ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第243話 病室の二人

「それじゃあ楓、今度来る時はおみやげを持ってくるから、楽しみに待っててな」

「うん、お兄ちゃん、ありがとう!」

「楓ちゃん、またね」

「お姉ちゃん、またね!」

 

 八幡と明日奈はそう楓に挨拶をし、他の三人もそれぞれ挨拶をして外に出た。

その時陽乃の携帯に着信があった。

 

「あ、凛子?首尾はどう?うんうん、オーケー、それじゃあすぐにこっちに向かって頂戴」

 

 電話の相手はどうやら凛子のようだった。陽乃は通話を終えると、笑顔で経子に言った。

 

「経子さん、明日の午前中には、メディキュボイドの機材とその開発者が揃います。

早速明日、ここにメディキュボイドを設置しましょう。まあ簡易版なんですけどね」

「そんなに早く?陽乃さん、本当にありがとう」

「いえいえ、それじゃあ詳しい話は明日設置する時にでも」

「ええ」

 

 そして応接室に戻った後、明日奈が知盛と経子に請われ、

後回しにしていた、SAO内での八幡との出会いや、戦いの事を話し始めた。

八幡は、これは絶対にからかわれるなと思い、咄嗟にこう言った。

 

「それじゃあ俺は、ちょっとトイレをお借りしますね」

「あ、八幡君、トイレの場所はね……」

 

 そして八幡は、トイレに行くという名目で、一人で部屋を出た。

とりあえずといった感じで、教えられた通りに廊下を進む八幡だったが、

その耳に、どこからともなく掛け声のような物が聞こえてきた。

八幡は何となく、その声がする方へと進んでいった。

 

「えい、とう!」

 

 その勇ましい掛け声の後、パチパチパチという拍手が聞こえた。

八幡が、何だろうと思い、部屋を覗くと、そこには二人の、良く似た、

というより、そっくりな少女達がおり、

片方の少女が、綺麗な動作で木刀の素振りをしていた。

そしてもう一人の少女がベッドに腰掛け拍手をしていた。

 

「アイ、体の方は大丈夫そう?」

「今日は何だか調子がいいから大丈夫よ。ユウはどう?」

「うん、ボクも大丈夫かな」

「ちょっとでも体を動かして体力をつけておかないと、病気には勝てないからね」

「そうだね、次はボクにやらせてよ」

 

 その会話と見た目からすると、どうやら二人は双子の姉妹のようだった。

見た感じ、中学生か高校生になりたてにくらい見えるその二人は、

見た目はそれほど弱っているようには見えなかったが、

顔色はあまり良くなく、ここにいるからには、やはり重い病気なのだろうと思われた。

ユウと呼ばれた少女が素振りを始め、アイと呼ばれた少女がそれを見ていたのだが、

丁度そのアイの正面に部屋の入り口があった為、

どうやらアイは、八幡の存在に気付いたらしい。

アイは一瞬ビクッとしたかと思うと、スッと立ち上がり、

ユウに素振りをやめさせると、ユウをかばうように前に出ながら言った。

 

「あなた誰?」

 

 八幡はその言葉を受け、頭をかきながら部屋の中に入った。

 

「すまん、驚かせちまったか」

「まあ少しね。で、あなた誰?」

「あ~、お前、楓って知ってるか?」

「うん、知ってるけど……」

「俺はその楓の、親戚になる予定の男だ。俺の事は八幡と呼んでくれ」

「楓ちゃんの……そう、分かったわ、八幡」

 

 アイはそう言ったものの、中々警戒を解こうとはしなかった。

八幡は、おそらく分家の馬鹿どものせいなんだろうなと思い、

とりあえず二人の警戒を解こうと、無防備な体勢になる為に、

直接床に腰を下ろし、あぐらをかいた。

 

「この体勢ならすぐには起き上がれないから、多少安心だろ?

少しは警戒を解いてくれないか?」

 

 アイはその言葉に、少し考えるようなそぶりを見せたが、

手放しはしなかったものの、木刀を下ろし、ユウと一緒にベッドに腰掛けた。

 

「ありがとな。で、何で俺がここにいるかって言うとだな、

実は、俺の彼女、あ~、そっちが楓のいとこになるんだがな、

その彼女が経子さんに、俺との馴れ初めを話し始めたから、

からかわれるのは御免だと思って、トイレにいくって名目で逃げてきたんだよ。

で、まあ何となくトイレの方向に向かう途中で、

掛け声が聞こえたから、何となくこっちに来てみたって訳だ」

「なるほど……」

「もしかして八幡って、さっきあの車で来た?」

 

 ユウが突然そう尋ねてきた。

 

「車?悪い、ちょっと立つぞ」

 

 八幡はそう言って立ち上がり、窓から外の景色を見た。

そこには確かに、少し遠いが、キットが停車しているのが見えた。

 

「ここからだとちょっと遠いが、確かにあれは俺の車だな」

 

 八幡がそう肯定するのを聞いて、ユウは更にアイに言った。

 

「アイ、さっきこの人、知盛さんと二人の女の人と一緒に来たんだよ。

だから、警戒しなくてもいいと思う」

「ほう?こんなに遠いのに、見えたんだな」

「うん、ボク、目だけはいいんだ」

「なるほどな」

 

 そしてアイは、知盛さんが連れてきたならと納得し、今度こそ本当に警戒を解いた。

そんなアイに、八幡はこう質問した。

 

「なぁ、そこまで警戒するのって、やっぱり前に、結城の家の馬鹿に何かされたのか?」

 

 その八幡の言葉に、アイは呆れたように言った。

 

「楓ちゃんの親戚になるって事は、あなたももうすぐ結城家の人になるんでしょ?

そんな事言っていいの?」

「ああ、まったく問題無いな。何故なら俺の方が強いからだ」

 

 そうドヤ顔で言う八幡を見て、二人はプッと噴き出した。

 

「何それ」

「八幡、面白い!」

「よく言われるな」

「えっと、前にね……」

 

 アイは過去に、態度の悪い少年達に絡まれた事があると説明した。

八幡はやはりなと思い、二人にこう言った。

 

「二人は双子なんだよな?当然二人とも美人だから、

どうせそいつら、権力を嵩にきて、二人と仲良くなろうとでもしたんだろ。

自分一人じゃ何も出来ない癖にな。不愉快な思いをさせて本当にすまなかった」

「ううん、別にあんたは悪くないし」

「そうだよ、気にしないでよ」

「美人だってのは否定しないのかよ」

「まあそれはね」

「同じ顔だし」

 

 二人はそう言って楽しそうに笑った。

 

「ちなみにどっちが姉なんだ?」

「一応私よ」

「ボクが妹だね、一応」

 

 どうやらアイが姉で、ユウが妹らしい。そしてそんな二人に、八幡はこう切り出した。

 

「それじゃあお詫びと言っちゃ何だが、一つ芸を見せてやろう」

「芸?」

「ああ、あの車の方を見ててくれ」

 

 そう言うと八幡はスマホを取り出し、何か操作をしたかと思うと、

そのままスマホに話し掛けた。

 

「キット、そこから俺が見えるか?ああ、そうだ、それじゃあちょっとこっちに来てくれ」

「あっ」

 

 その言葉通り、キットがこちらに走ってきた。

二人は誰も運転席に乗っていないのが見えたのか、とても驚いたようだ。

 

「誰も乗ってないのに勝手に動いたね」

「どんな仕掛け?」

「企業秘密だ」

 

 そう言うと八幡は、ガルウィングを上下させたり、

キットにその場で一回転させたりし、その度に姉妹は驚きの声を上げた。

 

「どうだ?」

「すごいすごい、そのスマホに喋った事を、全部実行してるね」

「八幡って魔法使いか何か?」

「まあそんなもんだ。よしキット、ありがとな、元の場所に戻ってくれ」

 

 八幡がそう言うと、キットは元の場所へと戻っていき、

二人はそれを見てパチパチと拍手をした。

 

「楽しんでもらえたか?」

「うん!」

「何か予想以上にすごい芸だった!」

「それなら何よりだ」

 

 そして八幡は再び腰掛けると、ふと思いついた事をアイに尋ねた。

 

「なぁ、アイは剣道か何かをやってたのか?」

「あ、うん、小学校の時ちょっとだけね。でも何で分かったの?」

「ああ、実は俺の知り合いの妹がな、ずっと剣道をやってるんだが、

さっきの姿が、何となくその姿にダブったんだよな」

「あ、そういう事か、なるほどね。で、あんたは武道か何かをやってたの?

さっき自分の事を強いって言ってたけど」

「俺のは我流だな」

「へぇ~、ちょっと見せてよ」

「別に構わないが、俺は基本カウンター使いだからな、

こんな狭い部屋で相手をしてもらう訳にもいかないし……ああ、そうだ」

 

 八幡はそう言うと、スマホを取り出し、とある動画を呼び出して二人に見せた。

それは第一回BoBでの、シャナvsサトライザーの戦いの動画だった。

 

「これが俺だ、まあこの時は負けたんだけどな。

くそ、思い出したらむかついてきた、今度会ったら絶対に勝ってやる」

「これって、VRゲームか何か?」

「ああ、ここで邪魔が入るんだが、まあ見てろ」

「うん」

「うわっ」

 

 その言葉の直後にゼクシードが真っ二つになり、そのままサトライザーとの戦いが始まった。

二人は食い入るように画面に集中し、シャナが負けた瞬間に深い息を吐いた。

 

「ふう~~~」

「息をするのも忘れて見入っちゃったよ」

「どうだ、負けはしたものの、俺は強いだろ?」

 

 その八幡の問いに、二人は目を輝かせながら言った。

 

「うん、本当にすごかった……正直人間の動きとは思えなかった」

「八幡、すごいすごい!いいなぁ、ボクもやってみたいな……」

 

 そのユウの呟きを聞いた八幡は、内緒だぞと前置きした上で、二人にこんな事を言った。

 

「この施設な、もうすぐ無くなるんだが、あっ待て待て、そんな驚くなって、

最後まで聞いてくれ。ほら、お前らにちょっかいを出してきた馬鹿どもがいただろ?

ああいうのを排除する為に、今度この施設は破棄して、

東京にある俺の会社の施設に、全員で引っ越してもらう事になったんだよ。

で、そこにはな、メディキュボイドってのがあってな、医療用のVRマシンなんだが、

それを使えば二人とも、治療の為にああいったゲームをプレイ出来るぞ」

「そうなの?もうあいつらみたいなのが来なくなるの?」

「ああ」

「本当に?やった!」

 

 二人は引越しについては特に思う所は無いようで、単純に喜んでいるようだ。

 

「と、いう訳で、俺はそろそろ戻らないといけないから、

二人はこっそり引越しの準備を進めておいてくれな。

またタイミングが合えば、顔くらい出すわ」

「うん分かったわ、色々とありがとう、八幡」

「八幡、またね!」

「ああ、またな、アイ、ユウ」

 

 こうして八幡は応接室に戻り、丁度その頃には明日奈の話も終わっていた。

八幡は、自分に向けられる生温かい視線を無視し、その日はそのまま帰る事となった。

そして車に乗り込む瞬間、八幡は、チラリと姉妹のいた部屋の窓の方を見た。

その窓からあの姉妹が手を振っているのが見え、八幡は軽く手を振り返した後、

キットの運転席に乗り込み、車を発車させ、三人はそのままホテルに戻る事となった。




ううむ、この二人は一体誰なんですかね(しれっと)
ちなみにこの二人の病名は、HIVではありません。当時と今とでは、状況も違いますしね。
なので、今後も病名は、お茶を濁す感じでお願いします!

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