同窓生ばかりじゃない可能性もあるけどな」
「ふ~ん」
八幡は、そういう理由で急いで行かなくてはならないとピトフーイに謝り、
ピトフーイはそれを見送った。
その際に、ピトフーイがこう呟いた事には八幡は気付かなかった。
「今シャナは、来ちゃ駄目って命令してこなかったな。これって前フリかなぁ?」
そして三人との待ち合わせ場所に着いた八幡は、困り果てていた。
前日に明日奈に、助手席に誰かを乗せる許可は得たのだが、
その助手席に誰が乗るかで、三人が火花を散らしていたからだった。
「ここはやはり、副団長の私が乗るべきじゃないかしら」
「いやいや、ここはやっぱり誘ったあたしが!」
「二人は八幡との付き合いが長いんだから、今日はあーしに譲ってくれてもいいんじゃ?」
「……お前ら、別にそんな事はどうでも良くないか?」
「「「良くない!!!」」」
「お、おう、すまん……」
困り果てた八幡は明日奈に連絡し、意見を聞く事にした。
明日奈の答えは、とてもシンプルかつ公平なものだった。
それをそのまま採用し、八幡は三人にこう宣言した。
「よしお前ら、明日奈の審判が下った。ジャンケンで決めろ」
「ジャンケン……」
「まあ、それが一番公平よね」
「あーし、ここぞという時はジャンケンで負けた事が無いんだよね」
「あら、それは私に対する挑戦かしら」
「ここはあたしも引かないよ!最初はぐー!ジャ~ンケ~ン!」
「「「ポン!」」」
そのジャンケンの結果、勝者が誰になったかと言うと……
「ふふん、さすがあーし、勝負強い!」
「くっ……この私とした事が……」
「優美子がこんなにジャンケンが強いなんて……」
「よしお前ら、決まったのならさっさと行くぞ」
「「「は~い」」」
そのピッタリ合った返事を聞き、八幡は、呆れたように言った。
「お前ら本当に、仲良しだよな……」
そして車が発車し、優美子はとても嬉しそうに八幡に話し掛けた。
「こんな機会はもう二度と訪れないかもしれないから、勝てて良かったわ」
「まあ、確かにそうかもしれないけどね」
「でもあんたが同窓会に来るなんて、なんか珍しいよね。こういうの嫌いだよね?」
「まあ、話したいと思える奴もいなかったしな」
八幡はその問いに頷くと、続けて今日参加する事に決めた理由をシンプルに言った。
「まあ今日は、戸塚が来るからな」
それを聞いた優美子は、昔の事を思い出し、納得した。
「あ~……すごい納得したわ。あんた昔から、戸塚の事大好きだもんね」
「まあ正直、今は昔ほど盲目的に戸塚戸塚って言ってる訳じゃないがな。
戸塚同様に、今じゃ葉山も戸部も大事な友達だ」
「あんた……本当に変わったよね」
優美子は感心したように八幡に言った。
「まあ、あーしも変わったけどね。まさかあーしが、こうしてあんたの隣に座ってるなんて、
高校の時は思いもしなかったし」
「確かにあの頃のお前は、俺の事大嫌いだっただろうしな」
「最初は確かにね。でも途中からは、嫌いなりにちゃんとあんたの事は認めてたけどね」
「そうか……まあ、お互い変わったって事だな」
「いい方にね」
「本当にいいのかどうかは分からないけどな」
「いいんだって。少なくともあーしは今の方がいい」
そんな二人の弾む会話とは対照的に、雪乃と結衣はひそひそと会話をしていた。
「ゆきのん、なんかあの二人、いい感じなんですけど……」
「仕方ないわ、私達は負け犬なのよ。
ここは大人しく二人の会話を邪魔しないようにしましょう」
そんなひそひそ声で会話をする二人の声が聞こえたのか、呆れたように八幡が言った。
「お前ら、馬鹿な事を言ってないで会話に加われよ。大体雪乃は昔から極端なんだよ」
「え?いいの?優美子は?」
「別に席順以外で勝負はしてないっしょ」
「やった!ゆきのん、会話に参加してもいいって!」
それを聞いた雪乃は、コホン、と一つ咳払いをすると、優美子に言った。
「そう、敵に塩を送ろうなんてね。まあここは有難く受ける事にするわ」
「あんたのそういうとこ、すごく面倒臭い……」
「ははっ」
突然八幡が笑い出し、釣られて他の三人も笑い始めた。
「本当に高校の時は、こんな日が来るなんて思いもしなかったよ」
「そうね、まあ私達はともかく、あの優美子がね」
「うん、多分これが、今日の一番のサプライズになるんじゃないかな?」
「あ~……まあ、確かにそうかも」
こうして三人は、会場に着くまで、昔の思い出話に花を咲かせたのだった。
そして会場に着くと、そこでは葉山と戸部が待ち構えていた。
「ヒキタニ君!」
「比企谷、久しぶり」
「おお、二人とも元気そうだな。あ~……明日奈の時は、その……本当にありがとな」
「いいっていいって、あれは俺らにとっても輝ける青春の一ページっしょ!」
「はは、まあそれには同意だな。あの時の事は本当にいい思い出だよ」
この三人の会話を聞き、優美子は首を傾げながら会話に加わった。
「何?どういう事?」
「優美子、久しぶり」
「うん、隼人も元気そうだね」
「あれ、優美子には言ってなかったっけ?俺と隼人君とヒキタニ君の華麗な活躍の事!」
「それは知らないかも。っていうか、あんた達三人が仲良くなった理由も、
今思えば詳しく聞いてなかった気がする」
「そういえばあたしも知らないかも?」
「私も詳しくは聞いてないわね」
雪乃と結衣もその話は初耳だったようで、興味深そうに会話に参加してきた。
「それな!ヒキタニ君、俺が説明してもいい?」
八幡が頷いた為、戸部が代表して、三人に当時の事を説明した。
「……ってな訳で、最後に俺達は三人で、勝ちどきを上げたっしょ!」
「そんな事があったんだ……それで今、こんなに三人は仲がいいんだね」
「すごいすご~い!」
「そう、あの須郷をね……ここは素直に賞賛しておくわ」
「それよりも俺は、あの優美子が、
今はヒキタニ君にベッタリな事が信じられないんですけど」
突然戸部が優美子にそう言った。
優美子は口をパクパクさせると、頬を赤らめながら、ただ下を向いていた。
その優美子らしくない仕草は葉山と戸部を驚かせたが、
八幡は平然と優美子に近寄り、そのまま優しい言葉を掛けた。
「強気な方がお前には似合ってるぞ。今日はせっかくの同窓会なんだ。
昔みたいに格好いいお前の姿を皆に見せてやろうぜ」
「う、うん、そうだね、ありがと」
優美子はその八幡の言葉にぱっと顔を上げ、嬉しそうにそうお礼を言った。
それを見た葉山と戸部は、更なる衝撃を受けた。
「うっわ、ヒキタニ君、マジリスペクトだわ!」
「すごいな比企谷、まさかあの優美子がこうなるとはね……」
「べ、別にいいでしょ!あーしだって、昔とは違うし!」
「まあまあ、それじゃそろそろ会場に入ろうぜ」
「その前に、海老名さんは今日はいないのか?」
八幡は、着いた時から気になっていた事を戸部に尋ねた。
戸部は気まずそうな顔でそれに答えた。
「いや~、姫菜の奴、今日はすごく大事なイベントがあるらしくってさ、
何かの即売会とか何とか……」
「オーケー、もう言わなくていい。それで分かった、それなら仕方ない」
戸部はその八幡の言葉を受け、ニカっと微笑むと、気を取り直して奥へと案内し始めた。
「こっちこっち、今日は貸切りっしょ!」
そして戸部の案内で皆、会場へと移動を始めた。
会場は熱気でざわついていたが、一行が中に入ると、その喧騒がピタリと止まった。
嵐の前の静けさ