ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第343話 戦いを終えて

 こうしてこの日の戦いは終わり、源氏軍の者達はどんどんログアウトしていった。

さすがに疲れた者が多かったのだろう、圧勝だったとはいえ、

味方よりも遥かに多い数の敵を相手にするのは、肉体よりも精神に負担が大きいものだ。

 

「それじゃあシズカ、また明日な」

「うん、また明日ね」

「あっと、ちょっと待ってくれ」

「ん?」

 

 シャナはシズカを呼び止め、耳元でこう囁いた。

 

「実はな、おっかさんの娘さんが、SAOの始まりの街にいたサーシャさんらしいんだよ。

で、サーシャさんは今、俺の母校で静先生の同僚になってるらしくてな、

明日の放課後、エギルを誘って会いにいってみないか?」

「あ、そうなんだ!懐かしいなぁ……エギルさんもきっと喜ぶよ」

「まあエギル次第だけどな、とりあえず連絡をとってみて、明日報告する」

「うん、分かった!」

 

 シノンは先にログアウトしたらしく、もう姿は見えなかった。

そしてシャナもログアウトし、再び目を開けると、そこはメイクイーンの一室だった。

 

「ふう……」

「お疲れ様だな、俺」

「いやぁ、手に汗握ったニャ」

「凄いものを見せてもらったお……」

「おう、まあ楽しんでもらえたなら何よりだ」

 

 そして八幡は、疲れた顔でソファーに体を埋めた。

見ると詩乃も疲れたらしく、同じような体制で映子達三人にマッサージをしてもらっていた。

 

「どう詩乃っち、気持ちいい?」

「うん、凄く楽になった」

「ギンロウって人をキャッチした時は、手に汗握ったよほんと」

「その後の狙撃もね」

「うん、上手くいって本当に良かった」

 

 詩乃はそう答えながらも、マッサージが気持ちいいのだろう、うつらうつらとしていた。

そんな詩乃をソファーに横たえ、次に三人は手をにぎにぎしながら八幡の方に迫ってきた。

 

「さて、今日のメインイベント!ささ八幡さん、お体をお揉みしますよぐふふふふ」

「お、おい椎奈、お前の口調、ちょっとおっさんっぽくないか?」

「え~?やだなぁ気のせいですよぉ。ね、映子、美衣?」

「そうそう、気のせいですよぉ、じゅるっ」

「ですです、ささ、体を楽にして……じゅるっ」

「お、おい……やっぱり何かおかしくないか?お前ら目が血走ってないか?」

 

 そんな八幡の前に誰かが立ち塞がり、その視界を埋めた。フェイリスである。

フェイリスはニコニコしながら八幡の前に座り、その足を揉み始めた。

 

「こういうのは早いもの勝ちニャ!マッサージはメイドの嗜みなのニャ!」

「フェ、フェイリスたん、僕そんな事された記憶がまったく無いんだけど……」

「ダルにゃんは、ゲームのやりすぎで肩がこるくらいじゃないのかニャ?」

「そ、それはそうだけど……」

 

 そんなフェイリスを見て映子達は顔を見合わせると、八幡の方をじっと見つめた。

 

「残るは背中と両手、背中を誰が取るかジャンケンよ!」

「恨みっこなしだよ!せーの!」

「ジャンケン!」

「「「ポン!」」」

 

 そして勝利したのは、誰であろう椎奈だった。

 

「よっしゃあ!人生最大のチャンスゲット!」

「チャ、チャンス……?」

 

 戸惑う八幡をよそに、椎奈はササッと八幡の背後に回り、大人しくその肩を揉み始めた。

 

「おお、肩を揉むのが上手いな椎奈」

 

 それを見た映子と美衣も、慌てて八幡の両手を揉み始めた。

 

「なんか悪いな皆、最近疲れがたまってたから助かるわ」

 

 その声が本当に疲れているように聞こえたので、

ダルは羨ましがりつつも、少し心配そうに八幡に尋ねた。

 

「くぅ~、羨ましい!でも八幡、やっぱりかなり疲れてるん?」

「ああ、さすがに今回は敵の数が多くてな……

街から遠い所を拠点にして、何とか数に押し潰されるのだけは防いでるって感じだな。

まあ最悪一撃離脱で逃げる手もあるんだけどな」

 

 ダルは先ほどの映像を思い出してうんうんと頷いた後、八幡に言った。

 

「しかしまさか、八幡があのシャナだったなんてびっくりしたお」

「気付いてる奴は気付いてるっぽいけどな、そういう書き込みも確かにあるしな」

「バレても問題無いん?」

「そうだな、正直もう相手にはバレちまってるから、

リアルと結びつけられなかったらどうでもいいんだよな」

「相手ですと?」

「ああ、マークしておきたい敵がいるんだよ」

「なるほど」

 

 ダルは、これだけの人物なのだから味方だけじゃなく敵もさぞ多いだろうなと思いつつ、

それ以上深く突っ込む事はしなかった。彼なりの自己防衛策なのであろう。

 

「そうだダル、追加で仕事を頼んでいいか?」

「仕事?」

「ああ、ちょっと最近どうしても機密を守らないといけない事が増えちまったんで、

ソレイユのセキュリティを高める手伝いをしてほしいんだよ。

アルゴとイヴ、それにダルに攻撃側と防御側に分かれてもらえば、

セキュリティの穴を発見するのも効率が良くなるんじゃないかと思ってな」

「イヴ?イヴってもしかして、電子のイヴ?」

 

 その名前を知っていたのか、ダルは八幡にそう尋ねた。

 

「ああ、先日うちに入社したんだよ」

「あのイヴが……アルゴスターに電子のイヴとか最強じゃないですか!」

「ああ、そっち方面の充実がうちの急務だから本当に良かったよ」

「確かにそのメンバーならかなり固い防壁が築けると思うお、

でも八幡って、その年でそこまで経営に介入出来るなんて、

もしかしてソレイユのえらい人なん?」

「まあそう思ってくれていい、で、どうだ?」

「他ならぬ八幡の頼みならどんとこいだお、

そういう仕事ならまったくリスクも無いし大歓迎だお!」

 

 ダルはどんと胸を叩き、その仕事を請けると宣言した。

そんなダルに材木座の姿を重ね、妙に気に入った八幡は、追加でボーナスを出す事にした。

 

「そういやダル、俺のファンだって言ってくれたよな、

あれって俺個人っていうよりも、ヴァルハラのファンみたいな感じでいいのか?」

「う?うん、確かにそうだけど……」

 

 そんなダルに、八幡は一枚のメモを取り出して渡した。

 

「それじゃあここにアクセスする権利をダルに進呈しておく。

くれぐれも流出とかはさせないでくれよ」

「これは……?」

「このIDとパスで、ヴァルハラのプライベート動画にアクセス出来る。

まあダルが信用出来ると思った奴には見せてもいいぞ」

「ま、まじで?お宝きたあああああ!」

 

 そんなとても喜ぶダルの姿を見て、フェイリスは八幡に言った。

 

「それってフェイリスは見てもいいのかニャ?」

「おう、フェイリスなら問題ないぞ、プロっぽいからな」

「こういう稼業は信用第一だから、そこは任せてニャ!」

 

 そしてフェイリスは、楽しみで仕方がないという風にうっとりとした口調で言った。

 

「ああ、久しぶりに英雄様が戦う姿が見れて、フェイリスは幸せ者ニャ……」

「ん、前にどこかで俺の事を見た事があったのか?」

「そうニャね、あれは何万年前だったかな……その頃フェイリスは町娘に転生していて、

町の外には出れなかったせいで、英雄様の戦いを見る事は出来なかったのニャ」

「そうか……」

 

(えっと、やっぱり合わせないとだめだよな)

 

「なぁ、その時……」

「その時ヴァルキュリアの三姉妹としてシノルティス王女に従っていた私達は、

英雄様の隣で戦い続けたんだよね」

「なっ……」

 

 八幡は、いきなり椎奈がそんな事を言い出したので驚いた。

 

「羨ましいのニャ!」

「ふふっ、今世では一緒に戦えるからいいじゃない、これもきっと運命だよ」

「その通りニャ、フェイリスは幸せ者ニャ!」

 

 そして八幡は椎奈の方を見ようとしたのだが、振り返った瞬間に、

八幡の顔は何か柔らかい物に包まれた。

 

「うおっ」

「ゃぁん!」

 

 八幡はその声ですぐに何が起こったのか気が付き、慌てて顔を前へと戻した。

 

「す、すすすまん」

「う、ううん、大丈夫」

 

 そんな二人の姿を見てダルは絶叫した。

 

「い、今のが噂に聞くラッキースケベ!僕も一度でいいから体験してみたいお!」

 

 だがフェイリスと映子、それに美衣は、ひそひそと囁き合っていた。

 

「肩をもんでいたはずなのに、何で顔の位置に胸がきてるの?もしかして計算?」

「もしかしたら天然であの位置に胸を持ってきておいたのかもよ……」

「椎奈、恐ろしい子ニャ……」

 

 そして八幡は、慎重に振り向くと、こっそりと椎奈に尋ねた。

 

「おい椎奈、さっきの会話は何だ?」

「アドリブだよ、八幡さん」

「まじかよ、凄えなお前」

「うん、私そういうの得意だから」

 

 この時を境に、椎奈は肩揉みが上手で会話にも機転がきくと、

八幡の脳に情報が刷り込まれる事となった。

こうして椎奈は三人娘の中では、一番多く八幡に触れられる機会を得られる事となった。

これが果たして計算だったのかどうかは誰にも分からない。

 

「さて、それじゃあそろそろ帰るか」

「あ、それなら最後に記念撮影でもどうかニャ?」

「あ~!そういえば一度メイド服を着てみたいんだった!」

「そうなのニャ?それじゃあ皆こっちニャ」

「詩乃起きて!写真を撮るよ!」

 

 そして詩乃も寝ぼけ眼を擦りながら覚醒し、

ダルも交えて七人は色んな組み合わせで写真を撮った。ダルは我が人生に悔いなしと感激し、

フェイリスは八幡と二人で撮った写真を携帯に表示させ、大切そうに胸に抱いた。

 

「それじゃあまた来るわ、フェイリス、ダル」

「仕事の連絡待ってるお!」

「必ずまた来てニャ!」

 

 こうしてメイクイーン・ニャンニャンを後にした一行は、

順番に家へと送ってもらい、最後に詩乃の家に到着した八幡は、

既に眠ってしまっている詩乃をどうしようか考えた。

 

「……まあ起こすしかないよな」

 

 まさか鍵を探して詩乃の体をまさぐる訳にもいかないと思い、八幡はそう呟いた。

 

「とりあえず何とか着替えさせて、布団に叩きこんだ後目覚ましをセットして……」

「目覚ましや家の施錠は俺に任せてくれていいぞ」

「おう、助かるわ」

「なので何とか着替えだけはさせてくれよ、さすがにこの体じゃどうしようもないからな」

「まあ努力する」

 

 こうして何とか詩乃を着替えさせ、ベッドに叩き込む事に成功した八幡は、

後の事をはちまんくんに任せて家路へとついた。

そして八幡はエギルに連絡をとり、明日の約束を取り付けると、

そのまま疲れた体をベッドに横たえた。

 

「フェイリス、そしてダルか……これからどんな付き合いになるのやらだな」

 

 そして八幡はそのまま眠りについた。

その当の二人は、八幡に教えられたサイトにアクセスし、

ヴァルハラのメンバーの戦う姿を見て大興奮していた。

特に魔法戦も見る事が出来たフェイリスの感動っぷりは凄まじかった。

 

「これニャ、これがフェイリスの求めていた戦いニャ!」

「こういう派手な戦いは確かに見応えがあるんだお」

「この仕事を持ってきてくれたダルにゃんには本当に感謝しかないニャ!」

「まあ僕も、フェイリスたんくらいしか話を持ち込める人が居なかったですし」

「それじゃあ次、シャナの動画を見てみたいニャ、ダルにゃんお願い!」

「分かったお、ちょっと待っててお」

 

 そして夜遅くまで動画を見た二人は、すっかりハチマンとシャナの虜になった。

ダルは八幡から請けた仕事を精力的にこなし、岡部倫太郎という友人も共に巻き込む事で、

自動的に二人の懐も潤い、その二人のホームである未来ガジェット研究所の財政も、

それ以降かなり健全化する事となった。

そしてフェイリスは、八幡に頼み込んでヴァルハラのゲストの座を手に入れ、

ヴァルハラ専属のメイドプレイヤーとしてメンバーと交流を深めていく事となる。


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