ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第456話 乙女達の一喜一憂

「それではミーティングを始めます、司会を努めさせて頂きます、結城明日奈です」

 

 明日奈はどこからか眼鏡を取り出してかけると、そう挨拶をした。

 

「最初に現状報告です、男性二名、女性二十二名、

これが現在この部屋を利用する可能性のある人数となります」

「男女比が凄いわね」

「まあ今更だし」

「むしろ巻き込まれる和人君が気の毒」

「まあ、男同士で語りたい時もあるんじゃない?」

「そういう時は邪魔しないようにしないとね」

「私と珪子と小町ちゃんと直葉は、あんまり利用する事は無さそうだけどね」

「まあパーティールーム的な使い方もあるし、学校の行事の後とか」

 

 女性陣が口々にそう言い、明日奈はそれに、うんうんと頷いていた。

現在この部屋にいるのは二十人、さすがにそれだけ集まると、壮観である。

 

「八幡君がいない時に、ここを一人で利用する必要がある時は、

優里奈ちゃんに一言断る事、この場合は一人で泊まってもオーケーとします、

そして優里奈ちゃんと私以外が、夜に八幡君と二人になるのは禁止となっています、

これはここの管理をしてもらう報酬も兼ねていますが、

部屋の管理をするという性質上、二人きりになる可能性は避けられないからです」

ちなみに昼なら二人きりになっても問題ありません、

八幡君がいる日に、どうしても夜に一人で来ないといけない場合は、

優里奈ちゃんと一緒に泊まる事、ここまでを基本ル-ルとします」

「まあ妥当じゃない?」

「そうニャね、問題ないのニャ」

「まあここを利用する時は、会社関係で何かあった時が多いと思うしね」

「それ以外は何かのイベント的な集まりの後とか、そういう時かな?」

「そうですね、大体そんな感じになると思います」

 

 明日奈は眼鏡をクイッとしながらそう言うと、次にこう言った。

 

「ここで問題になるのは、現役高校生の三人なのですが」

「それって私達は入ってないわよね?」

 

 里香の質問に、明日奈は頷きながらこう答えた。

 

「もちろん、私達なんちゃって高校生は数に入っていません」

「明日奈、ひどい!」

「確かに自虐ネタですけど、でもまあそれが事実なんですよね……」

 

 里香と珪子はそう嘆いた。そして対象となる三人が、口々に言った。

 

「私の親はいるようでいないようなものだし、

お爺ちゃんもお婆ちゃんもそういう事には寛容だから、問題無いかな、

むしろ後ろ盾を得られる事に喜んでいるフシがあったしね」

 

 最初に詩乃がこう言った。

 

「フェイリスは当主だから、そういうのは自分の判断で決めていいのニャ」

 

 次にフェイリスがこう言った。

 

「私は八幡さんの娘みたいなものなので、問題ないです」

 

 最後に優里奈がそう言った。

 

「それなら問題ないですね、この問題はそれで解決とします」

 

 明日奈はすました顔でそう言うと、次に自由討論が始まった。

 

「お酒の持ち込みはどうする?」

「過度の飲酒をしたら、一ヶ月ペナルティでお泊り禁止にするのはどうかしら、

まあ何かお酒で問題があるとしたら、酔っぱらいに絡まれて、

八幡君が迷惑するって事だと思うのだけれど」

「え~?酔って全裸になるのは禁止?」

「姉さん、自重しなさい」

「ちぇっ、は~い」

 

「試験前にここで勉強したら集中出来そうね」

「それはちょっと助かるかも」

「ここにはいい先生が揃ってるしね」

 

「洗濯物とかのルールはどうする?」

「あ、基本脱ぎっぱなしでいいですよ、私がきちんと管理しておくので」

「それはさすがに優里奈ちゃんに悪いから、

夜にお風呂に入るのと同時に洗濯機に入れて、朝起きたら回す事にしたら?

そうしたら一緒に干すか、優里奈ちゃんに任せるにしても楽になるだろうし」

「賛成!」

「異議なし!」

「ありがとうございます、助かります」

 

 他にも生理用品のストックは、とか、八幡が聞いたら即逃げ出すような会話が続けられ、

一通り問題が出尽くしたと思われた頃、明日奈が言った。

 

「それでは最後に、こちらのモニターをご覧下さい、

興味の無い方もいらっしゃるかと思いますが、

これは今日集まっていただいた事へのサービスです!

撮影してくれたのはイヴだよ、みんな、拍手~!」

 

 一同は、一体何が始まるんだろうと興味津々で見ていたのだが、

映像が始まった瞬間、黄色い声が上がった。

 

『『『『『きゃあああああ!』』』』』

 

 

 

「ん、何だ?今の悲鳴は」

「悲鳴というか、いわゆる黄色い声って奴だろ?」

「……なぁ和人、嫌な予感がするんだが」

「俺は別にしないけどな、どうせ明日奈が、八幡の体を景品にビンゴとかを始めて、

みんなが歓声を上げたとかそういうんじゃないのか?」

「怖い事を言うんじゃねえよ……」

 

 八幡は寝室の中が気になって仕方がなかったが、

いきなり踏み入むのも躊躇われ、その場をうろうろし始めた。

 

「心配性だな、冗談、冗談だってば」

「冗談で済めばいいんだけどな……」

 

 

 

「今流れているのは、先ほどの八幡君の様子です、頑張ってみんなの下着をしまっています、

それでは彼が一体どんな反応を示すのか、是非ご覧頂きましょう」

 

 そして画面には、八幡が何人かの下着をしまっている姿が映し出された。

 

『これは姉さんのか、さすがの大きさと言うべきだが、思ったよりも地味で驚いたな』

 

「え~?そんなに地味?」

「まあ普通だと思うけど、姉さんの場合はプロポーションと比べるとって事ね……

くっ、言ってて何かイライラしてきたわ、姉さん、ちょっと殴ってもいいかしら」

 

『でもやっぱりワンポイントはネコなんだな』

 

「あっ……しまったわ、勝負下着なのがバレてしまったかもしれないわね」

「ゆきのん、冗談だよね?」

「何がかしら」

「あ、えっと……」

「雪乃、勝負下着っていうのはね……」

「…………嘘、そうなの!?」

 

『詩乃はやっぱりむっつりだ、まあ知ってたけどな』

 

「し、失礼ね、私のどこがむっつりなのよ!」

「いや、だってねぇ……」

「凄いね詩乃、よくあんな下着を買えたね……」

「えっちだね」

「うん」

「くっ……」

 

『この生地の少なさは、それ故だと考えておこう』

 

「雪乃、勝負下着ってのはこういうの」

「くっ、こ、今度買いに行くのを付き合いなさい!」

「分かった、付き合う」

 

『ああ、何か安心するな、普通が一番だ』

 

「普通で悪かったわね!」

「ううん南、あれは多分、最大級の褒め言葉だと思うわ」

「八幡、凄く穏やかな表情をしてるじゃない?」

「そ、そうなのかな?」

 

『でも頭にかぶったりはしないからな、イヴ』

 

「ちっ」

「舞衣ちゃん今、ちっ、て……」

「っていうか、今のはどんな流れでの発言!?」

 

『昔は、それある!だの、うけるし、だの言ってたのに、大人になったんだな、折本』

 

「今でもたまに出るわよね?」

「えっ、それはうけない!」

「ほらね」

「あっ……」

 

『これはめぐりんのか、どこか癒されるな……』

 

「うぅ……私がいない所でも、めぐりんって呼んでくれてる……嬉しい」

「喜ぶのそこ!?」

「さすがはめぐりん……」

「こういう人が最後に勝ちを拾うのよね、侮れないわ……」

 

『うん、何とも思わないな。看病の時とかに見たりしてるし、我ながら慣れたもんだな』

 

「ちょっと、私の下着だけ何で丁寧にたたまないのよ、扱いがおかしいじゃない!」

「うわ……」

「室長、それはない、ないです」

「羨ましい……」

「ど、どこがよ!」

「一人だけ特別扱いじゃないですか」

「と、特別?私が?」

「どう見てもそうだよね?」

「そ、そうかしら……うん、そうよね、私は特別なのよね!」

「あ、調子に乗った……」

 

『逆に言えば残りはほとんど八幡がやるんだろ?まあ頑張れ』

 

「うわ、和人君、紳士ね」

「でも私としては、私の下着をしまう時、妙に事務的なのが気になるんだけど……」

「里香にしてみればその辺りは難しいよね」

「うん」

 

『うん、素直にかわいいと賞賛するぞ、珪子』

 

「やった!」

「平和ね……」

「平和が一番なのかも……」

 

『イメージ通りだな、このフリルの具合とかがいかにもそれっぽい』

 

「あたしってそんなにフリル!?」

「フリルね」

「フリルっしょ」

 

『そういえば昔、事故であいつの下着を見ちまった事があったが、

いかんいかん、バレないようにしないと殺される……しかし意外だよなぁ、このピンクは』

 

「…………え?い、いつ?いつ見たの!?」

「さあ?」

「優美子、覚えが無いの?」

「う、うん……」

「とりあえず殺しとく?」

「う、ううん、別に……」

「うわ、優美子顔が真っ赤だよ!」

 

『普通こんな下着を選ぶか?絶対に狙ってるだろこれ』

 

「あ、あざとくなんか無いですし!」

「あざといわね……」

「いろは先輩、あざといです」

「違うから!普通だから!」

「それはそれで問題があると思う」

 

『まさに肉食系って感じか、見た事は無いが、香蓮を見習えってんだよまったく』

 

「まあ確かにフカは肉食系だけど……」

「むしろ何でそこで他の人の名前が?」

「香蓮って誰?」

「ほら、そこの左下に名前があるでしょ?」

「えっとね、スーパーモデルっぽい人」

「ライバルは強大だ、繰り返す、ライバルは強大だ!」

「これは要注意ね」

 

『あの言動はやっぱり計算なんだな、下着から中二っぽい感じがまったく伝わってこねえな』

 

「ふふん、全ては自分を大人しく見せる演技なのニャ、っていう設定ニャ」

「設定なの!?」

「一体どっち!?」

「でももう少し派手なのでも良かったかニャ……」

「ま、まあ入れ替えちゃいけない決まりは無いし、次があるわよ」

「フェイリスさん、どんまい!」

 

『しかも迫力が姉さん並みとか、凄まじい戦闘力だな』

 

「…………じ~っ」

「…………はぁ」

「優里奈ちゃん、ちょっと胸を揉んでもいい?」

「ええっ!?って、もう揉んでるじゃないですか!」

「ふむふむ……確かに私とほとんど変わらないわね……」

「戦闘力五十三万ニャ……」

 

『責任を持って俺が社会に出した上で、あいつが変な男に引っ掛からないように注意せねば』

 

「パパだ……」

「パパがいる……」

「パパだね……」

 

『何度見ても、明日奈に凄く似合ってていいと思うぞ』

 

「うふっ、うふふふふ」

「明日奈が壊れた!」

「嬉しそうな……」

「やっぱり明日奈には敵わないかぁ……」

 

 

 

「八幡、私を特別扱いしてくれてありがとう!」

「うわっ、は、離せ小猫、意味が分からん」

 

 薔薇は部屋を出ると、そう言いながらいきなり八幡に抱きついた。

それを見た残りの一同は、思わず顔を見合わせて囁き合った。

 

「あ……」

「やばい?」

「バレちゃう予感?」

「しまった、室長のテンションがまだ上がったままだった」

 

 そして残された者の何人かは、とばっちりを受けるのを避ける為、そそくさと帰りだした。

 

「八幡、それじゃあまた学校でね!ほら和人、行くわよ」

「お、おい里香、せかすなよ」

「急がないとやばいから、逃げるわよ」

「まじか……分かった」

 

 最初に里香と和人がその場から逃げ出した。

 

「お兄ちゃん、またね!先輩も早く!」

「あっ、待って小町ちゃん、私も行くから!」

「私も私も!」

「いろは先輩、直葉ちゃん、珪子さん、急いで!」

 

 そして次に、いろはと小町と直葉と珪子が脱出に成功した。

 

「それじゃあ私は仕事に戻ります、室長」

「同じく私も」

「私も受付の仕事に戻りますね!」

「私も眠りの森に行かなくちゃ」

「フェイリスもお店に戻るのニャ」

 

 南と舞衣とかおりとめぐりとフェイリスは、上手く仕事を盾にし、離脱した。

 

「さ、さ~て優美子、姫菜の手伝いに行かないとだね!」

「あ~しはちょっと八幡に聞きたい事があるし」

「あっ……わ、分かった、頑張って……」

「うん」

 

 結衣は優美子を置いて、そそくさとその場を後にした。

 

「ボス、そろそろ会議の時間です」

「そ、そうね、とりあえずソレイユの社長室に行きましょう」

「はい、急ぎましょう、ボス」

 

 最後に陽乃とクルスがギリギリの所で部屋を出る事に成功した。

 

「な、何だ……?」

 

 八幡は戸惑いつつも、明日奈の表情を見て何かを感じたようだ。

 

「優里奈ちゃん、足りない物を買い出しに行こう、早くしないとスーパーが閉まっちゃう!」

「まあまあ明日奈、それは明日でもいいからゆっくりしていけって」

「あっ……」

 

 明日奈は優里奈を連れて逃げだそうとした、しかし八幡に回り込まれてしまった!

 

「えっと……」

「大丈夫だ明日奈、怒ったりしないから、中で何があったか言ってみるんだ」

「ほ、本当に?」

「ああ、本当だ、怒ったりはしない、まあ叱ったりする事はあるかもしれないが、

怒るのと叱るのは別物だからな、さあ明日奈、大人しく白状しような?」

「ひっ……」

「まあ小猫の反応で何となく分かるけどな、特別扱いねぇ……

おい明日奈、いつから録画してたんだ?」

 

 八幡のその言葉で、完全にバレていると悟った明日奈は、諦めたようにこう言った。

 

「えっと……最初から」

「最初から、か……」

 

 そして八幡は、残ったメンバーの顔を見回した。

残っていたのは、明日奈、雪乃、優美子、詩乃、小猫、紅莉栖である。

 

「ちなみに私はただの野次馬だからね」

「まあ紅莉栖はそうだよな」

「八幡君」

 

 最初に八幡に声を掛けたのは雪乃だった。

 

「ち、違うの、私は勝負下着の意味を分かっていなかったの、

だから私がいつも、猫の下着を付けているなんて思わないで欲しいの」

「え?あ、いや、雪乃らしくていいんじゃないか?猫、かわいいよな」

「ほ、本当に?」

「おう、本当だ」

「良かった……」

 

 次に声を掛けてきたのは詩乃だった。

 

「ちょっと、私のどこがむっつりなのよ!」

「え……えっと、全部?」

「なっ……」

「大丈夫だ、多分学校で気付いてるのは椎奈くらいだろ、だから何も問題は無い」

「私がむっつりなのを既成事実みたいに言わないで!」

「でもあの下着はなぁ……」

「うっ………」

 

 次に声を掛けてきたのは優美子だった。

さすがにこれは怒られるのを覚悟せねばと思った八幡だったが、

その予想に反して優美子は、顔を真っ赤にしながら八幡に尋ねてきた。

 

「い、いつ見たし」

「あ、えっとだな……以前俺と葉山が、かおり達と一緒に出かけた日があっただろ?

その時葉山に気付いた優美子が、あいつに声を掛けようとして転んだ時にその……な」

「…………あ」

 

 どうやら優美子は、その時の事を覚えていたようだ。

 

「なるほど……あ、ありがと」

「お、おう、お礼を言われるような事じゃないけどな」

 

 そして優美子は、八幡の耳元でこう囁いた。

 

「……えっち」

 

 八幡はそう言われ、盛大に顔を赤くした。

 

「わ、悪い」

「ううん、別に」

 

 最後に八幡は、まだびくびくしている明日奈の所に行くと、

満面の笑顔で明日奈の頭を撫でた。

 

「で、どういう意図でやったんだ?」

「えっと……な、仲間意識の醸成と、私からのサービス?

みんな、八幡君のかわいい所が見たいんじゃないかと思って……」

「なるほど」

 

 そう言って八幡は、明日奈の頭に乗せている手にぎゅっと力を入れ始めた。

 

「い、痛い痛い!」

「ごめんなさいだ、明日奈」

「ご、ごめんなさい……」

「まあ実際そんなに怒ってはいないが、ほどほどにな」

「う、うん」

 

 八幡はそれで明日奈を許し、まだ自分にまとわりついている小猫に目を向けた。

 

「おい小猫」

「わ、私は特別なのよね?それでいいのよね?」

「ああ、もちろんお前は特別だ、だから俺に迷惑を掛けた分、

一人で特別なお仕置きを受けるべきだな」

「わ、分かったわ、特別なんだから仕方ないわよね!」

「おう、それじゃあ電話っと……」

 

 そして八幡は、どこかに電話を掛けた。

 

「あ、下着が地味な姉さんですか?」

『………あ、あれってそんなに地味だったかしら?』

「いや、普通でしたよ、今のはほんの冗談です、でもよくギリギリで逃げましたね」

『文句を言おうかとも思ったけど、それは後日実際に見せればいいかなって』

「見せなくていいですからね、で、頼みがあるんですが、

小猫のネームプレートを、フルネームに変えてもらえますか?」

『分かったわ、用意しておく』

「お願いします」

 

 そう言って電話を切った八幡を、薔薇は愕然と見つめていた。

 

「なっ……ななな何をするのよ!」

「お前が俺にとって特別な事を、他人にアピールするんじゃねえ、

そういうのは俺とお前の心の中にだけしまっておけばいいんだ、

分かったら明日からしばらく罰を受けろ、一週間したら解放してやるから」

「ほ、本当に?本当に一週間だけでいいのね?」

「おう、一週間だけだ」

 

 一生そのままなのかとビクビクしていた薔薇は、その言葉にすがりついた。

そしてその事で、逆に八幡に感謝すらしていた。

紅莉栖はそんな二人の姿を見て、呆れていた。

 

「相変わらず上手くやるものね……」

 

 こうして話は落ち着いたかと思われたが、そんな八幡に、明日奈が爆弾を落とした。

 

「あ、八幡君、香蓮さんのお見合いの話は聞いたよね?」

「あ、おう、聞いてるぞ」

「その事で、今夜フカちゃんと香蓮さんが、私と一緒にここに泊まるから、宜しくね」

「は、はあ!?」

 

 どうやらこの日のバタバタは、まだ終わらないようである。

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