**本日二話目です、ご注意下さい!**
「兄さん、今回は上手くやれたと思うんだけど」
「そうだな、きっちりと死亡まで確認したか?」
「うん」
「ゼクシードは意識不明のままになると思うから良かったものの、
完全に失敗していたら、お前も始末しなきゃいけない所だったぞ」
「う、うん、反省してる」
恭二はそれを冗談だと思ってそう答えたが、昌一は本気だった。
「しかし中途半端に死ななかったせいで、逆に薬の事がバレるかもしれないな」
「そのルートから俺達が割り出される可能性はゼロじゃないよな」
「まあ父さんは間違いなく薬が盗まれたって事を隠すよね」
「まああいつは自分だけが大事な男だからな」
そして昌一は、こう付け加えた。
「当面は大丈夫だろ、警察が介入してないみたいだからな」
「でも今の科学調査って凄いんだろ?
もし捜査された場合、侵入の形跡はどのくらい残ってるんだろうな?」
「極力残さないようにしたし、何も取ったりしなかったけど、
本腰を入れて調査されたら多分色々出てきちゃうんじゃないかな」
「まあしかし、俺達に前科がある訳じゃないし、そこから身元を特定するのは不可能だろ、
近くに監視カメラの類も一切無かったし、目撃者もいないはずだからな」
恭二はゼクシードこと茂村保の件で大きな失敗をした。
服の生地が意外と厚めだった事もあり、慌てていたせいで、
体内に入った薬の量が致死量に達してはいなかったのだ。
だがそれでもかなりの量が体内に注入され、保は意識不明の重体に陥った。
だが逆にそのせいで、いまだに警察は介入していない。
家主が身内だった事もあり、一応地元では名士と言われる家柄だった為、
保の両親は、やっかい者である保を知り合いの病院に入院させ、
ゲームのやりすぎで倒れたなどという醜聞が広まる事を恐れ、
保の病状をひた隠しにしていた。もちろん警察に届けるなど論外だ。
恭二達はその事を知らないが、保が生きている事、警察が介入していない事は把握していた。
警察が介入していない事は、いつになっても部屋に警察が訪れない事で気が付いた。
そしてゼクシードの本名が茂村保だと知っていた為、
運ばれた病院の病棟をしらみつぶしに回り、
入院用の病棟の部屋にかかっている名前を全てチェックしたのだった。
そこで茂村保の名前を見付けた恭二は、自分が死亡確認をしなかったせいだと落胆した。
ちなみに病状は、アパートの管理人の会話を盗み聞きして発覚した。
もっと慎重に行動していれば、そしてあんなメモを見付けなければ、
恭二はそう思い、次の殺しの時期を早める事を昌一と敦に懇願し、
自ら殺す役を買って出たのだ。それから恭二は変わった。
法を犯す事に積極的になり、自ら追加の薬を父の病院まで取りに行き、
兄に見放されないように、とにかく自分は使える男だとアピールする努力を欠かさなかった。
あのメモの事は確かに驚きだったが、その事は既に恭二の頭から消えていた。
それは張り込んだ甲斐があり、詩乃の家の場所を見つけ出す事に成功したからだった。
恭二は盗聴器を設置する事も考えたが、それはさすがにリスクが大きいと考え断念した。
代わりに恭二は、詩乃の後をよく付けまわすようになった。
詩乃はまだその事には気付いていないが、
恭二の魔の手は、確実に一歩一歩詩乃に近付いていた。
「さて、残りの二人……いや、三人はどうする?」
「三人ともBoBの最中でいいんじゃないかな、
ギャレットとペイルライダーの家はすぐ近くだったしね」
「シノンの所は恭二が行くって事でいいな?」
「うん、あそこの鍵は開けられないタイプだったけど、僕が直接行けば開けてくれるでしょ」
「……そうか」
「うん!」
こうなると、例えゲームの中で黒星の銃弾を撃ち込めなくとも、恭二は止まらないだろう。
それは二人の美意識に反する行為なのだ。だが今殺す訳にはいかない。
やるならゲームの中でなくてはならないのだ。
こうして二人は、事が起こった直後にゲーム内でPKとして恭二を始末する事を決断した。
直接訪ねるとなればリスクも高いだろうし、
最悪近くの住人が揉める気配を察して駆け付けてくる可能性もある。
その場で逮捕とかいう事にならなければ恭二を殺すのは簡単なのだ。
こうして恭二はこの段階で、昌一と敦にも見捨てられた。
菊岡誠二郎は、とある通報を目にし、非常に悩んでいた。
「これ……どう考えてもありえないよなぁ……
ゲーム内で銃を撃って、それで現実に人を殺す?やっぱりありえないよね……
どうするかなぁ、一応調査はしないといけないと思うけど……」
菊岡はそう考えつつも、一応専門家と言われる人達に意見を聞き、
それはどう考えても不可能だという結論に達していた。
「やっぱり無理かぁ、こうなったら視点を変えて、ゲーマーに意見を聞いてみるか。
こういう事で頼りになるのは八幡君と和人君だと思うけど、八幡君は今回はなぁ……」
菊岡は、八幡に関して調査したらしき資料をぽんと机の上に置きながら呟いた。
その資料には、ちらりとシャナという文字が書いてあった。
「相談の流れで調査ってなったとして、今の八幡君だと名前が売れすぎてるんだよね……
とりあえずここは、和人君にお願いしてみようかな、危険は無いと思うけど、
サポート体制だけは完璧にしてっと……まあもう一部準備はしてあるけどね」
そして菊岡は、和人に電話を掛けた。
「はい、桐ヶ谷です、菊岡さん、どうしました?」
「あ、和人君?ちょっと相談したい事があるんだけど、出てこれないかな?
もちろんちょっと奮発して奢るからさ、頼むよ」
「別にいいですけど、またバイトか何かですか?」
「多分そうなると思う。今回はバイト代もかなり奮発するよ」
「直ぐ行きます!」
こうして菊岡に呼び出された和人は、店に入ると菊岡の姿を見付け、その前に座った。
「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって」
「いえ、別にいいですけど」
「まあとりあえず何でも好きな物を頼んじゃってよ、さっき言った通り奢るからさ」
「それじゃあ遠慮なく」
そう言ってメニューを開いた和人は、その値段に仰天した。
「ほ、本当に遠慮しなくていいんですか?」
「うん、別に構わないよ」
「よ、よし……」
そう言って和人は、真剣にメニューを眺めたが、結局コーヒーとパフェを一つ頼んだ。
本当はもっと頼みたかったが、やはりまったく遠慮しない訳にはいかなかったようだ。
「で、今日は何の用事ですか?」
「うん、実はね……」
そして菊岡は、和人に今回の事件について説明した。
和人は黙ってそれを聞き、ゲーマーらしい視点で色々と無茶な事を言ってみたが、
どう考えてもそれらは全て実現性が皆無なものばかりだった。
「……やっぱり無理だよね?」
「ええ、無理だと思います、絶対に」
「だよね……参ったな、ただ色々な人に話を聞いて、無理ですって言うだけじゃ、
絶対に上司が納得してくれないんだよね……」
「つまり、実際にその死銃って奴に、銃で撃たれてみないと駄目って事ですよね?」
「だねぇ……ねぇ和人君、このバイト、頼んでもいい?」
「バイトってそれですか!?」
和人は驚いてそう言った。さすがの和人も、そんなバイトはしたくなかった。
「そうなんだよね……絶対に安全は保証するから、お願い!」
「保証って、実際どんな感じになるんですか?」
「先ずログインは政府の施設からしてもらう。そして常にゲーム内の状況をモニターし、
その銃弾で撃たれた瞬間に回線を切って、結果を見てみる。
まあもっとも今話した通り、どうやっても何か影響があるなんて事はありえないんだけどね」
「まあ自分でもそう言いましたし、それはそうなんですけどね」
「で、今回は時給とかじゃなく、受けてもらったら十五万、成功報酬として十五万でどう?」
「まじですか……それだけあればあれもこれも買えるな……」
「期限は調査次第だけど、長くて二週間くらいでその金額を予定してるよ。
もしそれ以上に伸びたらまた二週間で同じ金額を出す、どうだい?」
「是非お願いします」
和人はそう言いながら、菊岡に手を差し出した。
「オーケー、交渉成立だね、準備が出来たら連絡するから、それまで待っててね」
「あ、一つだけ、ゲーム内の様子をモニターするって……」
「あ、それはね、もうソレイユに協力を依頼済なのさ。
知ってるかな?アキバにある、メイクイーン・ニャンニャンっていうメイド喫茶にさ、
そのソレイユのテスト機が置いてあるんだよね」
「まじですか、でも何でメイド喫茶……」
「あ、何でもそこの店長さんが、アキバの顔役らしくてさ、
なんと高校生の女の子らしいんだけど、それでそこに決めたらしいよ」
「まじですか、八幡の奴、内緒にしてやがったな……」
「まあそんな訳で、正式に準備が出来たら連絡するから、お願いね」
「分かりました」
和人はこうして菊岡と分かれると、その足でアキバへと向かい、
メイクイーン・ニャンニャンへと足を踏み入れた。
「お帰りニャさいませ、ご主人様」
「あ、ど、ども」
和人は勢いで来てしまったものの、こういう所に来るのは初めてだった為、
どうすればいいか分からなかった。
丁度その時、和人の横を一人の少女が駆け抜けた。
「それじゃフェイリスさん、私は八幡と約束があるから」
「クーニャン、またなのニャ」
(八幡?今八幡って言ったか!?やっぱり隠してやがったな、羨ましい……
いやいや、羨ましくなんかない、ないったらない)
和人はそう考え、ストレートにフェイリスに質問をぶつけた。
「あの、ここにソレイユ製の、
実際にゲームをプレイしている所が見られるマシンがあるって聞いたんですが」
「ニャニャっ、お客様もゲーマーなのかニャ?」
「あ、はい、一応」
「むむっ、凄いオーラだと思ってフェイリスが担当する事にしたけど、
やっぱり正解だったみたいニャ、でもごめんなのニャ、
あの機械は、何かえらい人が使いたいって事で、今日一時的にそっちに移動したのニャ」
(うお、菊岡さんさすが手配が早いな……)
「そうですか、残念です」
「どうしますかニャ?また後日いらっしゃいますかニャ?」
「いや、せっかくだから何か軽い物でも注文していきます」
「ありがとですニャ、それじゃあこちらへどうぞニャ」
(う~ん、ずっとニャーニャー言ってるけど、それが普通に聞こえてくるから不思議だ)
そして和人は、何も考えずにオムライスと、食後にコーヒーを注文した。
しばらくしてオムライスが運ばれてくると、フェイリスは和人にこう尋ねた。
「ケチャップで何かお書きしますかニャ?」
「え?あ、ああ~!えっと……お、お任せで」
「分かりましたニャ!」
そしてフェイリスは、定番の言葉を和人のオムライスに書き始めた。
そこには当然『世界がやばい!』と書いてあった。
「どうですかニャ?」
「あ、あは……」
和人はその言葉を見て苦笑する事しか出来なかった。
(こういう場所に来るのは初めてだけど、何か凄いな……)
そして和人はオムライスを一口食べ、思わずこう言った。
「う、美味い……」
それを見たフェイリスは、戦士にも休息は必要なのニャと一人頷いていた。
オムライスを食べ終わった頃、和人は一人の男がフェイリスに話し掛けているの目撃した。。
「フェイリス、ダルがこっちに来ていないか?」
「あ、今日はダルにゃんは、八幡のところだニャ」
それを聞いた和人は思わず咳き込んだ。
(また八幡の名前が……もしかして常連なのか?
これは明日奈にチクらねばいけない案件だな)
「なるほど、じゃあクリスティーナは?」
「クーニャンも八幡の所らしいんだけど、今日は明日ニャンの所に泊まるって言ってたニャ」
その言葉に、和人は再び咳き込んだ。
(まじかよ、明日奈もここに通ってんのか?しかも泊まるくらい仲がいいのか?)
「なるほどな、それじゃあ今度また出直してくる、ありがとうな、フェイリス」
「どういたしましてニャ、またね、凶真」
そしてフェイリスは、心配そうな顔で和人の所に歩いてきた。
「お客様、大丈夫ですかニャ?」
「あ、うん、大丈夫、とりあえずコーヒーをお願いします」
「かしこまりましたニャ」
そしてフェイリスは、コーヒーを運んできた後に和人にこう尋ねた。
「砂糖とミルクはどうしますかニャ?」
「あ、それじゃあ一つずつで」
「はいニャ」
そしてフェイリスの必殺技、『目を見てまぜまぜ』が発動した。
和人はフェイリスが、自分の目をじっと見つめながら「まぜまぜ、まぜまぜ」
と呟いている事に赤面した。和人はそれを誤魔化す為に、フェイリスにこう尋ねた。
「あの、さっき八幡って名前を……」
「ん、何の事ですかニャ?気のせいだと思うのニャ」
「え、だって八幡の名前を二度も……」
「多分幻聴ニャ、お客様は疲れているのニャ、うちでリラックスしていってニャ」
そう言ってフェイリスは、笑顔で和人に微笑んだ。
(どういう事だよ、もう訳がわからないよ)
和人は混乱したが、それはそうだろう、
フェイリスはお客様の情報を決して漏らしたりはしないのだ。
何故ならそれは、彼女がプロ中のプロだからである。
そして和人はそろそろ帰る事にし、席を立った。
「ごちそうさまでした」
「ありがとニャ、もし良かったら、今度は是非八幡と一緒に来てニャ」
「えっ?」
フェイリスはそのまま何も言わず、和人を見送った。
和人は外に出た後、今の言葉の意味を考えた。
「もしかして、例え八幡と知り合いだろうとしても、
それが確定するまでは自分は何も言えないって事なのかな、プロだな……」
そして和人は、今度は八幡に連れてきてもらおうと思い、家に帰る事にした。
だがこの後和人はバイトで忙しくなり、それが果たされたのは事件が全て終わった後だった。
ちなみに和人とフェイリスの再会は、それよりも少し前、
ヴァルハラ・ガーデン内での事となる。