ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第302話 それは最高の褒め言葉です

「その剣は、シズカのがカゲミツG1、ベンケイのがG2、ピトフーイのがG3と、

一応固有名が付けられているんだが、プレイヤーメイドな為、

それとは別に名前を付ける事が可能らしい。もしそうしたいなら、各自で考えておいてくれ」

 

 ちなみにその名前は後に、シズカのG1は夜桜、ベンケイのG2は白銀、

そしてピトフーイのG3は鬼哭と名付けられた。

 

「さて、次にその剣の機能について説明する。

鍔にあたる部分にスライドする所があり、その中にスイッチがいくつかついているはずだ。

ピト、絶対にまだ触るなよ、お前が一番危ない」

「もう~、分かってるよぉ」

 

 その言葉を聞いた一同は、その部分をスライドさせた。

 

 「それじゃあ武器をこう前に出して、一番上のスイッチを押してみてくれ。

分かりやすく言うと、拳を前に突き出す感じだな」

 

 三人がそのボタンを押した瞬間、左方向に光の刃が現れた。

 

「その刃の色は変えられるそうだ、変えたかったら後で各自、イコマに頼むように」

 

 その言葉で三人は、どんな色にしようかと楽しそうに考え始めた。

後日決まったその色は、シズカがピンク、ベンケイが銀色、ピトフーイは赤だった。

 

「よし、その体制のまま次のボタンを押してくれ」

 

 そして三人が次のボタンを押した瞬間、刃は消え、剣の柄の部分から別の刃が飛び出した。

 

「わっ」

「び、びっくりした……」

「凄い凄い!でもこれ、両方から同時に刃を出す事は出来ないの?」

「残念ながら、そうすると出力がガタ落ちになってしまうようでな」

 

 ピトフーイの疑問に、シャナはそう答えた。

 

「って事は、二本あれば可能なんだね」

 

 ピトフーイはそう言いながら、シャナの持つ二本の武器を羨ましそうに見た。

シャナはその視線を受け、ピトフーイにこう尋ねた。

 

「お前、もしそれが出来たとして、それを使いこなせるのか?」

「ううん、無理!格好いいかもと思って言ってみただけ!」

「そうか、まあ確かにあれはな」

 

 そしてシャナは、次の説明に入った。

 

「次のボタンは刃の長さの調節だ。各自気に入った長さにしてくれ」

 

 長さに関しては、シズカとピトフーイはとりあえずそのまま、

そしてベンケイは、自分の得意武器に合うように刃を短くした。

 

「次が最後だ、刃をあの的に向けて、一番下のボタンを押してみてくれ」

 

 三人がその言葉通りに操作をすると、刃が的に向かってまるでレーザーのように発射され、

的は粉々に破壊された。

 

「うわっ」

「何これ……反則すぎない?」

「そう思うよな?それじゃあもう一回撃ってみてくれ」

 

 シャナは新しい的を用意しながらそう言った。

そして三人は再びレーザーを発射したが、今度は的に当たった瞬間に霧散した。

 

「このように、光学系攻撃に対するバリアを張られると、こちらの攻撃は通らない」

「なるほど」

 

 そしてシャナは続けて言った。

 

「威力は通常の光学系武器と同じくらいだから、射撃はけん制にしか使えないだろう。

あとエネルギーの消費が激しいから、撃てるのは五発までだ。

それを使い切ったらもう剣は使えない、それだけは覚えておいてくれ」

「大体五分の一くらいのエネルギーを消費するって事ね」

「そういう事だ。まあ五分の一になったとしても、剣として一時間くらいは使えるけどな。

ちなみに言い忘れたが、剣による直接攻撃は、バリアの影響は受けないからな」

「了解!」

「まさに最強だね!」

「あと、予備のエネルギーパックは……」

 

 そしてシャナは、イコマの方をチラッと見た。

 

「今開発中です」

「だ、そうだ。剣のエネルギーチャージは、武器庫に専用の機材があるから、

後で場所を教える。各自で出撃前に、必ずエネルギー残量を確認してくれ」

 

 そしてシャナは、最後にこう言った。

 

「ちなみにこれは、基本BoBでは使用禁止とする。不公平だからな。

まあ銃をほとんど使わないでこれだけで戦うなら、許可してもいいんだけどな」

「まっ、それは仕方ないよね。これって強すぎだし」

 

 銃をもらった三人の中で、唯一BoBに出た事があるピトフーイは、

あっけらかんとそう言った。

 

「でも『基本』なんだ、それはどうして?」

「俺がサトライザー相手に使うからだ」

「うわ、シャナずるい!」

「もちろん最初は普通の武器で戦うがな、そしてあいつを倒した後に、

再びこの武器で戦って圧倒する、二度おいしい作戦だ」

 

 それを聞いた一同は、そのシャナの子供っぽさに、顔を見合わせながら苦笑した。

 

「それじゃあ各自、練習を開始してくれ」

「ちょっと待って」

「ん、シノン、どうかしたか?」

 

 そしてシノンは、シャナの持つ二本の筒を指差しながら言った。

 

「シャナの武器をまだ見せてもらってない」

「う……」

 

 このまま誤魔化そうとしていたシャナは、そう言葉に詰まった。

 

「あっ、そういえば……」

「お兄ちゃん、いかにも特別っぽいよね、その二本」

「そうだよ、見せて見せて!」

「これはまだ試作品なんだがな……」

「往生際が悪いぞシャナ、さっさと見せんか!」

「わ、分かったよ先生……この武器の名前は、カゲムネX1とX2、通称ARとALだ」

「何の略?」

「アハト・ライトとアハト・レフトだ。この機にM82は、そのままM82に戻す。

まあ何だかんだ、M82ってそのまま呼んじまってたから今更だけどな」

 

 それを聞いたピトフーイは、目を輝かせながら言った。

 

「あ~!アハト・ファウスト!」

「俺は二本合わせてアハトXと呼んでるがな」

 

 シャナはそう言い、その意味が分からなかったシノンは、

きょとんとしながらピトフーイに尋ねた。

 

「ねぇピト、アハト・ファウストって、もしかして一時M82をそう呼んでいた、あの?」

「シャナ専用の武器だよ!ここで見られるようにしてあるから、後で見せてあげるよ」

「そうなんだ、うん、お願い」

「あ、私も見てみたいです!本物は噂しか知らなくて……」

「私も噂しか聞いてないから見せてくれ!」

「あ、じゃあせっかくだから俺も……」

 

 ベンケイとニャンゴロー、そしてエムがそう言った。

 

「よし、それじゃあ話を戻すぞ」

 

 そしてシャナは二本の武器のスイッチを入れ、起動させた。

 

「黒い刃……」

「遠くからだと見えなさそうだよね、これ」

「近くで見てても、暗い所だと見えなさそう」

「まあそう意図したからな」

「もちろんこれだけじゃないよね?」

「ああ」

 

 そしてシャナは、二本の剣の柄の底同士を合体させ、

まさに先ほどピトフーイが言っていた状態にした。俗に言う、ビームナギナタ状態である。

 

「おお」

「さっき私が言ってた奴じゃない、シャナ、ずるい!」

「お前は使いこなせないんだろ?」

「うぅ……じゃあシャナは?」

「俺か?まあそこそこだな。おいピト、試しに俺に攻撃してこい」

「分かった、行っくよぉ!」

 

 そしてピトフーイはシャナに斬りかかった。

シャナは自らの持つ武器を器用に回転させながら、ピトフーイの攻撃をしっかり防いでいく。

そして攻撃に転じたシャナは、あっさりとピトフーイの武器を跳ね飛ばし、

ピトフーイの正面に剣を突きつけた。

 

「や、やられたぁ!」

「凄くトリッキーな武器だね……」

「まあな」

「音が格好いいですね、まさにロマン武器!」

「だろ?お前なら分かってくれると思ったよ、エム」

「くるくるとまあ、よく器用にそんな武器を扱えるな、シャナ!」

 

 そのニャンゴローの問いに、シャナは昔を懐かしむような目をしてこう答えた。

 

「実はな先生、昔同じような武器がSAOに導入を検討されててな、

それで晶彦さんに練習させられた事があるんだよ、結局ボツになったけどな」

「なるほど、そういう事か!」

「まあピトも剣を使うのは久しぶりだったんだろ?動きがぎこちなかったしな」

「うん、ちょっと練習しないと駄目かも!」

 

 そしてシャナは剣を分離させ、刃をしまうと、

今度はそのまま平行に並べるように接続した。

 

「ま、まさか巨大な剣になるんじゃ……」

「いや、単体でほぼ何でも斬れるから、それにはあまり意味は無いんだ。

長さも自由に調節出来るしな」

「ああ、確かにそうかも」

「これはむしろめくらましの類だな。出力を倍にした事により、こういう事が可能になった。

まあその分、刃を出したままだと使えないようになっちまったがな。

単体でレーザーを撃つ事ももちろん可能だが、こうしてこうすると……」

 

 そしてシャナがスイッチを押すと、光の散弾が前方に向けて発射された。

 

「散弾!?」

「ああ、これを地面に向かって撃つと、色々巻き上げて凄い事になるんだよな。

まあ緊急時の離脱用には便利な機能だよ」

「そっちが目的かあ」

「これも普通の光学銃扱いだから、出力を上げても威力はほとんど期待出来ない。

だが別に光学散弾銃を持ち歩くよりはよほど効率がいい。

そして何より、相手の意表を突く事が出来るのがいい」

 

 そしてシャナに促され、イコマは全員にゴーグルのような物を手渡した。

 

「これは?」

「そういった視界の悪い状況でも、周囲がよく見えるようにする機能を持つゴーグルだな、

ただしこれ自体に防御力は一切無い。だがそれゆえに、軽くて荷物の邪魔にはならない」

「なるほどね」

 

 そして最後にイコマは、各人にヘッドギアとプロテクターを配った。

 

「これが、俺達のチーム専用のプロテクターだ。

イコマによって計量化されてはいるが、ポイントポイントで、

さっきシノンとエムに渡した素材を使ってあるから、防御力は折り紙付きだ。

それに通信機能と仲間の位置を確認する機能もついている」

「サイズ調整機能もついてますからね、最初は大きめになってますから、

着たら首の所のボタンを押して下さい」

「おお、武器といい防具といい、さすがはマッドサイエンティスト、凄いねイコマきゅん!」

「ちょっとピト、イコマに失礼でしょ」

「いや、それは最高の褒め言葉です!」

 

 そう言ってイコマは、ピトフーイに親指を立て、ピトフーイもそれに応えた。

 

「それじゃあ俺達は外で着替えるから、女性陣は中で着替えてみてくれ」

 

 そのシャナの言葉を受け、シャナと共にイコマとエムも外に出ていった。

 

「何か、一気に装備が充実したよね」

 

 シズカが服を脱ぎながらそう言った。

 

「うん」

 

 シノンもそれに答えながら、同じく服を脱いだ。

 

「でもいいなぁ、私もそういうお揃いの武器っぽいのが欲しいなぁ」

「シノノンが使うとしたら何だろうね、ピト、何か思いつく?」

「ちょっとまっへて、これが抜へなくて」

 

 ピトフーイは服が首の所から抜けないらしく、

口をもごもごさせながらおかしな日本語でそう言った。

それを見たロザリアが黙って脱ぐのを手伝い、ピトフーイはロザリアにお礼を言った。

 

「ありがとうロザリアちゃん!」

「どういたしまして」

 

 そしてピトフーイは、少し考えながらシノンに言った。

 

「シノノンの近接武器……銃剣とか?ああ、ヘカートIIに付けるのはちょっと無理かぁ」

「サブ武器にそういう機能を付けるのはありじゃないかな、

それなら難しい技術はいらないだろうし」

「これを振り回すの?それならまだ平気かも」

「まあ、新しくそれ用の素材を手に入れたらだね」

 

 そして横では、ロザリアとニャンゴローが会話していた。

 

「まあ私達が戦うなんてよっぽどの事だろうけど、

こんな状況だもの、しっかりと準備はしておいた方がいいですよね、先生」

 

 そのロザリアの言葉を受け、ニャンゴローも頷いた。

 

「総力戦になる可能性もあるからな、その通りだろう。

しかし今のままだと、私が足を引っ張ってしまうかもしれん」

 

 その会話を横で聞いていたシズカが、こう提案した。

 

「あ、それじゃあ今夜、皆で無限地獄にでも行く?」

「無限地獄?何だそれは」

「ほとんど私達専用の、経験値を一気に稼ぐ為の狩場かな」

「ふむ、それはいいな、出来ればそうしてもらえると助かる」

「それじゃあ後でシャナに提案してみましょっか」

 

 シノンがそう話を締めくくり、女性陣は改めて、もらった装備の具合を確認した。

 

「うわ、軽いね」

「非力な私は助かりますね、これなら他の荷物も余分に持てそう」

「それじゃあシャナ達を呼んでくるね」

 

 そしてシャナ達が再び入室し、シノンはシャナに、今夜狩りにいかないかと提案した。

 

「そうだな、今ならまだ邪魔は入らないと思うし、全員でちょっと稼ぎに行くか」

「賛成!」

「私、銃を撃つのは生まれて初めてかもしれないわ」

「私もそうだぞ!」

 

 ロザリアとニャンゴローはそう言い、

シャナが比較的操作が簡単なアサルトライフルを選んで二人に手渡した。

 

「とりあえずこの辺りを使ってくれ、エムは大丈夫か?」

「はい、俺は自前の武器でいけます。あ、あとシャナさん、以前ピトを通して言われた通り、

バレットサークルに頼らない射撃を、アメリカで練習してきました!」

「おっ、よくやった、さすがはエムだ!」

「はい、ありがとうございます!」

「今夜も沢山練習出来ると思うから、そこは存分にな」

「そうなんですか、頑張ります!」

「そういえばさ」

 

 そしてシノンが、何かを思いついたのか、シャナに声を掛けた。

 

「ん、どうしたシノン」

「自分に向けて発射された銃弾を、その武器で斬り落とす事って可能?」

「いや、さすがにそれは人間技じゃ……あ、いや、そうか……」

 

 シャナは少し考え込んだ後、シノンにこう答えた。

 

「現実世界だと難しいだろうが、このゲームなら、もしかしたら可能かもしれないな」

「そうなんだ、何で?」

「GGOには弾道予測線があるからな」

「あ、そっか!」

「あれに剣筋を合わせれば、多分いけると思う。後は発射のタイミングを読むだけだからな」

「ねぇ、今ここで試しにやってみて」

「いきなり無茶振りすんな、まあ別に構わないが……」

 

 そしてシノンはサブ武器を取り出し、離れた所に立つシャナに銃を向け、

無造作にトリガーを引いた。次の瞬間、シャナは見事に銃弾を斬り飛ばした。

 

「「「「「「「「おおっ」」」」」」」」

「思ったよりは簡単だったな、連発されてもある程度ならいけそうだ」

 

 そう感想を言ったシャナに、当然横から突っ込みが入った。

 

「そんな訳無いでしょ!」

「私には無理な気がする」

「私にも無理無理!」

「どうかな、多分俺以外でも……」

 

 そしてシャナは、誰にも聞こえない小さな声で、キリトならもっと上手く、と呟いた。

その唇の動きを読んだニャンゴローは一人頷き、それを見たシズカは、

そっとニャンゴローに尋ねた。

 

「先生、シャナは何だって?」

 

 そしてニャンゴローは、素の口調でシズカに囁き返した。

 

「キリトならもっと上手く、ですって」

「ああ、キリト君なら簡単にやりそう」

「そうね、逆にあの二人にしか出来ないのではないかしら」

 

 そして一同は、食事をしたり色々準備を整える為に一旦解散し、

再び夜に集合し直すと、そのまま無限地獄へと向かう事にした。




イコマッド・サイエンティスト!

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