ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第389話 そして事件は幕を開ける

「それでは第三回BoBの有力候補の方々を迎えての座談会を始めさせて頂きます。

こちらは先ず前回の優勝者のゼクシードさん」

「どうも」

「そして闇風さんと……」

「闇風です、今回はお招き頂きありがとうございます」

「そして今日の紅一点、銃士Xさんです、今日はいつもと違って落ち着いた格好ですね」

「シャナ様に、お前の足は俺以外に見せるな、と間接的に言われたので」

「そ、そうですか」

 

 その瞬間に一斉に背後のモニターにコメントが流れ出した。

 

『くっそ、くっそ!』

『シャナ、絶対に殺…………せる訳が無え、畜生!』

『ふざけんな、ふざけんな、下々の者達の楽しみを奪うんじゃねえ!』

『顔を真っ赤にしているお前らが見えるwwwwwww』

 

 そしてシャナは、銃士Xの言葉にぷるぷるしていた。

 

「あいつ、いきなり何て事を言いやがる……」

 

 更にこれを鞍馬山で見ていた残りの十狼のメンバーは、爆笑していた。

 

『これを横で見ているあの男の顔が見てみたいな!』

『先生……ぷぷっ、でもそうかも、本当にどんな顔してるんだろう……ぷぷっ』

『あははははは、あはははははは、イクス最高!』

 

「えっと、それじゃあ盛り上がった所で早速話して頂きましょう」

 

 シンカーがそう言い、ついに運命の座談会が始まった。

 

「さて、最初に前回優勝者のゼクシードさんにお伺いします。

ついに第三回BoBの開催が公式に発表されましたが、意気込みはどうですか?」

「まあもちろん次も優勝は頂きますよ」

「させませんけどね」

 

 そのゼクシードの言葉に闇風がそう突っ込んだ。

二人ともMMOトゥデイの公式放送という事で、喋り方に気を付けているようだ。

 

「闇風があんな喋り方をするなんて、笑っちまうな」

 

 舞台の袖に潜んでその光景を見ていたシャナはそう呟いた。

 

「そういう事は一度でも僕に勝ってから言って欲しいですね」

「広い場所で戦えば負けないと思いますよ、ゼクシードさん」

「いや、それはどうですかね」

 

 そしてゼクシードは闇風に反論を始めた。

 

「前回のBoBは直接やりあったとは言えないので考えから除くとして、

先日行われた源平合戦においての僕と闇風さんの戦闘について、考察してみましょう。

あれがまさにこれからのGGOのトレンドを暗示しています。

以前はとにかくAGIを上げて、強力な銃を速射していればそれで上位に食い込めました。

でもあの時、闇風さんの攻撃は僕の耐弾アーマーでかなりダメージを軽減出来ました。

そして僕の攻撃は、かなりの確率で闇風さんに命中しました。

前回、前々回のBoBと比べて何が変わったか、それは僕達のステータスです」

 

 その事は事実なので、闇風もそれには反論しようとはしなかった。

 

「プレイヤー全体の平均ステータスが上がった事によって、

より強力な武器や防具が実装されるようになってきました。

そしてそれに連れて、それらの装備の要求STRもどんどん高くなっていきます。

つまり相対的にAGIの価値が下がったという訳です。

これは闇風さんのせいではありません、ゲームの仕様の問題であり、

それを予測する事が我々にとって必須……とまでは言いませんが、

常に考えておかなくてはいけない問題だと思います」

 

(ほう?)

 

 シャナはそのゼクシードの説明に少し関心した。かなり的確な分析をしていたからだ。

 

(さて、そろそろマックスが突っ込んでくれると思うが、どう答えるのかな)

 

「それは確かに正論、だけどあなたはBoBの直前までAGIタイプを強く推していた。

それは今のあなたの言葉と矛盾する。それとも何かの意図が?」

 

 そしてシャナの期待通り、銃士Xがそう突っ込んだ。

その強烈な突っ込みを受け、この日初めてゼクシードの顔色が変わった。

背後のモニターのコメントも銃士Xに同意するものが大半だった。

 

『さすが俺の嫁、よく言った!』

『今ゼクシード、顔色変えた?』

『そうだそうだ、ふざけんなよゼクシード、さっさと釈明しろ!』

『シャナは羨ましいがゼクシードはうざい、これが世界の真理』

『ゼクシードさん、早く答えて下さいよ』

 

「それは……」

「それは?」

「ひとえに僕の不徳の致すところです、BoBで今の愛銃を使ってみて考えを変えました。

以前の僕は間違ってました、僕の言葉に従ってAGIをガン上げしてしまった方達には、

ご愁傷様としか言いようがないんですが、それもまた自己責任って事で」

 

(そう取り繕ったか、咄嗟に考えたにしてはそれなりによく出来てるが、

後半に内心が透けちまってるぞ、これは批判されるな)

 

 その言葉通り、それをモニターで見ていた観客の一部からブーイングが上がり、

コメントも荒れに荒れた。だがゼクシードはそんな事は気にしない。

叩かれるのはいつもの事だし、酒場でこれを見ている者達の反応は見えないからだ。

後ろのモニターにコメントも流れているが、ゼクシードはそれを決して振り返らない。

今回はただ、ヘイトを集めすぎるのを避けるためにそう言ったにすぎないのだ。

いつもならこの対応でまったく問題は無い。だが今回は違う。

ベッドに横たわるゼクシードの横には、恭二がいるのだ。

 

「ご愁傷様だと……ふざけるな、ふざけるなよ、僕が一体どんな気持ちで……」

 

 恭二は激高したが、暴走する事もなく、ひたすらその時が来るのを待ち続けた。

そしてゼクシードの答えを聞いた銃士Xは、今度は闇風に話し掛けた。

 

「闇風は何か反論しないの?」

「最近分かった事がある、俺はとある企業でゲーム関連のバイトをしているんだが、

そこでは自分の限界以上の動きが求められる。まあVR内でだけどな」

「VR内でのバイト?へぇ、面白い事をしてるんだね、僕にも紹介して欲しいくらいだよ」

 

 ゼクシードは興味深そうにそう言った……多分。

ゼクシードは言い方が嫌味っぽく聞こえる部分があるので、

その言葉は捕らえ方によっては馬鹿にされているともとれるものだった。

実際恭二はそうとった。だが闇風はゼクシードと同じく古参だったので、

それがいつものゼクシードの平常運転だという事を分かっており、

特に怒りを見せたりおかしな反応をしたりはしなかった。

普段はノリの軽い闇風だが、こういう所は意外と冷静なのである。

 

「無理じゃないかな、だってこのバイトはシャナの紹介だから」

「なっ……」

 

 その言葉が発せられたと同時に、一斉に多くのコメントがモニターに流れた。

 

『ここでもシャナきたああああああ!』

『一体何者なんだよシャナ』

『もしかしてゲーム会社の社員か?』

『時給はいくらなんだ?』

『俺もやってみてえ!』

 

「で、今までの自分には、色々足りない物があった事に気付いたんです。

私は今まで、自分が他人より少し早く動けるだけだと思っていました。

だからとにかくその事だけを考えていて、脳を鍛えていなかったんです」

「脳……ですか?」

「ええ、この体はおそらく我々の考える以上にもっと人間離れした動きが可能なんです。

でも常識が邪魔をして、通常の動きを早くした動きしかしてこなかった、

私には想像力や経験が足りなかったんです、それをバイトで心の底から思い知らされました」

 

(ほう……)

 

 シャナはその言葉に感心し、銃士Xも闇風を賞賛した。

 

「凄い、自分で気付いたんだ、この前シャナ様も同じ事を言っていた」

「まじで?うお、やったぜ!俺は間違ってはいなかった!」

 

 闇風は思わずいつもの調子でそう言った。

 

「あなたはもっと強くなる、私はともかくシャナ様がそれを保証する」

「おう、頑張るぜ!……そ、そうですか、それは励みになりますね」

「闇風、もう遅い、今更取り繕っても無駄」

「くっ……俺の紳士的なイメージが……」

「大丈夫、画面の向こうの人達はそもそもあなたが紳士だとは思っていない」

 

 その瞬間に再び一斉にコメントが流れ出した。

 

『闇風、今度はゼクシードに負けんなよ!』

『闇風はやっぱりそうじゃなくっちゃな!』

『俺はいい戦闘が見れればそれでいいけどな』

『ゼクシード、反論しろ反論!』

『闇風さん、私と付き合って!まあ私は男だけど!』

 

 チラっと背後のモニターに目をやった闇風は、その最後のコメントを見て盛大にへこんだ。

 

「くっそ、男じゃなく女にモテてえ……」

「いいじゃない、見た目が女なら」

「おう、そういうの、嫌いじゃない…………訳無えだろ、大嫌いだよ!」

 

 そして画面を『w』の文字が埋め尽くした。

 

「そ、それでは話を元に戻しましょう、ゼクシードさん、今の事についてはどうですか?」

「そうですね、正直机上の空論にも聞こえますが……」

 

 一方GGO内の酒場でも、同じように様々な声が飛び交っていたが、

ゼクシードがそう言った為、観客達はそれを聞こうと一瞬静かになった。

その瞬間に、ギリースーツ姿で完全に正体を隠したステルベンが立ち上がった。

 

「そろそろだ、タイミングを合わせろよ」

 

 それを密かに配信していたノワールは、それを見ているであろう恭二にそう言った。

その頃恭二は例のメモを発見し、その内容を見て混乱している最中だった。

 

「何だよこれ……」

 

 そのメモのタイトルはこうだった。

 

『仲良くしたいプレイヤーリスト』

 

 そしてその一番上には、何度も書いては消し、消しては書いたとある名前が書いてあった。

 

『シャナ』

 

「何であいつはこんな物を……今までの態度は何なんだよ……」

 

 続けてその下には、他のプレイヤーの名前も羅列されていた。

 

『ユッコ』

『ハルカ』

『ミサキ』

『ピトフーイ』

『闇風』

 

「何でピトさんや闇風さんの名前まで……」

 

 そして最後に書かれた文字を見て、恭二は完全に混乱状態に陥った。

 

『シュピーゲル』

 

「な…………」

 

 その時、一時的に胸ポケットに入れていた恭二のスマホから、ノワールの声がした。

 

『そろそろだ、タイミングを合わせろよ』

 

 それを聞いた恭二は慌ててスマホを取り出し、

画面を見ながら混乱状態のままトリガー式の注射器を構えた。

そして画面の向こうから、ステルベンの声が聞こえてきた。

 

『ゼクシード、偽りの勝利者よ、今こそ真なる力による裁きを受けるがいい』

 

 そして銃声が聞こえた瞬間、恭二はとにかく注射器を刺さねばと思い、

服の上からゼクシードの胸に注射器を押し当てた。もはや詳細な状況を確認する時間は無く、

恭二はとにかくゼクシードの体に届かせる事だけを考え、震える手でボタンを押し込んだ。

 

「くそっ、くそっ、もう訳が分からないけど、

とにかくやる事をやらないと兄さんに見放される……」

 

 そう言いながら恭二は、スマホを見ながら祈るようにゼクシードの様子を眺めていた。

そして次の瞬間、それは起こった。

 

『ですからやはりプレイヤー個々の能力よる……ぐ……う……』

 

 突然画面の向こうのゼクシードが表情を歪め、その場に膝から崩れ落ちた。

本体の方を見ると、ゼクシードの体がビクンビクンと痙攣しているのが見えた。

 

『よし、よくやった、撤収しろ』

 

 スマホからそうノワールの声が聞こえ、恭二は慌ててその場から逃げ出した。

 

 

 

「何だ?」

 

 シャナはゼクシードの反論を黙って聞いていたが、

突然ゼクシードが苦しみ始めた為、それを訝しげに見つめた。

後ろに流れるコメントも、ゼクシードの変化を怪しむものばかり流れ始めた。

 

『どうしたどうした?』

『うんこでもしたくなったのか?』

『随分苦しそうな表情だな』

『あ、これあかんやつだ、多分落とされるわ』

 

 そのコメント通り、DISCONNECTIONの文字と共に、

ゼクシードの姿がその場からかき消えた。

 

「あれ、どうやらゼクシードさんの回線が切断されてしまったみたいですね、

すぐ復帰すると思うので、皆さんチャンネルはそのままにしておいて下さいね」

 

 シンカーが慌ててそう言ったが、しばらく待ってもゼクシードは戻ってこない。

そこでシンカーは、最後のカードを切る事にした。

 

「う~ん、どうやら何かトラブルがあったみたいなので、予定を前倒しして、

ここでスペシャルゲストの登場です、シャナさん、どうぞ!」

 

 シャナはその言葉を受け、ゼクシードの事を少し心配しながらも、画面の前に姿を現した。

その瞬間にとんでもない量のコメントが流れ始めた。

 

『うおおお、生シャナだ!』

『何だこのサプライズ、我慢して待ってて良かったわ』

『来た!これで勝つる!』

『もうゼクシードいらなくね?』

『シャナ様、こっちに手を振って下さい!』

『シャナ様、結婚して下さい!もちろん私は女ですから!』

 

 その最後の文字をチラリと見た闇風は、再び盛大に落ち込んだ。

 

「俺とシャナのこの違いは何だ……」

「闇風、元気出す。あなたと付き合いたいって男の人と幸せになればいい」

「ふざけんな、誰か俺に、俺に本当の愛を教えてくれ!」

 

 再び画面に『w』の文字が躍り、再び番組は進行し始めた。

こうしてこの日の番組はとても盛り上がり、ゼクシードの事は完全に忘れられた。

そしてその日以来、ゼクシードはGGOから姿を消した。

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