ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第209話 相模南が告げた名は

「なんだ、南じゃない」

「いたんだ」

「ひ、久しぶり……」

 

 二人は南に対し、冷たい口調でそう言った。南が挨拶を返しても完全に無視である。

どうやらもう、この二人と南との縁は、完全に切れているようだった。

南は少し震えながらも、決して下がる事はせず、八幡の下へと歩み寄った。

それを見た周囲の者は、もしかしたら南も八幡に突っかかるのか、

それとも何か別の用事があるのか判断出来ず、場は奇妙な静寂に包まれていた。

そんな中八幡は、少し警戒しつつも懐かしく思ったのか、普通に南に挨拶した。

 

「お、相模か、久しぶりだな」

「う、うん、久しぶり」

 

 特に突っかかってくる様子もなく、普通に接してくる南の姿を見て、

八幡は疑問を覚えたが、そんな八幡に、隣に座っていた優美子がそっと耳打ちした。

 

「八幡、南は確か、八幡がいなくなった時、その話を聞いて教室で泣いてたよ」

「え?そうなの?まじで?」

 

 八幡はあまりの驚きに、つい昔のような口調でそう言った。

 

「ちなみにあの後、南はクラスで孤立ぎみだったよ。まあ、あーしはそういうの嫌いだから、

たまにうちらのグループに混ぜたりしてあげてたんだけどね」

「なるほど」

「でも決してグループになじむ事は無かったんだよね。

まあそれは、何か家族が入院してるとかで、よく病院に行ってたからなんだけどね」

「そうなのか」

 

 八幡は優美子から事情を聞き、改めて南の顔をじっと見つめた。

南は何か言いたそうに、八幡の目を見つめていた。

 

「どうした?俺に何か用事か?昔の文句なら……」

「違うの。ちょっとあんたに聞きたい事があるの」

 

 南は八幡の言葉を遮ってそう言った。

その態度から、どうやら何か真面目な話があるらしいと思った八幡は、

居住まいをただし、南の話を聞く体勢になった。だが、それを快く思わない者もいた。

 

「ちょっと南、今こいつとは、私達が話してるんだけど」

「そうだよ、邪魔しないでくれる?」

「その話に関係がある事だから」

 

 その南の言葉に意表を突かれたのか、ゆっこと遥は沈黙した。

 

「で、質問、いい?」

「ああ、俺に答えられる事ならな」

「あのね、うちのお父さん、いい年してゲームとかが大好きなの」

「……は?」

 

 八幡は、その南の唐突な言葉に、こいつはいきなり何を言い出すのか、

一体何がしたいのかと疑問を抱いた。

 

「ごめん、いきなりすぎるよね。でもお願いだから、うちの話を聞いて欲しいの。

あんたにしか聞けない事だから……」

「……そうか、分かった。話してみてくれ」

 

 八幡はその南の言葉を聞き、大人しく話を聞く事にした。

 

「ありがと。でね、えっと、高校の時うちの父親がね、その……SAOをプレイして……」

「おい、それってまさか」

「うん、そのまさか」

「まじかよ……」

 

 八幡はその言葉の意味を理解し、愕然とした。

周りの者達も、初めて聞くその話に驚いたようだ。

 

「で、あんたの話を聞いて、つい父親の事を考えちゃって、教室で泣いたりもしたんだけど」

「あ~、あんたがあの時泣いたのって、そのせいだったんだ」

「あ、うん」

 

 優美子が横から口を出し、南はそう答えた。

 

(相模が俺の為に泣いたなんて、おかしいと思ったよ)

 

 八幡はそう思い、先ほど優美子から聞いた話の真実に、とても納得した。

 

「でね、うちのお父さんも、あんたと同じ時期に無事に帰ってきてくれたんだけどね」

「そうか、それは良かったな」

「うん、ありがとう。でね、本題はここからなんだけどさ……

ハチマン、ってプレイヤーは、その、あんた……だったりするの?」

「……それを聞いて、お前はどうしたいんだ?」

 

 八幡は、その南の言葉に少し警戒した。

南はその八幡の反応を見て、首を振った後におずおずと言った。

 

「あ、あのね、うちのお父さんが、その人に助けてもらったって、

すごく嬉しそうにうちに話してくれたからさ」

「何だと?」

 

 八幡はその言葉を聞いて、すごい偶然だなと驚くと同時に、

誰なのかは分からないが、同級生の父親を助ける事が出来て、本当に良かったと思った。

そんな八幡に、南は続けて別の人物の名前を出した。

 

「後ね、アスナって人の事は知ってる?」

 

 その名前を聞いて、雪乃や結衣、優美子はもとより、葉山と戸部もハッとした。

八幡はもう警戒する事はやめ、普通に聞き返した。

 

「その名前も、親父さんが言ってたのか?」

「うん、うちのお父さんね、その二人の事を毎日のように褒めるんだよね。

何かね、うちのお父さん、ゲームの中で、その二人の部下だったみたいでさ」

「……は?」

 

 八幡はまさかと思い、血盟騎士団のメンバーの顔を順番に思い浮かべた。

部下と言うからには、あの中の誰かに違いない。そう思った八幡は、意を決して、

南に父親のプレイヤーネームを尋ねる事にした。

 

「なあ相模、親父さんから、SAO時代のプレイヤーネームって聞いてるか?」

「うちのお父さんの?」

「ああ」

「えっとね、確かゴドフリー」

「ゴドフリー!?」

「え、う、うん、そうだけど……やっぱり知ってるの?」

「お、おう……」

「やっぱり知ってたんだ。あのね、うち今日、お父さんに車で送ってもらったんだけど、

まだ近くにいるはずだから、その……うちのお父さんに会ってみる?」

「分かった、親父さんに会おう。今ここに呼べるか?」

 

 八幡はその問いに即答し、そう聞き返した。

 

「うん、大丈夫」

「よし、こっちもすぐに手配する」

「え?手配?」

 

 八幡はいきなり携帯を取り出すと、どこかへ電話を掛け始めた。

戸惑う南をよそに、八幡は電話の相手に言った。

 

「明日奈、ゴドフリーが俺達に会いたいそうだ。食事会は終わったか?

うんうん、そうか、タクシー代は俺が出すから、今から言う場所にすぐに来てくれ」

 

 そんな八幡を見て、すぐに状況を理解したのか、南もどこかに電話を掛け始めた。

 

「あ、お父さん?ちょっとうちの所まで来てくれる?ちょっと会わせたい人がいるの。

彼氏?違う違う、そういうんじゃないから、とにかくすぐに来て」

 

 周囲の者は、いきなりのこの状況に只ならぬ気配を感じたのか、誰も何も言わず、

ただ事の成り行きを見守っていた。そんな中、戸部が八幡に話し掛けた。

 

「ヒキタニ君、今から明日奈さんが、ここに来るん?」

「ああ」

「そっか!元気になった後の明日奈さんにはまだ会った事が無いから、楽しみっしょ!」

「そうか、そう言われると確かにそうだな」

 

 葉山もそう相槌をうち、八幡も、そういえばそうだなと頷いた。

 

「戸部君もその人と知り合いなの?」

 

 きょとんとしながら南がそう尋ねてきた。戸部は嬉しそうに南に返事をした。

 

「明日奈さんは、ヒキタニ君の大切な彼女っしょ!」

「え?本当に?そ、そうだったんだ……」

 

 周囲の同窓生達も皆、驚きの表情で八幡を見つめた。

やはり何かとんでもない事が起こっている、皆がそう思う中、ついに明日奈が到着した。

 

「八幡君!」

「明日奈、何だその格好」

「えへ、似合う?」

「おお、このまま連れて帰りたいくらいだな」

 

 明日奈は何故か、ドレス姿でこの場に現れた。

話を聞くと、どうやら食事会の時の服装のまま、直接ここに向かったらしい。

明日奈はとても嬉しそうに八幡に抱き付き、八幡も嬉しそうにそれを受け止めた。

いきなりのドレス姿の美女の登場に、場は騒然とした。二人はとてもお似合いであり、

その態度からも、固い絆で結ばれている事が一目瞭然であった。

 

「明日奈さん、お久しぶり」

「明日奈さん、久しぶりっしょ!」

「葉山君、戸部君!久しぶり!」

 

 明日奈は二人の事をちゃんと覚えていたらしく、笑顔で二人に挨拶を返した。

 

「今日はいきなり押しかけてごめんなさい、雪乃にゆいゆいに優美子も、ほんとごめんね?」

「気にしないで、明日奈。あなたならいつでも歓迎よ」

 

 結衣と優美子もそれに頷き、南はそれを見ながら呆然と呟いた。

 

「他の皆も、知り合いだったんだ……」

「まああーし達は、明日奈とは親友だかんね」

「そうなんだ……」

 

 そして直後に店の扉が開き、体格のいい中年男性が中に入ってきた。

 

「お父さん!」

「どうした南、何かあったのか?」

 

 八幡と明日奈は、その懐かしい顔を見て、それがゴドフリーだと確信した。

ゲームの中の姿と比べると少し痩せている感じがしたが、それは仕方が無いだろう。

南は八幡を指差しながら、父親に話し掛けた。

 

「お父さん、この人の事、分かる?」

「ん?」

 

 ゴドフリーは、南の指の示す先をゆっくりと見た。

そしてそれが誰か理解した瞬間、大きな声を上げて八幡の方へと突進してきた。

周囲の女子から悲鳴が上がる中、ゴドフリーはそのまま八幡に抱き付いた。

 

「おおおおおおおおおおお、参謀!ハチマン参謀じゃないですか!」

「久しぶりだなゴドフリー。あと痛いから離せ」

「おっとすみません、それにしても、会いたかった、本当に会いたかったですぞ!」

 

 ゴドフリーは泣きながら八幡にそう言った。

 

「ははっ、すごい偶然だな、まさかゴドフリーの娘さんが俺の元同級生だったなんてな」

 

 それを聞いたゴドフリーは、南の顔を見ると、確認するように言った。

 

「そ、そうなのか?南」

「うん、本当だよ、お父さん」

「そうか、何という偶然か!俺は今、猛烈に感動している!」

「ちょっとお父さん、恥ずかしいよ」

 

 そんなゴドフリーの背中を、明日奈がちょんちょんとつついた。

 

「ん?誰だ?今は感動の再会の真っ最中……ふ、副団長?副団長じゃないですか!」

「ゴドフリーさん、久しぶりだね」

「おおお、参謀と副団長は今も一緒にいるんですか!」

「うん、恋人同士だよ」

「そうですか……本当に、本当に良かった……」

 

 ゴドフリーは人目もはばからず号泣した。

そんなゴドフリーの肩を、八幡と明日奈はぽんぽんと叩き、

ゴドフリーは泣きながら、とてもいい笑顔を見せたのだった。




第008話の相模が泣いた伏線を、やっと回収
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