「車を運転したい?免許でも取りたいのか?」
「ううん、ブラックとホワイトを運転出来るようになりたいの。
オートマなら動かすだけならまあいけるんだけど、マニュアルはまだちょっとね」
「ああ、そういう……」
始まりは、こんなシズカの一言だった。
「せっかくだから、全員運転出来るようになっとくか?
別にマニュアル車の免許をとる必要は無いが、今後別のゲームの中で、
車を運転する機会があるかもしれないしな」
「賛成!」
「でもまあ先生やイコマはもう運転出来るよな。結局誰が参加するんだ?」
「え~っと、私とケイと……」
そしてシズカは他の者をチラッと見た。
ニャンゴローとロザリアは、データベースを作成する為居残りとなった。
イコマは今のうちに、弾薬等をまとめて合成するつもりらしい。
そしてピトフーイが、エムに尋ねた。
「エム、今日は私が手伝わないといけないような仕事はあるの?」
「ピトもそっちに参加したいんですね、大丈夫ですよ。
僕は色々とスケジュールとかを調整しないといけない事があるので、
今回は参加は見送りで、自前で練習しておきます」
そしてシノンが、おずおずと言った。
「私も行こうかな、まあ関係無いだろうけど、まだ免許をとれる齢にはなってないけどね」
「それじゃあ後は、ピトとシノノンだね」
「なら俺を入れて全部で五人か。よし、それじゃあ今日はブラックを出そう」
そしてシャナが、ふと思いついたようにこう言った。
「ついでにブラックまで皆で歩いていけば、獲物が網にかかりそうだな」
「それなら私達も一緒に行っておくか、なぁロザリア」
「そうですね、シャナを女性六人で囲めば、獲物も引っかかりやすくなるでしょう」
「……自分で言っておいてアレだが、それだと俺が凄い嫌な奴みたいだな」
「あはははは、でも悪役上等って言ってなかった?」
「お、おう、まあ今更か」
「うん」
そして七人は、車庫へと向かって歩き出した。
「おい、シャナだぜ」
「くぅ~、見せ付けやがって……」
ちなみに六人中四人は元からの仲間である為、実際シャナがGGOで知り合い、
連れまわしているのはシノンとピトフーイのみである。
他のメンバーはというと、エムとイコマが新規組であり、
友好関係を築いた薄塩たらこと闇風、それにダインとギンロウの事を考えると、
実は男性プレイヤーの方が圧倒的に多いのだが、
事情を知らない者にとってはやはりシャナの女性関係は派手に見えるのだろう。
そして周囲が慌しくなり、シャナはこの後に襲撃がある事を確信した。
「この状況で襲う気満々って事は、あれだな、
狙いはピンポイントで俺って事になるんだろうが……」
「案外私達を救い出す為とかいって、手足を撃って動けなくした後、
どこかに連れていこうとする可能性はあるよね」
「それじゃあこの前のロザリアちゃんの時と同じじゃない、クソ野郎共……殺す!」
「進歩の無い奴らだよな」
「いつになったら自分達の矛盾に気付くんだろうね」
「もう完全に頭に血が上っちゃってるんだろうな」
そんな会話をしながら車庫に着いた七人は、その場で軽く打ち合わせをした。
「それじゃあ先生とロザリアは、裏口からフードを被って離脱の後、
敵の動きを監視しててくれ」
「分かったぞ!ところで今日の目的地はどこなのだ?」
「『この木なんの木』だな」
「何だその懐かしい響きのある地名は……」
「大平原の真ん中に、巨大な木が一本だけ生えている場所があるんだよな。
それがいかにもそれっぽいから、そう呼ばれているんだよ」
「……今度おおまかな地図でも作成しておくか。
今度私もそこへ連れていくのだぞ、一度くらい見ておきたいからな」
「おう」
そして五人はブラックに乗り込んだ。最初に運転席に座ったのはピトフーイである。
「この中で一応正式に免許を持っているのは私だけだしね」
「最初はエンストするかもしれないが、まあ問題ないだろ。
そもそも追いついてくる奴がどれだけいるかも疑わしいしな」
「むしろ逆に、そこで迎え撃てばいいかもね」
そしてピトフーイは、やや緊張しながらブラックのエンジンをスタートさせた。
「まあ直ぐに慣れると思うから、最初は慎重にな」
「うん!」
シャナは丁寧にピトフーイに説明し、さすが免許を持っているだけの事はあり、
ピトフーイは直ぐに操作に習熟した。
「まあ問題は半クラッチと坂道発進だけだが、それも別に、ここでは大して需要も無いしな」
「大丈夫、余裕余裕!」
「お前意外と器用だよな……」
そして『この木なんの木』方面にしばらくブラックを走らせた後、
シャナは一旦停まるようにピトフーイに指示し、ロザリアとニャンゴローに連絡をとった。
「どうだ?」
『お前達が車を出すのを見て、足をどうするかで揉めていたぞ』
「まあそうだよな」
『結局運転出来る者が一人しか確保出来なかったらしく、
各スコードロンから何人かずつ参加させて、大型バスを一台チャーターし、
メンバーも厳選してそちらを追撃するようだな』
「こっちの位置は分かっているのか?」
『それが驚いた事に、馬に乗れるプレイヤーが一人だけいてね、
単独でそっちを追いかけていったわ』
「ああ、馬なら俺も乗れるぞ」
「「「「「えっ!?」」」」」
その言葉に、ピトフーイ以外の者達は驚いた。
「いつの間にそんな技術を……」
「いや、実は街中に厩舎があってな、金さえ払えば乗れるから、
興味を引かれて乗馬の練習をした奴は多分そこそこいると思うぞ、俺もその口だしな」
「私も馬なら乗れるよ!」
「おっ、ピトも知ってたのか」
「うん、面白そうだったから、一時はまって練習してたよ。
近くにオートバイも並んでたけど、さすがにあっちは練習してないけどね」
「あれは俺もな……今度練習してみるか。まあとりあえずその話は置いておいて、
その馬に乗ったプレイヤーとやらを探してみるか」
そして五人はブラックの窓を開け、単眼鏡で周囲を見渡し始めた。
「……いたわよ、この方向」
そしてシノンが、小さな木の陰に隠れるように立っている馬の姿を発見した。
「敵の姿が見えないわね……」
「下だな、どうやら茂みの中に潜んでいるみたいだな」
「どれどれ……あ、いた。あれ?ねぇシャナ、あれってギャレットじゃない?」
「……そう言われるとそんな気もするな、何となくしか覚えていないが」
「ギャレットって、この前BoBに出てた人かな?」
「そうだな」
「これはまた大物が自ら偵察してきたんだね」
「まあいいさ、問題は大型バスとやらだが……おいロザリア、バスはもう出たのか?」
「ええ、五分前くらいにね」
「それならそろそろこっちに着くな」
一同は、ギャレットの後方からバスがやってくると予想し、
そちらの方を注視していたが、一向にバスがやってくる気配は無い。
「……来ないな」
「時間的にはもう着いててもおかしくないと思うんだけど」
「ああ、とっくにな」
「う~ん……」
その時ギャレットに動きがあった。
ギャレットはこちらに見付かる事も厭わず、何故か馬に騎乗した。
「ん、ギャレットが動いたな」
「という事は、襲撃が近い?」
「まさかな……おい皆、全周を警戒してくれ。ここはまだ大平原の入り口で、
遮蔽物もかなりある。もしかしたら、こっちが動こうとしないのを見て、
敵は横ないし背後に回りこんだのかもしれん。ケイだけは、ギャレットを注視しててくれ」
「「「「了解」」」」
そしてギャレットの反対側、ブラックの正面を見ていたピトフーイが、
あっと叫んだかと思うと、いきなりブラックを発車させた。
「きゃっ!」
「わわっ!」
「どうしたピト、何かあったのか?」
「正面、グレネード!」
そのピトフーイの言葉通り、正面方向に回り込んだのだろう、
木陰からバスが飛び出し、その窓からグレネードランチャーが顔を覗かせていた。
そしてランチャーが発車され、今まさにブラックが停まっていた位置に着弾した。
「あいつら無茶しやがる」
「それくらいこっちを脅威だと思ってるんだろうね」
「あっ、シャナ、あれ」
その時シノンが、何かを発見したようにそう叫んだ。
シャナがそちらを見ると、バスの窓から機関銃のようなものが見えた。
「あれは……獅子王リッチーのヴィッカース重機関銃か、あいつまで乗り込んでやがるのか」
「どうする?」
「さすがのあれも、バスの正面からは撃てないだろうな、
よしピト、このまま全速力で突っ走って、適当な所でUターンだ。
そのまま正面からバスに突っ込め!シノン、狙撃の用意を。狙いは運転手だ」
「あいよ~!」
「了解!」
ピトフーイはそのままブラックの速度を上げ、バスも慌てて追撃体勢に入った。
そしてシノンとシャナが、それぞれヘカートIIとM82を取り出し、
車の上に身を乗り出すと、並んで狙撃体勢をとった。
その足をシズカとケイが押さえ、そしてピトフーイは、
敵との距離がある程度離れた所でブラックをUターンさせた。
「よし……撃て!」
そして銃声が二つ重なり、バスの運転席に銃痕が二つ空き、
それぞれの弾が、運転手の頭と心臓に命中した。
「ビンゴ!」
「これで敵にある程度運転を出来る者がいたとしても、
バスはしばらく直進しか出来ないはずだ。リッチーは……右か、
ピト、ギリギリまで正面で、バスの直前で進路を左にとれ!シズは上に上がって、
すれ違いざまにミニガンの弾をバスのタイヤに叩きこめ!
ケイはギャレットから目を離すな!撃てる体勢になったらいつでも撃ってよし!
シノンは次弾の準備をしておいてくれ」
ピトフーイは言われた通り、バスの正面から突っ込み、
ある程度の距離の所で進路を左にとった。
そしてシズが、車の急制動を予想して上手く体重移動し、
安定した姿勢でミニガンを下に向けて銃弾の雨を降らせ、右前輪と右後輪を撃ちぬいた。
その瞬間にバスは体勢を崩し、右に傾いた。
「倒れるぞ!ピト、バスの後方で右旋廻、バスの腹が見える位置で停止だ!」
その言葉通り、バスは右に横転し、ピトフーイはブラックを右旋回させ、
バスの腹が見える位置で停止した。
「ケイ、ギャレットは?」
「途中まで後方から付いてきてたけど、バスの陰に入った後は出てこないみたい」
「まあそうだよな、仲間を救出でもしてるのかもな」
この体勢になると、バスのフロントガラスを割るか上によじ登るかしか、
バスから脱出する方法は無い。そこでシャナがとった選択は……
「よしピト、ブラックのグレネードランチャーの準備だ。弾はプラズマを選択」
「うわっ、そのシャナの鬼畜さがエクスタシー!」
「あんた、本当に敵には容赦ないわね……」
「まあいいんじゃない?私も早くブラックの運転の練習をしたいし」
「殲滅はついでの予定でしたしね!」
そしてピトフーイは、ブラックをバスの正面に向けてやや距離をとり、
武装用のパネルを操作し、ボンネットの左右についているグレネードランチャーのうちの、
右側だけ選択して、プラズマグレネードを装填した。
「照準よし、撃つよ!」
「撃った後は、一応全員耐ショック姿勢な」
「プラズマちゃん、行っけぇ~!」
そしてピトフーイがボタンを押した瞬間に、プラズマグレネードが発射され、
見事にバスに着弾し、大爆発した。すさまじい砂ぼこりが舞い、
衝撃でブラックがかなり振動した。
「うわっ……」
「さすがはプラズマグレネード、すごい威力ね」
「その分値段もお高いけどな」
そして砂ぼこりが消えた後、そこにはバスの残骸以外には、何も残っていなかった。
「よし、殲滅完了だ」
「前よりはハードな戦闘だったね」
「相手は何もしてない気もするけどね」
「最初の突撃の時、バスのボンネットを割ってリッチーが機関銃を撃ってきてればな」
「でもブラックちゃんには通用しないんでしょう?」
「当然だ。それじゃあ予定通り、『この木なんの木』の方に向かうぞ」
「楽しみだなぁ」
「想像以上にでかいから、見たら驚くかもな」
「記念撮影もしようね」
「おう」
そしてブラックを発車させた後、ニャンゴローから通信が入った。
「先生、どうした?」
「お前は一体何をやらかしたんだ?
そちらを追いかけていったプレイヤーが、今一気に全員戻ってきたぞ」
「おう、バスを横転させて脱出出来なくした後、プラズマグレネードを叩きこんだからな」
それを聞いたニャンゴローは、一瞬間を開けた後、こう言った。
「やるではないか、この鬼畜メガネめ!」
「メガネって何だよ……」
「メガネの前には鬼畜をつけろと、以前腐海のプリンセスさんに教わったのだ!」
「先生、その呼び名をどこで……」
「私も日々成長しているのだ!私もいまや、純粋なだけではないのだぞ!」
「とか言って先生、絶対にその言葉の意味を分かってないですよね……」
「う、うるさい!とにかく姫なのだろ!」
「おい先生、とにかくその用語は、他人の前では絶対に使うなよ」
後日ニャンゴローはその言葉の意味を知り、それを使った自分に悶絶する事になった。
そして一行は、予定通り『この木なんの木』に向かう事となった。