ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/17 句読点や細かい部分を修正


第356話 戦争終結~闇風とシュピーゲル

「ダインさん、ミサキさんから連絡が入りました、

どうやら敵は正面に戦力を集中させてるみたいで、

トラップの状況も踏まえてそっちに戦力を回して欲しいそうです!」

「そうか……正面にな。おいギンロウ、ここのトラップの具合はどうだ?」

「ここはかなり厚めにトラップを仕掛けてあるんで、一人か二人残せばいいっす」

「なるほど……」

 

 そしてダインは少し考え込んだ後、シュピーゲルを指名した。

 

「シュピーゲル、ここの守りをお前に任せる。理由は分かるな?」

「この中で僕が一番足が速いからですね」

「そうだ、敵がもしトラップにかかったら、即座に逃げて報告してくれ。

その場で報告すると、敵に倒されて報告出来ない可能性がゼロじゃないからな。

もちろんこれはお前を貶めている訳じゃなく、万が一を防ぐ為だからな」

「もちろん分かってますよ、戦争では何が起こるか分かりませんからね」

 

 そしてシュピーゲルをその場に残し、ダイン達は正面へと向かって走り出した。

 

「さて、信頼には応えないとな」

 

 シュピーゲルはそう呟くと、目を皿のようにして周囲の警戒を始めた。

そのシュピーゲルの耳に、後方から誰かが近付く音が聞こえてきた。

シュピーゲルは味方だろうとは思っていたが、一応そちらを警戒するように銃を構えた。

そんなシュピーゲルに、その人物が声を掛けてきた。

 

「俺だよシュピーゲル」

「闇風さん、どうしたんですか?」

「まあ足を生かした巡回活動って奴だな」

 

 どうやら闇風は、その足を生かして各方面をフォローしているらしい。

そしてシュピーゲルは、闇風を見て嬉しそうな顔をした。

それはそうだろう、自分の目指すスタイルの最高峰が目の前にいるのだ。

 

「他の奴らは正面に回ったのか?」

「はい、僕だけが居残りです」

「そうか、大変だな」

「いえ、僕は敵を発見し次第報告に走るだけなんで」

「まあそれが俺達の真骨頂だな」

「はい!」

 

 そしてシュピーゲルは、ふと闇風にこんな質問をした。

 

「闇風さん、僕に足りない物って何ですかね……」

「何か悩んでるのか?」

「はい、伸び悩んでるというか、まあそんな感じですね」

「そうか」

 

 そして闇風は、少し考えた後にこう言った。

 

「今度何も考えずに思いっきり走ってみろ」

「えっ?」

 

 そのシンプルな答えにきょとんとするシュピーゲルに、闇風は自分の意図を説明した。

 

「何となくだが、お前はまだ自分の限界を知らない気がするんだよ、

だからとにかく走って走って走りまくれ、そしてその速度域で自分に何が出来るのか考えろ、

俺に言えるのはそのくらいだな」

「なるほど……凄く参考になります!」

「おう、少しでも役にたてたなら良かったわ」

「このお礼は必ず!」

「だったら俺にかわいこちゃんを紹介してくれ」

「あ、あは……」

 

 そしてシュピーゲルは、俯きながらこう言った。

 

「自分の事も上手くいかないのに、さすがに人に女の子を紹介出来る余裕は無いですね……」

「ああ、そうか、まあ相手があのシャナだからな……」

 

 闇風は訳知り顔でそう言った。だが決して相手の女性の個人名を出そうとはしない、

それは闇風のシュピーゲルに対する心遣いだった。

シュピーゲルはそれを理解し、闇風に内心で感謝した。

 

「ですね、ハードルが高すぎますよ、僕にはとてもあんな事は出来ません」

「スケールが違いすぎるんだよなぁ」

「ですね」

「しかも別に女にモテようとしてやってるんじゃないんだよな……」

「ですね……」

 

 二人はそう言葉を交わして深いため息をついた。

二人はお互いまったく別の話をしているのだが、

どの話もスケールの点でいえば共通して大きいのは確かなので、

これはこれでしっかりと会話が成立しており、彼ら自身もその事を理解していた。

 

「俺は直接誰かがってのは無いけど、お前はきっとつらい時もあるんだろうな」

「まあそうですね……」

 

 そんなシュピーゲルの肩をぽんと叩き、闇風は何かを言いかけてピタリと止まった。

実はこの時闇風は、シュピーゲルにこう言うつもりだった。

 

『まあつらくても道は誤るなよ、必ずお前の進む先に光はある』

 

 もしその言葉をシュピーゲルが聞く事が出来ていたら、

あるいは未来は変わっていたかもしれない。

だがシュピーゲルがその言葉を聞く機会は永遠に失われた。

 

「どうしました?」

「今誰かの姿が見えた」

「どこですか?」

「あの辺りだ、とりあえず伏せて様子を伺おう」

「はい」

 

 そして二人は慎重に様子を伺い、ついにゼクシードの姿を発見した。

 

「おいおい、ゼクシードかよ……」

「いつの間にここに……」

「よし、俺はあいつを追う、気付かれないように通信機を切っておくからな、

お前はとりあえずここで監視を継続、俺から連絡が入ったら、直ぐにシャナに連絡してくれ」

「分かりました、お気を付けて」

 

 そして闇風はゼクシードを追った。実はゼクシードは先日の偵察の時、

シャナがいるはずの本陣へ安全に行けるルートを発見しており、

一発逆転を狙ってそのルートへと向かっていたのだった。

ゼクシードはいずれ平家軍の者達が全滅すると確信していた。

事実平家軍は、指揮官不在の為徐々にその数を減らしており、

遠くに避難している旗持ちプレイヤー以外全滅するのが時間の問題となっていた。

そもそも士気が多少高まったとはいえ、正面から砦を攻め落とそうなど土台無理な話なのだ。

力押しをするには兵力が最低二百人は追加で必要だった。

そしてゼクシードはとあるポイントへと到着した時、こう呟いた。

 

「よし、ここから一気にシャナの所へ……」

 

 闇風はその言葉を聞いた瞬間、砦の構造を思い出し、

確かにこのルートならシャナの所に行けると気が付いた。

 

「くそっ、見逃してたな、どうするか」

 

 その時うっかり足に力を入れてしまった為、運悪く闇風の足元の石が崩れ落ち、

ゼクシードは誰かがいる事に気が付いた。

 

「誰だ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間に闇風は、ゼクシードに攻撃を仕掛ける事を即決した。

もはやのんびりと通信している暇は無い。そして闇風は、無言でゼクシードに襲い掛かった。

 

「闇風か!」

 

 ゼクシードは相手が闇風だと気付くと、咄嗟に岩陰に身を潜めた。

ここは狭い岩場であり、闇風にとっては戦いにくい場所であった。

 

「ちっ、やっぱり奇襲は無理だったか」

「闇風、てめえ何でここにいる!」

「それはこっちのセリフだ、大将がいないせいで平家軍はもうボロボロだぜ?

で、お前はここから一人でこっそりとシャナの所に向かうつもりだったのか?」

 

 ゼクシードはその言葉で、自分の計画が闇風にバレた事を知った。

だがまだチャンスはあるかもしれない、自分に気付いたのが闇風だけだったら……

 

「ここで倒されたらユッコとハルカに申し訳が立たねえ、ここで絶対にお前を倒す」

「それはこっちのセリフだクソ野郎、銃士Xちゃんの仇は俺がとる!」

 

 こうして二人の戦いが始まった。激しい銃撃戦が繰り広げられ、

その音はシュピーゲルの下にも届いていた。

 

「戦いが始まった!?くっ、状況が分からない……」

 

 ここでシャナに連絡をとる手もあったのだが、その瞬間にシュピーゲルが撃たれた場合、

このポイントは敵に破られ、本陣に敵が殺到する可能性がある。

シュピーゲルはそう考え、本陣に走るべきかどうか迷った。

だがそうすると、本陣から援軍を出す事にもなりかねず、

正面が破られた場合にシャナが危険に晒される。

考えすぎかもしれないが、戦争は何が起こるか分からない、

そしてシュピーゲルが選んだのは、自分の持ち場を守りつつ、

二人の戦いの結末をしっかりと確認する事だった。

シュピーゲルは、戦闘音がやんだら確認の為に走るべく準備を整えた。

 

 

 

「くそ、さすがにいい装備を持ってやがる」

「装備だけだと思うなよ!」

 

 二人は激しくやりあっていたが、この戦いは闇風が不利だった。

地形的に闇風の速度が生かせないからである。

 

「まずいな、妙に相手の命中率がいい、こっちの攻撃もあっちの防御に防がれる、

ここは何とかシュピーゲルに連絡しておくか」

 

 そして闇風が通信機のスイッチを入れた瞬間に、ゼクシードが攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちぃっ」

「くたばれ!」

「それはこっちのセリフだ!」

 

 

 

 待機状態のシュピーゲルについに闇風から通信が入り、

シュピーゲルは慌てて通信機のスイッチを入れた。

 

「闇風さん、闇風さん?」

 

『ちぃっ』

『くたばれ!』

『それはこっちのセリフだ!』

 

「これは……通信しようとして再び戦闘状態になった感じか?」

 

『はっ、AGIタイプごときの使う銃の攻撃なんざ、ほとんど効かねえよ』

 

 そのゼクシードの言葉が聞こえてきた瞬間、シュピーゲルは耳を疑った。

確かにゼクシードはSTRタイプだという噂もあったが、

自分でAGIタイプを賞賛していた以上、

AGIタイプに一定の評価をしていると思っていたからだ。

 

「な、何でそんな……」

 

『何だとコラ、てめえは自分でAGIタイプを持ち上げてたじゃねえか!』

 

「そ、そうだよ……」

 

『はぁ?そんなのBoBで自分が有利になるような工作に決まってるじゃねえかよ!』

 

「そんな、嘘だ!」

 

 その間にも絶えず銃声は響き、二人が喋りながらも激しく戦っているのが分かった。

 

『そういう事かよ、相変わらず小さな男だなお前は!』

『はっ、実際俺に負けそうじゃないかよ』

『お前の言葉に影響を受けてAGIタイプにした奴らだっていただろうに!』

 

 その言葉を聞いた瞬間、シュピーゲルはドキッとした。

 

「そうだよ、僕の選択は……」

 

『そんなの騙される奴が悪いんだよ、自己責任だ!』

 

「騙される奴が悪い、だと……敵だけど信じてたのに、信じてたのに、ゼクシード!」

 

 その瞬間にシュピーゲルの脳は灼熱した。

そしてシュピーゲルは、二人が戦っている場所へと走り出した。

 

「くそっ、闇風さん、無事でいて下さい!ゼクシードの野郎、絶対に殺してやる!」

 

 そしてシュピーゲルが現地に着いた時、丁度二人の戦いに決着がつこうとしていた。

ゼクシードの放った銃弾が、ついに闇風のHPを削りきり、闇風はどっとその場に倒れた。

 

「ちっ、手こずらせやがって」

「くそっ、勝てなかったか……」

 

 その姿を見て直ぐに飛び出そうとしたシュピーゲルに気が付いたのか、

闇風はシュピーゲルに首を振り、シュピーゲルは寸前で足を止めた。

そして闇風は、口に出してこう言った。

 

「AGIタイプは弱くなんかないよな」

「はっ、現に俺に負けてるじゃねえかよ」

 

 ゼクシードはそれが自分に向けて放たれた言葉だと思ってそう答えたが、

シュピーゲルは、それが自分に向けて放たれた言葉だとハッキリと理解した。

 

「ごめんな銃士Xちゃん、俺じゃ仇はとれなかったわ……後は頼むぜシャナ」

 

 次の瞬間に、闇風は光の粒子となって消滅した。

その最後の闇風の言葉で、シュピーゲルはシャナの所に行くように背中を押された気がした。

そしてシュピーゲルは、ゼクシードに気付かれないようにシャナの下へと走り出した。

 

「くそっ、ゼクシードめ、ゼクシードめ……」

 

 シュピーゲルは出来る事なら自分の手でゼクシードを倒したかったが、

尊敬する闇風の意思を実現する事を優先し、一心不乱にシャナの下へと走った。

その心の中は、ゼクシードへの憎悪に溢れていた。

こうして皮肉な事に、シュピーゲルを救える可能性があった唯一の存在である闇風が、

ある意味シュピーゲルの心の一部を壊す役割を果たす事となったのだった。

ちなみにこんな所にはさすがにMMOトゥデイのスタッフはおらず、

この戦いの様子が中継される事は無かった。

 

 

 

「シャナさん!」

「お、シュピーゲルか、何かあったのか?」

「闇風さんが、闇風さんが!」

 

 そしてシュピーゲルは、シャナに事情を説明した。

 

「闇風がゼクシードに?そうか、まあそういう事もあるか」

 

 

 

 その様子を中継で見ていた観客達は驚愕した。

 

「まじかよ、ゼクシードの奴いつの間に……」

「おいおい、俺見た事あるぜ、あのシャナの目、

あれは確かゼクシードにピトフーイが侮辱された時の……」

「どちらにしろただでは済まなそうだな」

 

 そして観客達は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 

 一方シュピーゲルである。

 

「なっ、シャナさん、それ……」

 

 シュピーゲルはそのシャナのあっさりとした態度に憤りを覚え、

その現在の感情のままにシャナに詰め寄ろうとしたのだが、

そんなシュピーゲルを銃士Xが止め、その耳元でそっと囁いた。

 

「待ってシュピーゲルさん、シャナ様は今凄く怒ってる」

「えっ?」

「ほら、あの手を見て」

「あっ……」

 

 そう言われて見たシャナの手は、今にも血が出そうなくらい固く握り締められていた。

 

「そしてあの少し眠そうな目、あれはシャナ様が本気で腹を立てている時の目。

具体的にはロザリア様が誘拐された時と同じ目」

「なるほど……あっ」

 

 そしてシュピーゲルは、まだ言うべき事があったのを思い出し、

ハッキリと口に出してこう言った。

 

「闇風さんの最後の言葉です、

『ごめんな銃士Xちゃん、俺じゃ仇はとれなかったわ……後は頼むぜシャナ』だそうです!」

「そう……」

「そうか、分かった」

 

 そしてシャナは全軍に向けてこう指示を出した。

 

「もう大勢は決した、俺と銃士Xを残して総員正門前で総攻撃だ、ここの守りは不要!

後はシズの指揮に任せるが、奴らを殲滅した後はそのままバスにいる旗持ち共を全滅させろ。

闇風と、他の戦場に倒れた者の仇を取れ!九狼の輝光剣持ちはその武装の使用を許可する!」

 

 その言葉で闇風の死亡とシャナの怒りを知った一同は正門前に集結し、

シズカはその剣を初めて抜き、高々と空に掲げた。

 

「最初に総員の全力射撃で相手の戦意を奪う!直後に私達が斬り込む!

その後は全員突撃して奴らを血祭りにあげるよ!」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

 

 

 

 その様子をモニターで見ていた観客達は、ついに決着の時が来た事を理解した。

 

「ついにこの戦争もクライマックスか」

「さすがにゼクシード一人じゃ何も出来ないよな」

「後はシャナとゼクシードのタイマンか?」

「何かドキドキするよな」

 

 

 

 そしてピトフーイとベンケイもその輝光剣を抜いた。

 

「そっか、ヤミヤミは倒されちゃったか、それじゃあ私がその分も敵を倒さないとね」

「斬って斬って斬りまくりますよ!」

「援護は任せてね」

「頑張ります」

「俺達がしっかりと守るから、思う存分やっちまえ!闇風の仇だ!」

 

 そんな二人にシノンとエムと薄塩たらこがそう言った。

 

「私達は迂回して正面にブラックとホワイトとニャン号を回しておくわ」

「絶対に逃がしませんよ」

「橋は逆方向から塞いでおくので確実に全滅させましょう。その後はバスを追撃ね」

 

 更にニャンゴローとイコマとロザリアがそう言い、こうして九狼は全員出撃していった。

 

「シャナ様、ご武運を」

 

 そう言ってミサキも同じく出撃していった。

ミサキは空気を読んだのか、さすがに今回は何もしなかった。

そしてその場には、シャナと銃士Xだけが残された。


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