ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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このまま緊迫度が増していくと誰が言った!

2018/06/15 句読点や細かい部分を修正


第304話 頑張れ小猫ちゃん~ソレイユ編

 そして残りの戦利品に関しても、装備の強化に使える素材を除き、

残りのアイテムは全て処分され、一人あたりの分配は実に五万円を超えた。

このメンバーの中でそれを一番喜んだのはシノンとベンケイである。

シャナは言うに及ばず、シズカとニャンゴローは言わずもがな、

そしてイコマも医者の家系であり、お金に不自由した事は無い。

ピトフーイは有名人であり、エムもそれなりに高い給料をもらっていた。

ロザリアはソレイユで高給をもらっており、

シノンとベンケイとの経済力の差は、現時点では歴然としているのだ。

二人は楽しそうに、この臨時収入をどうしようか考え始めたのだが、

二人のいい所は、こういった臨時収入に溺れる事なく、

普段やっているアルバイトの手を抜いたりしない所である。

そしてアイテムの処理が終わった所で、もう夜の十時近かった為、

今日は解散という事になったが、一部の者は拠点に残る事が決定していた。

具体的にはピトフーイ、エム、シノン、ニャンゴロー、ベンケイである。

五人はそのまま居間に移動し、イコマはハンヴィーを改造する為に車庫へと向かい、

シズカは今日は自宅にいるようで、久々に両親と一緒にのんびりと過ごすらしく、

早々にログアウトしていった。そしてロザリアはこれから会社から家に帰るらしい。

そんなロザリアに、シャナがいきなりこう尋ねた。

 

「おい小猫、こんな時間に会社から帰るって、今日は車か何かで出勤したのか?」

「ううん、今日は電車だけど」

「……お前の家って、ソレイユから近いのか?」

「えっと……電車で三十分、歩いて三十分くらいはかかるけど……?」

 

 ロザリアは、シャナが何を言いたいのか分からず、訝しげな表情で言った。

 

「ふ~ん、実は今、俺は眠りの森にいるんだよな。

こっちの作業もそろそろ大詰めで、最近は遅くまで色々やってたんだが、

今日は回線の調子を確認する為にここからログインしてたんだよ。

で、そろそろこっちも解散する予定の時間だから、俺がそのまま自宅まで車で送ってやるよ。

お前をこんな夜遅くに一人で家に帰すのは、ちょっと心配だからな」

 

 そのシャナの言葉に、ロザリアは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

 

(棚ボタラッキーイベント来たあああああああ、神様ありがとう!)

 

 そしてロザリアは、そのシャナの申し出を受け、会社でシャナの到着を待つ事にした。

 

 

 

 そして十分後、ソレイユの本社前にはそわそわしている薔薇の姿があった。

もちろん化粧もバッチリ直しており、時計を気にしながらきょろきょろするその姿は、

どこからどう見ても『男と待ち合わせをしています!』という姿にしか見えなかった。

薔薇は、社内では見た目に反して身持ちが固い事で有名であり、

浮いた話の一つも無かった為、こういった姿を見せるのは初めての事であった。

そのせいか、たまたまこの時間まで残っていた一人の社員が、

たまたま窓の外を眺めて薔薇の姿を見付け、その珍しい様子を同僚に伝えた瞬間、

その話は驚くべき速度をもって他の居残っていた者達に伝わっていった。

そして薔薇の姿が見える窓という窓に、どんどん人が集まっていった。

 

「おっ、本当だ、薔薇さんがいるぞ」

「あの感じは、まさか男と待ち合わせか?」

「ちょっと、薔薇お姉さまに限ってそんな事がある訳無いでしょう?」

「いやいや、だってさっきから、何度も鏡を見たりまめに化粧を直したりしてるぞ」

「まさか本当に?」

 

(ん?何か背後から視線が……)

 

 そう思った薔薇は、何だろうと思って振り向いたが、そこには誰もいない。

 

(んん~?気のせいだったかしら)

 

 そして薔薇は時計を見て、距離的に多分そろそろねと考えながら、

八幡の隣に座る自分の姿を想像し、顔を赤くして頬に手を当て、

きゃ~きゃ~と呟きながら、もじもじと体を揺すり始めた。

 

「「「「「「「「「「おおっ」」」」」」」」」」

 

 それを見たギャラリーが、一斉にどよめいた。

丁度その時、たまたま部屋の外を歩いていた義輝がその声を聞きつけ、

何事かと思って部屋の中を覗き込んだ。

部屋の中では沢山の同僚達が窓の外を指差しながらわいわい盛り上がっていた為、

義輝は窓の方に向かい、ひょいっとその窓を覗き込んだ。

そして義輝は、もじもじしている薔薇の姿を目撃した。

 

「うおっ……何と珍しい……」

 

 薔薇と接する事の多い義輝でも、こんな薔薇の姿を見るのは初めてだった。

だが義輝には、薔薇をあんな状態にさせる存在に一人心当たりがあった。

 

(まさか八幡と待ち合わせか……?)

 

 そう思った義輝は、この状態はちょっとまずいのではないかと考え、

そっと部屋の外に出ると、薔薇に電話を入れた。

 

「あれ、材木座さんからだ……もしもし、材木座さん、何かありましたか?」

「あったも何も、今こっちは凄い事になっているのだ、窓だ、窓を見てくれ!」

「窓?」

 

 そして薔薇は、義輝が言う通りに窓を見ようとして、視線を上に向けた。

 

「なっ……」

 

 そこにはびっしりと窓を埋め尽くす大量の人影があり、薔薇は絶句した。

その中の何人かは、薔薇に向けて手を振っていた。

 

「やっと気付いたか……」

「な、何ですかこれ、そっちで今、何が起こってるんですか?」

「どうやら皆がさっきから、今の珍しい薔薇殿の姿を観察しているようだな」

「私!?」

「とりあえずそういう事だから、ボスに気付かれる前に早く逃げるのだ!」

「わ、分かったわ、ありがとう、材木座さん」

 

 そして電話を切った薔薇は、しかし直ぐに逃げる事も出来ず、どうしようかと困り果てた。

 

「ど、どどどどうしよう、八幡が迎えに来るのに、それを置いて逃げる訳にもいかないし、

でもこのままだと完全に晒し者だし、うぅ……」

 

 その時薔薇の肩を、誰かがちょんちょんとつついた。

薔薇はいきなりだったので驚き、相手が誰かを確認しないままこう言った。

 

「誰?今ちょっと立て込んでるから、用事なら後にしてくれない?」

「……ん、何か急な仕事でも入ったのか?小猫」

「は、八幡!」

 

 そこに立っていたのは、両手にコンビニの袋らしき物を大量に抱えた八幡だった。

その姿を見た社員達は、わっと盛り上がった。

 

「ああ、薔薇さんの待ち合わせの相手は次期社長か!」

「それならああなるのも仕方ないな!」

「私も次期社長とお話ししたぁい!」

 

 ソレイユ内部では、実はもう内示が出ており、

全社員に、次期社長には八幡が就くという事が伝えられていた。

そして八幡の功績として、メディキュボイドの獲得が伝えられ、

同時に全社員にかなりの額のボーナスが支給された為、

八幡の人気はソレイユの内部では、既に絶大なものとなっていた。

八幡がちょこちょことソレイユを訪れ、社内の様子を把握しようと色々な部署に顔を出し、

時には苦楽を共にしているのも、その人気の理由の一つだった。

そしてそんな窓の向こうの光景に気付いた八幡は、首を傾げながら薔薇に尋ねた。

 

「おい小猫、あいつらは一体何をしてるんだ?」

「え、えっと…………」

「ん、何か言いづらい事なのか?」

「う、ううん……えっと、八幡を待ってる私見物……かな……」

「はぁ?お前見物?」

 

 そして八幡は、ぷっと噴き出すと、大声で笑い始めた。

そんな八幡の背中を、薔薇が少し拗ねた顔で叩いた。

 

「八幡、笑いすぎ!」

「おう、悪い悪い、とりあえずちょっと待っててな」

 

 そして八幡は、手に持っていたビニール袋を下に置き、

二階の窓からこちらを見ていた者達に手招きをした。

 

「おっ、次期社長が俺達を呼んでるぞ!」

「やった、私達をご指名よ!」

「お前ら急げ!次期社長がお待ちだぞ!」

 

 そしてその部屋の者達は、外に向かって走り出した。だが他の者達も黙ってはおらず、

便乗するように、我も我もとビルの外に向かって走り出した。

そして数分後に、今ビルに残っている全社員が、八幡の前に集結した。

ちなみにビルに残っているのは材木座とアルゴと陽乃の三人だけである。

 

「何でお前ら、こんな大人数でここに来てるんだよ……」

 

 そう言いながらも八幡は、持っていたビニール袋を前に差し出しながら言った。

 

「差し入れを持ってきたから、すまないが各部署ごとに何人か、こっちに来てくれ」

「「「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」」」

 

 そして受け取りに来た者達は、ここぞとばかりに次々と八幡に声を掛けていった。

気を利かせて一歩後ろに下がった薔薇は、その会話に耳を傾けていた。

 

「次期社長、今日はこれから薔薇さんとお出かけですか?」

 

(絶対言わないと思うけど、デートって言ってみてもいいのよ?

ほら、勇気を出して!プリーズ!)

 

「ん?ああ、薔薇には今、俺が頼んだ仕事を頑張ってやってもらっていてな、

ちょっと贔屓みたいになっちまって、皆には悪いんだが、

今日はこんな時間までかかっちまったから、さすがに申し訳ないと思って、

丁度近くにいた俺が、家まで送ってやる事にしたんだよ」

「そういう事だったんですね!」

 

(くぅ~、事実だけど、確かに事実だけど!私だって少しは見栄を張りたい時もあるのよ!)

 

「次期社長、臨時ボーナスありがとうございます!」

「お?そんなのが出たのか?良かったじゃないか。

でも俺はそれには関わってないから、お礼を言われても困っちまうんだが」

「何を言ってるんですか、メディキュボイドのおかげですよ!」

 

(そうそう、それは八幡のおかげで間違いない。

皆ちゃんとそういう所が分かっているのね、えらいえらい)

 

「ああ、そういう事か、まあ役にたてて良かったよ」

 

(まあボーナスの総額なんか比べ物にならないくらい、うちは儲かる予定なんだけどね)

 

 そして一人の女子社員が、唐突にこう言い出した。

 

「次期社長、結婚して下さい!」

「あっ、それじゃあ私も!」

「私も私も!」

 

 そんな女子社員達の様子を目の当たりにした薔薇は驚愕した。

 

(な、何ですって!?例え冗談でも、私には絶対に言えない事を平気で……

これが若さなのね………………)

 

 そして薔薇は、無意識に少し座った感じの目をすると、その女子社員達を見つめた。

 

「おいおい、怖いお姉さんが見てるから、冗談はそのくらいでな」

 

(怖いお姉さん?まさかボス……はいないわね、って八幡?何でこっち見てるの?)

 

「す、すみません薔薇さん!冗談、冗談ですから!」

 

(え?え?)

 

「薔薇さんがお怒りだ、退避、退避!」

 

 誰かがそう言い、社員達はズザッと一歩後ろに下がった。

どうやらソレイユの社員達のノリとチ-ムワークはかなり良いようだ。

 

「わ、私今、そんなに怖い顔をしてた?」

「まあちょっとな」

 

(あっ……八幡の手がこっちに……まさか)

 

 そう言いながら八幡は、薔薇の頭を撫でた。

 

(やっぱり八幡の必殺技!これには逆らえない、逆らえないのよおおおおお)

 

 そして薔薇は、嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔から湯気を出しながらフリーズした。

 

「「「「「「「「「「おおっ」」」」」」」」」」

「恥らう薔薇さん……イイ」

「さすが次期社長、猛獣使い!」

「俺、薔薇さんってもっと怖い人かと思ってた……」

「ああっ、薔薇お姉さまがまるで小猫のように!」

 

 その最後のセリフを聞いた八幡は、思わず噴き出した。

それで我に返った薔薇は、八幡の胸をぽかぽかと叩き、その姿に社員達はどっと笑った。

 

 

 

 社員達が外に飛び出してから、その光景をずっと窓から一人で見ていた義輝は、

思わぬ八幡の人気っぷりを目の当たりにし、腕を組んでうんうんと頷いていた。

 

「さすがは我が友、我ごときが心配するような事は何も無かったな!」

 

 だが、女子社員が八幡に群がった瞬間、義輝は豹変した。

 

「なっ、何故いつも八幡ばかりがモテる……

あやつのあの女子社員からの人気っぷりは何なのだ!リア充爆発しろ!」

 

 その時、少し離れた所にある社長室の方からドアの音がして、義輝はそちらの方を見た。

どうやら誰かが中に入っていったらしく、ドアは開け放たれていた。

そして次の瞬間、すさまじい速度で陽乃とアルゴが部屋から飛び出し、

エレベーターの方へと向かって走り出した。

 

「うぅ、出遅れた……」

「どうだろうなボス、オレっちも気付いたのはついさっきだから、

あの状態になってどれくらい経ってるのかは分からないんだよナ」

「まあ教えてくれてありがと、とりあえず間に合ったら、

二人で八幡君と薔薇を散々おちょくってやりましょう」

 

 走る二人からそんな言葉が聞こえてきた為、義輝は慌てて薔薇に電話をした。

 

「あれ、また材木座さんから電話が……」

「また?」

「うん、さっきも私が皆に見られてるって教えてくれたの」

「そうか……何か嫌な予感がするな、とりあえず出てみろよ」

「うん」

 

 そして薔薇は、義輝からの電話で、陽乃とアルゴの接近を知った。

 

「なっ……」

 

(ひいっ……まずいまずい、ついにボスにバレた!早く逃げないと!)

 

 そして薔薇は、その事で頭がいっぱいになり、一瞬他の社員達の存在を忘れ、

いきなり八幡の手をぎゅっと握った。

 

「「「「「「「「「「おおっ」」」」」」」」」」

 

 そしてこの日三度目の、おおっ、が起こった。

 

「お、おい小猫、いきなりどうしたんだ?材木座は何と言ってきたんだ?」

 

 八幡は、薔薇の耳元でひそひそとそう尋ねた。

 

「大変なの、ボスと部長が、今こっちに全力で向かってるって」

「ボスと部長って……ハル姉さんとアルゴか?まじかよ、よし、キットの所まで走るぞ」

「ええ……きゃっ」

「危ない!」

 

 その時いきなり薔薇が転びそうになり、八幡は慌てて薔薇を支えた。

 

「大丈夫か?」

「ごめん、慌てたせいで、ちょっと足首を捻ったみたい」

「よし分かった、俺に任せろ」

「えっ?」

 

(ま、まさかここで憧れのお姫様抱っこが!?

ああ神様、足をくじいてごめんなさい、でも本当にありがとう!)

 

 八幡の言葉を聞いた薔薇は、心の中でそんな事を考えた。

そして八幡は、集まっていた社員達に別れの言葉を告げた。

 

「よし、もうすぐ怖い人が来るみたいだから、俺は逃げるぞ。

お前らもあまり無理せず、そろそろ帰るんだぞ、それじゃあまたな!」

「はい、無理はしません!」

「明日明後日は休みって言われてるんで、大丈夫です!」

「次期社長、また来て下さいね!」

「薔薇さん、足の怪我はしっかり治して下さいね!」

「次期社長、薔薇さんの事、お願いしますね!」

「おう!」

 

 そして八幡は、いきなり正面から薔薇の腰に手を回した。

 

(あ、あれ?八幡、お姫様抱っこの抱く位置はそこじゃない、そこじゃないわよ!?)

 

「ふんっ!」

 

 そして八幡は、薔薇を持ち上げて肩に担ぎ、そのまま車に向かって歩き出した。

いわゆるお米様抱っこである。

 

(ちぃぃぃがぁぁぁうぅぅぅだぁぁぁろぉぉぉ!)

 

 社員達は、そんな薔薇の姿に同情の視線を向けた。

 

「ここは絶対にお姫様抱っこだと思ったのにな」

「まさかのお米様抱っこ、きたあああああ」

「薔薇さん、どんまいっすよ!」

「あれ、でも薔薇さんは今日は短めのスカートだった気が……」

 

 その言葉通り、薔薇は自身のスカートがめくれそうな事に気が付き、慌てて八幡に言った。

 

「ちょ、八幡、スカート、私のスカートが!」

「ああ?もうすぐキットの所に着くからそれまで少し我慢しろ」

「いや、正面から見たら見えちゃう、絶対に見えちゃうから!」

「大丈夫だ、そっちには誰もいない。そして俺が横を向かなければ何も問題はない」

 

(どうしてこうなるのおおおおお!)

 

 そして薔薇は、その恥ずかしい格好のままキットに放り込まれ、

陽乃達が姿を現すギリギリ直前に、何とか二人はその場から脱出する事が出来たのだった。




まあ、こういう話はガチで緊迫しちゃったら書けませんヨネ
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