「それではミーティングを始めます、司会を努めさせて頂きます、結城明日奈です」
明日奈はどこからか眼鏡を取り出してかけると、そう挨拶をした。
「最初に現状報告です、男性二名、女性二十二名、
これが現在この部屋を利用する可能性のある人数となります」
「男女比が凄いわね」
「まあ今更だし」
「むしろ巻き込まれる和人君が気の毒」
「まあ、男同士で語りたい時もあるんじゃない?」
「そういう時は邪魔しないようにしないとね」
「私と珪子と小町ちゃんと直葉は、あんまり利用する事は無さそうだけどね」
「まあパーティールーム的な使い方もあるし、学校の行事の後とか」
女性陣が口々にそう言い、明日奈はそれに、うんうんと頷いていた。
現在この部屋にいるのは二十人、さすがにそれだけ集まると、壮観である。
「八幡君がいない時に、ここを一人で利用する必要がある時は、
優里奈ちゃんに一言断る事、この場合は一人で泊まってもオーケーとします、
そして優里奈ちゃんと私以外が、夜に八幡君と二人になるのは禁止となっています、
これはここの管理をしてもらう報酬も兼ねていますが、
部屋の管理をするという性質上、二人きりになる可能性は避けられないからです」
ちなみに昼なら二人きりになっても問題ありません、
八幡君がいる日に、どうしても夜に一人で来ないといけない場合は、
優里奈ちゃんと一緒に泊まる事、ここまでを基本ル-ルとします」
「まあ妥当じゃない?」
「そうニャね、問題ないのニャ」
「まあここを利用する時は、会社関係で何かあった時が多いと思うしね」
「それ以外は何かのイベント的な集まりの後とか、そういう時かな?」
「そうですね、大体そんな感じになると思います」
明日奈は眼鏡をクイッとしながらそう言うと、次にこう言った。
「ここで問題になるのは、現役高校生の三人なのですが」
「それって私達は入ってないわよね?」
里香の質問に、明日奈は頷きながらこう答えた。
「もちろん、私達なんちゃって高校生は数に入っていません」
「明日奈、ひどい!」
「確かに自虐ネタですけど、でもまあそれが事実なんですよね……」
里香と珪子はそう嘆いた。そして対象となる三人が、口々に言った。
「私の親はいるようでいないようなものだし、
お爺ちゃんもお婆ちゃんもそういう事には寛容だから、問題無いかな、
むしろ後ろ盾を得られる事に喜んでいるフシがあったしね」
最初に詩乃がこう言った。
「フェイリスは当主だから、そういうのは自分の判断で決めていいのニャ」
次にフェイリスがこう言った。
「私は八幡さんの娘みたいなものなので、問題ないです」
最後に優里奈がそう言った。
「それなら問題ないですね、この問題はそれで解決とします」
明日奈はすました顔でそう言うと、次に自由討論が始まった。
「お酒の持ち込みはどうする?」
「過度の飲酒をしたら、一ヶ月ペナルティでお泊り禁止にするのはどうかしら、
まあ何かお酒で問題があるとしたら、酔っぱらいに絡まれて、
八幡君が迷惑するって事だと思うのだけれど」
「え~?酔って全裸になるのは禁止?」
「姉さん、自重しなさい」
「ちぇっ、は~い」
「試験前にここで勉強したら集中出来そうね」
「それはちょっと助かるかも」
「ここにはいい先生が揃ってるしね」
「洗濯物とかのルールはどうする?」
「あ、基本脱ぎっぱなしでいいですよ、私がきちんと管理しておくので」
「それはさすがに優里奈ちゃんに悪いから、
夜にお風呂に入るのと同時に洗濯機に入れて、朝起きたら回す事にしたら?
そうしたら一緒に干すか、優里奈ちゃんに任せるにしても楽になるだろうし」
「賛成!」
「異議なし!」
「ありがとうございます、助かります」
他にも生理用品のストックは、とか、八幡が聞いたら即逃げ出すような会話が続けられ、
一通り問題が出尽くしたと思われた頃、明日奈が言った。
「それでは最後に、こちらのモニターをご覧下さい、
興味の無い方もいらっしゃるかと思いますが、
これは今日集まっていただいた事へのサービスです!
撮影してくれたのはイヴだよ、みんな、拍手~!」
一同は、一体何が始まるんだろうと興味津々で見ていたのだが、
映像が始まった瞬間、黄色い声が上がった。
『『『『『きゃあああああ!』』』』』
「ん、何だ?今の悲鳴は」
「悲鳴というか、いわゆる黄色い声って奴だろ?」
「……なぁ和人、嫌な予感がするんだが」
「俺は別にしないけどな、どうせ明日奈が、八幡の体を景品にビンゴとかを始めて、
みんなが歓声を上げたとかそういうんじゃないのか?」
「怖い事を言うんじゃねえよ……」
八幡は寝室の中が気になって仕方がなかったが、
いきなり踏み入むのも躊躇われ、その場をうろうろし始めた。
「心配性だな、冗談、冗談だってば」
「冗談で済めばいいんだけどな……」
「今流れているのは、先ほどの八幡君の様子です、頑張ってみんなの下着をしまっています、
それでは彼が一体どんな反応を示すのか、是非ご覧頂きましょう」
そして画面には、八幡が何人かの下着をしまっている姿が映し出された。
『これは姉さんのか、さすがの大きさと言うべきだが、思ったよりも地味で驚いたな』
「え~?そんなに地味?」
「まあ普通だと思うけど、姉さんの場合はプロポーションと比べるとって事ね……
くっ、言ってて何かイライラしてきたわ、姉さん、ちょっと殴ってもいいかしら」
『でもやっぱりワンポイントはネコなんだな』
「あっ……しまったわ、勝負下着なのがバレてしまったかもしれないわね」
「ゆきのん、冗談だよね?」
「何がかしら」
「あ、えっと……」
「雪乃、勝負下着っていうのはね……」
「…………嘘、そうなの!?」
『詩乃はやっぱりむっつりだ、まあ知ってたけどな』
「し、失礼ね、私のどこがむっつりなのよ!」
「いや、だってねぇ……」
「凄いね詩乃、よくあんな下着を買えたね……」
「えっちだね」
「うん」
「くっ……」
『この生地の少なさは、それ故だと考えておこう』
「雪乃、勝負下着ってのはこういうの」
「くっ、こ、今度買いに行くのを付き合いなさい!」
「分かった、付き合う」
『ああ、何か安心するな、普通が一番だ』
「普通で悪かったわね!」
「ううん南、あれは多分、最大級の褒め言葉だと思うわ」
「八幡、凄く穏やかな表情をしてるじゃない?」
「そ、そうなのかな?」
『でも頭にかぶったりはしないからな、イヴ』
「ちっ」
「舞衣ちゃん今、ちっ、て……」
「っていうか、今のはどんな流れでの発言!?」
『昔は、それある!だの、うけるし、だの言ってたのに、大人になったんだな、折本』
「今でもたまに出るわよね?」
「えっ、それはうけない!」
「ほらね」
「あっ……」
『これはめぐりんのか、どこか癒されるな……』
「うぅ……私がいない所でも、めぐりんって呼んでくれてる……嬉しい」
「喜ぶのそこ!?」
「さすがはめぐりん……」
「こういう人が最後に勝ちを拾うのよね、侮れないわ……」
『うん、何とも思わないな。看病の時とかに見たりしてるし、我ながら慣れたもんだな』
「ちょっと、私の下着だけ何で丁寧にたたまないのよ、扱いがおかしいじゃない!」
「うわ……」
「室長、それはない、ないです」
「羨ましい……」
「ど、どこがよ!」
「一人だけ特別扱いじゃないですか」
「と、特別?私が?」
「どう見てもそうだよね?」
「そ、そうかしら……うん、そうよね、私は特別なのよね!」
「あ、調子に乗った……」
『逆に言えば残りはほとんど八幡がやるんだろ?まあ頑張れ』
「うわ、和人君、紳士ね」
「でも私としては、私の下着をしまう時、妙に事務的なのが気になるんだけど……」
「里香にしてみればその辺りは難しいよね」
「うん」
『うん、素直にかわいいと賞賛するぞ、珪子』
「やった!」
「平和ね……」
「平和が一番なのかも……」
『イメージ通りだな、このフリルの具合とかがいかにもそれっぽい』
「あたしってそんなにフリル!?」
「フリルね」
「フリルっしょ」
『そういえば昔、事故であいつの下着を見ちまった事があったが、
いかんいかん、バレないようにしないと殺される……しかし意外だよなぁ、このピンクは』
「…………え?い、いつ?いつ見たの!?」
「さあ?」
「優美子、覚えが無いの?」
「う、うん……」
「とりあえず殺しとく?」
「う、ううん、別に……」
「うわ、優美子顔が真っ赤だよ!」
『普通こんな下着を選ぶか?絶対に狙ってるだろこれ』
「あ、あざとくなんか無いですし!」
「あざといわね……」
「いろは先輩、あざといです」
「違うから!普通だから!」
「それはそれで問題があると思う」
『まさに肉食系って感じか、見た事は無いが、香蓮を見習えってんだよまったく』
「まあ確かにフカは肉食系だけど……」
「むしろ何でそこで他の人の名前が?」
「香蓮って誰?」
「ほら、そこの左下に名前があるでしょ?」
「えっとね、スーパーモデルっぽい人」
「ライバルは強大だ、繰り返す、ライバルは強大だ!」
「これは要注意ね」
『あの言動はやっぱり計算なんだな、下着から中二っぽい感じがまったく伝わってこねえな』
「ふふん、全ては自分を大人しく見せる演技なのニャ、っていう設定ニャ」
「設定なの!?」
「一体どっち!?」
「でももう少し派手なのでも良かったかニャ……」
「ま、まあ入れ替えちゃいけない決まりは無いし、次があるわよ」
「フェイリスさん、どんまい!」
『しかも迫力が姉さん並みとか、凄まじい戦闘力だな』
「…………じ~っ」
「…………はぁ」
「優里奈ちゃん、ちょっと胸を揉んでもいい?」
「ええっ!?って、もう揉んでるじゃないですか!」
「ふむふむ……確かに私とほとんど変わらないわね……」
「戦闘力五十三万ニャ……」
『責任を持って俺が社会に出した上で、あいつが変な男に引っ掛からないように注意せねば』
「パパだ……」
「パパがいる……」
「パパだね……」
『何度見ても、明日奈に凄く似合ってていいと思うぞ』
「うふっ、うふふふふ」
「明日奈が壊れた!」
「嬉しそうな……」
「やっぱり明日奈には敵わないかぁ……」
「八幡、私を特別扱いしてくれてありがとう!」
「うわっ、は、離せ小猫、意味が分からん」
薔薇は部屋を出ると、そう言いながらいきなり八幡に抱きついた。
それを見た残りの一同は、思わず顔を見合わせて囁き合った。
「あ……」
「やばい?」
「バレちゃう予感?」
「しまった、室長のテンションがまだ上がったままだった」
そして残された者の何人かは、とばっちりを受けるのを避ける為、そそくさと帰りだした。
「八幡、それじゃあまた学校でね!ほら和人、行くわよ」
「お、おい里香、せかすなよ」
「急がないとやばいから、逃げるわよ」
「まじか……分かった」
最初に里香と和人がその場から逃げ出した。
「お兄ちゃん、またね!先輩も早く!」
「あっ、待って小町ちゃん、私も行くから!」
「私も私も!」
「いろは先輩、直葉ちゃん、珪子さん、急いで!」
そして次に、いろはと小町と直葉と珪子が脱出に成功した。
「それじゃあ私は仕事に戻ります、室長」
「同じく私も」
「私も受付の仕事に戻りますね!」
「私も眠りの森に行かなくちゃ」
「フェイリスもお店に戻るのニャ」
南と舞衣とかおりとめぐりとフェイリスは、上手く仕事を盾にし、離脱した。
「さ、さ~て優美子、姫菜の手伝いに行かないとだね!」
「あ~しはちょっと八幡に聞きたい事があるし」
「あっ……わ、分かった、頑張って……」
「うん」
結衣は優美子を置いて、そそくさとその場を後にした。
「ボス、そろそろ会議の時間です」
「そ、そうね、とりあえずソレイユの社長室に行きましょう」
「はい、急ぎましょう、ボス」
最後に陽乃とクルスがギリギリの所で部屋を出る事に成功した。
「な、何だ……?」
八幡は戸惑いつつも、明日奈の表情を見て何かを感じたようだ。
「優里奈ちゃん、足りない物を買い出しに行こう、早くしないとスーパーが閉まっちゃう!」
「まあまあ明日奈、それは明日でもいいからゆっくりしていけって」
「あっ……」
明日奈は優里奈を連れて逃げだそうとした、しかし八幡に回り込まれてしまった!
「えっと……」
「大丈夫だ明日奈、怒ったりしないから、中で何があったか言ってみるんだ」
「ほ、本当に?」
「ああ、本当だ、怒ったりはしない、まあ叱ったりする事はあるかもしれないが、
怒るのと叱るのは別物だからな、さあ明日奈、大人しく白状しような?」
「ひっ……」
「まあ小猫の反応で何となく分かるけどな、特別扱いねぇ……
おい明日奈、いつから録画してたんだ?」
八幡のその言葉で、完全にバレていると悟った明日奈は、諦めたようにこう言った。
「えっと……最初から」
「最初から、か……」
そして八幡は、残ったメンバーの顔を見回した。
残っていたのは、明日奈、雪乃、優美子、詩乃、小猫、紅莉栖である。
「ちなみに私はただの野次馬だからね」
「まあ紅莉栖はそうだよな」
「八幡君」
最初に八幡に声を掛けたのは雪乃だった。
「ち、違うの、私は勝負下着の意味を分かっていなかったの、
だから私がいつも、猫の下着を付けているなんて思わないで欲しいの」
「え?あ、いや、雪乃らしくていいんじゃないか?猫、かわいいよな」
「ほ、本当に?」
「おう、本当だ」
「良かった……」
次に声を掛けてきたのは詩乃だった。
「ちょっと、私のどこがむっつりなのよ!」
「え……えっと、全部?」
「なっ……」
「大丈夫だ、多分学校で気付いてるのは椎奈くらいだろ、だから何も問題は無い」
「私がむっつりなのを既成事実みたいに言わないで!」
「でもあの下着はなぁ……」
「うっ………」
次に声を掛けてきたのは優美子だった。
さすがにこれは怒られるのを覚悟せねばと思った八幡だったが、
その予想に反して優美子は、顔を真っ赤にしながら八幡に尋ねてきた。
「い、いつ見たし」
「あ、えっとだな……以前俺と葉山が、かおり達と一緒に出かけた日があっただろ?
その時葉山に気付いた優美子が、あいつに声を掛けようとして転んだ時にその……な」
「…………あ」
どうやら優美子は、その時の事を覚えていたようだ。
「なるほど……あ、ありがと」
「お、おう、お礼を言われるような事じゃないけどな」
そして優美子は、八幡の耳元でこう囁いた。
「……えっち」
八幡はそう言われ、盛大に顔を赤くした。
「わ、悪い」
「ううん、別に」
最後に八幡は、まだびくびくしている明日奈の所に行くと、
満面の笑顔で明日奈の頭を撫でた。
「で、どういう意図でやったんだ?」
「えっと……な、仲間意識の醸成と、私からのサービス?
みんな、八幡君のかわいい所が見たいんじゃないかと思って……」
「なるほど」
そう言って八幡は、明日奈の頭に乗せている手にぎゅっと力を入れ始めた。
「い、痛い痛い!」
「ごめんなさいだ、明日奈」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ実際そんなに怒ってはいないが、ほどほどにな」
「う、うん」
八幡はそれで明日奈を許し、まだ自分にまとわりついている小猫に目を向けた。
「おい小猫」
「わ、私は特別なのよね?それでいいのよね?」
「ああ、もちろんお前は特別だ、だから俺に迷惑を掛けた分、
一人で特別なお仕置きを受けるべきだな」
「わ、分かったわ、特別なんだから仕方ないわよね!」
「おう、それじゃあ電話っと……」
そして八幡は、どこかに電話を掛けた。
「あ、下着が地味な姉さんですか?」
『………あ、あれってそんなに地味だったかしら?』
「いや、普通でしたよ、今のはほんの冗談です、でもよくギリギリで逃げましたね」
『文句を言おうかとも思ったけど、それは後日実際に見せればいいかなって』
「見せなくていいですからね、で、頼みがあるんですが、
小猫のネームプレートを、フルネームに変えてもらえますか?」
『分かったわ、用意しておく』
「お願いします」
そう言って電話を切った八幡を、薔薇は愕然と見つめていた。
「なっ……ななな何をするのよ!」
「お前が俺にとって特別な事を、他人にアピールするんじゃねえ、
そういうのは俺とお前の心の中にだけしまっておけばいいんだ、
分かったら明日からしばらく罰を受けろ、一週間したら解放してやるから」
「ほ、本当に?本当に一週間だけでいいのね?」
「おう、一週間だけだ」
一生そのままなのかとビクビクしていた薔薇は、その言葉にすがりついた。
そしてその事で、逆に八幡に感謝すらしていた。
紅莉栖はそんな二人の姿を見て、呆れていた。
「相変わらず上手くやるものね……」
こうして話は落ち着いたかと思われたが、そんな八幡に、明日奈が爆弾を落とした。
「あ、八幡君、香蓮さんのお見合いの話は聞いたよね?」
「あ、おう、聞いてるぞ」
「その事で、今夜フカちゃんと香蓮さんが、私と一緒にここに泊まるから、宜しくね」
「は、はあ!?」
どうやらこの日のバタバタは、まだ終わらないようである。