「いやぁ、実に燃える展開になってきたな、大将」
「本職の目から見て、この作戦はどうですか?」
「面白いと思うよ、ゲームならではって感じだな」
「ですね」
街へと凱旋する途中のブラックの中で、シャナとコミケはそんな会話を交わしていた。
「本職だと?なるほど、コミケ達は現役の自衛隊員なのだな」
「この事は内密にな、先生、シノン」
「もちろんだ!」
「うん、分かってる」
二人はそう頷いた。こんな会話になる事も予想して、
シャナは前回と同じメンバーをブラックに乗せていたのだった。
「正面の囮役を頼んでしまってすみません」
「何、腕が鳴るってもんですよ」
「レンジャー徽章持ちが二人もいるんだ、やってやるぜ」
「た、隊長、それは……」
その言葉にシャナは敏感に反応した。
「も、もしかしてお二人とも、レンジャー徽章をお持ちなんですか?」
「おうよ!」
「はぁ……あまり大きな声で言う事じゃないんで、内密にお願いしますね。
自分と隊長は確かにそうです、ケモナーはレンジャー徽章こそ持っていませんが、
車の運転は抜群に上手いですよ」
「なるほど……」
「レンジャー……何?」
詩乃はその用語が分からなかったらしく、そう質問してきた。
それに対してシャナは、シンプルにこう答えた。
「精鋭の証だな」
「おっ、シンプルな答えだね」
「でもまあ知らない人に対する説明としては満点ですね」
「なるほど、とにかく凄いのね」
「だからこっちは任せてくれよな」
「はい、信頼してます」
そして街に着いた源氏軍は、一般プレイヤーに熱狂的に迎えられた。
「源氏軍だ!」
「凄いぞお前ら!あの人数差をよくもまあ……」
「頑張れよ、シャナ!応援してるぜ!」
そしてシャナは、せっかくのイベントなのだからと思い、群集にこう叫んだ。
「平家軍を懲らしめる為、源平合戦の勝利の成就の為、首都よ、私は帰ってきた!」
「おお!」
「シャナ!」
「ナイスネタ!最高!」
群集はその言葉にやんややんやと喜び、大いに盛り上がった。
そんなシャナ達を、銃士Xが物陰から眺めていた。
そしてその銃士Xに、イコマがこっそりコンタクトをとった。
「銃士Xさん、お久しぶりですね」
「イコマ様!うん、お久しぶり」
銃士Xはイコマを見て嬉しそうにそう言った。
「どうします?ここで合流しますか?」
「……私が何故源氏軍だと?」
「むしろ銃士Xさんが源氏軍じゃなかったら、逆にびっくりですよ」
「ところでこれはどういう状況?」
「実は……」
そしてイコマは、手早く今の状況を銃士Xに説明した。
その説明を聞いた銃士Xは、考えた末に言った。
「それなら極力現状を変えない方がいい。今はまだ合流すべきではないと考える」
「そうですか、でも最終日までには合流して下さいね」
「肯定、約束する」
そして銃士Xはどこかへ去っていき、イコマはその事をシャナに報告した。
「分かった、楽しみだな」
「ですね」
そしてシャナ達はそのまま街の奥へと進んでいった。
「このビルだ」
シャナはそう言いながらとあるビルに入り、その中にあった隠し扉を潜って、
中にNPCがいる一室に仲間達を案内した。
「こんな分かりにくい所に……」
「よくこんなの見付けたね、シャナ坊や……」
「ビルの構造的に明らかに不自然なスペースがあったんで、探してみたらあっさりとな。
さて、ちょっと面倒だと思うが、全員このNPCに話し掛けてくれ」
そしてNPCとの話を終えた一行は、そのままとって返し、
弾薬や他の必要な物を補充した後に、再びハンヴィーに分乗して一の砦へと向かった。
「さて、この辺りで一旦停止だ」
「おいシャナ、あいつらこっちを見てるみたいだぜ」
早速単眼鏡で敵陣を覗いていた闇風がそう言った。
「待ち伏せ準備は準備万端って訳か」
「まあそうは問屋がおそロシアってな」
「意味が分からないが……よし、早速移動だ、コミケ、後は任せます」
「あいよ、任せてくれ」
そしてコミケ達だけを残し、シャナ達はどこかへと移動を開始した。
「隊長、あいつら殺気立った目でこっちを見てますよ」
「向かってきたらどうしますか?」
「その時は尻尾を巻いて逃げ出すさ、砦の外に敵が出る分には問題ないからな。
ケモナー、いざという時は頼むぞ」
「任せてくれっす、あんなド素人ども、軽くちぎってやりますよ」
その頃シャナ達は、一の砦近くにある山小屋へと到着した。
「ここだ、順番にNPCに話し掛けてくれ」
「あいよ、さあ並んで並んで!」
仲間達は一人、また一人とNPCに話し掛け、その姿を消していった。
そして最後にシャナがNPCに話し掛け、次の瞬間にシャナは洞窟の中にいた。
そんなシャナを仲間達が出迎えた。
「シャナ、全員問題なく揃ってるぜ」
「オーケーだ、それじゃあ進むか」
「しかし考えたもんだな、クエストのフラグを利用して、砦の中に潜入しようだなんてな」
「このクエストは前にやった事があってな、
まあ自前で作成した地図にメモが貼り付けてなければ思い出せなかったかもしれないけどな」
「なるほど」
一行はそのまま洞窟を進んでいたが、ある所で急に視界が開けた。
そしてその視界の先に、大量のモンスターが姿を現した。
「あれか……」
「ああ、普通はここで全滅させて先に進むんだが、あそこに扉があるだろ?
あそこは砦の中の隠し扉に繋がってるんだが、
あそこに入るとここの敵が全部砦の中に転移してくるんだよな」
「絶対逃がさないってか?」
「一度アクティブになったら、無差別に近くにいるプレイヤーを攻撃するから、
そういう迎撃型のイベントなんだろうな。まあ俺はソロでクリアしたが」
「相変わらずの化け物アピールか」
シャナは肩を竦めながら、続けてこう言った。
「さすがにこの戦いで平家軍を全滅させるのは不可能だろうが、
モブは砦の中央に沸くから、せめて半数をコミケ達がいる南門方面に閉じ込めたい。
そこで誘導役の者に、敵をそちらまで誘導してもらう」
「なるほど、門は四つあるから、タイミングを合わせて中央の二つを同時に閉じちまうのか」
「よし、それじゃあ行ってくる、お前らはタイミングを見て中に潜入してくれ」
「ちょ、ちょい待ち、ウェイウェイウェイ」
そう言って一人で突入しようとするシャナを、闇風が止めた。
「ん、どうした?」
「自分で誘導役をするつもりだったんだろうがシャナ、一つ忘れてないか?
今お前の頭の上には、源氏軍の旗が立ってるんだぜ。
それじゃあ直ぐに源氏軍の奴だってバレちまうぜ」
「あ……くそ、その事は失念してたな」
シャナはそう言うと困った顔をした。そんなシャナに闇風が言った。
「ここはスピードスターたる俺の出番だろ、俺は自分が前線で暴れたいが為に、
旗持ちの役目を別の奴に任せてあるからな」
「だが……」
「だがも何も無えよ、これが適材適所って奴だ。
シャナはこのまま潜入部隊の指揮をとってくれ」
「……分かった」
こうして誘導役は闇風に託された。
「コミケさん、こちらの囮は闇風がやります、
表門から闇風の姿が見えたら手はず通りにお願いします」
『オーケーオーケー適任だと思うぜ、こっちはいつでもオーケーだ』
「ありがとうございます、そろそろいきますね」
そしてシャナは闇風の肩をぽんと叩きながら言った。
「内部の構造は覚えたな?足を止めるなよ」
「分かってるって、本気で走れば俺に付いてこれる奴は存在しないぜ」
闇風は自分の足をぽんぽん叩きながら自慢げにそう言った。
そして仲間達が見守る中、闇風は扉を開け、一の砦の内部に潜入した。
その瞬間に砦の内部にモブの軍団が出現し、
その場にいた平家軍のプレイヤーに襲い掛かり始めた。
「な、何だこのモブは!?」
「中央の味方の数が少ない、とりあえず北門まで移動してそこで敵を迎え撃とう」
北側を見張っていた者達は、そう言って北の外側の門まで移動し、
そこにいた者達と連携してモブの殲滅を始めた。
そして闇風は、こう叫びながら砦の南側の内部を走り回った。
「中央にモブの軍団が沸いたぞ!南からはシャナが来るかもしれん!
総員南門側の内部に集合して中央のモブを殲滅後、シャナに備えろ!」
その言葉に釣られた平家軍の者達は、右往左往しつつも指示通りに集まり始めた。
こうして平家軍は四つある門のうち、北側二つと南側二つの門の間に分かれ、分断された。
そして誰もいなくなった中央にシャナ達が潜入を果たした。
「よし、急いで中央二つの門を閉じるんだ、閉じたら直ぐに信号弾を発射だ」
そのシャナの指示通り、一行は二手に分かれて中央の門を閉じた。
だが平家軍の者達は、モブへの対応に追われていた為にそれに気付かなかった。
そして平家軍の者達は、空に信号弾が打ち上げられるのを見た。
「な、何だ?」
「まさかシャナ達が既にここに?」
「いやいやありえないだろ、とにかく今は急いでモブの殲滅だ!」
そして南門でその信号弾を確認した闇風は、今度はこう叫んだ。
「外からシャナ達がいつ来るか分からないから偵察は俺に任せてくれ!
シャナ達の姿が見えたら直ぐに報告する!」
「お、おう、頼んだぞ」
一方コミケ達は、空に上がる信号弾を見た瞬間に全力で砦方向に爆走を始めた。
「トミー、ロケットランチャーの準備は出来てるな?」
「問題ありません、いつでも撃てます」
「ケモナー、全力で門へと向かえ、闇風が出てきたら回収してそのまま周囲を警戒だ」
「任せて下さい!」
闇風はその頃一番南の門に到達し、今まさに外に出ようとしている所だった。
その闇風の姿を見て、闇風の正体を看破した者がいた、ゼクシードである。
「まさか!?おいお前、ちょっと止まれ!」
「そう言われて止まる奴がいるかっての、精々頑張って生き延びろよ、ゼクシード」
「やっぱり闇風か!」
「仕事は果たした、あばよゼクシード!」
「やばい、ユッコ、ハルカ、これは多分シャナの罠だ!車に乗って外へ脱出するぞ!」
「そ、そうなんですか!?」
「分かりました!他の味方の人にこの事を伝えますか?」
「もう時間が無い、こっちの生存を優先だ!」
そして闇風は、凄まじいスピードで門から飛び出していった。前方にコミケ達の姿が見え、
闇風はそちらに手を振った。それを見たコミケはトミーに言った。
「トミー、門を破壊しろ!」
「はい!おっと、後方の安全確認っと……」
「安全は確認済だ、さっさと撃て!」
「は、はい!」
そしてトミーが発射したロケットランチャーの弾は門の上に着弾し、
ガラガラと門が崩れ、門は完全に塞がれた。その直前に一台の車が外へと飛び出し、
そのまま方向を変えて西へと走り去った。こうしてゼクシードは寸前で危機を回避した。
だが残りの者達にとってはそれは悪夢の始まりだった。
「門が崩れたぞ!」
「何だよこれ、何が起こってるんだ?」
「いつの間にか中央側の門が閉まってるぞ、閉じ込められた!」
「状況が分からん、とにかく最優先でモブを殲滅だ!」
その頃闇風はコミケ達と合流し、ハンヴィーのシートで一息ついていた。
「ふう、成功成功っと」
「闇風は足が速いな!」
「まあAGI強化だからな、ゲームならではみたいな?」
「お、ついに旗が揚がったっす!」
そのケモナーの言葉通り、まるで見せつけるかのように源氏軍の白旗が砦の中央に上がり、
それに気付いた平家軍の者達は、自分達が罠にはまった事を知った。