ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第208話 変わる者、変わらない者

「え、何この静寂、どういう事?」

「戸部、当たり前っしょ。あーし達が卒業した時、八幡はまだSAOの中。

つまりここにいる皆は、戻ってきた八幡を初めて見た訳」

「あ~そういう事か、まあ特に気にしなくてもいいっしょ!さ、とりあえず座るべ」

 

 一行は空いているテーブルに陣取り、周囲を気にする事なく、

和気藹々と会話を始めた。それに釣られ、周りの者達も元の喧騒を取り戻し、

一行はそこでやっと一息つく事が出来た。ところがここで、また一悶着あった。

八幡の左右の席は当然二つ。そしてその座を狙う者が、三人いるのである。

その三人が再びバトルを始め、ヒートアップした末に、

周囲の呆気にとられたような視線も何のそのの、激しいジャンケン勝負が繰り広げられた。

そしてその結果はどうなったかというと……

 

「うっしゃあ!あーし最強!」

「まあ、妥当な結果ね」

「う~、納得いかないし……」

 

 勝者となったのは、優美子、雪乃の二人であった。

優美子は両手を天に掲げ、雄たけびを上げ、

雪乃は勝った瞬間に珍しくガッツポ-ズを見せ、周囲を仰天させた。

結衣は負けはしたものの、気を利かせた戸部が八幡の正面の席を譲ってくれた為、

それで一応納得したようだ。ちなみに八幡も、帰りは助手席に乗っていいからとフォローし、

こうしてとりあえずの席順が決まった。

 

「しかしすごい光景だな……」

「ヒキタニ君、両手と正面に花っしょ!」

 

 そこに登場したのが、遅れてきた戸塚であった。

戸塚はきょきょろと辺りを見回し、八幡の姿を見付けると、嬉しそうに手を振った。

 

「八幡、久しぶり!」

「と、戸塚、久しぶりだな!」

 

 戸塚は昔よりも大人びた雰囲気を漂わせながらも、

昔と同じようにとてとてっと八幡に駆け寄り、その手を握った。

八幡はとても嬉しそうだったが、昔ほど妄想を暴走させる事もなく、

大切な友人の一人として、戸塚を自分と対等な存在として扱っていた。

それが嬉しかったのか、戸塚は笑顔で八幡に言った。

 

「八幡、なんか大人っぽくなったね」

「お?そうか?」

「うん、すごくいい感じ」

 

 戸塚に褒められた事が一番嬉しいのか、八幡は照れた様子で言った。

 

「そうか、ありがとな、戸塚」

「僕は正直に思った事を言っただけだよ。それに何か格好良くなったね。

そうだ、あとは昔よりも社交的になった気がする」

「あーしの教育の賜物だし」

「私の教育の賜物ね」

「お前らは、何もしてないだろ……」

 

 同時にそう言った二人に、八幡は即座に反論した。

結衣は位置的に出遅れた為、ぐぬぬと唸っていた。

それを見た戸塚は、改めて八幡の周囲を見回した。

そしてそこにいる顔ぶれを見て、わずかに目を見開いた。

 

「あれ、このメンバーって、いつの間に仲良くなったの?」

「よくぞ聞いてくれました!そこはこの俺、戸部が説明するっしょ!」

 

 戸塚はその説明を聞き、感動したのか、少し目を潤ませながら八幡の手をとった。

 

「頑張ったね、八幡!」

「……ああ」

 

 その八幡の返事には万感の思いが詰まっており、

八幡は、自分の頑張りを戸塚に褒めてもらえた事がとても嬉しかった。

 

「あれ、でも、葉山君と戸部君と、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんについてはまあ分かるけど、

三浦さんが、八幡の隣なんだ?」

「そもそも八幡が目覚めた時、あーしはその場にいたかんね」

「そうなの?って、八幡の事を呼び捨てにしてるんだ!?」

 

 驚いた戸塚を見て、優美子は調子に乗ったのか、

八幡の腕に自分の腕をからませると、更なる爆弾を落とした。

 

「そして今のあーしは八幡の愛人だし」

「ええええええええ」

「おい優美子、冗談にもほどがあるだろ。周囲にも色々と勘違いされるからやめろ」

「八幡も優美子呼ばわり!?」

「あ、いや、それはその……」

 

 八幡は、自ら火に油を注いでしまった気がしていたが、

さりとて今更呼び方を変える訳にもいかず、おろおろした。

そんな八幡をフォローするつもりだろうか、雪乃と結衣が立ち上がった。

 

「戸塚君、優美子の言う事を信じてはだめよ」

「そうだよ彩ちゃん、真に受けちゃ駄目だし!」

「あ、うん、もちろん冗談だよね。

それにしても、雪ノ下さんも、三浦さんを名前で呼んでるんだね」

「呼び方については、私達も今は親友と言える関係なのだから、まあそれも当然かしらね」

「そうなんだ、何かすごくいいね!」

 

 雪乃は優美子を見てにっこりと微笑むと、続けて言った。

 

「そしてさっきの話だけど、八幡君の本当の愛人は、優美子じゃなくこの私よ」

「ええええええええ」

「違う違う彩ちゃん、ヒッキーの愛人はあたしだよ!」

「ええええええええ」

「戸塚、驚きすぎだ……当然全部嘘だからな」

 

 八幡は呆れたようにそう言うと、じろっと三人を睨んだ。

三人は、さすがに悪ノリが過ぎたと思ったのか、大人しく元の場所へと座り、

戸塚はポカンと口を開いたかと思うと、おもむろに笑い出した。

 

「あははははは、すごいね八幡、本当に大人になったんだね」

「おい戸塚、その言い方は色々と誤解を生じるからやめような」

「あは、ごめんごめん、でもそっか、今の八幡は沢山の人に囲まれてるんだね」

「おう、皆俺の大切な……その、友達だ」

 

 それを聞いた五人は、思い思いの反応を見せた。

葉山はニカッと笑い、戸部は親指を立て、結衣はえへへとはにかみ、

雪乃は静かに微笑み、優美子は顔を赤くしながら下を向いた。

戸塚はそれを見て、八幡が幸せそうなのをとても嬉しく思ったのだった。

そんな和気藹々の雰囲気の中、どこからか声が聞こえた。

その声は、たまたま店内が一瞬静まった時に発せられた為、店中によく響いた。

 

「学校一の嫌われ者が、ちょっとゲームをしてたってだけで被害者ぶって、

いいご身分だよね、何様のつもりなのかな?」

「周りもちやほやしちゃって馬っ鹿みたい。うちの学校の元トップも落ちたもんだね~」

 

 その声のせいで、店内はシンと静まった。

 

「ああん?ねぇ二人とも、今何か聞こえなかった?」

「そうね、随分と聞き捨てならない台詞が聞こえた気がしたわね」

「うん、あたしにも確かに聞こえた」

「お、おい三人とも、俺なら別に気にしないから」

 

 ここに来ると決めた時から、そういう声もあるだろうという事は予想していたので、

八幡は慌てて三人を制止しようとした。だが、八幡を侮辱された三人が止まるはずもなく、

三人はそのまま声を発した二人の前に立った。

 

「あら、あなた達は確か、ゆっことか遥とか呼ばれてた人達だったかしらね」

 

 雪乃は過去の記憶を探り、その二人の名前を呼んだ。

 

「他にも取り巻きが何人かいるみたいだけど、あーし達に何か文句でも?」

 

 それを聞いたゆっこと遥と数人の女子のグループは、好戦的な態度で立ち上がった。

 

「私達はもう高校生じゃない、あんた達が何をどうしようがもう怖くなんかないよ」

「そうそう、私達は、思った事をそのまま素直に言っただけ」

 

 どうやら二人は引く気は無いらしく、取り巻きの者達も、そうだそうだと囃し立てた。

 

「八幡の苦労も知らないで、よくあーだこーだ言えるもんだね、あんた達」

 

 優美子が、怒気を強めながらそう言った。

 

「苦労?何を苦労したって言うの?ただ二年間遊んでただけでしょう?

それで国とかから沢山お金をもらって、今は学生やってるんでしょ?いいご身分じゃない」

「そうだよ、運良くゲームをクリアしてくれた、一部の人に助けられただけじゃない」

「はぁ?」

「え?」

「あなた達は一体何を言っているのかしら?」

 

 三人はそれを聞いてぽかんとした。そしてどうやらこの二人は、事情を何も知らないで、

憶測だけで文句を言っているらしいと理解した。そこに八幡から声が掛かった。

 

「三人とも、もういいからこっちに戻ってこいって」

 

 それを聞いた三人は、その女子の集団を睨みながらも、

素直に八幡の言う事を聞き、自分の席へと大人しく戻っていった。

だが、三人とも、決して納得はいっていないという顔をしていた。

 

「ふ~ん、逃げるんだ?」

「私達に反論出来ないからって、黙って引き下がるの?」

 

 二人は、相手にされていないように感じ、怒りを爆発させたのか、

つかつかとこちらに歩み寄り、八幡の前に立った。

 

「ちょっと、あんたも黙ってないで何か言ってみなさいよ」

「そうよそうよ、女を矢面に立たせて恥ずかしくないの?」

「そう言われてもな……だってお前ら、ワイドショーレベルの話しか知らないだろ?

まあ、情報統制されてるから、当たり前なんだけどな」

「あんただって、結局何も知らないくせに!」

「どうせゲーム中も昔みたいに、何もしないで文句ばっかり言ってたんでしょ?」

 

 それを聞き、再び立ち上がりかけた女性陣を抑え、次に前に出たのは葉山と戸部だった。

二人は、決して脅しにならいように、少し抑えた調子で諭すように言った。

 

「お前ら、何か勘違いしてんべ?」

「比企谷は、SAOをクリアした、言わば英雄だぞ?」

「おいお前ら、その事は……」

 

 八幡は、面倒臭いのが嫌だったのか、それ以上は言うなという風に、二人に言った。

だが二人は、自分達の思い出を汚されたと思ったのか、八幡に首を振った。

 

「は?英雄?何それ、誰かそれを証明出来るの?本人がそう言ってるだけじゃないの?」

「馬っ鹿じゃないの?こんな奴が英雄なら、私達だって皆英雄よ」

「あ、あの……」

 

 突然そこに、横から誰かが声を掛けた。皆の視線がそちらに集まる。

そこに立っていたのは、つい先ほど揉め始めた頃に到着したばかりで、

後ろで黙って話を聞いていたらしい相模南だった。




また斜め上の話を書いてしまいました。
このエピソードは、前話を含め、五~六話くらいの長さになりそうです。

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