ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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さすがに昨日のノエル3ネタは分かる人がほとんどいませんでしたね……

2018/06/16 句読点や細かい部分を修正


第337話 着信音は昭和の香り

 ログアウトした後詩乃は、戦争のせいで緊張したのか若干汗をかいていた為、

直ぐに風呂に入る事にした。そして湯船でのんびりした後、

リラックスした表情で風呂場から出て来た詩乃に、はちまんくんがこう言った。

 

「おい詩乃、小猫からメールが来てたぞ」

 

 その言葉を聞いた詩乃は、噴き出しそうになるのを必死で堪えながら言った。

 

「はちまんくんも薔薇さんの事を小猫って呼ぶんだ」

「まあ俺はたまにバージョンアップされているからな」

「そうなんだ、いつ頃?」

「主にお前がよだれをたらしながら寝ている時にだな」

 

 はちまんくんにそう言われた詩乃は、顔を赤くしながらはちまんくんに抗議した。

 

「朝起きた時によだれをたらしてた事なんかないわよ!」

 

 それを聞いたはちまんくんは、やれやれと肩を竦めながらこう言った。

 

「まったくこれだからお前は、そんなの俺が毎日拭いてやってるからに決まってるだろ」

「えっ?」

 

 詩乃は一瞬呆然とし、そのままはちまんくんに詰め寄った。

 

「ほ、ほほほ本当に?」

「俺を信じないのか?」

「いや、でも……」

「やれやれ、今回は特別だぞ」

 

 そう言ってはちまんくんは自身の左手の指を折り、中からコードのような物を取り出し、

ほとんど使われていないが一応部屋に置いてあるテレビに接続した。

 

「な、何それ!?」

「だから特別だって言っただろ」

 

 そしてはちまんくんはテレビのリモコンを操作し、外部入力を選択した後、

おもむろに動画の再生を始めた。そこにはとてもだらしない顔で、

よだれをたらしながら眠る詩乃の姿がしっかりと映し出されており、

主観モードでそれを拭くはちまんくんの手がしっかりと映し出されていた。

 

「ええええええっ!?」

「これはまあ車のドライビングレコーダーみたいなもんだ、

何かあった時に証拠になるように一応保存されているものだな。

もっとも普通は人に見せたりしてはいけない事になってるんだがな」

 

 そして詩乃は、激しく落ち込んだ表情ではちまんくんに言った。

 

「い、いつもありがとうはちまんくん……」

「おう、どう致しまして」

 

 そしてはちまんくんは、続けて詩乃に言った。

 

「ところで盛大に話が反れちまったが、小猫からのメールは見なくていいのか?」

「あっ」

 

 そして詩乃は薔薇からのメールを見た。

そこには今日の動画をアップした事が書かれていたのだが、

まだ下に続きがあるようだったので、詩乃は何だろうと思って画面をスクロールさせた。

ちなみにその全文はこうであった。

 

「たった今、今日の戦いに関する動画をソレイユのサイトにアップしました。

各自楽しんで見てみてくださいね。

 

                                小猫よりにゃっ!

 

 違うの、これは八幡に書けと命令されて、消したらおしおきだって言われたの!

絶対の絶対に私の意思じゃないから!」

 

 それを見た詩乃は、たまらず噴き出した。

 

「あはっ、あはははは、あははははははは!」

「何だ?何か面白い事でも書いてあったのか?」

「く、苦しい……は、はちまんくん、見てみてこれ」

 

 そしてその文章を見たはちまんくんは、ニヒルにこう言った。

 

「やれやれ、俺の本体もお遊びが過ぎるな、それじゃあ早速その動画とやらを見てみようぜ」

「そうだね、ちょっと待っててねはちまんくん」

 

 その動画は予定通り、先ずシャナの言葉から始まった。

 

「最初に明日の予告だ、俺達が活動を開始するのは夕方からとなるから、

別に早い時間から現地で待ち伏せとかをしてくれても構わないが、

その場合は平家軍の者は暇つぶしの手段だけは用意しておけよ。

それじゃあ今日の動画を配信する、楽しんでくれ」

 

 そして画面には、いきなりシノンのアップが映った。

 

「うわ、近い……」

「確かにな、これはどうやって撮影しているんだ?」

「えっと、八幡の頭の上にある旗からの映像のはずなんだけど」

「……よく分からないが、上から見下ろす形の映像にはなってないみたいだな」

「あれ、本当だ」

 

 そして画面はスムーズに後方の敵の車のサイドミラーを映し、

次の瞬間シノンの放った弾によってそのミラーはあっさりと撃ち抜かれた。

 

「凄いカメラワークだな」

「これって編集の力?」

「いや、これは元の映像の出来がいいんだろうな、

おそらく俺の本体は、そういう事も考えながら動いていたに違いないぜ」

「いつの間に……全然気付かなかったわ」

 

 詩乃はそのはちまんくんの指摘に驚愕した。

そんな詩乃に、はちまんくんはこう言った。

 

「それに気付かない程詩乃も集中してたって事だろ?その成果がしっかり出てるじゃないか。

見事な射撃だと思うぞ、努力したんだな、詩乃」

 

 それを聞いた詩乃は、ふふんと鼻を鳴らしながらはちまんくんに言った。

 

「もっと褒めてくれてもいいのよ」

「調子に乗んな」

 

 その瞬間に詩乃の携帯からオルゴールのような着信音が鳴った。

その瞬間に詩乃は緊張しながらも、とても嬉しそうな顔をした為、

はちまんくんは詩乃にこう言った。

 

「何だ、俺からの着信か」

 

 そう言われた瞬間に詩乃はドキリとした。

 

「な、何で分かるの!?」

「そんなの詩乃の顔を見れば一発で分かるだろ、着信音も一人だけ別なんだろうしな。

いいから早く出ろ、俺を待たせるな」

「あ、うん」

 

 詩乃はそれ以上突っ込むのを諦め、電話をとる事を優先する事にした。

 

「ハイ、どうしたの?何かあった?」

「いや、お前が映像を見て調子に乗ってるんじゃないかと思ってな」

「な、何でそれを……」

「ああ?冗談のつもりだったんだが、お前本当に調子に乗ってたのかよ……」

 

 そう言われた詩乃は、いきなりこう叫んだ。

 

「あんたの本気と冗談はいつも分かりにくいのよ!」

「逆ギレかよ……」

「で、用件は?」

「この前言ってたABCと遊びに行く話だが……」

 

 その聞き慣れない言葉を聞いた詩乃は、話の腰を折って八幡に聞き返した。

 

「待って、ABCって何?」

「映子はA、美衣はB、椎奈はCじゃないかよ、まあ美衣は読み方を変えないとだけどな」

「ぷっ」

 

 詩乃は確かにそうだと思い、思わず噴き出した。

 

「理解したか?で、その話だが、明日はどうかと思ってな」

「ああ、なるほどね」

「で、どうだ?」

「ちょっと三人に聞いてみるから、こっちから掛け直してもいい?」

「了解だ、それじゃあまた後でな」

「うん」

 

 そして三人に連絡をとった詩乃は、直ぐに八幡に電話を掛け直した。

 

「オーケーだってよ」

「そうか、それは良かった」

「それで迎えなんだけど、三人ともこれからうちに来る事になったから、

朝に直接うちに迎えに来てもらってもいい?」

「ああ、問題ない」

「で、どこに行くの?」

「あいつらの好きな所でいいさ、今夜話し合っておいてくれればいい」

「オーケー、それじゃあ明日ね」

「おう、また明日な。今日はお疲れさん」

「八幡もね」

 

 こうして八幡との通話を終えた詩乃は、動画の続きを見ようと思い、

はちまんくんの方を見たのだが、はちまんくんが黙って目を瞑り、

何か考え込んでいるように見えた為、詩乃は疑問に思ってはちまんくんに話し掛けた。

 

「はちまんくん、どうしたの?」

「いや、さっきの着信音を検索していたんだがな……実はお前、昭和の生まれなのか?」

「なっ……」

「ラムのラブソングって何だよ……」

 

 詩乃は確かにそんな名前の曲だったなと思いつつ、

まさか昭和の曲だったとは思ってもいなかったのか、驚いたようにこう言った。

 

「昭和!?そんなに古い曲なの!?」

「お前どうやって見付けたんだよ」

「適当に検索で、綺麗なオルゴールの曲だなって思ったから……」

「もしかして歌詞とか知らないまま、俺の本体からの着信の曲に設定したのか?」

「うん……」

「後で聞いてみろ」

「う、うん……」

 

 そして後半動画が始まった。

 

「おお……」

 

 はちまんくんは、シャナとシズカの無双状態に釘付けになり、

その後の殲滅戦を興味深そうに見ていた。

 

「さすがは本体だな……」

「はちまんくんでもやっぱり感心するんだ」

「俺の元データには、さすがにこういう大規模戦闘のデータは無いからな」

「そっかぁ」

「同じように見えて、俺達は決して同一人物では無いんだよな、

その事は決して忘れるんじゃないぞ、詩乃」

「うん」

 

 そしてこの日の戦闘の動画を見終わった後、はちまんくんはPCを操作し、

目的の動画を呼び出した。

 

「当然有料なんだが、今回は俺が払っておいてやったからな。とりあえず第一話を見てみろ」

「第一話?ドラマか何かの曲なの?」

 

 ただの音楽の動画だと思った詩乃は、第一話と聞いてそう考えたようだ。

丁度その時ABCの三人が到着した。

 

「やっほー詩乃」

「はちまんくん、久しぶり!」

「あれ、わざわざPCなんか点けて、何を見てるの?」

 

 椎奈にそう尋ねられたはちまんくんは、こう説明をした。

 

「おう、これは詩乃が俺の本体から着信した時に設定してる曲の元ネタだ」

 

 その曲を聞いた事があったのか、三人は口々に言った。

 

「ああ~、あれかぁ」

「かわいいメロディだよね」

「でしょ?見付けたのはたまたまだったけどね」

「よくあんなの見付けてきたなとは思ってたけど、

何の曲かは調べてなかったなぁ、一体何の曲なの?」

「古いアニメだ」

「アニメなんだ?」

「まあ見てみるといい」

 

 そしていきなりオープニングが始まった。

 

「え……オルゴールと雰囲気が違う……」

「確かにかわいいけど、かわいいけど!」

「うん、いかにも昭和だね」

「それより歌詞、歌詞が!」

 

 オープニングが終わった所で三人は詩乃を取り囲み、じっと詩乃の顔を見つめた。

 

「えっと……」

 

 その詩乃の顔は真っ赤であり、三人は頷き合いながら言った。

 

「一番好きよ、ねぇ……」

「本当に知らなかったんだってば!」

「王子の全てを夢見ちゃってるのも事実だし……」

「そ、それは……」

「これは確信犯だね!私達が知らないと思って、

実はこういう意味でこの曲にしたのよと、内心で一人ほくそ笑んでいたに違いないね!」

「ちっ、違……」

「本当に?」

「ほ、本当に本当よ!」

 

 そしてそのアニメの本編を見た三人は、ニヤニヤしながら詩乃にこう詰め寄った。

 

「もし自分が無実だと言うのなら、『ダーリン、うち詩乃だっちゃ』って言ってみなさい」

「それだ!」

「ええええええええええ」

「言えないのなら、ギルティだね」

「うん、ギルティ」

「え、えっと……」

 

 今にもそのセリフを言わんとばかりに、口をぱくぱくしながら葛藤する詩乃を見て、

三人とはちまんくんは、ひそひそと会話を交わしていた。

 

「ねぇ、ノリでとりあえず言ってみたけど、もしかしてこれって本当にやってくれそう?」

「さすがに冗談だって俺でも分かるくらいなんだがな」

「多分恥じらいでパニック状態になってるんじゃないかな」

「まあこれはこれでかわいいからいいか」

「はちまんくん、声を録音する手段ってある?」

「録画機能ならあるぞ」

「ナイス!はちまんくん、もし詩乃が言ってくれたら、

それを録画して王子に聞かせてあげて!」

「俺にか?分かった」

 

 そして詩乃は、葛藤の末についにその言葉を言った。

 

「ダ、ダーリン、うち、詩乃……だっちゃ」

「おおおおお」

「詩乃だっちゃ頂きました!」

「かわいい!」

 

 そして三人は、顔を真っ赤にして固まっている詩乃をそのままにし、

せっかくだからとその作品を鑑賞する事にした。

 

「はちまんくん、これってどんな作品?」

「ドタバタラブコメだな、俺のお勧めは映画の二作目だが」

「まあ面白そうだから見てみようよ」

 

 そして三人は楽しそうにその作品を鑑賞し、いつしか詩乃もそこに加わった。

そして四人は十話程度見終わった所ではちまんくんお勧めの映画の二作目を見る事にし、

こうしてどんどん時間が過ぎていった。

 

「ふう、面白かった……」

「だね!」

 

 そんな四人にはちまんくんが何気なくこう言った。

 

「ところでお前ら、時間はいいのか?」

「あっ……」

「もう三時……」

「やばっ」

「直ぐに寝ないと!」

 

 そして四人は布団を敷く手間も惜しんで適当に布団を並べ、

パジャマに着替えてそのまま雑魚寝に入った。

はちまんくんはやれやれと思いながら、そんな四人を見守りつつ、

たまに布団を掛け直したりしてあげていた。そして朝が来て八幡が到着し、

詩乃の部屋のインターホンを押した。




今日ネタに走ったのは、単純に四人を夜更かしさせたかっただけなので!

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