「ねぇ、仲間ってどういう事?」
「その前に、ちょっと端の方に移動しようぜ、さすがにここだとちょっとな」
「それもそうね」
シノンはきょろきょろと辺りを見回し、少し先に丁度いいベンチがあるのを見つけた。
「あそこがいいんじゃない?」
「そうだな、それじゃあ……」
そう言って、何とか立ち上がろうとするシャナを、シノンがひょいっと持ち上げた。
いわゆるお姫様抱っこである。さすがはSTRタイプのシノンと言うべきであろう。
まあ問題はそこでは無いのだが。
「うおっ……お、おい、大丈夫だ、自分で歩けるから」
今はまだ周囲に誰もいなかったが、シャナはいつ誰が来るか分からないので、
焦った口調でシノンに言った。だがシノンはそれには取り合わず、
そのままベンチに腰掛け、シャナに膝枕をすると、こう言った。
「フン、この間の仕返しよ。あれから私が、学校でどれほど質問攻めにあったと思ってるの?
次の日は本当に大変だったんだからね」
「す、すまん……」
「まったく、さすがにあそこまでやられると、さすがにただの友達ですとは言えないし、
仕方ないから……その……」
シャナは、シノンがどういう言い訳をしたのか何となく察し、安心させるように言った。
「大丈夫、俺がもうお前の学校に行かなければ、それで問題は無い。
お前が友達にどんな説明をしていようが、まったく問題は無い」
「え……」
「え?」
シノンは口をパクパクさせながら、怪しげな挙動をしていたが、
やがて言うべき事が決まったのか、何とか言葉を続けた。
「え、遠藤達は、あれから一切私に近寄らなくなったわ」
「そうか、それなら良かった。まあまた近付いてきたら、今度こそ本当に、
あいつの親は終わりになるかもしれないけどな」
「で、でも、かっ……彼氏って事の信憑性に疑問を持たれるかもしれないから、
たまに、むか、迎えに来てくれれば、その辺りも安心なんじゃないかしら」
「ん、別に平気じゃないか?圧力がかかったのは本当なんだしな」
「何よ、嫌なの?」
そのシャナの言葉を聞いたシノンは、じろっとシャナを睨んだ。
その視線の圧力に抗えず、シャナはこう言わざるを得なかった。
「わ、分かった、たまにな……」
「うん、それならよろしい」
「お、おう、ありがとな……」
シャナは、何故自分がお礼を言っているのか、理不尽さを感じていたが、
シノンは、もうこの話は終わりだと言わんばかりに慌てて話題を変えた。
「で、仲間ってどういう事?」
「おう、実はな、今俺達は京都にいるんだが、そこで偶然昔の仲間に再会したんだよ。
で、そいつをうちのチームの専属職人として、迎え入れる事にしたんでな、
今から待ち合わせ場所に向かおうとしてたって訳だ」
「専属の職人さんね、うん、いいんじゃない?」
その話を聞いて、シノンが嬉しそうな顔をしたので、
シャナは、イコマの加入は問題無く受け入れられそうだと安心した。
「実はそいつは、アミュスフィアに視界がうまく適合しなくて、
遠近感があいまいになっちまうみたいでな、
なので今回は、専属職人としてオファーを出した訳なんだが、
やっぱりある程度レベルを上げて経験を稼がないと、ステータスとか足りないだろ?
だからシノンにも、そのレベル上げの手伝いを、たまにでもいいから頼めないか?」
「もちろん構わないわよ」
「そうか、ありがとな」
そしてシノンは、わくわくした口調でこう言った。
「職人さんか……うん、頑張ってレベルを上げてもらって、いずれ私の武器も……」
「そうだな、射程を延ばしたりも出来るだろうし、
今よりも強くなれるのは間違いないだろうな」
「でしょでしょ?あはっ、夢が広がるね、シャナ」
「あ、ああ」
シノンが無邪気にそう言いながら、シャナの顔を覗き込んできたので、
シャナは、その顔の近さにどぎまぎしながらそれに同意した。
その頃には普通に立ちあがれるようになっていた為、シャナはそのまま立ち上がり、
シノンは残念そうな顔をしつつも一緒に立ち上がった。
「よし、それじゃあ向かうか」
「うん」
そして二人は待ち合わせ場所に向かう事になったのだが、
その時シャナが、思いついたようにシノンに言った。
「そういえば、京都のお土産は何がいい?何か希望はあるか?」
「う~ん、京都かぁ……私あんまり詳しくないからなぁ……
でもそうね、何か身に付けられる物がいいかな」
「え、お前は絶対食べ物を頼むと思ってたんだが……」
「あんたの中で、私はどれだけ食いしん坊なのよ!」
シノンは即座にそう抗議したのだが、シャナは首を振りながらその意図を説明した。
「違う違う、お前は一人暮らしだろ?だったらおかずとかにも出来る名物とかの方が、
喜ぶんじゃないかって、そう思ったんだよ」
「あ、そっか、そこまで考えてくれてたんだ、気付かなくてごめんね」
「いや、まあおみやげなんだし、やっぱり本人が喜ぶ物の方がいいからな、
何でも好きな物を頼んでくれ」
「待って、今検討するから」
「お、おう」
そしてシノンは真剣な表情で、ぶつぶつと何か呟き始めた。
「食べ物を頼んで、届けてもらうという名目でまた家に上がってもらう?うん、ありね。
一緒に食卓を囲むというのは、それが手料理であれば破壊力は抜群のはず。
でもおみやげだと既製品になっちゃうか……ううん、一手間加えるという手もある。
対して装飾品は……学校に行く時にも使える、常に身に纏う物で決まりね。
たまにしかつけないスペシャル感も重要だけど、常に一緒にいるという、
その擬似的な感覚の方が大事よね。さて、どっちにするか……」
そしてシノンは悩みに悩んだ末に、ついに結論を出した。
「うん、装飾品で」
「そうか、了解だ。それじゃシズと相談して……」
「相談してもいいけど、最後はあんたが一人で選んでよね」
「……俺はそういうセンスは皆無なんだが」
「死ぬほど悩みなさい」
「分かりました、仰せの通りに……」
シャナは、買い物に行ってから死ぬほど考えようと思い、
とりあえずシノンに、好きな色は何か尋ねた。
「なぁ、お前の好きな色って何色だ?」
「好きな色?そうねぇ……う~ん、この髪の色?」
それを聞いたシャナは、ハッとした顔をして、一瞬シノンの足の方に目をやると、
慌ててそちらから目を背けた。だがその姿はシノンにバッチリ見られていた。
シノンは立ち止まり、ぷるぷる震えながらシャナに言った。
「……あんた今、変な事を思い出したりしてなかった?」
「き、気のせいだ、違う、別にお前の下着の事なんか……あ」
シャナはその瞬間、すごい速度でバックステップした。
そのシャナの前髪を、シノンの拳が掠めていった。
「お、お、お、お前な、今のは明らかに、さっきのボディよりも威力があっただろ!」
「チッ」
「チッ、じゃねーよ、これ以上到着が遅れたらどうする!」
「うるさいわね、ちょっと記憶を飛ばしてやろうと思っただけよ。
それに今のはあんたが悪い」
「すみません俺が悪かったです、勘弁して下さい」
「フン」
そして二人は、何事も無かったかのように再び走り出した。
なんだかんだ、いいコンビのようである。
「ところでお前、バイトとかしてるのか?」
シャナが唐突にそう聞いてきた。シノンはきょとんとしながら返事をした。
「一応やってるわよ」
「何のバイトをやってるんだ?」
「ファーストフード、学生だからね」
「お前が接客?似合わないな……」
「はぁ?」
シノンは再び立ち止まり、満面の笑顔でシャナに言った。
「いらっしゃいませ、ご注文を承ります!
今ならこちらのセットが大変お得になっているのでお勧めです!」
「あ……じゃ、じゃあそれで」
うっかりそう言った後、シャナはハッとした顔でシノンを見つめた。
シノンは営業スマイルをやめ、勝ち誇った顔で、シャナをニヤニヤと見つめていた。
シャナは何か言われる前にと思い、サラッと話題を変えた。
「い、いやな、バイトの事を聞いたのは、色々誘っちまってるから、
お前がつらくないかなって思ってな」
シャナのその言葉に対し、シノンは気を遣わせてしまうかなと少し悩みながらも、
正直にこう答えた。
「ああ、うん、確かに収入はちょっと減っちゃうかもしれないわね……
でも大丈夫、特に困ってる訳じゃないから」
「そうか……しかしな」
「本当に大丈夫だって。もし直接お金を渡そうなんて考えてるなら、また殴るわよ」
「さすがにそんな失礼な事はしない。でもな……あ、そうか、ちょっと待っててくれ」
シャナは何か思いついたのか、どこかへメッセージを送り始めた。
どうやら直ぐに返事が来たらしく、シャナはそれを確認すると、
うんうんと頷きながら、周囲に人がいないかきょろきょろと辺りを見回した。
何人か通行人がいた為、シャナはシノンの腕を掴んでこう言った。
「ここは人目が多い、シノン、ちょっとこっちに来てくれ」
「あっ、ちょっと!」
そして二人が移動したのは、人が二人で並んで歩くのもつらいような狭い路地だった。
当然かなり窮屈で、二人の距離がかなり近かった為、シノンはドキドキしていた。
「ふう、ここなら人目にはつかないな。おいシノン、今いいか?」
「えっ……」
シノンの頭の中で、その『今いいか?』という言葉がぐるぐる回っていた。
そしてシノンは、顔を真っ赤にしながらこう言った。
「う、うん、いいよ」
そしてシノンは、シャナの頭にそっと手を回すと、目をつぶり、顔を少し上げた。
シャナはシノンが何か勘違いをしている事を悟り、慌ててシノンに言った。
「ち、違う、落ち着け、なぁシノン、お前、うちでバイトをしてみないか?」
それを聞いたシノンは目を開け、一瞬きょとんとした顔をすると、
自分の勘違いを悟ったらしく、顔を真っ赤にして下を向きながら、シャナに尋ねた。
「うちって……まさかソレイユ?」
「ああ、しかもアミュスフィアを使うから、自宅で働く事が可能だ。
通信費は全額うちでもつ。時間は大体一日二時間くらいで、週何日でもオーケーだ」
その破格の条件に、シノンは恥ずかしさも忘れ、驚いた様子で顔を上げた。
「本当に?一日二時間……週五日働けば、月に四万弱、それぐらいなら何とか……」
「ん?どんな計算だよ」
「え?えっと、時給九百円で計算してみたけど、もっと安かった?」
「はぁ?ちょっと耳を貸せ、この仕事の時給はな……」
シャナはシノンの耳元で、とある数字を囁いた。
「ふむふむ……えっ、さ、三千……嘘、高すぎない?それなら週三日でも……」
「まあ何日働くかは、好きにするといい」
「是非やらせて下さい、お願いします!」
「おう、それじゃあロザリアに話しとくわ」
そして路地から出た瞬間、目の前にシズカ達三人がいた。
どうやら無事にイコマと合流し、戻ってきたらしい。
イコマは困ったように愛想笑いをしており、
ピトフーイは、ずるいずるいとぴょんぴょん跳ねていた。
そしてシズカは腕を組み、仁王立ちしたままシャナに言った。
「シャナ、そんな狭い路地で二人きりで、一体何をしていたのかな?かな?」
「ち、違う、誤解だシズ、俺の話を聞いてくれ」
「シノノン、一体何があったの?」
シノンは、その質問に対し、おどおどしたそぶりでシズカに言った。
「その……いきなりシャナに、連れ込まれて……」
「こ、この裏切り者!」
「フン、私におかしな期待をさせた罰よ」
「それはお前が勝手に……」
「シャナ、とりあえず正座」
「う……わ、分かった……」
そして誤解が解けるまで、シャナはその場に正座をし続けたのであった。