ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第353話 間宮クルスの路上面接

 その日クルスは、家を出る前から途轍もなく緊張していた。

 

「服装はいつもより多少露出多め、胸はやや強調、化粧は薄め、

装飾品は嫌味にならない程度に自然に、常に笑顔で優しい口調。

服装はいつもより多少露出多め、胸はやや強調、化粧は薄め、

装飾品は嫌味にならない程度に自然に、常に笑顔で優しい口調……」

 

 クルスは同じ事を何度も繰り返し口にし、その項目を何度もチェックしていた。

当然朝から入浴し、髪もサラサラに仕上げてある。

 

「まあ軽い面接みたいなもんだから、あまり肩肘を張るなよ」

 

 昨日の落ち際にそう言われたとはいえ、やはり第一印象は可能な限り良くしておきたい、

クルスはそう考え、自作の八幡と会えた時用マニュアルに従い、

準備を完璧に整えた上で家を出た。

大学への道中では、いつもよりも自分に注がれる視線が確実に多かった。

その事でクルスは、今の自分の姿に多少自信が持てた。

 

「あっクルス、今日は何か気合い入ってるね」

「そ、そうかな」

「そうだよ、どこからどう見てもおめかししてるじゃない、まさか男が出来たとか?」

 

 午前中の講義が終わった後、クルスが唯一仲の良い女の子、

海野杏が、クルスを見付けてそう声を掛けてきた。

 

「う、うん、今日はちょっと人と会う用事があって……」

「えっ?冗談のつもりだったけど、まさか本当に男?もしかして彼氏!?」

「あ、えっと……彼氏とかじゃないんだけど」

 

 クルスがそう言って盛大に頬を染めたせいで、杏は動揺した。

 

「男という事を否定しない!?そんな浮いた気配は全然無かったのに……

でもこんなにおめかししてるクルスを見るのは始めてだし……」

 

 そう言って杏は、改めてクルスを観察し始めた。

 

「うわ、髪とかサラサラで艶々じゃない!気持ちいつもより胸も盛ってるような……

いつもとメイクも違う……あれ、クルスがアクセサリーとかしてるの始めてじゃない?

これって始めて見るクルスの男を落とすモード?」

 

 そんな会話を聞かされた周囲の男達も、黙ってはおれずに会話に参加してきた。

ちなみにクルスにとっては特に友達という訳ではなく、顔見知り程度の者達であった。

 

「間宮さん、俺いい店を知ってるんだけど、良かったらこれからランチにでも……」

「いやいや、間宮さんは俺と……」

「ここは俺が……」

「間宮さん、今日は凄くかわいいね!」

「間宮さん!」

「あの……私は……」

「ちょっとあんた達、クルスが迷惑してるじゃない、いい加減に……」

「ごめんなさい、ちょっと道を開けてもらってもいいかしら」

 

 そう盛り上がる集団に、誰かがそう声を掛けた。

 

「あっ、雪ノ下さん!」

「す、すみません!」

「大学の二大美女が揃った……」

 

 声を掛けてきたのは雪乃だった。周りの者の反応を見ると、

クルスと雪乃はどうやら大学の二大美女扱いされているらしい。

クルスは雪乃の顔は知っていたが、一度も話した事は無かった為、

雪乃を通す為に一歩横にどくと、少し緊張した様子で雪乃にこう言った。

 

「すみません雪ノ下さん、どうぞ」

 

 そう言ってクルスは会釈をしたのだが、何故か雪乃はその場を去ろうとはせず、

そのまま真っ直ぐにクルスの前に立った。

 

「あ、あの……」

「ちゃんと話すのはこれが初めてになるのかしらね、私は雪ノ下雪乃、宜しく」

「あ、間宮クルスです」

「それじゃあ行きましょうか、ここは周囲の雑音が凄いものね。

良かったらお友達も一緒にどうぞ」

「えっ?えっ?」

 

 そのクルスの反応を、雪乃はいぶかしげに見た。

 

「……もしかして、彼から何も聞いてないの?」

「彼?……あっ」

 

 その言葉で、クルスは学校の同じ学年に仲間がいると教えられた事を思い出した。

そう、確かニャンゴローがこの学校に在籍しているはずだ。

意外ではあるが、この展開からするとそれはおそらく目の前の雪乃なのだろう。

 

「分かったようね、それじゃあ行きましょう」

「はい!」

「ちょ、ちょっとクルス!」

「杏、一緒に来て。大丈夫、雪ノ下さんは友達なの」

「えっ?あんたいつの間に……」

 

 それには答えず笑顔で杏の手を引き、そのまま去って行こうとしたクルスの腕を、

男達の一人がガッと掴んだ。

 

「待ってよ間宮さん、まだこっちの話が」

「い、痛い、離して」

「ちょっとあんた、クルスに何するのよ」

 

 その言葉で雪乃は振り返り、事情を察すると、

その男に制裁を加えようとそちらに手を伸ばしかけた。その雪乃の肩を誰かがポンと叩いた。

雪乃はその人物の顔を見て、クルスの方に伸ばしかけた手を引っ込めた。

そしてその人物はクルスと男の間に割り込み、その男の腕を掴んで締め上げた。

 

「ぐあっ」

「おいお前、うちのクルスに何やってやがる」

「だ、誰だてめえ!」

 

 クルスはその背中を見て、それが誰なのか直ぐに理解した。

途端に心臓がドクンと脈打ち、クルスは嬉しさで頬を紅潮させた。

それを見た杏も口を出すのをやめ、事の成り行きを見守る事にした。

 

「俺か?俺は……」

 

 そう言いながらその人物~八幡は、何と言えばいいかとチラリと雪乃の表情を伺った。

その雪乃の表情は、お手並み拝見とばかりに少しニヤついた感じだったので、

こいつ面白がってやがると思った八幡は咄嗟にある事を思い付き、男に向かってこう言った。

 

「俺はこのクルスと雪乃の恋人だ、そうだよな?」

「なっ……」

「あっ、えっと、は、はい!」

「あ……え、ええ、その通りよ」

 

 クルスは周りにそう誤解されても一向に構わなかったので、空気を読んでそう同意した。

そして雪乃はやられたと思いながらも、クルスに合わせて仕方なくそれに同意した。

 

「ふ、ふざけるな、この二人を独占とかそんなの許される訳が無いだろ!」

「あ?お前は仮にも日本の最高学府の学生だろ?

日本の法律のどこに恋人が一人じゃなきゃいけないなんて事が書いてあるのか言ってみろ」

「そ、それは……」

「それにお前が俺のクルスに乱暴な態度をとった事は、ここにいる奴らは全員見てたからな、

お前は俺達の事よりも、今後の自分の評判の心配をするんだな」

「え?あっ……」

 

 さすがにやりすぎだという周囲の目に囲まれ、その男はすごすごと引き下がった。

代わりに前に出てきたのは杏である。

 

「あの……」

「お、クルスの友達か?いつもこいつが世話になってて済まないな。

それじゃ一緒に行こうぜ、ここは野次馬が多すぎるからな」

「えっ?本当に私も一緒でいいんですか?」

「別の場所で事情を説明しないといけないだろ?」

「あ、ありがとうございます!」

 

 そして八幡は雪乃とクルスの手を引き、車を停めてある方向へと歩き出した。

杏はチラリチラリとその様子を伺いながら、その後を付いていく。

残された男連中は、それを呆然と見送る事しか出来なかった。

 

 

 

「あなたね、言うに事欠いて何て事を……」

「あ?お前があんなニヤニヤした顔でこっちを見ていたから巻き込んでやったんだ、

俺は悪くない、お前が悪い」

「悪いわよ!まったく詩乃の事といい、あなたは学校ことに違う女の子を恋人扱いして……」

「う……」

 

 八幡はその言葉に図星を突かれたのか、少し苦い表情をした。

 

「まあどっちも事情が無かったとは言えないから仕方ないけど、

せめて学内ではちゃんとフリはするのよ、いい?」

 

 雪乃はそう言って八幡の腕を抱き、クルスもそれに倣った。

その残酷なまでの感触の差には、八幡は一切言及しない。

むしろ雪乃から感じる感触が増している気がして、

努力の成果は確実に出ていると、内心で雪乃を賞賛したくらいだった。

 

「まあもうここに来る事はほとんど無いだろうから構わないが……」

「私に対してしてやったりと思ったのかもしれないけれど、

あなたはいつもワンパターンなのよ、もう少しその無い頭を使って工夫しなさい」

「くっ……事実だけに反論出来ねえ」

 

 そんな二人を見て、クルスはクスクスと笑っていた。そして杏が八幡にこう尋ねた。

 

「えっと、結局さっきのは、あの場を逃れる為の方便って事でいいんですよね?」

「おうそうだな、二人にはすまないと思ったが、まあ卒業までは我慢してもらう事にするさ」

 

 その言葉に納得出来なかったのか、杏はクルスにこう尋ねた。

 

「クルスはそれでいいの?」

「え?何でそんな事を聞くの?いいに決まってるじゃない、

むしろ私なんかが八幡様の恋人だなんて、迷惑じゃないか心配だよ」

「ああ……そういう事なんだ……」

 

 クルスに真顔で真っ向からそう言われ、

杏はクルスが八幡に好意を持っているという事を嫌という程理解させられた。

微妙に恋愛感情と違うような気もしたのは、杏の生来の鋭さによるものだろう。

 

「で、あなたは誰なんですか?」

「おう、せっかく名刺があるんだし、これを渡しておくか」

 

 その名刺には、『ソレイユ・コーポレーション、VR事業部部長、比企谷八幡』

と書いてあり、杏は目を見開いた。

 

「えっ?私と同い年くらいに見えるのに、あのソレイユの部長!?本当に?」

「実は名前だけだ、VR事業部などと言う部署は正式には存在しない。俺はまだ学生だ」

「ど、どういう事ですか?」

「要するに名目上の役職だって事だ、ネットワーク事業部ってのはあるが、

VR事業部は俺が入社してから正式に発足する事になる……のか?」

「私に聞かないで欲しいわ、あの人に聞きなさい」

「おう、そうするわ」

 

 雪乃のその答えを聞いて、クルスと杏はその指差す方を見た。

黒塗りの車の横に美女が立っており、その美女はこちらに気が付くと、

慌ててこちらに駆け寄ってきて、いきなり雪乃に言った。

 

「ちょ、ちょっと雪乃ちゃん、何で八幡君と腕を組んでるの?抜け駆け?」

「それはこの男に聞きなさい、姉さん」

「八幡君、どういう事?」

「はぁ……実は……」

 

 そして八幡から事情を聞いた陽乃は、目を輝かせながらこう言った。

 

「私ももう一回学生になって、その学校で八幡君の女扱いになる!」

「おいこら馬鹿姉、訳の分からない事を言ってんじゃねえよ、おら仕事だ仕事」

「え~?ちょっとくらい夢を見てもいいじゃない」

「ちょっと?いつもの間違いじゃないのか?」

「雪乃ちゃん、八幡君が私に厳しい!」

「姉さん、この前の事を忘れたのかしら?」

「う……」

 

 陽乃はその言葉で、先日母と共に雪乃に説教をされた事を思い出したのか、

そのまますごすごと引き下がり、頬を膨らませたままクルスに言った。

 

「それじゃあ入社試験を始めま~っす、私はソレイユ・コーポレーションの現社長、

雪ノ下陽乃でっす、宜しくね」

「はい、宜しくお願いします」

 

 クルスは当然陽乃の事もある程度調べており、その顔も知っていて、

その破天荒な性格についても理解していた為にまったく動じずにそう言った。

だが杏はその言葉に驚愕した。

 

「え?本当に?これドッキリとかじゃないの?」

「お友達は随分古い言葉を知ってるのね、とりあえず自分のお友達がどういう人か、

そこで改めて理解するといいかもしれないわね」

「あ、はい」

 

 そして陽乃はクルスに顔を向け、感心したように言った。

 

「クルスちゃんはまったく動揺していないのね」

「はい、予想はしていましたので」

「うんうん宜しい、そういう子はお姉さん好きよ?

さて、ここがあなたの人生のターニングポイントよ、心して私の質問に答えなさい」

「はい」

 

 その想像以上の張り詰めた雰囲気に、杏は息を飲んだ。

そして陽乃の口から、その質問が発せられた。

 

「あなた、ここにいる八幡君の為に死ねるのかしら」

「死ねと言われれば死にます、でも八幡様が私にそんな命令をする事は無いので、

可能な限り生きて生きて生きまくって、寿命で死ぬその時まで八幡様のお傍にお仕えします」

「はい合格、入社おめでとう!これであなたも彼の秘書になる事が決定したよ!」

「ええ~~~~~~!ちょっとクルス、何言ってるのよ!そして社長さん、何で即決なの!」

 

 杏はその一瞬の遣り取りを聞いてたまらずそう絶叫した。

 

「うちはそういう会社だからとしか……ねぇ?」

「まあこんな感じだが、君の友達を悪いようにはしないから安心してくれ」

「は、はぁ……」

 

 そして杏はクルスの顔を見た。クルスは見た事も無い達成感に溢れた表情をしており、

杏はその表情を見て、素直に親友を祝福する事を決めた。

 

「おめでとう、クルス」

「ありがとう杏、私今まで生きてきて、最高に幸せな気分だよ」

「そっか、それなら本当に良かったよ」

 

 そしてクルスは八幡と陽乃に連れられ、ソレイユ本社へと向かう事となった。

残された雪乃と杏は何となく連れ立って、一緒に昼食をとる事にした。




すみません一話じゃ終わりませんでした……
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