ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第408話 お前は……

 各プレイヤーが続々と一回戦を突破していく中、ひっそりと不戦敗になった者がいた。

 

「あ~あ、やっぱりゼクシードは不戦敗か」

「仕方ないだろ、多分アミュスフィアの故障か何かだと思うし」

「座談会以降ログインしてきてないらしいから、まあそんな感じだろうな」

 

 こうしてゼクシードのBoBは一瞬で終わりを告げた。

本来はBoBどころか人生の終わりを迎える所だったのだから、

あるいはそれだけで済んで良かったと言えるかもしれない。

大事なのは、ゼクシードは確かに生きているという事だ。いずれ再起の時もあるだろう。

ちなみに対戦相手はギンロウだった。今回は各ブロックに優勝候補が散らされている為、

ギンロウにとっては本戦出場に向け、大きな大きな一歩となった。

 

 

 

「ハチマンについてはまだ保留だな、直接やりあっていない俺には判断が出来ん」

 

 ステルベンは、アチマンの戦いを見た後、そう呟いていた。

だがそんなステルベンも、キリトの戦いを見た直後はさすがに冷静ではいられなかった。

 

「あいつ……本物……か?もし本物なら俺がこの手で……」

 

 ステルベンはラフィンコフィン討伐戦で直接キリトと対峙した事もあり、

ハチマンはともかくキリトに対しては特別な感情を抱いていた。

その考えを読んだように、突然ノワールから通信が入った。

ノワールはギャレットとペイルライダーの家の中間位置で待機しているはずであり、

GGOにログイン出来る状態には無かったはずである。

ステルベンはそう考え、何かトラブルでもあったのかと心配した。

 

「どうした?トラブルか?」

「いや、配信の動画を見てたらあのクソの剣士が出てきたんでな、

心配になって慌ててログインしたのさ」

 

 ノワールは、ギャグのつもりかキリトの事をそう呼んだ。

 

「心配……?」

「俺達の目的はあくまでPKだ、目的を履き違えるなよってな。

剣で決着をつける?そんなのはクソくらえだぜ。

SAOでやりあったのも、ヘッドに裏切られたせいだしな。

あ、でも勘違いするなよ、裏切られたせいで、俺はヘッドを更に尊敬するようになったんだ。

自分が生き残る為には何でも利用しようとするその姿勢は。さすがヘッドって感じだよな」

「……だが死銃が俺だってのはどうせこの大会でバレるんだ、

そうなると最終的にはぶつかる事になるだろう?」

「そうなったらさっさとリタイアすればいい、今の所まだバレていないはずだが、

いずれ絶対に警察が俺達の所に来るはずだ。その前に二人で高飛びだろ?

その為に色々準備をしてきたんだからな」

 

 当然その数には、既に二人に見捨てられている恭二は入っていない。

 

「しかし……」

 

 尚も食い下がるステルベンを見て、ノワールはため息をつきながら言った。

 

「はぁ……分かったよ、俺が思ってる以上に、お前は剣士だったって事なんだな」

「……すまん」

「いや、よく考えたらSAOを始めたばかりの時は、俺もそんな感じだった気がするし、

多分これが最後なんだ、思う存分やればいい、

ただし絶対に本来の目的を忘れるなよ、それだけは約束してくれ」

「ああ」

 

 そう言ってノワールはログアウトしていき、ステルベンはぼそっと呟いた。

 

「……直接確認してみるか」

 

 そしてステルベンは死銃の格好をし、マントの機能を使って姿を消した。

 

 

 

「よし、全員一回戦を突破したみたいだな、この調子で頑張ろうぜ!」

 

 闇風がそう音頭をとり、一同は大いに盛り上がっていた。

全員もう、シャナに連絡をとる事は諦めていた。

何故なら誰が通信しても、シャナは決して応じようとはしなかったからだ。

 

(さて、シャナ様に報告しに行かないと)

 

 唯一シャナの居場所を知っている銃士Xはそう考え、こっそりとシャナの下へと向かった。

その後を、一人のプレイヤーがこっそりつけていた事に、銃士Xは気付いていなかった。

 

 

 

「シャナ様私です、マックスです」

「マックスか、入ってくれ」

 

 そう言われた銃士Xは、ドアが開いた瞬間にスッと中に滑り込んだ。

その瞬間に誰かに背中を押され、銃士Xはよろけながらハチマンに抱きついた。

 

「きゃっ」

 

 そんな銃士Xの体をハチマンはしっかりと受け止めた。

銃士Xはその事に喜ぶ間もなく慌てて振り向いた。そこにはミサキが、

満面の笑みを浮かべながらニコニコと立っており、銃士Xは自分の失態を悟った。

 

「しまった……」

 

 銃士Xは、自分が後をつけられていたのだと考え、慌ててシャナに謝ろうとした。

だが少し様子がおかしい。どちらかというと、狼狽しているのはハチマンのようで、

シャナはただ、面白そうにミサキの方を見つめているだけだったのだ。

それはそうだろう、今のシャナはシャナではなくシャイなのだ。

 

「……」

「……」

 

 二人が何もしゃべらない為、銃士Xが最初に口を開いた。

 

「……ミサキさん、一応聞きますけど何故ここに?」

「うふ、イクスちゃんがハチマン様の居場所を知らないなんてありえませんわ、

イクスちゃんはハチマン様の懐刀ですものね」

「あ……は、はい」

 

 そのミサキの評価は、銃士Xにとっては痛し痒しだった。

嬉しいのにこの状況だと素直に喜べない。

そして銃士Xは、シャナをミサキの桃色オーラから守ろうとその前に立ちはだかった。

だがミサキはその横をするりと抜け、何故かハチマンの腕にすがりついた。

 

「イクスちゃんもまだまだね、『性交体験』が足りないのかしら、こっちが正解よ」

「えっ?」

 

 銃士Xは『成功体験』が少ないと言われ、何の事かきょとんとした。

 

「……何で分かったんですか?」

「あらあらうふふ、やっぱりそうでしたのね」

 

 その会話から、どうやらミサキには自分には分からない何かが分かるのだと思い、

銃士Xは素直にミサキに教えを請うた。

 

「ごめんなさいミサキさん、私には分かりません、是非そのコツを私に教えて下さい」

「別にいいわよ?それじゃあ実地で教えるから、

ハチマン様を私の店に連れてきてもらってもいいかしら?」

「分かりました、必ず」

「おいマックス、ナチュラルに俺を売るんじゃねえよ……」

 

 そのハチマンの言い方で、ミサキの言った事は真実だったと思い知らされ、

銃士Xは益々その技術を会得しようと心に誓った。

ハチマンの言葉は銃士Xにとってはどうやら逆効果だったようだ。

 

「ハチマン様、それじゃあそっちは……」

「イクスさん、私はシャイよ」

「あ、シャナとアイでシャイなんですね」

 

 直ぐにその言葉の意味を理解した銃士Xに向け、シャナは言った。

 

「何で分かるんだよ、お前らのネーミングセンスって、似てるんだな……」

 

 そしてミサキは、興味深そうにシャイに話し掛けた。

 

「そう、あなたはアイさんと仰るのね、初めまして、私はミサキです」

「これはご丁寧に、私はアイと申します、師匠」

「師匠?」

 

 そのシャイの言葉にハチマンはきょとんとした。

 

「ハチマン、ミサキさんからは恋愛マスターの匂いがぷんぷんするわ、

これはもう師匠と呼んで、教えを請うしかないのではないかしら」

「却下だ、これ以上お前にうざくなられたらかなわん」

「本当は嬉しいくせに」

「嬉しくねえよ」

「私の事、嫌いなの?」

「そんな訳無いだろ」

「じゃあ好……」

「ストップよ、アイちゃん」

 

 その時ミサキがシャイにストップを掛けた。そしてミサキはシャイの耳元でこう囁いた。

 

「その言葉はこういう時には禁句よ、

もし言うとしたらハチマン様をベッドに連れ込んだ時が効果的よ」

「は、はい師匠!」

「ミサキさん、聞こえてますからね……」

「あら、こんな小声も聞き漏らさないなんて、ハチマン様はやっぱり私に興味津々ですのね」

「いや、そ……」

「ところで何故二人は入れ替わったんですの?」

 

 反論しようとしたハチマンを、ミサキはそう言って封じた。

シャイと銃士Xはそれを見て、相手の逃げ道はこうやって塞ぐのかと感心した。

 

「……死銃を混乱させようと思ったんですよ、疑念を抱かせてこっちに接触させようとね」

「死銃……話は聞きましたが何者なのですか?」

「予想はしていますが、まだ確信には至っていません。

ですが多分、この大会には出場していると思うので、必ず尻尾をつかんでみせます」

 

 その言葉にミサキは、頷きながらこう提案してきた。

 

「なるほど……それじゃあ私も情報収集のお手伝いを致しますわ、

イクスちゃんと一緒に、二人がかりで怪しい出場者がいないかチェックします」

「そう……ですね、お願いします。でも決して危ない事はしないで下さいね」

 

 ハチマンにそう心配され、ミサキは内心狂喜していたが、

そんな態度はおくびにも出さず、しれっとした態度でこう言った。

 

「もちろんですわ、ハチマン様のご寵愛を賜るまで、

この体に傷を付ける訳にはいきませんもの」

「いや、ご寵……」

「それじゃあ早速私は行きますわ、アイちゃんも頑張ってね」

「はい、師匠!」

 

 ミサキは再びハチマンの言葉を遮り、外に飛び出していった。

 

「…………あの人はどうも苦手だ、主導権をとれる気がしねえ。

押したらそのまま喜ばれるだけだし、引いても首根っこを捕まれて引っ張られる気がする」

「仲間内にはいないタイプですね」

「まあな、どちらかというとうちの学校の理事長に近いと思うが……」

 

 ハチマンはそこでミサキの話題を打ち切り、銃士Xに尋ねた。

 

「で、マックス、何か報告があるんじゃないのか?」

「はい、あちらでは今、ハチマン様の中身が偽者だという事で話がまとまっています。

そしてシャナ様を見つけ次第、フルボッコにしてやろうぜと皆で盛り上がっています」

「まじかよ……くそ、キリトのせいか……」

「キリト様の目はやはり欺けないようですね」

「まあ死銃さえ騙せればいいさ、よしシャイ、そろそろお前の出番だ、頼むぞ」

「分かったわ、可能な限りシャナっぽく動いてみる」

「銃だけの予定だったが、最悪これを使え」

 

 そう言ってハチマンは、シャイに一振りの短剣を渡した。

 

「これを?」

「それでカウンターを入れれば、俺っぽく見えるだろう、出来るか?」

「そうね、一撃くらいなら何とかなると思うわ」

「さすがだな、頼むぞ」

「ええ」

 

 

 

「お、シャナの出番か」

「また狙撃一発で終わるか?」

 

 その予想とは裏腹に、シャイは接近戦を挑むように見えた。

 

「狙撃はしないのか」

「色々試してるんじゃない?」

「まあそうだな、シャナだしな」

 

 シャイは上手く銃を使い、相手を慎重に追い詰めていった。

そして敵を丁度いい地形に追い込んだ瞬間、シャイは突然敵の方へと走り出した。

 

「くそっ」

 

 敵は慌ててシャイに狙いをつけたが、シャイは障害物の陰に滑り込み、

敵は慌てて前へと身を乗り出した。その瞬間に、シャイは左手に持っていた短剣で、

敵の銃に向かって強烈なカウンターを繰り出し、

のけぞったその敵を、今度は右手のアハトレフトで横一線に斬り裂いた。

 

「「「「「「「「おおっ」」」」」」」」

 

 一同はそのいかにもシャナっぽい動きに思わず感嘆の声を上げた。

キリトですら、その見事なカウンターを見て、さすがだなと感心していた。

 

「見事なカウンターだったわね」

「あいつの持ち味は、やっぱりカウンターだからな」

「もしキリト君がガチでやりあったらどうなるの?」

「ALOじゃ五回に一回くらいしか負けないが、今回は銃もあるしな……正直何とも言えん」

「そうなんだ」

 

 そしてキリトは一息つこうと、飲み物を取りに一人でバーカウンターへと向かった。

その背後から突然声がした。

 

「お前、本物……か?」

 

 キリトは慌てて振り返った。そこにはいつの間にか一人のプレイヤーが佇んでおり、

キリトはそのプレイヤーが死銃だと確信した。

 

「本物?何の事だ?お前が死銃か?」

「…………」

 

 死銃は、そのまま黙りこくり、キリトをじっと観察していた。

その赤く光る目に、キリトは見覚えがあった。

 

「お前…………まさか、赤目のザザか?」

「…………やはり本物……か」

 

 キリトはザザの事をハッキリと覚えていた。

SAOから脱出し、八幡らと再会した後、ラフコフについては何度も話し合っていた。

そのせいでキリトは、あの戦いの事を忘れる事もなく、

同じ体験をした八幡らと支えあう事で、そのつらい記憶を乗り越える事に成功していた。

 

「久しぶりだな」

 

 キリトに睨まれ、そう言われた死銃は、そのまま後方へと走り出した。

 

「あ、おい、待て!」

 

 そしてキリトは死銃を追いかけ、角を曲がった。だがその姿はどこにも無い。

 

「くそっ、どこに消えやがった……」

 

 キリトは死銃を逃がしてしまった事に歯噛みした。

 

「これはハチマンと話さないといけないな……」

 

 そう思いつつもキリトは、死銃がBoBに参加している事を確信し、

絶対に決勝へ進まなくてはいけないと決意した。

 

「さて、そろそろハチマンの試合か……まったくあいつ、どこにいるんだよ」

 

 

 

 そしてハチマンの試合が始まった。

ハチマンは最初、輝光剣を日本刀のように振り回していた。

 

「やっぱりハチマンのスタイルとは違うみたいだな」

「そうみたいね」

「あれ?」

 

 敵は意外と上手くハチマンから距離をとり、輝光剣で斬られるのを防いでいた。

それを見てとったのか、ハチマンはいきなり戦闘スタイルを変えた。

 

「あ、見て、ハチマンの輝光剣が……」

「刀身を短くした!?」

 

 その言葉通り、ハチマンは刀身を短くし、ALOでキリトがいつも見ていた構えをとった。

 

「あ、あれれ?」

 

 その直後にハチマンは、『いつものように』木を踏み台にして跳躍し、

すれ違い様に敵の銃を蹴り上げると、『いつものように』敵の背後に降り立ち、

そのまま振り向き様に敵を横に真っ二つにした。

 

「あ、あれ……?」

 

 キリトはそれを見て、目をごしごしと擦った。

 

「どうしたの?」

「あ、いや、あのハチマン、やっぱりハチマンに見えたんだが……

もしかして、最初に日本刀を使うみたいに戦っていたのは、たまたまだったのか……?」

「え、そうなの?」

「ああ、でもさっきのシャナも……ああっ、よく分からなくなってきた!」

 

 キリトは二人の作戦に乗せられ、混乱していた。

シャイが極限まで集中し、カウンターに全てを賭け、

しかもそれを一度しか見せなかったのが幸いしたようだ。

 

「ああもう、こうなったら二人ともハチマン本人だと思ってやるしかないな!」

 

 キリトはそう開き直り、他の者達も戸惑った顔で、

試合に勝利したハチマンの姿を見つめていた。

そしてキリトの番が来たが、相変わらずキリトは剣をメインに戦い、

銃をほとんど使用しなかった。ちなみに敵の攻撃は、全てエリュシデータで斬っていた。

 

「あいつは結局、このまま最後まであのスタイルでいくつもりか……」

 

 ハチマンとシャイは、今はアチマンとシャナに戻っており、

シャナはキリトの二回戦を見てそう言った。

 

「どうやらそうみたいね」

「このままいくと、決勝でシノンと当たる事になるな、

それでシノンが自信を喪失しないといいんだがな」

「…………それほどなの?」

「ああ、明らかに動きが良くなっていたからな、多分あいつ、

自分に向けて放たれた銃弾は、全て撃ち落すぞ」

 

 その言葉にアチマンは困惑した。

 

「…………あの人、本当に人間?」

「どうだろうな、案外魔族とかかもしれないな、」

「シャナにも同じ事が出来る?」

「何発かならな、だがさすがに全部は無理だ、俺は人間なんでな」

「……まあ何とか工夫するわよ、あくまでこっちもメインは剣で、

銃は隙を作る為だけに使う事にするわ」

「だな、まあ頑張れ、決勝まで行けたら本戦には進めるから、別に負けてもいいからな」

 

 

 

 そしてどんどん予選は消化されていき、ついに本戦出場者が出揃った。

ここからは消化試合との批判も出ている予選の決勝である。

最初のカードは…………シノンとキリトであった。

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