ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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8月2日はM82の日。でも活躍したのは昨日でしたね!


第471話 レンの咆哮

「シャナさん、ファイヤと思しき人物が、獅子王リッチーと二人で離脱していきます」

「レンとゼクシードは?」

「今別口の敵と交戦中、どうやらそっちを自分が逃げる為の囮にしたんじゃないかしら」

 

 当然ファイヤにそんな芸当は出来ないのだが、さすがは獅子王リッチーである。

源平合戦に引き続き、またも仲間を上手く使って逃げ出す事に成功したようだ。

だがこれもまた、必ず生き残るというベテランに必要な技術なのかもしれない。

更に付け加えるなら、獅子王リッチーはヴィッカース重機関銃のせいで、とても足が遅い。

その為、囮無しでは絶対に逃げ切れないというのが真実だ。

 

「まあとりあえず、これで互角以上にはなったか、

出来ればここで仕留めたかったが仕方ない、とりあえずレン達と合流だな」

 

 そう言いながら立ち上がったシャナを、二人が手を上げて待ち構えていた。

シャナは一瞬躊躇したが、躊躇いながらも二人の手にハイタッチをした。

 

「「イェ~イ!」」

「イ、イェ~イ」

 

 そしてシャナは恥ずかしそうな表情で、二人に言った。

 

「おら、さっさと行くぞ二人とも」

 

 

 

「レンちゃん、シャナの狙撃が始まった、そろそろ敵が追い立てられてくる頃だ、

油断せずきっちり仕留めていこう」

「うん!」

 

 二人は腹ばいのまま、敵の出現を待ち続けた。

最初こそ、飛び出してくる者はいなかったが、

やがて一定時間を経て、堰を切るように敵がどんどん森の中から飛び出してきた。

 

「来た、撃て!」

「了解!Pちゃん、お願いね!」

 

 そして二人は一方的に敵に激しい銃撃を浴びせた。

二人の姿は、落ち着いてじっと観察すると、

どこにいるかハッキリ認識出来る程度のカモフラージュしかされていないのだが、

今回は落ち着いて行動している者がまったくいなかった為、

敵からすれば、敵の姿は見えないのに銃弾は大量に飛んでくるという、

一種ホラーな状態になっており、それが混乱に拍車をかける結果となっていた。

 

「………まったく反撃が来ないね、レンちゃん」

「………うん、一応すぐに森の中に駆け込めるように、備えておいたのにね」

「おっ、レンちゃん、左から出てきたあのモヒカン野郎とその後ろの二人は必ず仕留めて。

あいつらはファイヤパーティのメンバーだから」

「えっ、あ、了解!」

 

 そして首尾よくその三人組を倒した頃には、逃げ出してくる敵の姿は途絶え、

そこには死体の山が築かれていた。

 

「ゼクシードさん、よくファイヤチームの人の顔を覚えてたね」

 

 レンはそう言って、素直にゼクシードを賞賛した。

 

「まあレンちゃんも、そういうのは極力覚えておいた方がいいね、

敵が二人いる時に、どっちを倒すか迷わないようにね」

「うん、頑張る!」

 

 即座にそう答えたレンを見て、ゼクシードは目を細めながら微笑んだ。

 

「ははっ、レンちゃんは本当に素直でいい子だよね、

それが多分、レンちゃんの強さを支えているような気がするよ、

でも正直に告白すると、今の僕の判断は少しミスったかもしれない」

「どういう事?」

「肝心の、敵のボスを逃がしちゃったからさ、気付くのが遅れたから、

仕方ないといえば仕方ないんだけど、さっきの三人、かなり左から出てきただろう?」

「うん」

「その少し後に、右からも敵が二人出てきてたんだ、

で、三人を倒した後、もうかなり遠くに離れていたその二人組をチェックしたんだけど、

それがファイヤと獅子王リッチーだったんだよね」

「ああ、そういう!」

「だからまあ、判断が早すぎるのも良し悪しって事かな、

でもまあ遅いよりは絶対にいい、その事だけは覚えておくといいよ」

「分かった、肝に銘じるよ」

 

 そうゼクシードに教えを受けた頃、後ろからシャナ達が合流してきた。

 

「よぉ、大した戦果だな、二人とも」

「敵を狙撃しまくっていた癖によく言うよ、

こっちが戦果をあげられたのは、君が相手を大混乱させてくれたからだよ、

でもごめん、ファイヤと獅子王リッチーには逃げられた」

「いやいや上出来だろ、さすがだなゼクシード。それにレンもよくやったぞ」

「えへへぇ」

 

 そう言ってシャナは、いつもの通りにレンの頭をなでた。

それを見ていたゼクシードは、ユッコとハルカの方を見ながら手を所在なさげに上げた。

だがユッコもハルカもゼクシードに頭をなでられても別に嬉しくない為、

レンを褒めつつ、決してゼクシードの手の届く範囲に入ろうとはしなかった。

そしてゼクシードが諦めた顔で手を下げた頃、

そんな彼を観察していたシャナが、ゼクシードにこう言った。

 

「よし、ゼクシード、どの程度敵を倒せたか、調べてみようぜ」

「ああ、そうだね、それじゃあうちのチームがこっちを調査するから、

シャナとレンちゃんは森の中を頼むよ」

「了解だ、それじゃあ行くぞ、レン」

「うん!」

 

 二人はそのまま森に入っていき、ゼクシード達は、その場でチェックを始めた。

いわゆる首実検というやつである。

 

 

 

「ゼクシードさん、あっちの三人、やっぱりファイヤチームのメンバーでした」

「奥の三人は、三チームの人が一人ずつかな」

「ここに三人だから、そうすると森の外で倒したのは九人程度か、

逃げたのが二人、あとは中がどうなっているかだが」

 

 その時、森の中からレンが姿を現し、こちらに走ってきた。

 

「ゼクシードさ~ん、調べ終わったよ!」

「レンちゃん!中にはどのくらい死体があったんだい?」

「全部で十人!シャナが教えてくれた所属チームは、えっとね……」

「なるほど、そうすると、残りは……」

 

 その時ゼクシードは、レンの後方、顔の横の森の中で、何かが光るのを見た。

その瞬間にゼクシードは、無意識にレンを庇って一歩前に出た。

直後に銃声と共に、ゼクシードは頭を撃ちぬかれた。

 

「えっ………?」

「ま、まだ生き残りがいたの!?」

「ゼクシードさん!」

「ユッコ、けん制!」

「レンちゃん、気を付けて!」

 

 そしてユッコとハルカは、そのプレイヤーに向け、フルオート射撃を放った。

レンはそんなユッコとハルカの声を、凄く遠く感じていた。

頭の中が真っ白になり、状況がいまいち理解出来ない。

何発かの敵の銃弾が、レンの体をかすめていたが、レンはまったく動く事が出来なかった。

そしてゼクシードは、最後の力を振り絞って振り返り、レンに言った。

 

「レンちゃん、五チームが多分奥の建物に侵攻中、可能なら倒した方がいい。

あと、俺はここまでだけど、お前は絶対にレンちゃんを勝たせろと、シャナに伝えて」

「ゼクシードさん!」

 

 その言葉で再起動したレンは、泣きそうな顔でゼクシードの名前を呼んだ。

それに応えるようにゼクシードは、のろのろと手を上げ、レンの頭をなでた。

 

「頑張れ」

 

 そしてゼクシードは再び振り返ると、仁王立ちしたまま死亡した。

その瞬間に、今まさにレン目掛けて飛んできていた敵の銃弾は、

全てゼクシードの死体によって防がれた。

GGOにおけるこういった大会では、死体は絶対無敵の障害物として扱われる為だ。

 

「う………うお………うおおおおおおおお!」

 

 そしてレンが雄たけびを上げ、敵もユッコもハルカも思わずその手を止めた。

その瞬間にピンクの弾丸が飛び出し、蛇行しながらそのプレイヤー目掛けて飛びかかった。

そのプレイヤーは、慌ててレンを狙おうとしたが、

その速さのせいで、レンに狙いを付ける事すら出来なかった。

 

「よくも!」

「う、うわっ」

 

 一瞬でかなりの距離を詰められたそのプレイヤーは、

目の前に来たレンに向け、慌てて銃口を向けた。

だが既にレンの姿はそこには無く、そのプレイヤーは、直後に太ももに衝撃を感じ、

そのまま立っていられずその場に崩れ落ちた。

 

「なっ……」

 

 慌てて自分の太ももを見ると、太ももの内側が大きく斬り裂かれているのが見えた。

そこには大動脈が走っており、その為出血ダメージも、かなりの速度で受けているようだ。

そして次の瞬間、そのプレイヤーの頭に銃口が突きつけられた。

 

「ぐっ……何だよそれ、速すぎだろ……」

「私はレン、あなたの名は?」

「ク、クラレンス……」

「そう、それがゼクシードさんの仇の名前なのね、それじゃあさようなら、クラレンスさん」

「く、くそ……俺にもせめて、信頼出来る相棒がいれば……」

 

 そしてレンは引き金を引き、クラレンスはどっとその場に倒れた。

 

 

 

 クラレンスは、当然報酬目当てで、今回の戦いに参加していた。

チームメンバーは、クラレンスが所属していたスコードロンのメンバーであったが、

実は信頼関係はまったく無い。クラレンスがメンバー達の弱みを握り、

好き勝手に振舞っているというのが現状だった。

そしてシャナの狙撃が始まった時、その影響がもろに出た。

彼女のチームメイト達は、彼女の事など一顧だにせず、

好き勝手に逃げ出そうとして、ある者は森の中でシャナに狙撃され、

またある者は、レンとゼクシードに蜂の巣にされ、

クラレンスは、あっという間に一人になっていたのだった。

 

「くっそ、役立たずどもめ……しかしこれはやばい……内も外も地獄みたいだ」

 

 そしてクラレンスが選んだのは、とにかく隠れてじっとしている事だった。

幸い一人くらいなら身を隠せる岩陰を見つけたクラレンスは、

銃声が聞こえなくなるまで、ひたすらそこで我慢していた。

そして少し後に、銃声がパッタリやんだ。

 

「お……」

 

 そしてクラレンスは動き出そうとしたのだが、

遠めにピンク色の服が見え、その隣にシャナの姿を見つけた。

 

(シ、シャナさんとピンクの悪魔……やばい、やばい……)

 

 そしてクラレンスは、息すらしないように、

口を塞ぎながら反対方向へとほふく前進していった。

片方の手は口に添えられていた為、片手で前進する事となり、

その歩みはひどくのろのろしたものとなってしまったが、

とにもかくにも、クラレンスは死地から脱出する事に成功した。

あとは森から出て、ひたすら走るだけである。

そしてクラレンスは、外でうろうろしているゼクシード達の姿を見つけた。

 

(くっ、前門のゼクシード、後門のシャナさんか……どうしよう、

このまま隠れていれば、いずれ逃げられると思うけど、今の俺は一人だしなぁ……

前金はもらったし、もう報酬の残りは諦めて、派手に死んでやろうかな……

はぁ、俺にも信頼出来る仲間がいれば、こんな状況でも何とかなると思うんだけどなぁ)

 

 クラレンスはそう考えながら、じっとその場で耐えていた。

その時森の中からレンが現れ、クラレンスはそれを天啓のように感じた。

 

(ここで売り出し中のあいつを倒せれば、まあスコードロンの奴らに対しても面子は立つ。

よし、やるか……無防備にこっちに背中を向けているしな)

 

 そしてクラレンスはレンを狙って銃の引き金を引いた。

そして結果的にクラレンスは、当初の目的こそ果たせなかったが、

ゼクシードを倒すというそれを補って余りある戦果を手にする事が出来たのだった。

 

 

 

 レンがクラレンスを倒した直後、

騒ぎを聞きつけたシャナが森から出てきて、レンの名前を呼んだ。

 

「レン、どうした!」

「シ、シャナさん……ゼクシードさんが……」

「ゼクシードが?」

 

 そしてシャナは、遠くで仁王立ちしているゼクシードの姿を見て、目を見張った。

 

「ゼクシードさんが助けてくれたの!」

「レンの身代わりにか?」

「うん」

「そうか……敵は?」

「倒したよ、この人。シャナ、知ってる?」

 

 シャナはそう言われ、そのプレイヤーの顔を見た。

 

「どこかで見た記憶が……確かクラレンス、だったか?

そうか、今回は敵味方に分かれちまってたんだな」

「知り合い?」

「前にこの木なんの木でのイベントに参加してたんだよ、まあ顔見知り程度だな」

「なるほど」

 

 シャナのクラレンスに対する感想はその程度だった。

そしてユッコとハルカと共に、シャナはそのゼクシードの死体の前に立った。

そしてレンが、そのシャナの背中にこう言った。

 

「ゼクシードさんからの伝言だよ、五チームが多分奥の建物に侵攻中、可能なら倒せって。

それと、俺はここまでだけど、お前は絶対にレンちゃんを勝たせろ、だって。

あと、最後に私の頭をなでてくれたよ」

 

 そうレンに言われたシャナは、そのままゼクシードに話しかけた。

もちろんその声は、死体となっていても、ゼクシードにはきちんと届いている。

 

「ったく、何て顔をしてるんだよお前は。

言われなくても勝たせるさ、とりあえずユッコとハルカをしばらく借りるぞ、

退屈だろうが、お前はそこで、俺達の名前が優勝者として表示されるのを待っててくれ」

 

 そしてシャナは、次にぼそっとこう言った。

 

「レンを守ってくれてありがとな、

それにしてもお前、レンの頭をなでるとか、俺が羨ましかったのか?

どうだ、うちのレンはなで甲斐があるだろ?教えた事を何でも吸収しちまうからな」

 

 そしてシャナは、レンに声を掛けた。

 

「よし、ゼクシードの遺言だ、その五チームを倒しに行くぞ、レン」

「う、うん!ゼクシードさん、私、頑張るから、そこで見ててね!」

 

 そして二人は再び森へと入っていき、ユッコとハルカも、その後を追おうとした。

だが二人は一歩踏み出した後に足を止め、ゼクシードの所に戻ると、

その手を自分達の頭の上に乗せながら言った。

 

「ちょっと格好良かったですよ、ゼクシードさん」

「ゼクシードさんの分まで頑張りますから、応援お願いしますね」

「あの二人は死ぬ気で守りますから」

 

 そして二人も去っていき、その場には一人、ゼクシードの死体だけが残された。

その顔は、とても満ち足りたような笑顔を浮かべていたのだった。

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