ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第538話 打ち上げ~総武高校軍団マイナス1

 紅莉栖が去った後、次に八幡の下に訪れたのは、

雪乃、結衣、いろは、留美の奉仕部チームであった。

 

「小町がいないが、こうして奉仕部員が揃うのは感慨深いものがあるな……」

「あの頃は、まさかこんなに奉仕部の歴史が続くなんて思ってもいなかったね、

絶対にあたし達の代で終わると思ってたもん」

「まあ次の年に小町さんが入って三年延長されたけど、

それでもそこで終わりだと思っていたのは確かね」

「でも厳密には、小町先輩が卒業してから私が入ったので、一旦切れてはいるけどね」

「まあ細かい事はいいじゃないか、今はとにかくまだ奉仕部がある事を喜ぼうぜ」

「私は正式な部員じゃありませんでしたけどね」

 

 一見和やかに見えるこの風景だが、実はおかしな部分が一つだけあった。

 

「…………なぁ」

「な、何かしら、和人君」

「何で雪乃はまた犬耳を付けてるんだ?それにユイユイまで」

「そ、それはその……反省の意を示そうかと思って」

「あたしはゆきのんがかわいいからその付き合い!」

 

 おかしな部分とは、つまりそういう事なのであった。だがもちろん真実は違っている。

雪乃は万が一にも詩乃からの特別報酬の存在を悟られない為に、

他の二人の分まで体を張り、八幡の疑惑の目が向かないようにしているのだった。

 

「そこまでしなくても別にいいんじゃないか?なぁ八幡」

「俺もそう思うんだが、雪乃が譲らないからまあいいかなってな、

特に実害がある訳じゃないし、他人の目も無いしな」

 

 そう言いながら八幡は、雪乃が付けている犬耳を撫でた。

実はこの犬耳、もっふもふなのである。

ちなみに反対の耳は、留美が熱心に撫でていた。隣に並ぶとまるで姉妹のようである。

そしてユイユイの犬耳は、いろはが熱心に撫でていた。

いろはは雪乃相手にそんな事は出来ないが、結衣相手だと平気なようだ。

 

「そ、そういう事よ、それに私もいつまでも犬が苦手なままだと、

犬型のモンスター相手に力を発揮出来ないかもしれないしね」

「え、お前、そっちも駄目なの?」

「八幡君、お前じゃない、雪乃よ」

「ルミルミの真似してんじゃねえよ」

「ルミルミ言うな」

「ああもう、お前まで」

「八幡、お前じゃない、留美」

「無限ループかよ!」

 

 和人は、こんな雰囲気の部活だったのなら、さぞ昔は楽しかったんだろうなと考えたが、

当然昔はこんな雰囲気ではない。だが和人がその感想を口に出さなかった為、

その誤解が解ける事は一生無かったのだが、まあそれでまったく問題は無かった。

だが、それとは別に、一つ懸念材料が残っていた。

 

「それじゃあ雪乃は例えば北欧神話定番の、フェンリルとかが相手だとどうなるんだ?」

「……そうね、敵が絶対見えない所でちまちまと回復するだけになると思うわ。

もちろん誰かを死なせたりとかいう事は絶対に無いのだけれど」

「それでもさすがに視野は狭くなるよな?」

「え、ええ、そ、そうね」

 

 雪乃はその質問に、ビクビクしながらそう答えた。話の進み方が、まずいと思ったからだ。

 

「そうなると……」

 

 そして八幡と和人は、顔を見合わせながら言った。

 

「「特訓だな」」

「はうっ………」

「仮にも副団長ともあろう者が、いつまでもそんな事じゃまずいからな」

「俺と明日奈には、苦手な物なんか無いぜ!」

「いや、明日奈は確か………」

 

 その言葉が聞こえたのだろうか、遠くから明日奈が走ってきて、八幡の口を押さえた。

 

「は、八幡君、乙女の秘密を他の人にバラすのはどうかと思うな」

「は、早っ!」

「あんな遠くでよく聞こえましたね……」

 

 そして雪乃が立ち上がり、明日奈を羽交い絞めにした。

 

「ちょ、ちょっと雪乃、何をするの!?」

「こうなったら一蓮托生よ」

「これくらい簡単に外して………うぅ、雪乃って、見た目と違って意外と力が強い……」

「こう見えても私、スポーツは万能なのよ、それに弱点のスタミナの無さを克服する為に、

一応それなりに朝走ったりもしているしね」

 

 そして雪乃は明日奈の手を八幡の口から引き剥がし、笑顔で明日奈に言った。

 

「さあ、一緒に地獄に落ちましょう」

「嫌ああああああああああああ!」

 

 そして明日奈の手が八幡の口から離れた為、八幡はさっき言いかけた言葉を口にした。

 

「明日奈は確か、オバケとか幽霊が苦手だったはずだ」

「えっ、そうなの?」

「意外~!」

「ううううううううう」

「という訳で結衣、明日にでも頼む」

「任せて!優美子~、ちょっとこっちに来て~」

 

 八幡にそう言われ、結衣は優美子をこちらに呼んだ。

 

「結衣、どしたん?」

「明日なんだけど、ゆきのんと明日奈と一緒に遊びに行かない?」

「いきなりどしたん?別にいいけど、どこに?」

「えっと、実はね……」

 

 そして結衣の説明を聞いて、優美子はなるほどと頷いた。

 

「でね、あたし一人だと、二人のうちどっちかを逃がしちゃうかもしれないから、

優美子にも一緒に来て欲しいなって」

「なるほど、それならオバケ屋敷の場所選びはあーしに任せろし」

「その場所が決まったら、あたしがその周辺のわんこに触れるスポットを調べるね」

「ふ、二人とも、そんなに気合いを入れなくてもいいのよ」

「そ、そうだよ、何事もほどほどが一番だよ!」

 

 焦る二人を横目に、八幡は結衣と優美子に言った。

 

「夏休みなんだし、連続で行ってもいいからスパルタで頼む」

「うん!」

「了解、あ、でも……」

 

 ここで八幡は、優美子にアイコンタクトをし、自分の懐を指差した。

優美子はそれに頷き、右手の手の平を外側に向けて軽く動かし、再び八幡はそれに頷いた。

優美子はまだ明日奈がALOに囚われていた時期に、一番多く八幡の見舞いに訪れ、

その世話を焼いていた為、こういったアイコンタクトでの意思疎通はお手のものなのだ。

ちなみに今のアイコンタクトは、「優美子に全員分の軍資金を渡す」

「今はさすがにアレだから後で」「了解」という意味である。

それを受け、優美子は言いかけた言葉を口に出すのをやめた。

ちなみにその言葉は、「あんまり連続だとどうだろ、資金にも限りがあるかんね」だった。

 

「先輩先輩、その訓練、私も一緒に行ってもいいですか?」

「いろはの予定が空いてるなら別に構わないぞ」

「やったぁ、私、わんこをもふもふするの、好きなんですよね」

「八幡、私もいい?」

「おう、行って先輩をビシビシ鍛えてやれ、そして絶対に二人を逃がすな」

「うん」

 

 そして明日からの計画を立てるからと、参加する面々が別のテーブルへと移動し、

そのタイミングで八幡は、優美子に予備の財布を渡した。

 

「んじゃこの予備の財布を渡しておく、

カードでもいいんだが、場所によっては使えないだろうしな」

「あんた、いつも予備の財布なんか持ってんの?」

「何かお使いを頼むのに便利だから、まあ一応?」

「ふ~ん……」

 

 そして優美子は財布の中を確認した。

 

「うわ、結構入ってんね」

「人数が増えたからな、まあ全部使い切っても問題ない」

「あーしはこう見えて、そういうところはキッチリしてるから、無駄遣いはしないし」

 

 その優美子の言葉に、八幡は小さく首を傾げながらこう答えた。

 

「こう見えて?俺は昔から、優美子がしっかりしてないとか思った事は一度も無いぞ」

「え?それっていつから?」

「お前が俺の事を嫌いだった時からだな」

「っていうと、二年の頭からずっと?」

「まあそうだな」

「そ、そうなんだ」

 

 そして優美子は心の底から嬉しそうに微笑むと、やる気に溢れる表情で言った。

 

「うっし、あの二人の事はあーしに任せて」

「おう、頼むわ」

 

 

 

 この時の会話のせいで、あーしさんのスパルタ具合は更に加速する事となった。

その時の話は特には語られる事は無いが、こうして明日奈と雪乃は地獄の三日間を過ごし、

次にALOにログインした時には、その弱点は完全に克服される事となっていた。

 

 

 

「いいなぁ、楽しそうだよな、あれ、でも八幡は行かないのか?」

 

 その和人の当然の問いに、八幡は真顔でこう答えた。

 

「あいつらと一緒に行くって事は、何日間かの間、

あの五人に一人で囲まれ続けるって事になるが、和人はそれで平気なのか?」

「あ!無理無理無理、絶対に死ぬ」

「だろ?それに和人には、ちょっと手伝ってもらいたい事もあるしな」

「ん、何かあるのか?」

「さっきの話の事でちょっとな」

「ああ、新メンバーの事か!」

 

 そして八幡は、嫌々ながら姫菜に付き添っているように見える沙希に遠くから声を掛けた。

 

「お~い川崎、ちょっといいか?」

 

 沙希はそれに気付くと、姫菜に一言断ってこちらへとやってきた。

 

「悪いな、突然呼んだりして」

「いいよ、むしろ助かったから」

 

 そう言って沙希は、並んで座る八幡と和人の向かいではなく、

自然な態度で八幡の隣に腰掛けた。この辺りは沙希も乙女なのであった。

 

「で、どうしたの?」

「なぁ川崎、明日って空いてる時間はあるか?」

「明日なら大丈夫だけど、何かあるの?あ、も、もしかして、デート……とか?」

 

 沙希はそう言ってほほを赤らめて下を向き、それに釣られて八幡も顔を赤くした。

 

「い、いやほら、ALOの服のデザインを考えるのに、

世界観とかをちゃんと知っておいた方がいいと思って、その誘いだ」

 

 そう言われて沙希はハッとし、真面目な顔をした。仕事が関係する話だと理解した為だ。

沙希は元々、仕事に関しては生真面目なのである。

 

「あ………それは確かにそうだね、あんまり的外れなデザインをするのもまずいしね」

「まあまだ先の話なんだろうが、それでも今のうちから、

少しでも色々と知っておく必要はあるんじゃないかと思ってな」

「うん、そうだね」

 

 そして八幡は、沙希にこう切り出した。

 

「という訳で、明日家まで車で迎えに行くから、ソレイユでALOを体験してみないか?」

「う、うん、分かった」

 

 その言葉に、沙希は二つ返事で頷いたのだった。




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