ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第424話 絶叫する観客達

「まじかああああああああああ!」

「ピトフーイ&ミサキの最凶コンビがここで落ちるとは!」

「やっぱりALOのハチマンって強いんだな……」

「いやいや、今のは明らかにピトフーイの自殺みたいなもんだろ!」

「妙に回線落ちする奴が多いし、今回の大会はどうなってるんだよ……」

 

 第三回BoBの優勝者当ての賭けは、荒れに荒れていた。

闇風が倒された直後に、ピトフーイ、ミサキの二人が、一瞬でハチマンに倒されたからだ。

しかもピトフーイに至っては、無抵抗でやられたように見え、

それが参加者達を荒れさせる一因になっていた。

 

「それにしてもよ、ギャレットとペイルライダーは一体どうしちまったんだ?」

「ずっと回線落ちのままだよな」

「あのすてぃーぶんって奴が何かしてんのか?」

「運営、不正はちゃんとチェックしろよ!」

 

 実は今回の大会は、途中から中継カメラの音声を拾う感度が大幅に下げられていた。

これは日本政府とザスカーの間で高度な取引が成された為だった。

要は、ザスカーが情報公開請求を突っぱねたせいで日本政府が本気を出し、

そうしないとザスカー社の対応がまずかったせいで死者が出たのだと公開すると、

各方面から圧力をかけたおかげであった。ザスカー社もさすがに、

その時指摘されたBoBの個人情報入力システムの危険さに気付いたのか、

この件を秘密裏に解決する為に急に協力的になり、

そこからペイルライダーの住所も割れ、一気に事件の捜査が進む事となった。

これはある意味SNSで色々発信していたギャレットの功績である。

彼の死体がいち早く発見されたおかげで、このような展開になったからだ。

 

「残るは六人か、これはどうなっちまうんだろうな……」

「こうなると、チーム力の勝負になるんじゃないか?」

「そうなると一番有利なのはシャナ達って事になるよな」

 

 その直後にすてぃーぶん以外の五人が集結し、観客達は戸惑った。

 

「おいおい、これってどうなってるんだ?」

「戦う気配がまったく無いな」

「すてぃーぶん対策なんだろうが、ちょっと過剰すぎないか?」

「う~ん……」

 

 そしてシノンと銃士Xが物陰に隠れた後、服を交換して出てきた時、

観客達からは一斉に怒号が浴びせられた。

 

「どうして肝心な場面を映さないんだよ!クソ運営!」

「今のが今日のクライマックスだろ!空気読め!」

 

 そして五人は熱心に話し合った後、それぞれ動き始め、

観客達はこれでやっと大会が動くと画面に注目した。その直後にそれは起こった。

 

「…………え?」

「銃士Xちゃんが撃たれたぞ、どういう事だ!?」

「俺、ハッキリこの目で見たぞ、あいつ、何も無い空間からいきなり姿を現しやがった!」

「もしかしてあのマントの力か?」

「何だよあのマント、おい、誰かあのマントについて知ってる奴はいないか?」

 

 これだけ多くのプレイヤーがいたら、さすがに情報も集まってくる。

そして観客達の多くが、この時初めてメタマテリアル光迷彩マントの存在を知った。

 

「そういう事か、あれを警戒してシャナ達は組んだんだな」

「なるほどな、とりあえずあのチートアイテム持ちの排除を優先させたんだな」

 

 ちなみにメタマテリアル光迷彩マントは、

この大会の直後に運営の手によってアイテムの存在自体が削除される事となる。

そしてその直後にキリトがビルの屋上に姿を現した。

 

「おい、あいつ……」

「もしかしたらALOのキリトじゃないかって言われてる奴だな」

「あの剣技、間違いないだろ!」

「こりゃあ、相手のすてぃーぶんって奴は瞬殺だな」

 

 だが観客達の予想を覆し、ステルベンはキリト相手に互角の戦いを繰り広げた。

 

「………あれ?」

「おいおい、GGOで何故剣同士の戦いが行われているかはさて置き、何か凄くね?」

「キリトってあのキリトだろ?黒の剣士の。それと互角ってやばくないか?」

「あんな強い奴が今まで無名だったなんてな」

「いや、それを言ったらシャナだってそうだっただろ」

 

 一方シャナを映すカメラを見ていた者達は、

シャナが考え込むだけで、何故か動こうとしないのを訝しく思っていた。

 

「シャナは何をやっているんだ?」

「随分考え込んでるな」

「まさか漁夫の利を狙っているとか?」

「シャナに限ってそれは無い無い」

 

 そんな観客達の前でシャナがスッと立ち上がった。

 

「お、ついに動くか?」

「何か操作してるみたいだけど……」

 

 そしてシャナは、空に向かって取り出した信号弾を打ち上げた。

 

「えっ?」

「何?」

「おい、誰かあれの意味が分かる奴はいないか?」

「源氏軍の生き残り、いたらあれの意味を説明してくれ!」

 

 そんな喧騒に包まれた観客達の耳に、もう一発銃声が響き、

観客達は何事かとモニターへと視線を戻した。

そこには地面に倒れるシャナの姿があり、その手には銃が握られていた。

 

「…………え?」

「今何があった?」

「見てた奴、誰か説明してくれ!」

 

 どうやら呆然としていたのか、説明を求められてやっと我に返ったらしく、

その質問に、一部のモニターを見ていた者達がやっと答えた。

 

「シ……シャナが自殺したぞ!」

「えっ?」

「な、何でだよ!意味が分からないぞ!」

「しかもまた回線切断されてやがる……」

「今回の大会はどうなってるんだああああああああ!」

 

 この時の観客達の絶叫は、遥か遠くにある世界樹要塞まで届いたとか届かなかったとか。

そして次の絶叫タイムが訪れた。キリトとステルベンの激しい戦いが決着した後、

別カメラに映っていたハチマンがシャナと同じく自殺したのだ。

 

「こ、今度はハチマンだ!」

「もう本当に勘弁してくれ、意味が分からないぞ!」

「誰か、誰か事情の分かる奴はいないのか!?」

 

 最後の絶叫タイムは優勝者決定の瞬間であった。

 

「さて、意味が分からなかった大会もこれで決着か……」

「どっちが勝つんだろうな」

 

 そんな観客達の目の前で、二人は笑い合っていた。

これからどうなるのかと全員が注目した時、二人の手からコロンと何かが滑り落ち、

直後にモニターは轟音と共に光に包まれた。そしてそれを見た全員の目が点になった。

 

「………………あ?」

「………………い?」

「………………う?」

「………………え?」

 

 そして公式アナウンスのファンファーレが鳴り響き、宙にこんな文字が表示された。

 

『第三回バレット・オブ・バレッツ、優勝者、キリト&シノン』

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおお!?」」」」」」」」」」

 

 そして観客達は、何が起こったのかを悟った。

 

「まじかよ、お土産グレネードかよ!」

「まあ確かにあの戦いを乗り越えた後でやり合う気にはならなかったかもだけどよ!」

「よっしゃあ、大穴来たぜえ!」

「くっそ、くっそ!」

「何だこの結末はあああああああああああああ!」

 

 最後の観客のセリフが、端的に観客全員の気持ちを現していた。

その直後に観客達は、やれやれといった感じで解散し始めた。

 

「まあシャナに何か考えがあったんだろ、今回ばかりは仕方ないな」

「そうそう、色々とおかしかったしな」

「畜生、今度こそ本気のシャナの戦いが見てみたいぜ!」

 

 観客達は、シャナがやる事なら仕方ないと、今回の件について思ったようだ。

そもそも最初に自殺したのはシャナなのだから、

他の者の動きにもシャナの考えが影響しているはずだ。

観客達はそう思い、今回の件をそれで納得する事にした。

彼らの期待に応え、シャナは再びBoBの舞台に立つ事になるのだが、

それは次の大会、第四回BoBでの話である。

 

 

 

 同じようにヴァルハラ・ガーデンで大会の様子を観察していた一同は、

シャナが自殺した瞬間に息を飲んだ。

 

「おい、今の……」

「あれってヴァルハラコールか?守れ、そして緊急事態、しばし待て、か」

「見て、キリトの戦い方が変わった!」

「何か会話してるみたいだな」

「…………どうやら時間稼ぎをしているようね」

 

 ユキノはキリトの唇を読み、そのセリフを一言一句仲間達に伝えた。

 

『逃げたじゃないかよ、お前らの主観なんかどうでもいいんだよ、

他人から見て確かにあいつは逃げた、そしてその後こそこそと隠れ続けた、

それが客観的に見た、絶対的な真実だ』

『はぁ?お前らが今やっている事も、他人がそれをPKだと認識しなければ、

ただの薄汚い殺人じゃないかよ、どの口がそう言うんだ?』

 

 ここまで伝えた直後に、ユキノはため息をついた。

 

「駄目ね、相手が何を言っているかは分からないけど、

随分熱くなっているように見えるし、これは煽りすぎよ、キリト君」

「俺も聞いててそう思った!」

「お兄ちゃん、調子に乗っちゃったのかな」

「キリトさんは基本的に色々やりすぎるから……」

 

 そう仲間達が苦笑する中、案の定ステルベンは怒涛の攻撃を開始し、

仲間達はそれ見た事かと顔を見合わせて肩を竦めた。

 

「とりあえずキリトさんの戦闘の事は置いておきましょう、

それよりも問題なのは、ハチマンさんのリタイアの方です」

「だな、一体何が起こったんだ?」

「多分リアルで何かしようとしているんだと思うわ。

ハチマン君の最後のセリフは、『ゴドフリー、俺の回線を抜け!』だったもの」

「何だと!?」

 

 ゴドフリーの情報は、既にSAOサバイバー組には伝わっていた。

 

「ゴドフリーのおっさんは、確か警察官僚なんだよな?」

「それじゃあまさか、犯人の居場所に心当たりがあって、そこに二人で向かったんじゃ……」

「おいアスナ、ここから連絡をとってみろよ、メールならここから出来るだろ?」

「うん、もう送ったんだけど、返事が無いの……」

「えっ、そうなの?」

「手が離せない状況か……」

「あ、待って、今返事が来た!」

 

 そのメールにはこう書かれていた。

 

『犯人はシュピーゲル、ゴドフリーと一緒に詩乃を助けに向かう、

心配しないで待っててくれ。キリトが負けないように応援を頼む』

 

「シュピーゲル君ですって?まさかそんな……」

「嘘ぉ、シュピーゲル君が実は敵?」

「それって何者?」

「一応仲間みたいな感じだった人かしらね……」

「シュピーゲル君は、このシノンのリアル友達だよ!」

「まじかよ、それはやばいな……」

「八幡君…………」

 

 アスナは心配しつつも、とりあえず言われた通りにこちらの戦いの結末を見守る事にした。

だが当然の事ながら、八幡は事件が終わった後、心配していた明日奈に泣きつかれ、

平謝りに謝る事になる。だがその後に詩乃を救った事を褒められたので、

まあ結果的には良かったという事なのだろう。

 

「おい、これ、本当にザザか?まるでアスナじゃねえかよ」

「本当ですね、まるでアスナさんを見ているような感じです」

 

 その言葉でアスナは画面に目をやった。

 

「凄い……」

「アスナが見てもそう思うのか?」

「うん、技の繋ぎと繋ぎが完璧だね」

 

 そう感心したように言うアスナに、こんな質問が投げかけられた。

 

「アスナがやりあったらどうなるの?」

 

 その答えにアスナは即答した。

 

「負けないよ、だってこの人、多分防御が苦手だと思うから」

「そうなのか?」

「うん、勢いで誤魔化してるけど、守勢に回ったら多分直ぐに崩れると思う」

「ほほう?」

「でも今のところ、攻防が逆転するような隙が見えない、何か外部からの介入が必要かも。

ほら、今キリト君がよそ見をしたでしょ?

これって多分、シノノン達に援護を期待してるんだよ……って、来た!」

 

 その直後にいきなりステルベンが何かに驚いたようにその動きを止め、

その瞬間にキリトが攻勢に転じた。

 

「おお」

「アスナさんの言った通りですね」

「さっすがお義姉ちゃん!」

 

 そしてついにキリトがステルベンを倒し、場は歓声に包まれた。

 

「よっしゃ、ヴァルハラの勝利だ!」

「後は現実でこいつらを逮捕するだけね」

「クリスハイトが動いてるはずだ、何とかなるだろ」

「それよりハチマンだよハチマン、あいつ本当に大丈夫なのか?」

「せめてキットがあれば、シノノンの家の場所も分かるんだけど、

多分今まさに、キットで現地に向かってる最中だろうしね……」

「まあ俺達が行ったところでどうしようもないし、ここは吉報を待とうぜ」

「う、うん………」

 

 そんなアスナを仲間達は必死に慰めようとした。

その直後にハチマンが自殺し、仲間達は目を点にした。

 

「今のはどういう意味だ?」

「どうやら途中で中身を入れ替えたりしたから、

最後の戦いに参加する資格が無いと思ったみたいね」

 

 再びユキノがそう解説した。

 

「一体あの中身は誰なんだろうな」

「そのうちALOに来るみたいよ、楽しみじゃない?」

「そうなんだ、結構腕が立つみたいだし、楽しみだねぇ」

「だな!」

 

 そして更にその直後に、キリトとシノンがいきなり爆発し、一同は目を点にした。

 

「えっと、今のは?」

「お土産グレネードって奴じゃないか?」

「ああ~、今のが噂の?」

「これで二人とも優勝って事になるんだね」

 

 こうして第三回BoBは終了し、アスナは心の中でシノンの心配をした。

 

(はちまんくんがいるから大丈夫だとは思うんだけど、シノノン、無事でいてね……)

 

 そしてアスナにそう期待されたはちまんくんは、その身を挺して詩乃の身を守った。


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