詩乃が、『はちまんくんをてにいれたぞ!』と雄たけびを上げていた頃、
駒央は、眠りの森へと招かれていた。
実は清盛と知盛も一緒だった為、駒央はかなり緊張していたのだが、
清盛は、駒央が八幡のかつての仲間だったという事を知り、
駒央の事を気に入っていた為、とても好意的に、駒央に接していた。
知盛は、その後の理事長選挙で、満場一致で新理事長に選出され、仕事に追われていたので、
今日は久々にのんびり出来ると、喜んでいた。
「楓、ほら、お爺ちゃんからプレゼントじゃぞ」
「わぁ、お爺ちゃん、ありがとう!」
楓は嬉しそうに、巨大なクマのぬいぐるみを受け取った。
そして駒央は、経子から渡された、事前に送られていた八幡からのプレゼントと、
自分からのプレゼントを、楓に手渡した。
「はい、楓ちゃん、この帽子は八幡お兄ちゃんから、この手袋は、僕からだよ。
楓ちゃんが元気になって、お外で遊べるようになった時、寒くないように使ってね」
「ありがとう、駒お兄ちゃん!楓、早くこれを着けて、お外で遊べるように、
いっぱいいっぱい頑張るね!」
「うん、そうなったら、僕とも一緒に遊んでね」
「うん!八幡お兄ちゃんも一緒なら良かったんだけどなぁ、八幡お兄ちゃん、元気かなあ?」
「大丈夫、八幡お兄ちゃんは、とっても元気だよ」
「そっか、また会えるといいな!」
「うん、またきっと会えるよ、楓ちゃん」
駒央が、楓と目線の高さを合わせて話をしているのを見て、
清盛は、益々駒央の事を気に入った。要するに、楓の婿候補の一人にロックオンしたのだ。
そして家庭的ではあるが、幸せいっぱいなクリスマス会が終わった後、
駒央は、八幡から送られたトナカイの帽子を被り、アイとユウの部屋へと向かった。
「えっと……ごめん下さい」
「あら、あなたは確か……」
アイは、一瞬警戒するような表情を見せたが、相手が駒央だと分かり、警戒を解いた。
アイは以前、駒央がここに来た時の事を覚えており、
駒央の事を、頭の中の、警戒しないでいい人リストに記載していたのだった。
「ユウ、この人は大丈夫よ」
「あ、そうなんだ?」
「ええ、この人は、八幡みたいなタイプの人だからね」
「そっか、それなら大丈夫だね!」
駒央は、そのアイの言葉に、さすがは八幡さんだと、嬉しさを覚えた。
そして駒央は、二人に言った。
「僕は国友駒央だよ、今日は、その八幡さんの使いで来たんだ、
よろしくね、えっと、アイさん、ユウさん」
「あら、私達の事を知ってるのね、八幡の使い?そう、宜しくね、駒央さん、
私は八幡の愛人候補の一人、紺野藍子よ」
「ア、アイ?えっと、えっと……」
ユウは驚き、アイの事を二度見すると、負けじと駒央に言った。
「ボクも八幡の愛人候補の一人、紺野木綿季だよ、宜しく!」
「あ……そ、そう……あはは……」
その二人の言葉を聞いた駒央は、やっぱりさすがです、八幡さんと、
改めて八幡の、別の意味での凄さを実感した。
「で、今日は何の用事なのかしら、そのトナカイの帽子は何?」
「あ、うん、今日はね、八幡さんに頼まれて、
二人に八幡さんからのプレゼントを持ってきたんだ。
僕がトナカイの帽子を被ってきたのは、八幡さんがサンタで、僕はそのお使いだからかな」
「そういう事ね」
「わ、八幡から?やった!」
二人は今日、園内の、他の患者達と一緒にクリスマスを祝ったのだが、
その時は何も聞かなかった為、経子がこのサプライズのために黙っていたのだなと、
改めて気が付いた。そして二人が見守る中、駒央は、タブレット型の端末を取り出し、
それを起動させると、二人に手渡した。
「はい、これ、二人にだって」
「……これは何?」
「何だろ?」
そこには、家のようなものが表示されていた。
「二人がいずれ住む事になる、VRの家だってさ」
「あっ」
「そっか、これって……」
「さあ、画面をタップすれば、そっちに移動出来るから、好きな方向に行ってみて」
そして二人は興味深そうに、画面をタップし、あちこちを探索した。
時々表示される、『!』マークをタップすると、その設備の説明が表示されるようだ。
二人は、そこに自分達が住んでいる光景を想像し、胸を躍らせた。
「で、僕からは、それを立体にした模型をプレゼントするよ」
そう言って駒央が差し出したのは、まさにその画面に映っているのとそっくりな、
素敵な家の模型だった。
「これ、こことここで、分かれるようになってるからね」
その模型は、一階と二階の間取りが上から見れるように、分解出来るようになっていた。
さすがは国友家の息子という事であろう。
「ありがとう、駒央さん」
「こんな凄い模型、ボク初めて見たよ!ありがとう!」
「どういたしまして、それじゃ最後に、八幡さんからのメッセージを再生するね」
次の瞬間に、端末から、八幡の声が流れてきた。
「アイ、ユウ、元気か?こっちの受け入れ準備は、順調に進んでいる。
早くこっちで会えるといいな。後、その端末の左下に、保存って場所があるだろ?
出来るだけ二人の希望に添えるように、その端末は、色々いじれるようになってるから、
二人で話し合って、よりいい家になるように、色々変えてくれ。
そして保存を押せば、その結果はこちらに送られ、すぐに実際の家に反映される。
二人で楽しみながら、色々やってみてくれ。
それじゃあ再会の時を楽しみにしている。メリークリスマス」
そして駒央は、眠りの森を後にし、アイとユウは、消灯時間まで、
飽きもせず、その端末を、とても楽しそうに、二人でいじっていた。
「それではこれより、ヴァルハラ・リゾートの、クリスマスパーティーを開催する」
次の日の夜、ヴァルハラ・ガーデンでは、クリスマスパーティーが行われていた。
このパーティーは、忘年会も兼ねてという事になっていた。
薔薇は、ALO内にはキャラを作っていなかった為、今日この場にはいない。
代わりにゲストとして、即席で作った静のキャラである、サイレントが参加していた。
他にもユージーンと、サクヤとアリシャと、フカ次郎が招かれていた。
ちなみにここにいない唯一のギルドのメンバーの、クリスハイトは、
先日の京都への旅行のせいで、缶詰状態になっている為、不参加だった。自業自得である。
南はいてもおかしくはなかったが、どうやら薔薇が一人なのを知ったらしく、
二人でどこかへ一緒に行っているようで、この場にはいない。
ゴドフリーこと相模自由は、年末は職務が忙しく、今は、相模不自由になっていた。
いずれ機会があったら、顔見知りのキリトと会わせようと、ハチマンは考えていた。
「これがハチマンの、そして、クラインの仲間達という訳だな」
慣れない呼び方に戸惑いながらも、サイレントは、
事前にクラインに言われた通り、プレイヤーネームでの呼び捨てに、何とか対応していた。
「まさか先生と、ゲームの中でこうして会話する事になろうとは、
思ってもいませんでしたけどね」
「ああ、そしてこちらが、君とアスナ君の娘という……」
「ユイです、初めまして、先生!」
「ああ、宜しくな、ユイ君。くっ、かわいい……このまま家に連れて帰りたい……」
「やめて下さいよ先生、うちの娘を誘拐しないで下さい」
「も、もちろんだとも。しかし……くっ……我慢だ我慢」
サイレントは、ユイの頭を撫でながら、何とか葛藤を克服し、話題を変え、こう言った。
「しかし何というか、体が軽い気がするな。随分と若返ったような、そんな気がする」
「そりゃあ、先生ももう、三……おっと」
その瞬間に、恐るべきスピードで放たれたサイレントの拳を、
しかしハチマンは、あっさりと受け止めた。
「くっ……まさか受け止められるとは……」
「まあここは、俺のホームみたいなものですからね、
さすがにこっちじゃ、攻撃はくらいません」
「パパ、さすがです!」
そしてサイレントは、悔しさを滲ませながらも、感心したように、ハチマンに言った。
「くっ、君は本当に強くなったな」
「初めて先生のパンチを止められましたね」
「まったく、君の成長には驚かされるよ。私もこっちで鍛え直したいくらいだが、
仕事の方が忙しくてな……ほら私、結婚秒読みで、仕事もデキる女だから!」
「あ……はい、そうですね、本当に残念です」
その残念ですを、当然サイレントは、一緒に遊べなくて残念ですととらえたのだが、
ハチマンはその言葉に、別の意味を込めていた。そしてそんな二人を見つめる者がいた。
「なぁユキノ、あの二人、昔からいつもああだったのか?」
「そうね、いつもはハチマン君が、あの鉄拳制裁をくらって、悶絶していたのだけれど、
今日初めて、あのパンチを止める事に成功みたいね、クラインさん」
「俺、あのパンチを止められる自信がねーわ……」
「ふふっ、まあ、先生を怒らせないように、気を付ける事ね」
他にもあちこちで、様々な会話が繰り広げられていた。
「ねぇリーファちゃん、妹的なキャラって、やっぱり色々恋愛には不利なのかな……」
「私も最近、たまにそう思う時があるんだよね……ねぇイロハ、実際どうなの?」
「先輩には、確かに妹属性は有効かも。でもそれは、恋愛感情には結びつかないっていうか、
まあ私がそれで、玉砕してるからなんだけど、世間一般だと、ん~、やっぱり不利かもね」
「あ、やっぱりそうなんですね……」
「シリカ、こうなったら私達も、大人の女を目指すしかないね!」
「ねぇメビウス、いつこっちに帰ってくるの?」
「もうすぐそっちに戻る予定ですよ、ソレイユ先輩」
「あ、そうなの?それじゃそのまま、うちに就職する?」
「う~ん、でも、私が専攻してる薬学関係って、あそこの業務と関係無くないですか?」
「それがそうでも無いのよねぇ、アルゴちゃん、説明宜しく」
「あいよ、ボス。それじゃオレっちから説明するゾ」
「キリト、今度はいつ勝負する?」
「お前は会うと、いつもそればっかりだな、ユージーン」
「サラマンダーストライクという、必殺技を考えついたのでな、一度試したい」
「実験台かよ!まあいいぜ、いつにする?」
「サクヤちゃん、私達、もうすっかりヴァルハラの一員みたいになってるね」
「そうだなアリシャ、まあここの連中は楽しいから、それもまた良しだ」
「いっそ、後任に領主の座を譲っちゃう?」
「そうだな、まあ、いずれな」
「エギルさん、僕に是非、恋の成就のさせ方を教えて下さい……」
「おい、何で俺に聞くんだよ、レコン……」
「だってエギルさん、妻帯者じゃないですか」
「確かにそうだがな、う~ん、ハチマンみたいになれば、どんな恋も楽勝なんじゃないか?」
「それはハードルが高すぎです!」
「ユイユイ、あーし思ったんだけど、今年のお正月、たまには昔の三人で集まってみるし」
「あ、そうだね、たまには三人で集まろっか!」
「そういえば姫菜のあの病気、昔より悪化してるけど、ユイユイは平気?」
「うん、あたしもそういうの、かなり分かるようになったから大丈夫。
まあ分かるだけで、その道に足を踏み込む気は無いけどね」
「アスナさん、私、こんな所にいて、場違いじゃないですかね?」
「フカちゃん、大丈夫だよ、ハチマン君に呼ばれたんでしょ?
だったら、もっと自信を持っていいと思うな」
「確かにハチマンさんに声を掛けられた時は、天にも昇る心地で、
そのせいでアミュスフィアのセーフティが働いて、落とされましたけど……」
「あはははは、フカちゃん、最近どんどん強くなってるじゃない、
だから今は気にせず、後の加入に備えて、この雰囲気を楽しめばいいんじゃないかな」
「リズ、ちょっと頼みがあるのだが、聞いてもらえるだろうか」
「ん、キズメル、どうしたの?私に何か用?」
「実は、私もそろそろ、自分に合った武器が欲しいと思ってな」
「あ、そういう事!それならこの私に任せなさい!」
そして、皆が会話と料理とケーキを楽しんだ後、
このパーティーも滞りなく終わり、八幡の締めの言葉によって、
この年のギルドの活動は、少し早いが、一応終わりという事になったのだった。
その日の夜は、詩乃達も、詩乃の家に集まり、クリスマスパーティーを行っていた。
要するにそれは、今日集まった、詩乃、映子、美衣、椎奈の誰にも、
特定の相手がいない事を意味するのだが、
今は四人で遊ぶのが楽しかった為、その話題については、一言も出る事は無かった。
その代わりに話題とされたのは、やはり八幡と詩乃の事であった。
「詩乃っち、王子とは、最近どうなの?」
「あ、うん、まあ、ぼちぼちかなぁ」
「何その煮え切らない言葉、何かいい事とか無かったの?」
「いい事……」
詩乃はそう言われ、つい、はちまんくんの方を見てしまった。
それに目聡く気付いた椎奈が、枕の隣に何気なく置かれていた、はちまんくんに気が付いた。
「ねぇ詩乃、これってもしかして、王子?」
「あっ……う、ううん、この間たまたま見つけて、似てるなって思って、
何となく買ってみたの」
「おうおう、乙女してるねぇ。って、このスイッチは何?」
「あっ、駄目!」
その詩乃の制止も間に合わず、椎奈は、はちまんくんのスイッチを入れた。
その瞬間に、はちまんくんが動き出し、ぴょこぴょこと歩き始めた。
「えっ?何これ?動くの?」
「うわ、凄い!でもこれ、高かったんじゃない?」
「うん、見るからに高そう」
「あ……えと……」
言い淀む詩乃を見て、怪しいと思ったのか、三人は、詩乃に詰め寄った。
「何?何か秘密でもあるの?」
「うりうり、私達に白状してごらん?」
「もしかして、いつもこの人形の事を、王子の名前で呼んでたり?」
幸い、その三人の言葉は、はちまんくんに対する呼びかけではなかった為、
自分が話し掛けられたのではないと判断したはちまんくんは、何も喋る事は無かった。
詩乃はほっとしつつも、三人に詰め寄られ、うっかりその名前を口にしてしまった。
「べ、別に私は、はちまんくんに話し掛けてなんか……あっ」
その詩乃の言葉を聞き、三人は、ニヤリと笑った。
「今、はちまんくんって言った?」
「この子の名前ははちまんくんか、そっかぁ」
「はちまんくん、宜しくね!」
『おう、宜しくな』
突然部屋に、八幡の声が響き渡り、場はシンと静まった。
三人が、驚いた顔ではちまんくんの方を見ると、
はちまんくんは、椎奈の方に、ふりふりと手を振っていた。
三人は、ぎぎぎぎぎと音を立てながら、ゆっくり詩乃の方に振り向いた。
詩乃は、冷や汗をだらだらとたらしながら、どう言い訳しようか必死に考えていた。
「そ、その……これはそう、腹話術、腹話術なの、上手だったでしょ?」
「詩乃っち、それは無いわぁ……」
「うん、その言い訳は、さすがにどうかと……」
「まあ、試してみればいいよね、はちまんくん、元気?」
『おう、まあ、元気と言えない事もないな』
「「「やっぱり」」」
「あ……う……」
そして詩乃は、羞恥にもだえながらも、三人とはちまんくんとのやり取りを、
ただ聞いている事しか出来なかった。
「はちまんくん、私達の中で、誰が一番好き?」
『そんなの詩乃に決まってるだろ』
「はちまんくん、詩乃の事、どう思ってるの?」
『もちろん大切に決まってる』
「はちまんくん、もしかして、詩乃と一緒に寝てるの?」
『ああ、ここに来たのは昨日だが、昨日は確かに一緒に寝たぞ』
その次々と繰り出される恥ずかしい質問と、その答えの数々を受け、
詩乃はぷるぷると、耐える事しか出来なかった。
そんな詩乃を見て、さすがにやりすぎたと思ったのか、三人は、詩乃に謝り始めた。
「ごめん詩乃っち、楽しすぎて、ちょっとやりすぎたかも……」
「ごめん詩乃、明日スイーツ奢るからさ、ごめんね?ね?」
「この事は、もちろん誰にも言わないから、ごめん!」
詩乃はまだ、顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えていたが、その詩乃の状態を、
状態異常だと判断したのか、はちまんくんが、とことこと、詩乃の方へと歩き出した。
詩乃は、そんなはちまんくんを見るのは初めてだったので、
少し驚きながら、はちまんくんの方を見た。
はちまんくんは、そんな詩乃の膝をぽんぽんと叩いた後、こう言った。
「俺は高校の時、同性の友達ってほとんどいなかったから、お前が羨ましいよ、詩乃。
いい友達を持ったな、友達は大切にしろよ」
詩乃だけではなく、他の三人も、その言葉にぽかんとした。
「ちょ、ちょっとこの子、頭が良すぎじゃない?」
「噂に聞く、高性能AIって奴?しかも動くし……」
「詩乃、本当にこれ、どうしたの?」
「う、うん……実は昨日、内輪でクリスマスパーティーをやったんだけど、
その時に、ビンゴの景品だって言って、ソレイユの社長さんがくれた物みたい」
「社長自ら?まさかこれ、マジもんのハイテクの塊って奴?」
「本当にいくらするのよこれ」
「これを、もらったとか……あんたの周りは一体どうなってんのよ!」
「う、うん……私も今、改めてそう思った……」
そして三人は、詩乃が困るような事を聞くのはやめ、
はちまんくんと、色々な会話を楽しみ始めた。詩乃もそれで調子を取り戻したのか、
一緒になって、はちまんくんに、色々な質問をした。
はちまんくんは、恐ろしく博学であり、四人の知らない事を、たくさん知っていた。
そして四人は、飽きる事無くはちまんくんと一緒に朝まで遊んでしまい、
次の日は、昼まで爆睡する事になってしまったのだった。
雑魚寝する四人の真ん中に、はちまんくんがいた事は、言うまでもない。