ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

250 / 1227
2018/03/01 句読点や細かい部分を修正


第249話 二人は仲良し

「ねぇ、仲間ってどういう事?」

「その前に、ちょっと端の方に移動しようぜ、さすがにここだとちょっとな」

「それもそうね」

 

 シノンはきょろきょろと辺りを見回し、少し先に丁度いいベンチがあるのを見つけた。

 

「あそこがいいんじゃない?」

「そうだな、それじゃあ……」

 

 そう言って、何とか立ち上がろうとするシャナを、シノンがひょいっと持ち上げた。

いわゆるお姫様抱っこである。さすがはSTRタイプのシノンと言うべきであろう。

まあ問題はそこでは無いのだが。

 

「うおっ……お、おい、大丈夫だ、自分で歩けるから」

 

 今はまだ周囲に誰もいなかったが、シャナはいつ誰が来るか分からないので、

焦った口調でシノンに言った。だがシノンはそれには取り合わず、

そのままベンチに腰掛け、シャナに膝枕をすると、こう言った。

 

「フン、この間の仕返しよ。あれから私が、学校でどれほど質問攻めにあったと思ってるの?

次の日は本当に大変だったんだからね」

「す、すまん……」

「まったく、さすがにあそこまでやられると、さすがにただの友達ですとは言えないし、

仕方ないから……その……」

 

 シャナは、シノンがどういう言い訳をしたのか何となく察し、安心させるように言った。

 

「大丈夫、俺がもうお前の学校に行かなければ、それで問題は無い。

お前が友達にどんな説明をしていようが、まったく問題は無い」

「え……」

「え?」

 

 シノンは口をパクパクさせながら、怪しげな挙動をしていたが、

やがて言うべき事が決まったのか、何とか言葉を続けた。

 

「え、遠藤達は、あれから一切私に近寄らなくなったわ」

「そうか、それなら良かった。まあまた近付いてきたら、今度こそ本当に、

あいつの親は終わりになるかもしれないけどな」

「で、でも、かっ……彼氏って事の信憑性に疑問を持たれるかもしれないから、

たまに、むか、迎えに来てくれれば、その辺りも安心なんじゃないかしら」

「ん、別に平気じゃないか?圧力がかかったのは本当なんだしな」

「何よ、嫌なの?」

 

 そのシャナの言葉を聞いたシノンは、じろっとシャナを睨んだ。

その視線の圧力に抗えず、シャナはこう言わざるを得なかった。

 

「わ、分かった、たまにな……」

「うん、それならよろしい」

「お、おう、ありがとな……」

 

 シャナは、何故自分がお礼を言っているのか、理不尽さを感じていたが、

シノンは、もうこの話は終わりだと言わんばかりに慌てて話題を変えた。

 

「で、仲間ってどういう事?」

「おう、実はな、今俺達は京都にいるんだが、そこで偶然昔の仲間に再会したんだよ。

で、そいつをうちのチームの専属職人として、迎え入れる事にしたんでな、

今から待ち合わせ場所に向かおうとしてたって訳だ」

「専属の職人さんね、うん、いいんじゃない?」

 

 その話を聞いて、シノンが嬉しそうな顔をしたので、

シャナは、イコマの加入は問題無く受け入れられそうだと安心した。

 

「実はそいつは、アミュスフィアに視界がうまく適合しなくて、

遠近感があいまいになっちまうみたいでな、

なので今回は、専属職人としてオファーを出した訳なんだが、

やっぱりある程度レベルを上げて経験を稼がないと、ステータスとか足りないだろ?

だからシノンにも、そのレベル上げの手伝いを、たまにでもいいから頼めないか?」

「もちろん構わないわよ」

「そうか、ありがとな」

 

 そしてシノンは、わくわくした口調でこう言った。

 

「職人さんか……うん、頑張ってレベルを上げてもらって、いずれ私の武器も……」

「そうだな、射程を延ばしたりも出来るだろうし、

今よりも強くなれるのは間違いないだろうな」

「でしょでしょ?あはっ、夢が広がるね、シャナ」

「あ、ああ」

 

 シノンが無邪気にそう言いながら、シャナの顔を覗き込んできたので、

シャナは、その顔の近さにどぎまぎしながらそれに同意した。

その頃には普通に立ちあがれるようになっていた為、シャナはそのまま立ち上がり、

シノンは残念そうな顔をしつつも一緒に立ち上がった。

 

「よし、それじゃあ向かうか」

「うん」

 

 そして二人は待ち合わせ場所に向かう事になったのだが、

その時シャナが、思いついたようにシノンに言った。

 

「そういえば、京都のお土産は何がいい?何か希望はあるか?」

「う~ん、京都かぁ……私あんまり詳しくないからなぁ……

でもそうね、何か身に付けられる物がいいかな」

「え、お前は絶対食べ物を頼むと思ってたんだが……」

「あんたの中で、私はどれだけ食いしん坊なのよ!」

 

 シノンは即座にそう抗議したのだが、シャナは首を振りながらその意図を説明した。

 

「違う違う、お前は一人暮らしだろ?だったらおかずとかにも出来る名物とかの方が、

喜ぶんじゃないかって、そう思ったんだよ」

「あ、そっか、そこまで考えてくれてたんだ、気付かなくてごめんね」

「いや、まあおみやげなんだし、やっぱり本人が喜ぶ物の方がいいからな、

何でも好きな物を頼んでくれ」

「待って、今検討するから」

「お、おう」

 

 そしてシノンは真剣な表情で、ぶつぶつと何か呟き始めた。

 

「食べ物を頼んで、届けてもらうという名目でまた家に上がってもらう?うん、ありね。

一緒に食卓を囲むというのは、それが手料理であれば破壊力は抜群のはず。

でもおみやげだと既製品になっちゃうか……ううん、一手間加えるという手もある。

対して装飾品は……学校に行く時にも使える、常に身に纏う物で決まりね。

たまにしかつけないスペシャル感も重要だけど、常に一緒にいるという、

その擬似的な感覚の方が大事よね。さて、どっちにするか……」

 

 そしてシノンは悩みに悩んだ末に、ついに結論を出した。

 

「うん、装飾品で」

「そうか、了解だ。それじゃシズと相談して……」

「相談してもいいけど、最後はあんたが一人で選んでよね」

「……俺はそういうセンスは皆無なんだが」

「死ぬほど悩みなさい」

「分かりました、仰せの通りに……」

 

 シャナは、買い物に行ってから死ぬほど考えようと思い、

とりあえずシノンに、好きな色は何か尋ねた。

 

「なぁ、お前の好きな色って何色だ?」

「好きな色?そうねぇ……う~ん、この髪の色?」

 

 それを聞いたシャナは、ハッとした顔をして、一瞬シノンの足の方に目をやると、

慌ててそちらから目を背けた。だがその姿はシノンにバッチリ見られていた。

シノンは立ち止まり、ぷるぷる震えながらシャナに言った。

 

「……あんた今、変な事を思い出したりしてなかった?」

「き、気のせいだ、違う、別にお前の下着の事なんか……あ」

 

 シャナはその瞬間、すごい速度でバックステップした。

そのシャナの前髪を、シノンの拳が掠めていった。

 

「お、お、お、お前な、今のは明らかに、さっきのボディよりも威力があっただろ!」

「チッ」

「チッ、じゃねーよ、これ以上到着が遅れたらどうする!」

「うるさいわね、ちょっと記憶を飛ばしてやろうと思っただけよ。

それに今のはあんたが悪い」

「すみません俺が悪かったです、勘弁して下さい」

「フン」

 

 そして二人は、何事も無かったかのように再び走り出した。

なんだかんだ、いいコンビのようである。

 

「ところでお前、バイトとかしてるのか?」

 

 シャナが唐突にそう聞いてきた。シノンはきょとんとしながら返事をした。

 

「一応やってるわよ」

「何のバイトをやってるんだ?」

「ファーストフード、学生だからね」

「お前が接客?似合わないな……」

「はぁ?」

 

 シノンは再び立ち止まり、満面の笑顔でシャナに言った。

 

「いらっしゃいませ、ご注文を承ります!

今ならこちらのセットが大変お得になっているのでお勧めです!」

「あ……じゃ、じゃあそれで」

 

 うっかりそう言った後、シャナはハッとした顔でシノンを見つめた。

シノンは営業スマイルをやめ、勝ち誇った顔で、シャナをニヤニヤと見つめていた。

シャナは何か言われる前にと思い、サラッと話題を変えた。

 

「い、いやな、バイトの事を聞いたのは、色々誘っちまってるから、

お前がつらくないかなって思ってな」

 

 シャナのその言葉に対し、シノンは気を遣わせてしまうかなと少し悩みながらも、

正直にこう答えた。

 

「ああ、うん、確かに収入はちょっと減っちゃうかもしれないわね……

でも大丈夫、特に困ってる訳じゃないから」

「そうか……しかしな」

「本当に大丈夫だって。もし直接お金を渡そうなんて考えてるなら、また殴るわよ」

「さすがにそんな失礼な事はしない。でもな……あ、そうか、ちょっと待っててくれ」

 

 シャナは何か思いついたのか、どこかへメッセージを送り始めた。

どうやら直ぐに返事が来たらしく、シャナはそれを確認すると、

うんうんと頷きながら、周囲に人がいないかきょろきょろと辺りを見回した。

何人か通行人がいた為、シャナはシノンの腕を掴んでこう言った。

 

「ここは人目が多い、シノン、ちょっとこっちに来てくれ」

「あっ、ちょっと!」

 

 そして二人が移動したのは、人が二人で並んで歩くのもつらいような狭い路地だった。

当然かなり窮屈で、二人の距離がかなり近かった為、シノンはドキドキしていた。

 

「ふう、ここなら人目にはつかないな。おいシノン、今いいか?」

「えっ……」

 

 シノンの頭の中で、その『今いいか?』という言葉がぐるぐる回っていた。

そしてシノンは、顔を真っ赤にしながらこう言った。

 

「う、うん、いいよ」

 

 そしてシノンは、シャナの頭にそっと手を回すと、目をつぶり、顔を少し上げた。

シャナはシノンが何か勘違いをしている事を悟り、慌ててシノンに言った。

 

「ち、違う、落ち着け、なぁシノン、お前、うちでバイトをしてみないか?」

 

 それを聞いたシノンは目を開け、一瞬きょとんとした顔をすると、

自分の勘違いを悟ったらしく、顔を真っ赤にして下を向きながら、シャナに尋ねた。

 

「うちって……まさかソレイユ?」

「ああ、しかもアミュスフィアを使うから、自宅で働く事が可能だ。

通信費は全額うちでもつ。時間は大体一日二時間くらいで、週何日でもオーケーだ」

 

 その破格の条件に、シノンは恥ずかしさも忘れ、驚いた様子で顔を上げた。

 

「本当に?一日二時間……週五日働けば、月に四万弱、それぐらいなら何とか……」

「ん?どんな計算だよ」

「え?えっと、時給九百円で計算してみたけど、もっと安かった?」

「はぁ?ちょっと耳を貸せ、この仕事の時給はな……」

 

 シャナはシノンの耳元で、とある数字を囁いた。

 

「ふむふむ……えっ、さ、三千……嘘、高すぎない?それなら週三日でも……」

「まあ何日働くかは、好きにするといい」

「是非やらせて下さい、お願いします!」

「おう、それじゃあロザリアに話しとくわ」

 

 そして路地から出た瞬間、目の前にシズカ達三人がいた。

どうやら無事にイコマと合流し、戻ってきたらしい。

イコマは困ったように愛想笑いをしており、

ピトフーイは、ずるいずるいとぴょんぴょん跳ねていた。

そしてシズカは腕を組み、仁王立ちしたままシャナに言った。

 

「シャナ、そんな狭い路地で二人きりで、一体何をしていたのかな?かな?」

「ち、違う、誤解だシズ、俺の話を聞いてくれ」

「シノノン、一体何があったの?」

 

 シノンは、その質問に対し、おどおどしたそぶりでシズカに言った。

 

「その……いきなりシャナに、連れ込まれて……」

「こ、この裏切り者!」

「フン、私におかしな期待をさせた罰よ」

「それはお前が勝手に……」

「シャナ、とりあえず正座」

「う……わ、分かった……」

 

 そして誤解が解けるまで、シャナはその場に正座をし続けたのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。