ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、今思いっきり風邪でダウン中でして、
何とか今日の話は短いながらも書き上げましたが、
まだこの先を書く体力が無いので、治るまでしばらくお休みしたいと思います。
楽しみにして下さってる方々には本当に申し訳なく思いますが、
どうぞ宜しくお願いしますorz


第516話 そのお針子の名は

 ここに一人の少女がいる。彼女は元々苦学生であったが、

高校を卒業と同時に、趣味の裁縫で作った服をツイッターに投稿したところ、

それがとあるコスプレイヤーの目にとまり、その依頼でコスプレ衣装を製作する事となった。

その服が三年前のコミケで大反響を呼び、製作要望が殺到した結果、

いつしか彼女はコスプレ衣装の受注製作を専門に行う、知る人ぞ知る職人となっていた。

そんな彼女は大学四年になった為、受注分の製作を終えた後、

衣装の製作を一時休業し、今は学業に専念していた。

そんな彼女の所に一通のメールが届いた。高校時代の同級生からである。

 

「だから衣装作りはしばらくやらないって言ってるでしょうが……」

 

 衣装製作を依頼するそのメールを、その少女はそのままスルーしようとし、

写真が添付されている事に気がついた。

 

「これは……?この衣装を作れと……?」

 

 その写真は、とあるイラストを撮影した物だったのだが、

そのモデルとなっている男性に、彼女は見覚えがあった。

 

「そう、もう夏休みに入った事だし、

少しくらいなら息抜きのつもりで作ってあげてもいいかな、

それにあいつに会えるかもだし」

 

 実は彼女は、会おうと思えばいつでもその彼に会えるのだが、

その性格上どうしても素直になれない為、ずっとその彼に連絡する事が出来ないでおり、

こうして偶然に頼るくらいしか、その望みを叶える手段を持たないのであった。

 

「よし、運を天に任せて行ってみようか、どうせこのままだと、

下手をするとあいつに一生会えない可能性もあるんだし。

まあ同窓会が企画されてるみたいだから、それに行く手もあるけど、

そこにあいつが来るかどうかなんて分からないしね」

 

 そう言ってその少女は、友人に連絡をとった。

 

「メールを見たんだけど、この話、やってもいいよ」

 

 こうしてその少女、川崎沙希は、まんまと海老名姫菜の罠にはまったのであった。

 

 

 

 指定されたマンションに着いた沙希は、インターホンを押した。

沙希は両肩に大きめのバッグを下げ、その中には中々の自信作だと自負している、

送られてきた通りのデザインで製作した衣装が入っていた。

 

「あいつがALOをやっているのは知ってるけど、

まさかそれに似た衣装を私が作る事になるなんてね……」

 

 そう呟いた時、丁度部屋のドアが開き、中から見知った少女が顔を覗かせた。

 

「あっ、サキサキ!」

「サキサキ言うな、って、何で由比ヶ浜がここに?」

「えっと、このところずっと手伝いに来てるんだ」

「なるほど、そういう事」

 

 沙希はその言葉に、それだけ売れてるって事なんだろうなと素直に感心した。

ちなみに沙希は、姫菜がどんな作品を書いているのかまったく知らない。

 

「それじゃあ入らせてもらうわ」

「うん、入って入って」

 

 そして部屋の中に入った沙希は、そこに天敵の姿を見つけ、思わず身構えた。

その相手とは、もちろん三浦優美子である。

それで沙希の好戦性が刺激されたのか、沙希は目に力を込め、優美子をじろっと睨んだ。

要するにガンをとばしたのである。だが優美子はそれには応じず、

まるで憐れむような視線を沙希に向け、こう言った。

 

「サキサキ、来ちゃったんだ」

「あんたまでサキサキ言うな、っていうかあんた、随分丸くなったんじゃない?」

「そう?あ~しにはよくわからないけど」

「変わらないのはその一人称くらいね、何だか懐かしい」

「あ~しからすると、サキサキも丸くなったと思う」

「だからサキサキ言うな」

 

 そして沙希は、気になっていた事を優美子に尋ねた。

 

「ねぇ、さっきのあんたの目付きの意味が気になるんだけど」

「その前に、ねぇサキサキ、あんた、姫菜がどんな本を書いてるか知ってるの?」

 

 沙希はもう突っ込むのに疲れたのか、サキサキというその呼び方をスルーした。

 

「それくらい知ってるわよ、同人誌って奴でしょ?」

「あ~しは内容について聞いてるんだけど」

「………そういえば知らないわね」

「そう……」

 

 そして優美子は、一冊の本を沙希に渡した。

 

「これがその本なの?」

「ええそうよ」

「ふ~ん」

 

 そして沙希はパラパラとその本をめくり、とあるページでピタッと止まった。

その後の沙希の顔は見物だった。最初はギョッとした表情になったかと思うと、

次には顔を赤くし、最後には顔が青くなった。

 

「な、な、な………」

「どう?理解した?」

「こ、これって……」

「ええ、姫菜の趣味は昔からそんな感じ、高校の時気付かなかった?」

「そ、そういえば妙に男同士の友情に拘っていたような……」

「まあそういう事」

「か、帰る!」

 

 沙希は慌ててこの場を逃げ出そうと、くるりと振り向き、ピタリと止まった。

そこには買い物袋を下げた姫菜が、ニコニコしながら立っており、

沙希はビクッとしたかと思うと、姫菜に抗議した。

 

「ちょ、ちょっとあんた、これはどういう……」

「サキサキ、もう完成させてくれたんだ、本当にありがとね」

「いや、それは仕事だから……」

「うん、仕事だよね、サキサキは途中で仕事を投げ出したりするような人じゃないよね」

「そ、それは……」

 

 沙希はその姫菜からのプレッシャーに気圧され、一歩後ろへと下がった。

 

「サキサキ、腐海のプリンセスの館へようこそ」

「サキサキ、逃げたりしないよね?」

「サキサキ、もうあーしら一蓮托生だし、被害者は多い方が被害が分散するし」

「ちょ、ちょっと」

「それじゃあ早速持ってきた服に着替えてみよっか、

サキサキ、細かい所の直しとかお願いね」

「う……うぅ……うああぁぁ……」

 

 こうして沙希は、逃げ出す事も出来ずに部屋の一番隅に追い詰められ、

渋々ながらも姫菜達の手伝いをする事を承諾した。

 

「言っておくけど、本の内容には一切関わらないからね」

「分かってるって、衣装を作ってくれただけで十分だよ」

「当日も行かないわよ」

「でもそうすると、ヒッキーに会えないよ?サキサキ」

「………あいつも来るの?」

「ソレイユの企業ブースにいるはずだよ、設営だけ手伝ってくれれば、

後は好きにしていいから会いにいってみれば?」

「………………別に興味ないけど、まあ手伝うくらいなら」

 

 こうして沙希は、どんどん絡めとられていった。そして試着が始まり、

沙希は自分の作った服を着るのが結衣と優美子だと知って、あんぐりと口を開けた。

 

「あ、あんた達がこれを着るの?」

「うん、正直どうかなって思うんだけど、さすがに本人には頼めないしねぇ……」

「そう」

 

 そう色々と諦めた口調で言った沙希は、おもむろに裁縫道具を取り出した。

 

「え、着る前からいきなり?」

「当たり前でしょ、あんたの胸で、この衣装がすんなり着れるとでも思ってるの?」

「あ、あは……なんかごめんなさい」

「あ、三浦は大丈夫だから」

「一言多いし!」

 

 沙希は二人の前で、見事な手並みで色々調整をしていった。

 

「うわ、手付きが凄いね……」

「昔から器用だと思ってたけど」

「まあ裁縫は好きだからね、学費の足しにもなるし、

趣味と実益が両立してるから、まあ助かってるかな」

「凄いねぇ」

「将来はどうするの?」

「まだそこまで深く考えてはいないけど、服のデザインも含めて、

こういう事は続けていきたいと思ってるわ」

「そっかぁ、頑張って、サキサキ」

「ええ、なのでこういう気が進まない仕事でもちゃんとやるわよ」

「………まあ気が進まないよね」

「あんたらも、変な友達を持つと大変だね」

「それ、思いっきりブーメランだからね、サキサキ」

 

 何だかんだ、仲良しな三人である。

丁度そこに、五人目の人物が奥の仕事場からのそりと姿を現した。梨紗である。

 

「あっ、あなたがサキサキさん?どうもどうも、初めまして、

姫菜ちゃんの相方の、葵梨紗だよ」

「どうも」

「うわ、スラッとして格好いいね、

もし良かったら、性転換して私達の作品に登場してみない?」

「あ、あは………」

 

 沙希は、やはり類は友を呼ぶのだなと納得し、苦笑する事しか出来なかった。

こうして腐海陣営の準備も、着々と進んでいく事となる。


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