ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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次は23日(火)には何とか……
感想返信も滞っていますが、もう少しお待ち下さい、来週には安定すると思うのでorz


第533話 八幡矢面に立つ

「あなた方の目的は分かったわ、それなら神が三柱も降臨する理由も分かる」

「分かってもらえたようで何よりね」

「でも疑問もある、あなた達は基本戦いには向いていない女神のはず、

ならば邪神族や巨人族の強敵を相手にするのには少し問題があるのでは?」

 

(って雪乃のカンペに書いてあったんだけどね)

 

「よく勉強しているわね、確かにその通りよ」

 

(詩乃ってもしかして、神様オタクなの?)

 

 内心での応酬はさておき、本来のシナリオだと、他の神の情報を出す予定はない。

なのでいろはは、何と答えればいいか迷い、雪乃の方をチラリと見た。

そこにはヒゲ面となった八幡が、厳かな衣装を着ている姿があり、

そしてかおりが客席から見えないように、プラカードを掲げているのが見えた。

そこには『トール出す』とシンプルに一言だけ書いてあり、

いろははこれで丸投げ出来ると安心した。

 

「あなた達の登場は今回の予定に無いサプライズだけれど、

私達もそれに応え、一つサプライズを用意しましょう、

今日この会場に来て下さった方々への特別サービスとして、

もう一柱、重要な役割を果たす神をここに顕現させようと思います。

名前は出しませんので、誰なのか皆さんが推測して下さい」

 

 ここでいろはは詩乃達にではなく客席に向かってこう発言した。

見上げたプロ根性である。そしてその言葉を受け、八幡が巨大なハンマーを持って登場した。

多少北欧神話をかじった者にとってはバレバレな格好である。

 

「トールだ」

「トールだよな?」

「くそ、ヴァルキリーの誰かだと思ったのに!」

「裏をかいてギリシャ神話系かとも思ったが、そのまんまだったか!」

 

 そしてトールに扮した八幡は、重々しい口調で詩乃達に言った。

 

「そなた達のような年端もいかぬ者達が何故ここにいる、

ここにはそなたらをたぶらかそうとする者達も多くおるのだぞ」

(訳・お前ら何でここにいるんだよ、

高校生には教育に悪いからイベントには参加するなって言っただろうが)

 

 八幡にそう言われ、一歩前に踏み出したのはフェイリスだった。

 

「神たる者が、まるで人間の教育パパみたいな事を言うのかニャ?なんとも心の狭い事ニャね」

「これは異な事を、我はそなた等の事を心配して言っておるだけである」

(訳・うるせー!あんまり俺に心配かけるなっつの!)

 

「心配してもらう必要は無いニャ、私達はもう立派な大人ニャ」

「我には我を信ずる者全てを慈しむ義務があるのだ」

(訳・仲間なんかだから心配するに決まってんだろ!)

 

 そこまで言われて黙っているようなやわな者はその場にはいない。

むしろその言葉を利用して主導権を握ろうとするような者ばかりなのだ。

基本面白がって参加している紅莉栖は別として、

それ以外でこういう場合に力を発揮するのは留美であった。伊達に総武高校生な訳ではない。

 

「それはつまり、神トールは私達の事が好きで好きでたまらないという事ですよね?」

「あ、そうだそうだ」

「なるほど、さすがは神、その愛は無限なんですね」

 

 他の者達もニヤニヤしながらそう言い、八幡は、その言葉に頷く事しか出来なかった。

ここで否定しては、宣伝活動の観点からも、問題があるかもしれないと思ったからだった。

 

「あ、ああ、もちろんである」

 

 見ると明日奈は、感心した様子で拍手までしており、

陽乃は「私は私は?」という風に自分を指差してアピールしていた。

かおりは羨ましそうに指をくわえており、

クルスと美優は、出遅れたとばかりにじだんだを踏んでいた。

そしていつの間にか舞台袖で見物していたらしい結衣と優美子は、

態度から察するに、あたし達が着れるような衣装は無いのかとアルゴに詰め寄り、

首を振られて落ち込んでいるように見えた。

薔薇は司会故に、何も出来ない自分の立場を恨めしく思っているのか、

じとっとした目で八幡を見つめており、

沙希は沙希で、八幡を上から見下ろすように睨んでいた。

 

(今の俺にどうしろっつ~んだよ!)

 

 神の役目を果たさねばならない八幡にとってはジレンマだった。

相手のペースに乗せられている感が半端ないが、

さりとてイベントの進行の都合上、おかしな事を言う訳にはいかない。

八幡は、自分にこんな衣装を着せて舞台に立たせた雪乃に苦情を言いたくてたまらなかった。

だが八幡は、当の雪乃の姿をチラリと見て愕然とした。

雪乃が特に何か指示を出したりする事もなく、むしろ鼻歌でも歌うように機嫌よく、

ただ淡々と詩乃達にスポットを当てているだけだったからだ。

 

(あれはイベントに乱入された照明係の態度じゃない、

まるでプロデューサーのような……まさか……)

 

 そして八幡は、真実にたどり着いた。

 

(あいつが裏で協力してやがるな!)

 

 だが八幡は、どうしてもその事実が納得いかなかった。

 

(あいつが金でなびくはずがない、ましてやこういう曲がった事に安易に賛同はすまい、

ならば何を報酬に提示された?あいつの価値観をひっくり返す程の報酬……まさか……)

 

 そして八幡は、過去の雪乃の行動と言動から、脳内で分析を開始した。

そしてこれしかないという答えにあっさりとたどり着いた。

 

(そうか、そういう事か………猫だな!)

 

 それは確かに妥当な推測だと言えよう、だが猫は所詮猫である。

両者を比べるのもおこがましい程、はちまんくんと猫の価値には違いがある。

だが自分がそれほど価値のある人間だとは思っていない八幡は、

その分身たるはちまんくんの価値に気付く事は出来なかった。

故に八幡は、雪乃に対する報酬が、猫絡みの何かだと断定した。

だがそう思ったからといって、特に打てる手は存在しない、

例えば世界のネコ展等に連れていく事等を条件として提示したくとも。

今ここでバックヤードに引っ込む事は出来ないからだ。

 

(くそ、どうしようもねえ……せめて他の奴に伝言を頼めれば……ん、他!?)

 

 そして八幡は、ある事に気付いて愕然とした。

 

(ま、まさか他にも協力者がいたりしないだろうな……)

 

 八幡はそう思い、この状況に至るまでの経過を分析し直した。

 

(そういえば、この衣装を用意したのはかおりだった。

しかも雪乃が具体的に指示を出す前に既に衣装を準備していた、

だがこれは微妙だ、もしかしたら雪乃に、

サプライズ演出だからと説明されてやったのかもしれないからな、

後は……小猫の司会としての存在感が薄いのは気になるが、

まああいつは所詮小猫だしな……とりあえず主犯は間違いなく雪乃だ、

他の奴らについては確たる証拠は無い、ああ、もうどうすっかなぁ……)

 

 この時八幡は、女子高生チームのイベント参加禁止を言い渡した事を少し後悔していた。

 

(まさかあいつらが、ここまでコミケ好きだったとは、予想外だった……)

 

 かなりズレた認識ではあったが、『五人』の熱心さに、八幡はかなり押されていた。

ちなみに唯一の例外が優里奈である。八幡はこう見えて、教育パパな傾向が強いのだ。

 

(うちの優里奈まで引っ張り出しやがって、

ああもう、いっそ神トールの言葉として許可を出して、うやむやにしちまうか)

 

 結局八幡の出した結論はこうであった。

 

「ふむ、そなたらの意欲はよく分かった。

よくよく考えれば、今回の事件は妖精達全員の協力を得られねば解決はすまい、

ここは一つ幼子達の力も借り……」

「いやいやちょっと待つニャ」

「ぬっ」

 

 それ以上言わせまいと、フェイリスは八幡の言葉を遮った。

ここで下手に認められようものなら、何の為に殴りこみをかけたのか、

意味がまったく無くなってしまうからだ。

 

「クーニャン、どうする?」

「誤魔化そうとしてるわね、絶対阻止」

「やり方は?」

「任せるわ、いける?」

「大丈夫ニャ」

「オーケー、それじゃあお願い」

 

 そしてフェイリスは、律儀に待っていた八幡に、自分の服装をアピールしながら言った。

 

「神トールよ、この制服を着る者達の事はご存知なのニャ?」

「聞きかじってはいる、大層有名なギルドだそうだな」

 

(うひい、自分で言うのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった……)

 

「私達のこれは借り物にすぎませんが、あのギルドの構成員は、一騎当千のつわもの揃い、

おそらく彼らは、あなた方と協力せずとも単独で強敵を撃破し、

難なく神器を入手する事でしょう。私達も彼らのように強くありたいと思っています」

 

 紅莉栖は微妙に自分達はヴァルハラのメンバーじゃないよと、

観客達にアピールする為にそう言った。本人バレの危険性を考慮しての事だろう。

その言葉で八幡を安堵させた後、紅莉栖は何故かクルスと美優に声を掛けた。

 

「そちらのお二人、基本的な衣装ながら、素晴らしい着こなしですね、

多分名のある方なのだとお見受けします、ちょっとこちらに来てもらってもいいですか?」

 

 八幡は、その言葉に、嫌な予感が止まらなかった。


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