ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第289話 認められる嬉しさ

「初めまして、私はユイです、パパとママの娘です!」

「私はキズメルだ、二人の古い戦友で、ハチマンの嫁のような扱いになるのだろうか」

「むっ……娘!?嫁!?」

「この二人は高度なAIが搭載されたNPCなのよ、シノン」

「もっとも誰もNPCだとは思っていないけどな、二人は立派な俺達の仲間だ」

「嘘……全然そんな風には見えない」

「本当ですよ、ほら」

 

 そして二人は頷き合うと、妖精形態へと姿を変えた。

それを見たシノンは、やっと二人がNPCだと実感した。

そしてユイはそのままシノンの肩に、キズメルはハチマンの肩に座った。

 

「ALOってこんなに凄いんだ……」

 

 シノンは指一本でユイと遊びながらそう言った。

 

「いや、この二人はちょっと特殊でな、他のギルドにはハウスメイドNPCはいるが、

こういった自立型のNPCは存在しない」

「そうなの?」

「ああ、実はな……」

 

 そしてハチマンは、シノンに二人の出自を説明した。

 

「そんな事が……」

「ああ、だからもし誰もいない時でも、必ずここにはこの二人がいて、

お前を出迎えてくれるはずだ」

「そっか……それって凄く嬉しい事だね」

「シノンさん、ここでお待ちしていますね」

「分からない事があったら何でも聞いてくれ」

「ありがとう二人とも」

 

 シノンは二人にそう微笑んだ後、こう言った。

 

「でも私が正式にここにお世話になるのは、

GGOでたまに開催される、BoBって大会で優勝した後になるんだけどね」

「あ、パパが他の人に内緒でコッソリプレイしているゲームですね!」

「コッソリ……な。ユイ、他の奴らにはまだバレていないよな?」

「はい、大丈夫だと思います」

「そうか、今はまだそれでいい」

 

 ハチマンがそう言った後、ユイは改めてシノンにこう言った。

 

「それでは言い直しますね、いつまでもここでシノンさんが来るのをお待ちしていますね」

「そうだな、いつまでもここで待っているよ、シノン」

「う、うん、必ずまたここに戻ってくるから、待っててね、ユイちゃん、キズメル」

 

 その二人の言葉に、シノンはとても嬉しそうにそう言った。

 

「ところでシノノンは、やっぱりこっちでも遠隔攻撃主体になるのかな?」

「そうね……正直剣の扱いは自信が無いから、その方が良さそうね」

「それじゃあハチマン君、誰も使ってない、アレをあげればいいんじゃないかな?」

「そうだな、そうするか」

 

 そしてハチマンは、武器を陳列してある部屋にシノンを連れていき、

豪華な意匠の施された弓を手に取り、シノンに渡した。

 

「握った感じはどうだ?」

「弓を持つのは初めてだけど、特に違和感は無いかな」

「そうか、よし、外の闘技場に行くぞ」

 

 そしてハチマンは、闘技場で弓の説明を始めた。

 

「この弓は、無矢の弓という魔法の弓でな、矢はお前の魔力によって無限に供給される。

その分威力は普通の矢を放つものよりも若干落ちるが、

その代わりに、特殊な機能を持つ矢を放つ事が可能だ」

 

 そう言ってハチマンは何か呪文を呟いた後、弓を構えた。

その矢は三本に増えており、ハチマンはその矢を射た。

 

「このように、矢を三本に増やす事が可能だ」

「なるほど」

 

 次にハチマンはアスナを前に立たせると、再び呪文を唱え、アスナに向かって矢を放った。

その矢はアスナの腕に命中し、そのまま一本のロープのようになった。

ハチマンがそのロープが繋がったままの弓を引っ張ると、アスナの腕も引っ張られた。

 

「こんな感じで相手の体にくっ付けて、バランスを崩したりする事が可能だ」

 

 最後にハチマンは、再び別の呪文を唱え、弓を構えた。

その目の前に現れた光の矢がどんどん大きくなっていく。

そしてハチマンは、その巨大な矢を発射した。

 

「まあ威力が大きさで変わる訳じゃないんだが、命中率を上げる為なんだろうかな、

一箇所でも当たれば、そのダメージは全て敵にいくようだ」

「面白い武器ね、大きさとか威力は、使った魔力に依存?」

「俺が検証した感じだと、まあそんな感じだな」

「なるほど、最終装備にはなりえないんだろうけど、面白い武器ね」

「どうだ?まあ直ぐじゃなくてもいいんだが、使いこなせそうか?」

「ちょっと練習してもいい?」

「おう、好きなだけ練習してくれ」

 

 そしてシノンは、試行錯誤しながら無矢の弓を使いこなす練習を始めた。

そして少し後、入り口から一人のプレイヤーが入ってきて、

シノンの練習を見学していた一同に声を掛けた。

 

「頼も~う!かわいいフカ次郎ちゃんが、また勇ましく挑戦に来ましたよ!」

「あっ、フカちゃんだ!」

「おおうアスナの姉御、何か久しぶり!」

「頑張ってるみたいだなフカ、あれからかなり腕を上げたみたいだな」

「ハ、ハチマンさん!はい、フカちゃんはいつもあなたのお傍に仕える為に頑張ってますよ!

そんな私の頑張りに、そろそろ惚れちゃってもいいんですよ!むしろお願いします!」

「相変わらずだなお前」

「そんな変わらない君が大好きだと?愛人でもいいんで是非私をその末席に!」

「お前本当に自分の欲望に忠実だよな……」

 

 ハチマンは苦笑し、他の者もそれに釣られて同じように苦笑した。

だがフカ次郎の明るさは、皆好ましく思っていた。

 

「あれ?」

 

 そしてフカ次郎は、弓の練習をしているシノンに気が付き、そんな声を上げた。

 

「え~っと、あの見覚えの無い方はどちら様で?」

「ああ、あいつは今度うちに加入したシノンだ」

「な、ななな何ですと!?私を差し置いて入団テストを乗り越えた強者が!?」

「いや、あいつはお前と違って入団テストは受けていない、というか必要ない」

「何と!?そ、それは一体どういう……」

「まあ、リアルでの知り合いだって事だ」

「あ~!」

 

 そしてフカ次郎は、何事かブツブツと呟き出した。

 

「リアル知り合いの優位性……学校をサボって明日の朝一でコヒーの家に向かって、

その流れでハチマンさんと何とか会えるようにお願いして、

そのまま無理やり既成事実を……うん、私の魅力を持ってすればいける気がする」

「コヒーってのが何の事かは知らないが、どう考えてもいけないからな」

「やっぱり無理デスヨネ……あ、ちなみにコヒーは私の友達でっす!

スラッとしたモデルみたいな長身の美人なのに、コンプレックスが凄いんです!」

「ん、大学で遭遇した人に似てるな」

「お?お?そ、それは一体どこで……」

「えっと確か……」

 

 そしてハチマンは、昼に訪れた大学の名前を告げ、その女性の特徴をフカ次郎に告げた。

 

「そ、それは正しく我が友コヒーじゃないですか!」

「そうなのか?世間は狭いって本当なんだな。それじゃあお前からも、

気にしすぎですって伝えてやってくれ。何なら本当に美人ですよって言ってくれてもいい」

「ハチマン君……」

「あなたね……」

「コヒーよりも私に、私にその言葉を!」

 

 そんなハチマンに、アスナとユキノから総攻撃が加えられた。

フカ次郎だけは若干違う趣旨の言葉を言っていたが、まあそれはいつもの事だった。

 

「いや、まあ適当に意訳して、褒めてたってだけでいいぞ。

何か本当に身長にコンプレックスを感じているように見えたんで、心が少し痛んでな」

「心が……ね。それならまあ仕方ないかな」

「そうね、人助けはこの男のライフワークですからね」

「そんなのをライフワークにした覚えはねえよ」

 

 そしてハチマンは、フカ次郎に向き直った。

 

「話が反れちまったが、お前はそんな楽な方に逃げる奴じゃないだろ?

実力を俺達に認められて入団したいって思ってる、根性のある奴だ」

「ハ、ハチマンさん……やっぱり私の事を……」

 

 そのハチマンの言葉に、フカ次郎は感動した様子でそう言った。

 

「私の事をというのが、どういう意味で言ってるのかは分からないが、

お前の頑張りはちゃんと評価しているぞ。正直今直ぐに入団を許可してもいいんだが、

それだとお前の気が済まないだろ?」

「えっ……?私は別にそれでもまったく構わないけど……」

「それだとお前の気が済まないだろ?」

「あ、いや、くそー、こうなったらもうヤケだ!ですです、気が済まないです!」

「当然そうだよな。よし、たまには俺が相手をしてやろう、おいシノン、選手交代だ」

「どうかしたの?あれ、そちらの方は……」

 

 シノンはこちらに戻ってくると、フカ次郎の顔を見ながら言った。

 

「この子が、今入団テストを受けているフカ次郎さんよ」

「ああ!」

「どもども、フカ次郎だよ!いや~、それにしてもお姉さん可愛いね……じゅるっ」

「なっ……」

「その可愛らしい猫耳、ちょっと触らせて?」

「駄目よ、この猫耳は私の物よ!」

 

 ユキノが突然横からそう言い、つかつかとシノンに近付くと、

楽しそうにその猫耳を撫で始めた。フカ次郎も対抗するように、

反対側からシノンの猫耳をもふもふし始めた。

 

「お前らな……」

「し、仕方ないじゃない、この猫耳が私を誘うのよ!」

「いや~最高っすなぁ……もふもふっすなぁ……」

「え、えっと……」

「おいフカ、お前はさっさとこっちに来い」

「あっ、ちょ、ま、もっともふもふを!私にもっともふもふを!」

 

 そのままフカ次郎はハチマンに連行され、ユキノはシノンの猫耳を独占する形となった。

 

「他のケットシーの人達も、いつもこんな目にあってるの?」

「ううん、皆上手く逃げてるから、多分猫耳に飢えてたんじゃないかな……」

「そ、そう……まあ頭を撫でられてるのと変わらないから別にいいんだけど……」

 

 シノンはアスナにそう言うと、興味深そうにハチマンとフカ次郎に目をやった。

 

「さて、いつでもいいぞ、かかってこい」

「よ~し、フカ次郎、行きまっす!」

 

 ハチマンは、右手にだけ短剣を持ち、フカ次郎に言った。

そしてフカ次郎は、フェイントを織り交ぜつつハチマンに突撃した。

ハチマンは冷静にそれを見切りながら、逆に先回りしてフカ次郎の武器を弾いた。

 

「なっ……」

「お前のフェイントは素直すぎる。踏み込む足の角度や、目線にも気を遣え」

「了解!」

 

 そして何合か斬り合った後、ハチマンはカウンターでフカ次郎の腕を斬り飛ばした。

 

「武器は左右どちらでも使えるようにしておけよ。片腕を斬られた時に対応出来るからな」

「うわぁん、片腕を斬った後に言われた!」

「馬鹿野郎、基本だ基本。うちのメンバーは全員出来るぞ」

「うう、努力はしてるよ!」

 

 そう言ってフカ次郎は、ハチマンの不意をつくように、残った手でいきなり攻撃した。

だがその攻撃も、ハチマンにあっさりと弾かれた。

 

「おっ、使えない振りをしていたのか、中々いいぞ」

「とか言ってあっさりカウンターを決めるとか、ハチマンさん鬼!」

「まあ攻撃可能な体の動きをしていたからな」

「普通そんなの分かんないでしょ……」

 

 そして斬られた腕が復活した後、フカ次郎はキッとハチマンを睨みつけ、

雄たけびを上げながらハチマンに突撃した。

 

「おおおおおおおおお!!!」

「お?」

 

 ハチマンは目を見開くと迎撃体制をとり、フカ次郎の剣を持っていた右腕を斬り飛ばした。

その瞬間にフカ次郎は残った左手で、剣を掴んだままの右腕を持ち、

そのまま渾身の力を込めてハチマンに叩きつけた。

次の瞬間、ガッという音と共に、いつの間に取り出したのか、

ハチマンの左手に握られていた短剣が、その攻撃を受け止めた。

 

「くそー!届かなかったー!」

 

 それで力尽きたのか、フカ次郎は地面に大の字に倒れ込み、ハチマンに言った。

 

「もうどうとでもしやがれ!でも出来れば痛いのじゃなく、えっちなのでお願いします!」

 

 ハチマンはそのフカ次郎の言葉を当然無視し、アスナ達の方に歩み寄った。

 

「最後のは弾けなかったのかしら?弾かなかったのかしら?」

「弾けなかったな、いい攻撃だった。どうだ、そろそろいいか?」

「そうだね、そろそろいいんじゃないかな?ユキノはどう思う?」

「異論は無いわ」

「分かった。おいフカ次郎」

「はいは~い、早く止めを刺しちゃって!子作りなら尚更大歓迎!」

「お前、合格」

「はい?」

「だから、合格」

「まじで?」

「まじだ」

「まじまじで?」

「しつこいな、やっぱりやめ……」

 

 その瞬間にフカ次郎は立ち上がり、凄い勢いでハチマンに抱き付くと、本気で泣き出した。

 

「うわぁん、ハチマンさん、愛してますぅ!」

「俺はまったく愛してないが、まあ良かったな、フカ」

「そんな冷たい所も愛してますぅ!」

「お前、他の奴が相手だったとしても、多分同じ事を言ってるよな」

「完全にバレバレだけど、でも愛してますぅ!」

「うぜえ……」

 

 そしてアスナとユキノも駆け寄ってくると、口々にフカ次郎を祝福した。

 

「おめでとうフカさん。ついに正式メンバーね」

「あ、ありがとう!」

「お祝いをしなくちゃね、フカ」

「せ、盛大にお願い!」

 

 そんな盛り上がるメンバーの姿を見て、どうやら我慢出来なくなったのか、

突然シノンがこう言い出した。

 

「わ、私もやる!」

「やるって……何をだ?」

「入団テスト!」

「お、おう……別に構わないが」

「条件は?」

「俺かアスナに一発当てる事だな」

「分かった、任せて!それじゃハチマンが相手で!」

 

 シノンは鼻息も荒くそう言った。そして一同が見守る中、シノンは弓を構えると、

全魔力を一気に弓に込め、巨大な矢を生み出した。

 

「なっ……」

「行くわよ!」

「ちょ、ちょっと待て、それは反則だろ!」

「男がぐだぐだとつまらない言い訳をするんじゃないわよ!」

 

 そしてシノンはその巨大な矢を発射し、大きさに全ての魔力をつぎ込んだ為か、

ダメージこそそれほどくらわなかったが、

当然避け切れなかったハチマンは、確実にその体に一撃をくらった。

 

「命中?」

「……確かに命中したな」

「やった!」

「な、何ですとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 フカ次郎はその結末に絶叫した。

 

「完全に作戦勝ちね」

「まあそもそもあれ、ハチマン君があげた弓なんだけどね」

「そういう意味じゃ、彼は自分に負けた訳ね」

「うぅ……」

 

 少し落ち込んだ様子を見せるフカ次郎に、シノンが駆け寄って抱き付いた。

 

「おほ?」

「ごめんねフカ、思いっきり反則だと思うけど、

でもどうしても、私だけが無試験で入団するのが嫌だったの。

私の正式入団は当分先になるんだけど、その時が来たら、仲間として宜しくね!」

「そ、そうなの?でもその気持ちはとても嬉しいよ!

その時までここでずっと、シノンが来るのを待ってるよ!」

「フカ!」

「シノン!」

 

 そして二人は固く抱き合い、再会を約束し合った。

ちなみにフカ次郎は、さりげなくシノンの耳をもふもふしていた。そんな二人の再会は、

丁度シノンと入れ替わる形でフカ次郎が一時的にGGOにコンバートした為、

GGOでという事になるのだが、それは遥か未来の話である。


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