ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第214話 魔王降臨と八幡伝説

 陽乃は何かを薔薇に渡すと、こちらに向かって真っ直ぐに近付いてきた。

ゆっこと遥は、新たに乱入してきたその人物の顔に見覚えがあった。

その人物は、先日二人の面接を行った、当の本人だったからである。

 

「二人とも、その節はどうも。まあ結果は残念なものだったけどね」

「あ、いえ……」

「ど、どうも……」

 

 社会的な地位を伴う人物の登場に、二人はそれまでとは打って変わったように、

大人しめの態度で挨拶を返した。だが内心は忸怩たるものがあったのだろう、

ゆっこはおずおずと、陽乃に質問をした。

 

「あの……先日はありがとうございました。でも、あの、

私達の何がいけなかったのか、差し支えが無かったら、教えて頂いても宜しいですか?」

「あら、随分と殊勝なのね、さっきまでの態度はどうしたの?」

「そ、それは……」

 

 言いよどむゆっこの姿を見て、陽乃は肩を竦めながら、しかりハッキリと言った。

 

「全部よ」

「え……?」

「だから、全部」

「で、でも……書類選考の段階では、結構いい感触だったような……」

 

 ゆっこはそんな事を言い出し、陽乃に食い下がったが、陽乃はあっさりとこう言った。

 

「ああ、それはね、あなた達が、ここにいる八幡君と同窓生だったからよ。

あなた達はね、自分達のまったく預かり知らぬ所で、

彼というコネに頼っていたって事なのよ、この意味が分かるかしら?」

 

 ゆっこと遥はその一言であっさりと打ちのめされた。さすがは魔王である。

 

「更にあなた達が面接で言ったのは、グローバルだのなんだの、

どこかで聞いたような事ばかり。そもそもグローバルって何よ、うちはソフト産業なのよ?

あなた達の言っている事は、ただの受け売りでしょう?

複数の国に跨る仕事をする?それとも人件費の安い国に、生産拠点を移す?

そういう事が必要な企業もあるでしょう。

でもそんな事、うちの会社にはまったく関係が無い。それなのにあなた達は、

そういった発言しか出来なかった。だからうちはあなた達を必要としなかった、

要するにそういう事よ、納得出来たかしら?」

「は、はい……」

「すみませんでした……」

 

 相手はまがりなりにも、急成長していると評判の企業のトップである。

ゆっこと遥に対抗出来る訳がない。だが、二人はその点については納得したようだが、

八幡の事については納得していないようだった。

 

「そ、それじゃあこの人はどうして……」

「ん?うちの次期社長に何か文句でも?」

「次期!?」

「社長!?」

「「「「「「「「「「ええええええええええええええええ」」」」」」」」」」

 

 あちこちから驚きの声が上がり、陽乃はきょとんとしながら周囲を眺めた。

 

「え?私今、何か変な事を言った?」

「姉さん、さすがに今のは唐突すぎると思うのだけれど……」

「え?そう?じゃあ雪乃ちゃんは反対なの?」

「いいえ、大賛成よ」

 

 雪乃もキッパリとそう言い切った。ゆっこと遥は開いた口が塞がらないようで、

少しでも落ち着こうと深呼吸をすると、何とか口を開いた。

 

「ど、どうしてこんな奴が……」

「そうですよ、何でよりによってこいつなんですか?」

「あら、あなた達はさっきから一体何を聞いていたの?その耳は飾りなの?

それともその耳は、脳に繋がっていないのかしら?」

 

 陽乃は呆れた顔でそう言った。

 

「あなた達は知らないかもしれないけど、八幡君はリスクヘッジにすごく長けている。

そしてその発想は、常に斜め上をいく。どんな状況でも決して諦めずに、二年間戦い続け、

そして最後の戦いでは……ゴドフリー、説明しなさい」

 

 いきなり指名されたゴドフリーは、まるでそうするのが当たり前だというように、

直立不動の姿勢になり、陽乃の命令に答え、話し始めた。

 

「ハッ!参謀は、人材を適材適所に配置し、敵すらも己の駒として使いこなし、

難関と言われた七十五層の戦いを、誰一人犠牲を出す事無く乗り切ったのであります!

そして同時に、隠れた敵の正体を、自らの危険を省みる事もなく暴き出し、

ついに我ら全員を、現実世界へと帰還せしめた功労者なのであります!」

 

 ゴドフリーは敬礼をしながら、一息にそう答えた。

 

「ハル姉さん、何でゴドフリーの名前を……」

「まあ八幡君、今はそれはいいじゃない。ゴドフリー、ご苦労様」

「ハッ、光栄であります!」

 

 そのゴドフリーの説明を満足そうに聞いた陽乃は、次に葉山を近くに呼んだ。

 

「ねえ隼人、随分八幡君と仲良くなったみたいじゃない」

「ああ、色々と話を聞いたし、比企谷の戦う姿を実際にこの目で見たからね。

それに俺と戸部も、比企谷と一緒に戦った仲間だからね」

「ここにいる人達が相手なら、隼人から説明された方が、

私が話すよりも説得力があるだろうから、それに至る経緯を知る限り全て話しなさい」

 

 八幡はその事までバラすつもりは無かったのだが、

陽乃が何も考え無しにこんな事を言い出すはずもないと思い、沈黙を守る事にした。

 

「……分かった。皆、SAO事件が終結したと思われた直後に発生した、

百人の未帰還者の事件は知っているか?」

「知ってるよ、葉山君!」

「あれって、解決までに二ヶ月くらいかかったよね?」

「それがどうしたの?」

 

 周りから口々にそんな声が上がり、葉山は満足そうに頷いた。

 

「世間には一切発表されていないが、それを解決したのがこの比企谷だ」

 

 周りの者達は、一瞬言葉の意味が理解出来ず、沈黙したが、

その意味が段々と理解出来るに連れ、徐々に周りから歓声が上がっていった。

 

「す、すげえ!」

「これって本物の英雄って奴じゃね?」

「比企谷君、高校の時は変な噂を信じたりして、本当にごめん!」

「参謀があの事件で残された者達を救ったのですか!?さすがですな!」

 

 葉山はその喧騒を受け、静まるようにとゼスチャーをすると、話を続けた。

 

「比企谷は最初、SAOの中で親しくなり、結婚までしたこの明日奈さんが、

未だに目覚めない事に焦っていた」

「け、結婚?」

「アルゴ部長、あの写真を画面に出して」

「ほいきたボス、すぐに出来るゾ」

 

 いつの間に用意したのか、店内のモニターに、八幡と明日奈の結婚写真が映された。

それを初めて見る者も、既に見た事がある者も、その二人の幸せそうな姿を見て、

何か感じる物があったようだ。

 

「素敵……」

「比企谷、この幸せ者!」

「いいなぁ……すごくお似合い……」

「これがゲームの中で撮影され、奇跡的にサルベージされた、その時の写真だ」

 

 葉山は軽く説明を加えると、更に話を続けた。

 

「犯人は、SAOのサーバーを管理していた会社の一社員だった。

比企谷はその事を、わずかな手がかりから突きとめると、

『アルヴヘイム・オンライン』というゲームの中で、その悪事を暴く手段を見つけ、

当時ゲーム内で殺し合いばかりしていた、

『アルヴヘイム・オンライン』のトッププレイヤー達の勢力を結集して戦いを挑み、

そしてついに、この明日奈さんの下へとたどり着き、彼女を解放する事に成功した。

そして現実世界に帰還すると、彼や明日奈さんの命を直接奪おうとしてきたその犯人を、

俺と戸部と三人で力を合わせてねじ伏せ、ついに事件を完全に解決する事に成功した。

これがあの事件の真実であり、その証人が俺と戸部って訳だ。納得してくれたかな?」

 

 その瞬間に大歓声が起こり、皆口々に、納得したぜ、とか、すごい、等の声が飛び交った。

八幡は羞恥からか、顔を赤くして下を向いており、

そんな八幡に、明日奈はそっと寄り添っていた。

 

「さて、彼らの口から真実が語られた所で、続きは私が説明するわ。

この二つの事件に共通する物は何か。

一つ、彼はどんな状況になっても決して諦めない。

一つ、彼は普段はだらしないように思われるが、実は目的意識を持った彼は勤勉である。

一つ、他人が苦手だと思われていたはずの彼には、意外なほどの交渉力が備わっている。

一つ、彼の下に、多くの仲間や彼を慕う者が集まっている事実から分かる、カリスマ性。

どう?彼以外に、誰に社長の座を譲れって言うの?まさに適格者だと思わない?」

 

 それを聞いたゆっこと遥は、今度こそ何も言えなかった。

明らかに自分達より下だと思っていた存在が、実は自分達よりも高みにいたという事実は、

彼女達の小さなプライドを粉々にへし折ったのだった。

もちろんそれで終わる陽乃では無い。この程度で魔王の名が冠せられる事は無い。

 

「ところでさ、あなた達が内定をもらった会社の社長さん達って、私の知り合いなんだけど」

 

 それを聞いた瞬間に、二人の顔は引き攣った。

その目に怯えの光が宿ったのを見て、陽乃は満足そうに言葉を続けた。

 

「まあ今回の事は、特に何も言わないでおいてあげるわ。

あなた達はあなた達に相応しい、小さな幸せを見付けなさい。

そして他の人達にも言っておくわ。薔薇、あれを」

「はい、ボス」

 

 薔薇は陽乃に促され、ビデオカメラを取り出した。

 

「このビデオカメラには、今の一部始終が撮影されているわ。

つまり、あなた達の顔は、バッチリこのカメラに記憶されている。

それがどういう事か、今見せてあげましょう。アルゴ部長、それじゃあこの子でお願い」

 

 陽乃はゆっこを指差し、アルゴは、心得たという風に、PCを操作し出した。

そしてすぐにゆっこの耳元で、ゆっこの個人情報を囁き始めた。

 

「……えっ?……嫌、嫌!……もうやめて、それ以上私の個人情報をバラさないで!」

 

 そのゆっこの言葉を聞き、こんな短い時間で、初めて会った者の個人情報を、

簡単に知る事が出来る、この少女は何者なのかと周りの者達は慄然とした。

 

「……という訳で、うちの会社の力をもってすれば、あなた達全員の個人情報を、

一瞬で全世界に拡散する事が可能よ。もっともここで見た事や聞いた事を、

他の誰にも喋らないと誓いさえすれば、もちろんそんな事はしないわ。

だから安心してくれていいけど、仮にその情報が、匿名掲示板だろうと何だろうと、

どこかの媒体に流れた瞬間に、ここにいる全員の個人情報が世界中に拡散され、

必ずその犯人には人生を終了してもらう用意がある事だけは、忘れないでね」

 

 その場にいる全員が顔を青くし、その陽乃の言葉にこくこくと頷いた。

唯一違う反応を見せたのはエルザだった。

エルザはびくんびくんと痙攣しながら、息も絶え絶えに八幡に話し掛けた。

 

「は、八幡、やっぱり魔王って、すごいエクスタシーだね!」

「エクスタシーって何だよ、黙れ、この変態が」

 

 その八幡の罵声を聞いた瞬間に、エルザは恍惚の表情に包まれ、意識を失った。

ゆっこと遥は、目に恐怖の色を浮かべながら、すごすごと逃げ出すようにその場を後にし、

その姿をニヤニヤしながら一瞥した陽乃は、八幡と明日奈の下に歩み寄ると、

一転して子供のような表情を見せ、明日奈に懇願した。

 

「明日奈ちゃん、事件を立派に解決した私を褒めて!」

「さすがハル姉さん、完璧な力押しだったね!」

「でしょでしょ?それじゃあその……私にもご褒美を、ご褒美を一つ……」

「だってよ、八幡君」

「あんたもそれが目的だったのかよ!」

 

 陽乃をあんた呼ばわりしつつも、仕方なく陽乃の頬にキスをした八幡と、

それに無邪気に喜ぶ陽乃の姿を見た者達は、八幡の凄さを嫌というほど味あわされ、

こうしてこの日の同窓会は、参加した者達の間で伝説となったのだった。

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