2018/03/01 句読点や細かい部分を修正
「お父さん、うち、高校二年の文化祭が終わった後から、
ずっと比企谷の悪口を、ある事ない事学校中に広めてたの」
そう言った後、真っ直ぐに自分の目を見つめてくる南の顔を見て、自由は言った。
「……そうか、話を続けなさい、南」
「うん」
そして南は深呼吸をした後、話を再開した。
「うちは高校一年の頃、クラスの中心にいたせいで、少し調子に乗ってたの。
でも二年になって、クラスの中心になったのは他の人だった。
うちは焦って文化祭の実行委員長に立候補したんだけど、まともに運営出来なくて、
結局仕事を全部他の人に押し付けて、最後の最後には逃げ出しちゃったの。
そんな私にハッキリと注意してくれたのは、比企谷だけだった。
あの頃の比企谷は、今なら良く分かるんだけど、とにかく自分を悪者にして、
他の人を助けようとする人だったから、その時の言い方は確かにひどい物だったけど、
言っている内容は正論だった。でもうちはその言葉に耳を貸す事もなく、
一方的に比企谷の事を恨んで、自分を被害者にして、それで自分の立場を守ろうとした、
本当に最低で最悪な人間だった。本当にごめんなさい」
南はそう言って深々と頭を下げた。そんな南に八幡が声を掛けた。
「いやいや、でもお前、その後の体育祭の時は、前の失敗を反省して、
頑張って何とかしよう、何とかしようって頑張ってたじゃないかよ」
「でもあの時のうちは、結局あんたには一切謝ってない」
「それはまあそうかもだが……」
南はその八幡の態度から、あの出来事は八幡の中では既に終わった話であり、
許す許さない等という問題ではないのだなと感じたのだが、
南はそれに甘えるのを良しとしなかった。出来る事ならハッキリと叱って欲しかった。
「さっきのゆっこと遥の姿が、きっと昔のうちの姿なんだと思う。
だからやっぱりうちは、あんたにちゃんと叱られたい。なぁなぁにしたくない。
そうじゃないと、これから先、うちはちゃんと前に進めない気がするの」
「いやいや、それでもお前、俺がいなくなった時に泣いてくれたんだろ?」
「あれは……あんたの姿がお父さんの姿と重なったから泣いただけで……」
「ほら、自分で言ってるじゃないか、『重なった』ってな。
それってつまり、俺の為にも泣いてくれたって事だろ?」
「え?」
南はその八幡の言葉に意表を突かれた。当時の自分が何をどう考えたかは、
自分が一番理解しているつもりだったが、思えばあの時、自分はこう考えたはずだ。
ああ、比企谷『も』SAOに囚われたのだと。そこまで考えて南は、
あの時の自分が八幡の事も心配していたという事実に、今更ながら気が付いた。
「あ……」
「分かったか、お前は例え数パーセントだとしても、もう俺の為に泣いてくれてるんだよ。
それってもう、文化祭の時に俺に言われた事に対し、無意識に反省してたって事だろ。
それにあの時の事を言うなら、俺の言い方も適切だとは言えなかった、本当にごめんな」
「でも、うち、うちは……」
中々次の言葉を発せられない南の姿を見て、横から自由が口を挟んだ。
「参謀、うちの南は確かに少し調子に乗る所があるので、罰は必要だと思いますぞ」
「そうは言ってもな……」
「罰の内容は参謀に任せますがな」
「丸投げかよ……」
八幡は、困ったように明日奈の顔を見た。明日奈は、ただ黙って八幡に微笑んでいた。
「俺は別に、お前に何か罰が必要だとは思ってないんだが……」
「それじゃあ堂々巡りでしょ、いいからさっさと一思いにやりなさいよ!」
「逆ギレかよ……」
その時八幡の視界にエルザの姿が映った。エルザは八幡の視線を感じ、
ん?と首を傾げたが、それを見た八幡の脳裏に、南を説得する為のアイデアが一つ浮かんだ。
「なぁ、自分から進んで罰を受けたいとか、お前もエルザと同じ変態なのか?」
それを聞いた南はビシッと固まった。南は、ギギギという音が聞こえてくるような挙動で、
ゆっくりとエルザの方に顔を向けると、次の瞬間に、顔を真っ赤にして八幡に抗議した。
「やっぱりあんたなんか、大嫌い!」
「わ~い、仲間仲間!」
「う、うちはそういうんじゃないから!」
エルザは南を仲間扱いし、南はさすがに有名人相手におかしな事は言えず、
困ったように手をわたわたさせた。八幡は、これで南も罰を受けたいとは言わないだろうと、
たかをくくっていたのだが、そんな八幡に南は言った。
「今のが罰?全然足りないわよ!もっと真面目に考えなさいよ!」
「まだ言うか……分かった、少し考えるから待ってろ、変態」
「ち、違うから!」
抗議する南をよそに、八幡は腕を組み、しばらくの間う~んと唸っていたが、
どうやら何か思いついたようで、不意に真顔になり、じっと南の顔を見つめた。
「な、何よ」
「よし、決めた。俺の罰はかなりきついぞ、覚悟はいいか?」
「い、言っておくけど、えっちなのは駄目だからね」
「当たり前だろ……何を言ってるんだお前は……」
「ど、どうして当たり前なのよ!うちだって年頃の女の子なんだからね!」
「どっちだよ……まあいい、よし、言うぞ」
八幡はそこで一呼吸置くと、南にこう宣言した。
「お前さっき、俺の事を大嫌いって言っただろう?お前はこれから、そんな俺と友達になれ。
期間は一生だ。お前は大嫌いな俺と、強制的にずっと友達で居続けないといけないという、
苦痛に満ちた人生を送らなくてはいけなくなる。これが俺がお前に与えるもっとも重い罰だ」
「なっ……何よそれ!」
「どうだ、きついだろ?全てお前が言い出した事だ、諦めろ」
「それのどこが罰なのよ!」
「罰の内容は、絶対に変えないからな」
「そ、そんなの……」
南は罰じゃないと言おうとして、言葉に詰まった。
八幡がとても優しい目をしていたからだった。
南が自由を見ると、自由はにこにこと南に頷いており、
明日奈や陽乃、そしてエルザでさえも、南の事をニコニコと見つめていた。
南は泣きそうになるのをぐっと我慢し、八幡に頭を下げた。
「うちは喜んでその罰を受け入れます。これから末永く、友達として宜しくお願いします」
こうして南は、その八幡の罰を受ける事となり、
こうして高校の時からの八幡と南の間のわだかまりも、完全に解消する事となったのだった。
「よし、それじゃあこの話は終わりだ」
「待って、私からも少しだけ、話、いい?」
「ん?」
南はそう言うと、ぽつぽつと、八幡がいなくなった後の事を話し始めた。
「あんたがいなくなってから、うちはお父さんのお見舞いもあって、
誰とも遊びに行く事が無くなって、クラス内で完全に孤立してた。
でもそんなうちに、結衣ちゃんが最初に声を掛けてくれて、
雪ノ下さんと三人でご飯を食べるようになった。
そして二人はうちに、色々とあんたのとの思い出を話してくれた。
そしてその流れでうちは、たまに三浦さん達のグループにも混ぜてもらえる事になった。
うちは、相変わらず放課後の遊びの誘いとかをずっと断り続けてたけど、
三浦さんは、決してうちを仲間外れにしようとはしなかった。
だからうち、あの三人の事はちょっと好き。あんたの事は嫌いだったけど、
でもお父さんの事を考える時、必ずセットであんたの事が頭に浮かんだ。
だから、今ではあんたの事も、ほんのちょっとだけ好き」
「そうか……あいつらがな」
八幡は、感じ入ったようにそう呟いた。
「本当の本当に、ちょっとだけだからね!」
南は顔を赤くして、八幡にそう念押しした。八幡は平然とした顔で、南にこう言った。
「まあ三人とも、俺の自慢の仲間だからな」
「……それはちょっと羨ましいかも」
八幡の自慢げな顔を見て、南はぼそっとそう言った。
そんな南の様子をじっくりと観察していた陽乃が、いきなりこう言った。
「うん、合格!」
「え?あ、あの……何がですか?」
陽乃はその南の問いには答えず、懐から名刺を取り出し、そこに何か書き加えると、
その名刺を、スッと南に差し出した。
「はいこれ、私の名刺。これを見たら、必ず私に連絡を繋ぐように書いておいたから」
「えっ、えっ」
「確かに昔のあなたは、とんでもなく鼻持ちならない、
色々と勘違いした子だったのを覚えてるけど」
「文化祭の時は、色々とすみませんでした……」
陽乃にそう言われ、南は昔の事を思い出しながらそう謝った。
だが次に陽乃が言ったのは、まったく予想外の台詞だった。
「でも、生まれ変わった今のあなたは、必ず八幡君の役にたつ。
元々優秀なはずだしね、なんたってあそこは、私の母校でもあるんだから。
で、話はここからだけど、南ちゃん、あなた、大学を卒業したら、
うちの会社に来て、八幡君の下で働きなさい。
この名刺を持って会社に来れば、即採用するように人事には言っておくから」
「え?ええっ!?」
「別に強制はしないわ。でもこれはあなたにとって、多分人生のターニングポイントよ。
普通に他の会社に就職して平凡な人生を送るか、それとも彼や、ここにいる皆と共に歩み、
波乱に満ちた人生を送るか、自分自身でよく考えなさい」
「う、うち……うちは……」
南はそう言いながら、周りの者達の顔をぐるっと見渡した。
八幡と明日奈は南に頷き、エルザは羨ましそうに南を見ていた。
自由は声を出さずに涙を流していた。それを見て南の腹は決まった。
「うち、これからは、比企谷の部下になった時に役に立てるように、
大学ではそういう事を考えながら勉強をします。だから是非その話、受けさせて下さい」
その言葉に周囲はわっと盛り上がり、こうして唐突ではあるが、
南の就職が内定する事となったのだった。
こうして相模南は、あの二人とは違い、自分自身に誠実である事で星を掴んだ。
そして明日、何かが起こる。