ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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いよいよ第三回BoB、開幕です!

2018/06/18 句読点や細かい部分を修正


第405話 開幕、第三回BoB

「…………おい小猫、これはどういう事だ?」

「言われた通り、伝手を頼って警察に護衛を依頼しておいたのだけれど」

「…………」

 

 薔薇にそう言われ、八幡は納得し難い表情で、その場にいる二人を見た。

 

「これは参謀!お待ちしておりましたぞ!」

「お、おう、おはようございます?」

 

 大会当日、八幡は朝早くに眠りの森を訪れていた。

そこには八幡が使う予定のベッドの脇で、将棋を打っている清盛と自由の姿があった。

 

「じじいはともかくゴドフリーのおっさんは一体どうしたんだ?」

「参謀の身を守るなどと言う重要ミッションを、他の者に任せる訳にはいかないですからな、

私自らが護衛につく事にしたと、そういう訳ですぞ」

「……えっと、おっさん、仕事の方は大丈夫なのか?」

「大丈夫、今日はしっかりと有給休暇の申請をしておきました」

「あ、そう……」

 

 確かにこの二人に守ってもらえば滅多な人間は近寄れないであろうが、

八幡としては、どうしてもオーバーキル感が拭えなかった。

 

「……まあいいか、とりあえず今日は宜しくお願いします」

 

 八幡は気を取り直し、丁寧な言葉でそう二人に挨拶をした。

 

「おう、任せておけい」

「お任せ下さい!」

 

 二人はやる気満々でそう答え、八幡は深いため息をついた。

 

 

 

「和人君、調子はどう?」

「ナツキさん、絶好調ですよ、どうしても倒したい奴もいますしね」

「……それってもしかして、シャナって人の事?」

「ええ、あんな変態をのさばらせておいたら、八幡に怒られちゃいますからね」

 

 その和人の言葉にナツキはたまらず噴き出した。

 

「えっ、あれっ、俺何か変な事を言いました?」

「う、ううん、何かがツボにはまっちゃっただけだから気にしないで」

 

 そんな二人の声を聞きつけ、奥から菊岡も姿を現した。

 

「やぁ和人君、調子はどうだい?」

「さっきまで絶好調だったけど、菊岡さんの顔を見たら急にやる気が無くなりました」

「ちょっ、どういう事!?」

 

 菊岡は悲しそうな顔で和人にそう言った。

 

「冗談ですって、それじゃあナツキさん、今日は宜しくお願いします」

「えっ、ちょっと、ぼ、僕には何かないの?」

「寝てる俺に何かしたら絶対に許しません、男に添い寝されてるみたいで不愉快です」

「えっ、ええ~……」

 

 菊岡は落ち込んだ様子でそう言い、それを見たキリトは笑顔で菊岡に言った。

 

「やだなぁ、冗談ですって、菊岡さん」

 

 そんな和人に菊岡は、不安そうな顔で言った。

 

「ほ、本当に?」

「本当です」

「本当の本当に?」

 

 菊岡がそう念を押してきた為、和人は思わず本音を口に出した。

 

「めんどくさいな……本当で~っす、それじゃあナツキさん、早速いきます」

「ええ、分かったわ」

「ちょ、ちょっと和人君、最近八幡君に似てきてない?」

「あははははは」

 

 和人はそれには答えず、ただ菊岡に笑い掛けた。

 

「ま、まあいいや、それじゃあ今日は頑張ってね、

こっちも和人君が危ない目に遭わないように細心の注意を払うから」

「はい、お願いします」

 

 そして八幡と和人は、同じくらいの時間にGGOにログインした。

 

 

 

「うげ」

「おっ」

 

 そして二人はGGOの中で顔を合わせた。

 

「よぉ」

「話し掛けんなよ、変態がうつるだろ!」

「俺は別に変態じゃないぞ、至ってノーマルだ」

「それじゃあナンパ野郎」

「ナンパとかした事無いんだが……」

「この前俺をナンパしたじゃないかよ!気持ち悪い!」

「あ…………」

 

 シャナは言い逃れ出来ない事実を突きつけられ、

それ以上キリトを説得するのを諦めた。

 

「ま、まあそんな事もあったかもしれん」

「かもじゃなくてあったんだよ!」

 

(これが俺の事を変態扱いする一因か……)

 

 シャナはそう考えたが、覆水盆に帰らずである。

シャナは気を取り直し、話題を変えようとキリトに話し掛けた。

 

「なぁ」

「何だよ」

「お前、BoBの予選会場がどこなのか分かってるのか?」

「…………も、もちろんだ」

 

(こいつ、絶対調べてないな……)

 

 そんな考えをおくびにも出さず、シャナはしれっとキリトに言った。

 

「そうか、じゃあまた会場でな」

「お、おう」

 

 そしてシャナは歩き出し、キリトは少し離れてその後をついていった。

シャナはその事に気が付くと足を止め、振り返ってキリトに言った。

 

「……なんで俺の後を付いてくるんだ?」

「そんなの目的地が一緒なんだから、そうなるに決まってるだろ」

 

 そう言われたシャナは、どうしてもキリトをからかいたい気持ちを抑えられなくなった。

 

「そうかそうか、俺はこれから大会前の景気づけに、

お姉ちゃんのいるいかがわしい酒場に行くつもりだったんだが、

お前もそのつもりだったんだな、うんうん、やっぱりそういうのは男にとっては必須だよな」

「えっ?」

 

 キリトはその言葉にぽかんとした。そこに折り悪くシノンが通りかかった。

 

「あんた達何やってるの?早く向かうわよ」

「おうシノン!さあ、あんな奴は放っておいて会場に行こうぜ!

あいつは大会前の景気づけに、

これからお姉ちゃんのいるいかがわしい酒場に行くつもりらしいからな!」

「いかがわしい酒場?」

 

 シノンはそんな物あったかしらと考え込んだが、どう考えてもそんな施設は存在しない。

 

「……まあいいわ、ほら二人とも、さっさと行くわよ」

「おう!」

「あ、えっと……お、おう」

 

(くそ、シノンの奴、タイミングが悪すぎだろ)

 

 シャナは仕方なくキリトをからかうのを諦め、二人の後を大人しく付いていく事にした。

そんなシャナの耳に、キリトとシノンの会話が聞こえてきた。

 

「なぁシノン、あいつとはそれなりに親しいのか?」

「え?そうね、まあそれなりかな」

「まさかリアルで会おうなんて言われてないよな?」

「あ、えっと……」

 

 シノンはむしろ、自分がグイグイ押している立場だったので、

何と言えばいいか迷い、口ごもった。

そのシノンの反応を見たキリトは、シャナに詰め寄った。

 

「お前……」

「いやいや待て待て、心配しなくてもやましい事は何一つしていない、

シノンに確認すれば分かるはずだ」

「本当か?」

 

 キリトは振り返り、シノンにそう尋ねた。

 

「そうね、彼の言う事は本当よ」

「そうか……疑ってすまなかった!」

 

 キリトはそう言って素直にシャナに頭を下げた。こういう所がキリトのいい所である。

 

「でも俺はお前が嫌いだ!だからBoBで当たったら、絶対にぶっ倒す!」

「ふん、返り討ちにしてやるさ」

 

 そして二人は顔を突き合わせてぐぬぬと睨み合った。

 

 

 

 そんな二人を観察する一人のプレイヤーがいた、ステルベンである。

ステルベンは今は目立つ事を避ける為、死銃の格好はしておらず、あえて素顔を晒していた。

 

「あれがキリト……本物か?」

 

 ステルベンは、アンタッチャブルのクリア者の名前の表示を見て、

キリトというプレイヤーがあのキリトではないかと疑っていた。

 

「だが、シャナがハチマンなのは間違いない。

もし本物ならあんな態度はとらないはず、やはり別人か……」

 

 こうしてステルベンは、キリトへの興味を一切失った。

 

「さて、素顔のままで目立たないように決勝まで進むか……」

 

 

 

 参加者達が集まっている専用ドームの一角に、シャナの友好チームの面々が集まっていた。

そのメンバーは、シャナ、ピトフーイ、シノン、銃士X、闇風、薄塩たらこ、

ミサキ、ダイン、ギンロウである。

ちなみにギンロウ以外は、決勝への出場が確実視されている者ばかりだった。

その様子を少し離れた場所で見つめる者がいた、もちろんキリトである。

 

「もしかしてあいつはただの変態じゃなく、ハーレム王の変態なのか……?」

 

 キリトはシャナの予想以上の人気に驚いていた。

仲間内でもシノン以外の女性プレイヤーは、全員シャナの周りできゃっきゃうふふしていた。

シノンはキリトの視線を気にし、シャナに近付くのを断腸の思いで我慢しているのだった。

 

「確かに人望はあるみたいだな……どのゲームでも強い奴がえらいって事だな」

 

 日ごろからヴァルハラのメンバーとして同じような立場にあるキリトは、

自身の経験からそう結論付けた。そして予定時刻になり、場内にアナウンスが流れた。

 

『大変長らくお待たせしました、これより第三回BoBの予選トーナメントを開始致します』

 

 そのアナウンスを受け、GGOの全プレイヤーが歓声を上げた。

いよいよお祭りの始まりである。

ちなみにシズカとベンケイとニャンゴローはGGOにログインしていない。

代わりにその三人は、今はヴァルハラ・ガーデンで大会の様子を観戦していた。

これはキリトが一時的にコンバートした事を知ったリズベットの呼びかけによるものであり、

ハチマンとキリトとソレイユとメビウス以外の全メンバーがそこに集まっていた。

 

「GGOってどんなゲームだっけ?」

「銃で戦うゲームじゃなかったっけ?」

「キリトって遠隔攻撃が得意なの?」

「見た事無いわね……」

「まああいつならなんとかするだろ」

 

 そんな会話をしながら、ヴァルハラのメンバー達も、

滅多に見られないほかのゲームの大会を興味深そうに見つめていた。

 

 

 

「いきなり俺か」

「シャナ、頑張って」

「おう、まあさっさと終わらせてくるわ」

 

 そしていきなりシャナの名前が電光掲示板に表示された瞬間、

街の各所に設置されたモニターの前にいる観客達が大歓声を上げた。

 

「うお、いきなりシャナか!」

「相手の奴は……無名のプレイヤーか、かわいそうに」

「誰か相手に賭ける奴はいないか?これじゃあ賭けが成立しねえよ!」

 

 そのプレイヤーの言葉通り、誰も相手に賭ける者はおらず、

この賭けは不成立となった。まあ当たり前である。

 

 一方ヴァルハラ・ガーデンでは、アスナがしれっとした顔で解説をしていた。

 

「あの人が今大会の優勝候補ナンバーワンの、シャナだよ」

「ほ~う?」

「どんな戦い方をするの?」

「多分遠距離から狙撃をしてあっさり終わらせるんじゃないかな?」

「アスナ、詳しいわね」

「え、えっと、前に少し調べた事があってね」

「ふ~ん」

 

 そしてアスナの解説通り、シャナはあっさりと一撃で敵を葬り去った。

 

「早っ!」

「おいおい、何だよこれ、随分あっさりした戦闘だな」

「まああの人がそれだけ凄いって事だよ、多分他の人の戦闘を見てれば、

あれがどんなに異常なのか分かるんじゃないかな」

「そうなのか?」

 

 アスナの言う通り、次の試合は凄まじい泥試合となり、クラインは納得したように言った。

 

「本当だな、銃の事は素人の俺でも、ハッキリと違いが分かるぜ」

「でしょ?」

「ああ、まるでハチマンやキリトが一般人を相手にしてるような感じだな」

 

 その言葉でリズベットは、この場にハチマンがいない事に気が付いた。

 

「ところでハチマンは?」

「そういえば今日は見てないな」

「ちょっと確認するね」

 

 アスナは当たり前だよねと思いつつも、ハチマンの居場所を確認するフリをする為、

フレンドリストを開いた。その演技を見たコマチとユキノは、

顔を見合わせてクスクスと笑っていた。

 

「えっ?」

 

 そしてその直後に、アスナが驚いたような声を上げた。

 

「どうしたの?」

「あ、うん、それがね」

「ええっ?皆さん、あ、あれ!」

 

 その時レコンが突然画面を指差しながら大声を上げた。

その画面に表示された名前を見た瞬間、ヴァルハラのメンバー達は口々に叫んだ。

 

「えっ、まじで?」

「ど、どういう事だよ?」

「もしかして別人?」

「アスナ、何か聞いてないの?」

「ううん、何も……だけど皆、あのね……」

 

 そしてアスナはフレンドリストを可視化し、全員に見えるようにその一点を指差した。

 

「あれ、やっぱり本人みたい……」

 

 アスナの指差す先には、ハチマンの名前があり、

その名前の横には、『ステータス、GGO』の文字が表示されていた。

 

「「「「「「「「「「ええええええええええええええええええ!」」」」」」」」」

 

 それを確認した瞬間、ユイとキズメル以外の全員が絶叫したのだった。




いきなりぶっこんできました!

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