ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第377話 とっとこフカ次郎

「ピンポ~ン」と突然入り口のチャイムが鳴り、

うとうとしていた香蓮は、眠い目をこすりながらインターホンのボタンを押した。

 

「こんな時間に誰だろ……はい、どちら様?」

『お~いコヒー、警察だ、ドアを開けろ!』

「…………は?」

 

 その聞き覚えのある声に驚いた香蓮は、慌ててドアを開けた。

そこには美優がニコニコしながら立っており、香蓮はぽかんとした顔で美優に言った。

 

「な、何でここにいるの?こっちに来るのは明日じゃなかった?」

「うん、まあそこはノリで?」

「あんたね……連絡くらいしなさいよ」

「サプライズ命なので!」

「……仕方ないなあ、とりあえず上がって」

「うむ、苦しゅうない!」

「はぁ……」

 

 そして美優は、ため息をついて背中を向けた香蓮にいきなり襲い掛かった。

 

「という訳で警察だ!容疑者の身柄を拘束する!」

「ちょっ……きゃっ!」

 

 美優はそう言うと、背後からいきなり香蓮の胸をわしづかみにした。

 

「や、やめてってば!」

「この胸か?コヒーはこの胸をハチマン様に揉まれたのか?抜け駆け禁止!」

「そんな訳無いでしょ!彼とは何も無いからとにかく私の胸を揉まないで!」

「んんん~?まあ確かに昔と揉み心地は変わりないみたいだから無罪放免!

やや大きくなった気がするのは悔しいからスルー!」

 

 そう言って美優はやっと手を離し、香蓮は息を切らせながら美優に言った。

 

「み、美優を八幡君に会わせるのはやっぱりやめ……」

「すんませんでしたっ!」

 

 そう香蓮が言い掛けた瞬間、美優は高速で土下座をした。

 

「早っ!」

「この度は私の為にこのような場をセッティングして頂き、

真にありがとうございます香蓮様!足を舐めろと言われたら喜んで舐めさせて頂きます!」

「別に私がセッティングしたんじゃないし、美優が勝手に来たんじゃない」

「はっ、お世話になります!」

「もう、ほら、とりあえず落ち着こう、ね?」

 

 香蓮は苦笑すると、美優を居間へと連れていった。そして二人は一息つく事にした。

 

「ふう……」

「はぁ……」

 

 そして美優は、やや真面目な顔で香蓮に言った。

 

「ねぇコヒー、リーダーには彼女がいるよ?」

「まあそうだろうね」

 

 あまり変わらない香蓮の表情を見て、美優はこう言った。

 

「彼女がいても構わないとは、やはりコヒーも第六夫人の座を狙うライバルか!」

 

 香蓮はいきなりのその言葉に驚いた。

 

「だ、第六夫人!?」

「まあそれは冗談だけど、それだけリーダーはモテるって事。

でも何故か喧嘩にならないんだよ、あれは多分全員リーダーの奥さんになるね」

「ぜ、全員?そうなの?」

「おう、本当かどうかは自分で判断してくれい、

でもリーダーなら多分、その気になったら実現出来ちゃう気がする。

リーダーと彼女のアスナさんは、隙の無い鉄壁のカップルだけど、

でも私も含めて誰も諦めてない所から察してくれい」

「そうなんだ……」

 

 そして美優は、今度は本当に真面目な顔で言った。

 

「私もそこまで詳しい訳じゃないけど、

少し話を聞いただけでもリーダーはかなり特別な人だよ。

だからそこら中にいるただのナンパ野郎と一緒にしちゃ駄目。

リーダーは、私が一緒にいたいと望めば、苦笑しながら一生一緒にいてくれる、そういう人。

私が耐えられなくなって自分から離れたとしても、

それでもずっと私の事を気に掛けていてくれるような、そういう人。

だからコヒーは自分の気持ちだけを大事にして欲しい」

「うん、その忠告はありがたく受け取っておくよ」

「でもコヒーは、実はかなりラッキーなんだからね。

リーダーの周りには、知り合いたくても土俵にすら上がれない人が沢山いるんだからね」

 

 その言葉でこの話は終わりとなった。香蓮はまだその話に実感が持てなかったが、

そんな話を聞いた後でも八幡に対する好意はまったく変化していなかった為、

香蓮は自分もいずれその女性達の一人になるんだろうなと予感していた。

だがそれを口に出して言うのは恥ずかしかった為、香蓮は別の話題を美優に振った。

 

「しかし美優、よく一人でここまで来れたね?」

「一度通った道は忘れないから、迷う事なく真っ直ぐ来れたぜ!」

「凄いなぁ、でもそれなのに、どうして昔は恋の道に迷いまくってたんだろうね」

「ぐはっ…………」

 

 香蓮のその言葉に、美優はそう言って机に突っ伏した。

 

「こ、攻撃力高いな相棒……」

「あっ、ご、ごめん、冗談、冗談だってば!」

「畜生、すっかり都会の女になりやがって……」

「よく意味が分からないけどとにかくごめん!」

「うん、まあいいや」

 

 美優はそう言って復活し、ごそごそと自分の荷物を漁り始めた。

 

「そんなコヒーにはこれだ!し~ろ~い~こ~い~び~と~」

「何でネコ型ロボット風?まあお土産をありがとう、何か懐かしい」

「懐かしい?チッ、もう身も心もすっかり東京モンになりやがって」

「どうして今日はそんなにやさぐれてるの……」

 

 そう香蓮に言われた美優は、大の字に寝転がりながら言った。

 

「冗談冗談、久しぶりにコヒーに会ったから、ちょっと甘えたくなっただけだい!」

「もう、でも本当に久しぶりね」

 

 香蓮はその言葉に嬉しくなり、そう言って美優との再会を喜んだ。

 

「うん、まあコヒーも元気そうで何よりだ」

「美優もね」

 

 そして二人は北海道で一緒の学校に通っていた時の思い出話に花を咲かせた。

その盛り上がりがひと段落した頃に、美優のお腹が鳴った。

 

「おっと、そういえば今日はまだ夕飯を食べてないんだった」

「あっ、そういえば私もうとうとしちゃってたからまだだったんだ」

「よし、何か食べに行こうぜい!」

「何にする?」

「あ~、行きたい店があるんだった」

 

 美優は思い出したようにそう言った。

 

「そうなの?何てお店?」

「ダイシーカフェ」

「何それ、有名なお店なの?」

「うんと、うちのギルドのメンバーのエギルさんって人が経営している店」

「ふ~ん、まあいいけど、ここからだとどのくらいかかるの?」

「隣の駅だけど、ここからだと歩いて二十分くらいだった!」

「思ったより近いね、それじゃあ行ってみよっか」

 

 そして香蓮は外出する支度をし、二人はダイシーカフェへと向かった。

幸い迷うような場所でもなかった為、二人は問題なく目的の場所へとたどり着いた。

 

「ダイシーカフェ……ここだね」

「うう、ちょっと緊張するなぁ」

「美優でも緊張する事ってあるんだ……」

「まあギルド絡みだとやっぱりね」

「なるほどね、まあとりあえず中に入ろっか」

 

 そして二人が中に入ると、もう遅い時間なせいか店内には二人しか客はいなかった。

その二人はカップルのようで、カウンターで外人の店員と会話していた。

 

「あ、あの人がエギルさんだ、日本生まれの外人さんだって言ってた」

「そうなんだ」

 

 エギルは直ぐに二人に気付き、カウンターの外に出てくると、丁寧な口調でこう言った。

 

「いらっしゃい、お二人様ですか?」

「あ、あの、はい」

「それじゃあお好きな席へどうぞ」

「あ、席はカウンターでいいです」

「そうですか、それじゃあこちらへ」

 

 エギルは二人をカウンターへ案内すると、二人の前に水とメニューを差し出してきた。

 

「それではご注文がお決まりになられましたらお声をお掛け下さい」

「決まりました!」

「美優、まだメニューも見てないのに……」

 

 いきなり美優がそう言った為、香蓮は驚いてそう言った。

 

「そうですか、何になさいますか?」

 

 エギルは、多分美優はどこかのサイトでも見たのだろうと思い、

平然とした顔で美優にそう尋ねた。だが美優の答えは予想外のものだった。

 

「エギルさんのお奨めで!」

 

 エギルはその言葉にきょとんとした後、少し考えながらこう言った。

 

「ん、もしかしてお前、フカ次郎か?」

「うわ、何で分かったの?」

「消去法だな、身内以外でこの店の事を知ってる奴はいないからな。

その中で面識が無いのはシノンって子とフカ次郎だけ、

シノンはまだ正式に紹介された事は無いからいきなりここに尋ねてくるとは考えにくい。

ならば残るのはたった一人だ、だろ?」

「ああっ、サプライズのつもりがあっさり……」

「まあそれは仕方ないだろ、ヴァルハラは基本リアル繋がりだ、お前が特殊なんだよ」

「そっかぁ」

「まあいいさ、北海道からよく来たな、ダイシーカフェへようこそ」

「うん!」

 

 美優はとても嬉しそうにそう答えた。これで本当に仲間になれたと感じたからだ。

 

「で、こちらの方は……」

「これは友達のコヒーだよ」

「小比類巻香蓮です、宜しくお願いします」

「だからコヒーか、宜しくな、香蓮さん」

「はい!」

 

 その和やかな雰囲気の中、美優がいきなり爆弾を落とした。

 

「コヒーはこの前リーダーにナンパされて、

今じゃすっかりリーダー好き好きちゅっちゅなんだよ」

「ちょっ、美優、いきなり何を言ってるの!」

「おいまじかよ、その話、詳しく」

 

 その言葉が聞こえたのか、突然カップルの男性の方が美優にそう声を掛けてきた。

それで美優は、この男も仲間のうちの誰かだという事に気が付いた。

 

「何だよ、せっかく後で紹介して驚かそうと思ってたのに、

今ので身内だってバレちまったじゃないかよ」

「お?おお、すまんすまん、あんまり面白そうなセリフが聞こえたんで、

思わず声を掛けちまったぜ。俺はクラインこと壷井遼太郎だ、宜しくな、フカ次郎」

「あっ、クラインさんだったんだ!フカ次郎こと篠原美優です、宜しくです!

それじゃあそちらの方はもしかしてサイレントさん?」

「ああ、私がサイレントこと平塚静だ、久しぶりだな、フカ次郎君」

「やっぱり!二人がお付き合いされてるって事は聞いてたんで!」

 

 こうして改めて自己紹介をした後、香蓮と美優はとりあえずエギルに食事を注文した。

ちなみに美優は、何を食べるかは本当にエギルに全て任せたようだ。

 

「とりあえず肉なら何でも!」

「それじゃあ私もお任せで」

「おう、それじゃあ二人とも待っててな」

 

 エギルがそう言って厨房に消えた後、香蓮は何となく遼太郎に尋ねた。

 

「あの、エギルさん以外に店員さんはいないんですか?」

「この時間はほとんど客が来ないらしいんでな、

まあ忙しい時間は何人かバイトがいるよ、もしくは奥さんかな」

「なるほど」

「さて、それじゃあ待ってる間にさっきの話を詳しく」

「あ、あは……」

 

 そして香蓮は、八幡との出会いと先日の再会の説明をした。

 

「……という訳で、全然ナンパとかじゃないんですよ、本当に」

「まあ確かにそれならナンパじゃないけどよ……静さんは今の話を聞いてどう思った?」

「私はあいつに女の口説き方を授業で教えた覚えは無いんだが、

もしかしたら特殊な才能が開花したのかもしれないな」

「才能?何の?」

「女を無自覚に落とす才能だな」

「あ、それ分かるわ、凄くよく分かるわ」

 

 遼太郎はその言葉にうんうんと頷いた。

 

「つまりリーダーは天然ジゴロだと!?」

「うむ、まあ多分そうなのだろう、フカ次郎君も気をつけたまえよ」

「このかわいいフカ次郎ちゃんは、むしろ落とされに来てるんですが!」

「……手遅れだったか」

「コヒーに先を越されてちょっと悔しいのです」

「ち、違うったら!」

 

 丁度そこに、エギルが料理を持って戻ってきた。

 

「ほい、お待ちどうさま、エギルスペシャルだ」

「うほっ、肉!いただきます!」

「ただのローストビーフのセットじゃねえかよ……」

「まあ初めての祝いだ、値段はサービスしとく」

「ありがとうエギルさん!」

「どういたしまして。それじゃこっちが香蓮さんの分な」

「ありがとうございます、いただきます!」

 

 そして二人は食事を始め、エギルもグラスを拭きながら会話に参加した。

 

「随分楽しそうだったみたいだが、何の話をしてたんだ?」

「八幡が無自覚に女を落とす才能を開花させたって話だな」

「開花?あいつ、SAOの頃からモテてたぞ?」

「えっ……まじで?」

「あ、あの、もしかして皆さんはSAOサバイバーなんですか?」

 

 その香蓮の質問に、エギルは平然とした顔でこう答えた。

 

「おう、俺達も八幡もそうだな。仲間全体だと全部で八、

いや、正式メンバーじゃないが噂だとロザリアもいるのか、全部で九人いるぞ」

「そうだったんですか……」

「でも香蓮さんよぉ、八幡も正直普通じゃないからな、

それだけは覚悟しておいた方がいいぞ」

「普通じゃない……ですか?」

「ああ、まあ周りの女性の数とか環境とか色々な」

 

 香蓮はその言葉に頷きながら言った。

 

「あ、それは少し聞きましたが、大丈夫です」

「大丈夫、か」

「まあそう思えるなら大丈夫だろ」

「はい!」

 

 そして一つだけ明確な心当たりがあった香蓮は、エギルにこんな質問をした。

 

「ちなみにそれって、八幡君がソレイユの部長なのと関係があるんですか?」

「お、そんな事まで知ってるのか、まあそんな感じだな。

詳しい事はまあ、話してもいいと思ったなら八幡が教えてくれるだろうさ」

「は、はい」

 

 香蓮はその言葉に、いつか何でも話してもらえるような関係になれたらいいなと思った。

そしてエギルは、エギルだけが知っていたであろうハチマンの過去の事を話し始めた。

 

「なあクライン、お前、『歌姫』って覚えてるか?」




明日は過去話という程の事は無いです、まあサラッと情報を小出しにする感じで……

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