「よし、今日の勝利を祝して乾杯だ!」
戦争中である上に要塞内である為、ささやかな物しか用意出来なかったが、
シャナ達は祝勝会を開いていた。ロザリアもモニター越しとはいえちゃんと参加している。
「しかしシャナ坊や、凄い戦利品の数々だねぇ……個人でゲットした物だけでこれほどとは、
全体だとどのくらいになってるのか見当もつかないよ」
「そのうち引き締めがくるとは思いますが、まだまだGGO内の経済は大丈夫だと思うんで、
戦利品の扱いは好きにしちゃってくださいね、おっかさん」
「これでもっと女性プレイヤーの支援に資金が使えるよ、
本当にあんたの側について良かったよ、シャナ坊や」
おっかさんはほくほく顔でそう言った。
実際問題このゲームは、序盤で使える銃を入手出来る手段が限られている。
特にプレイを始めたばかりの女性プレイヤーは、
ハラスメントにならない程度の意に沿わぬ要求をされる事もあるようで、
それがどうやら女性プレイヤーの少なさにも繋がっているようだから、
出来ればそれを救済したいのだとおっかさんは言った。
「まあとにかく良かったです、犠牲者も出なかったですしね」
「いずれここにいる何人かはやられちまうだろうけどねぇ」
「戦争ですからね、それは仕方ないと思いますが、
その数を出来るだけ減らしたいと思っています。まあ死んでも特にリスクは無いですけどね」
そしておっかさんは、シャナの仲間達を眺めながら言った。
「九郎、いや九狼か……よくもまあこれほどの人物を集めたもんだね」
「それは違うわおっかさん、少なくとも私やピトは、シャナと会ってから変わったのよ」
「うんうん、強い人を集めたというよりは、集まった後に成長したって感じかな?
うちのエムなんか特にそうだしね。あ、シズ以外はだけどね」
シノンがそう言い、ピトフーイもそう付け加えた。
そしておっかさんは、遠くでイヴやミサキやエヴァ達と楽しそうに話しているシズカを見た。
「シズカか……あれは本当に凄まじいね、
実力もそうだけど、人の上に立ち慣れている気がするよ。
まあそれはシャナ坊やもだけどね。若そうなのによくもまあそんな風に成長したもんだよ」
そう言われたシャナは、困った顔でこう答えた。
「必要にかられたんで……」
その言葉が面白かったのか、おっかさんは豪快に笑いながら言った。
「あっはっは、必要だって?この平和な日本でそんな事が必要だったなんて、
私はそんな例を一つしか知らないね」
「……まあそういう事です」
「そうかいそうかい、まあそれ以上は何も聞かないよ、あんたは私の趣味みたいなもんさ、
いつか年をとったあんたと、リアルで酒を酌み交わしたいもんだねぇ。
今はまだ無理っぽいから、もう少し待つとするかね」
「まあ年齢的には今でも可能ですけどね」
「おや、思ったよりは少し年上だったんだね。
まああそこの学生なら、そう言う事もあるだろうね」
おっかさんは訳知り顔でそう言った。シャナもそれ以上は何も言わず、
そして話は今後の事へと移った。
「さてシャナ坊や、今後はどうするつもりだい?」
「ここまで来られない奴らは失格になるだけです。
なのでここまでたどり着いた奴らをとことん機動力を生かして叩きます。
まあモグラ叩きみたいなものですね」
「ルールを聞いた時、その事にまずいと思わなかったのかねぇ」
「ですね」
シャナは苦笑しながらそう言った。
「とりあえず可能性として考えられるのは、そのまま棄権するか、
それとも募集か何かに乗っかって、バスなりなんなりでここまで来るパターンですね」
「棄権が多そうだけどねぇ」
「まあ何組が棄権したか分かるのは明日の深夜になっちゃうんで、
とりあえずそれまでは様子見ですかね」
「相手が二百組ものスコードロンだと思ってたら、
実は十組でしたなんて事にもなりかねないしね、まあ当然だね」
おっかさんはシャナの説明に頷き、その話はここで終わりになった。
「さて、今夜は自由解散でいいのかい?ここの夜の防御はどうなってるんだい?」
「中には絶対に入れないように全ての入り口が固く閉ざされます。
それが解放されるのは明日の夕方に設定されているので、
明日の夕方まではここに来ても無駄だと夜の放送で言うつもりです」
「あんた、ソレイユの番組の編集権まで持っているのかい?」
さすがにその事は予想外だったらしく、おっかさんは驚いた顔でそう言った。
「はあ、まあ……」
「あんたは一体何者だい?まあいいか、運命が微笑めばいずれ会う事もあるだろうさ」
「ですね」
そしてシャナは周囲を見回し、おっかさんに言った。
「さておっかさん、解散前の気分転換に、
ちょっと一緒に屋上に新鮮な空気でも吸いに行きませんか?」
「ふむ、ここの屋上からの景色は絶品だし、たまには若い男といちゃつくのもいいかねぇ」
「お手柔らかにお願いします」
そう言って二人は屋上へと向かった。
念の為シャナは、途中でフローリアに屋上への道を閉ざすように指示をした。
「さて、どんな人に言えない話があるんだい?シャナ坊や」
「イヴの事についてです、おっかさん」
そのシャナの言葉に、おっかさんは驚いたそぶりを見せた。
「ほう、ミサキじゃなくてイヴかい!あんたくらいの年齢だと、
ミサキの持つ人脈が、例えば就職の時とかに必要になるんじゃないかと思っていたんだけどね」
「いや、そういうのは今の所大丈夫なんで」
「ほうほう、やっぱり何かまだ、私の知らない秘密があるんだね」
「おっかさんはどこまで知っているんですか?」
シャナはストレートにそう尋ねた。
「別に調査した訳じゃないからあくまで推測レベルだけどね、
あんたがSAOサバイバーの中でも名の知られた人物だという事、
今は二十歳を少し過ぎたくらいだという事、そして今日の活躍を見て考えられるのは、
あんたがSAOのハチマンだって事くらいかね」
「なるほど」
「実は興味本位でね、SAOのハチマンについて調べた事があるんだよ、
まあここでシャナ坊やと知り合う前の話だけどね」
「ALOのじゃなく、SAOのですか」
「でもネットに書いてある以上の情報は何も分からなかったんだよ。
あんたの情報はどうやら国が管理してるみたいでね。
あんた、実はとんでもない重要人物なのかい?」
「どうですかね、俺は自分がしなくちゃならない事を頑張ってやってきただけなんで」
「まあそのおかげで私の娘も救われたんだ、この機会にお礼を言っておくよ、
本当にありがとうシャナ坊や、いやハチマン」
「……は?」
シャナはその言葉にきょとんとした後、言葉の意味を理解し、驚いた表情をした。
「そういう事ですか……だからALOじゃなくSAOの俺の事を……」
「娘はあんたとは、一度だけ会った事があるそうだよ」
「そうなんですか、差し支えなければ娘さんのお名前を伺ってもいいですか?」
「娘はサーシャと名乗っていたそうだ、教会でシスターの真似事をしていたらしいね」
「えっ?あ、ああ!おっかさんは、あのサーシャさんのお母さんでしたか!
あのメガネの似合う肩くらいの髪の長さの方ですよね?」
シャナは当時の事を思い出しながら言った。
「娘の事を知ってるんだね、やはり本物か……それじゃああんたの本名は、
もしかして比企谷八幡君と言うんじゃないかい?」
「ど、どうしてそれを……」
シャナは先ほど何も分からなかったと聞かされた直後だったので、
そのおっかさんの言葉に驚いた。
「ほっほ、種は簡単さ。今私の娘は、教師としてシャナ坊やの母校に赴任しているんだよ。
で、かつて学校にそういう名前のSAOサバイバーがいたと、
先輩の先生に教えてもらったんだとさ。それで娘は、もしかして同一人物かと考え、
その先生にその元生徒を紹介してくれるように頼んだらしいんだが、
プライバシーの問題で断られたそうだ。いい先生に恵まれたね、シャナ坊や」
「あっ、はい、先生の事は尊敬してます」
シャナはそう答え、お礼に静に何かプレゼントせねばと考えた。
(今度クラインに相談してみるか……ついでにサーシャさんに会いに行こう)
「話が反れましたね、まあそんな訳で、俺に今必要なのはミサキじゃなくてイヴの方です。
ストレートに聞きますが、彼女は信用出来るんですか?」
「一度オフ会で彼女に会った事があるんだけどね、
その時私は、酔った勢いで娘の事をあの子に話しちまってね、
そしたらあの子が、調べてみるって言ってその場でPCを取り出して、
凄い勢いで色々な所にアクセスした後、ごめんおっかさんガードが固いやって言い出してね、
それで一気に酔いが覚めた私は、知り合いの政府の人に内密に相談したんだよ、
そうしたらその菊岡さんって人がね……」
「ストップ、ストップですおっかさん、菊岡さんの事を知ってるんですか?」
「そりゃあ、娘の事で何度か相談に乗ってもらったからね。あんたもそうだろ?」
「ああ、そういえばそうですね……」
シャナは菊岡の名前が出た事に一瞬驚いたが、そもそも菊岡はSAO担当だったのだから、
おっかさんと面識があって当然だなと気付かされる事となった。
「で、その時の菊岡さんの答えはこうだったのさ、
『政府でマークしているから心配いらない、いずれ政府で雇えればいいと思っている』
ってね。でもあの子はそういうお堅い所は嫌いらしくて、
それで駄目元でシャナ坊やに話を振ってみたと、そういう訳さ」
「なるほど、それじゃあ素性には問題無さそうですね、ある意味政府のお墨付きですか」
「どうだい?あの子をもらってやってくれるかい?」
「ええ、俺の権限で必ずうちの会社で雇い入れると約束します」
その言葉を聞いたおっかさんは、確認の為かこう聞いてきた。
「いずれ出来るはずのあんたの会社にかい?」
「そこらへんは秘密です、でもまあ心配なら俺の名前を出して、
菊岡さんに大丈夫か聞いてみてもいいですよ」
「本当にあんたは何者なんだい?まあいいか、それじゃああの子の事は任せたよ」
「はい、責任を持ってお引き受けします」
こうしてシャナは、おっかさんとの有意義な話を終え、直後にイヴと話す事にした。
「おっかさん、ちょっとイヴをここに呼んでもらえませんか?」
「ああ、直ぐに話をするんだね、頼んだよ」
「はい」
そしておっかさんの代わりに呼び出されたイヴは、もじもじしながら言った。
「こんな人気の無い所に呼び出すなんて、シャナ様のえっち……」
「あ、そういうのは慣れてるから俺には通用しないからな、どうせミサキに教わったんだろ?
それよりももっと大事な話があるからとりあえずそこに座ってくれ」
「うぅ、ミサキの嘘付き……全然通用しないじゃない」
そしてイヴは直ぐにいつもの調子に戻ると、明るい声でシャナに言った。
「で、どうしたのシャナ様」
「単刀直入に言う、お前、俺の下で働く気はないか?」
「えっ、シャナ様って社会人だったの?しかもハッカーなんかを必要とする環境?」
「俺はまだ学生だ、だが俺が勤める事になっている会社はお前を必要としている」
その言葉を聞いたイヴは、嬉しそうな顔で即決した。
「訳有りなんだね、でも分かった、それじゃあ私はシャナ様の所に行くよ!」
「決断早いなおい!詳しい話を聞かなくていいのか?」
「え~?だって何かあっても必ずシャナ様は私を守ってくれるでしょ?
現にこの戦争もそういう戦争じゃない」
「なら話は早い、今お前どこにいる?」
そのシャナの言葉に、自分の事は棚に上げ、イヴはこう言った。
「えっ?決断早っ!自宅だけど……まさか今から呼び出し?シャナ様積極的すぎ!」
「こういうのは早い方がいいだろ、という訳で場所が分かれば迎えにいく」
「あ、えっとね、それじゃあ秋葉原のラジオ会館前でお願い!」
「何でそんな所に……」
「家の近くで一番分かりやすいから!」
「そうか、まあそれならいい。とりあえず俺の番号を教えておくから、
俺らしき人物を見かけたら電話してくれ」
「うん、分かった!」
そしてシャナはロザリアに連絡をとり、アルゴと共に会社に残っているように伝えた。
そしてこの日の宴は早々に切り上げられ、源氏軍は結束を高め、
明日以降も頑張ろうと気勢を上げてこの日の活動は終了した。
そしてログアウトした直後に、八幡に知らない番号から電話がかかってきた。
「あ、もしもしシャナ様?私イヴだけど」
「早えよ……」
「だって番号が本物かどうか確認しないといけないじゃない!」
「ああ、それは確かにな」
「それでいつ頃ラジ館に来れそう?」
「そうだな、三十分後くらいでどうだ?」
「うん分かった!それじゃあ後でね!」
「おう」
そして八幡は準備を整え、キットでラジ館へと向かった。
その間に電話がかかってきたのは三回、いずれもイヴからであった。
ちなみにイヴの言い訳はこうだった。
「だって、あれがシャナ様だったらいいなっていう格好いい人がいたんだもん!」
「お前な……」
そしてラジ館に着いた直後に、再び電話が掛かってきた。
「おう、今着いたぞ」
「やった、大当たり!最高!」
そして直後に八幡の背中をちょんちょんとつつく者がいた。
八幡が振り返ると、そこには美しい顔立ちの、
ショートカットの黒髪のゴスロリ少女が立っていた。