ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第639話 空中都市船トラフィックス

 その日、ALO並びにGGOのプレイヤーのほとんどが、

それぞれのゲーム内から姿を消していた。

 

『空中都市船トラフィックス』

 

 その名前が始めて登場したのは、

ALOとGGOのクロスワールドの導入が決まった一週間後である。

この都市は、巨大な空飛ぶ船の上に乗っており、

今後も定期的に行われるであろうイベントごとに違う土地に漂着し、

そこで両ゲームのプレイヤーが協力して戦闘やクエストを行う仕様となっている。

何故こんな仕様なのかというと、他のゲームとのクロスも想定しているからであった。

ちなみにトラフィックスは1~8まで存在し、それぞれの内容は皆同じ物となっている。

これは単に混雑緩和の措置であり、各船の間は自由に移動出来るようになっていた。

そして発表から一ヶ月後の今日、ついにトラフィックスが正式導入された。

とはいえ現時点での移動可能なマップは全部開放された訳ではなく、

ALOとGGO、二つのゲームのプレイヤーが、

事前に『ナイツ』と呼ばれる騎士団を作って交流出来るようにとの配慮から、

先行公開されたという訳なのであった。要するに本番に備えて仲間を作れという事である。

そして今、ヴァルハラ・ウルヴズのメンバー達は、

トラフィックス8目指して移動を開始していた。何故8なのかはお察しの通りである。

ちなみにまだ年末ではない為、ヴァルハラ・リゾートのメンバーは全員、

そしてGGOからは先日八幡に声をかけられた者達が、この場に続々と集結中であった。

これは年末以降の他のイベントの事を見据え、

とりあえず全員ナイツに登録しておこうという意図である。

 

「おいリオン、集まってきたメンバーに状況を説明して、

ナイツに登録してもらうんだぞ、分かってるな?

名前を名乗られたら、手元のリストでちゃんと確認してな。

リアルネームが横に書かれているから、それで誰が誰なのかは分かると思うが、

くれぐれも部外者にはリストを見せないようにな」

 

 ハチマンにそう声をかけられたのは、

ソレイユの見習い社員である双葉理央ことリオンである。

リオンは受付嬢の代わりとして、ハチマンの頼みを受け、

わざわざ新規に製作したキャラでここに立たされていたのだった。

ちなみにその手には『ヴァルハラ・ウルヴズ』と書かれたプラカードがあった。

 

「分かってるって、まったくもう、何で私がこんな事を……」

 

 そう愚痴をこぼしつつも、リオンはハチマンにこの事を頼まれた時、

むしろ積極的に承諾していた。ハチマンの活動は何でも把握しておきたかったからだ。

 

「悪いな、正式メンバーは総がかりで拠点に出来そうな物件の吟味をしないといけなくてな」

 

 これらは導入前から正式発表されていた事であり、ハチマンはヴァルハラの資金を使い、

早めに拠点として使う建物を確保する気満々で、今日全員に召集をかけたのであった。

ちなみにこの都市はAIによる作成であり、テストプレイのバイトをしていた者達も、

この都市についてはまったく知らないのである。

 

「私は別にいいけど……」

 

 そう言いつつも、内心ではむしろウェルカムで興味津々なリオンである。

 

「それじゃあとりあえず、ナイツに加入してもらうか、

今そっちに参加要請をするから、目の前の画面をタップして承諾してくれ」

「分かった」

 

 そしてハチマンが何かを操作するような動きをすると、リオンの目の前に、

ナイツ『ヴァルハラ・ウルヴズ』への参加を希望しますか?YES/NOという文字が現れ、

リオンは迷う事なくYESのボタンを押した。

 

「よし、それじゃあ仲間を誘う方法を教えるからな」

「あ、大丈夫、事前に説明は受けてるから」

「そうか、それじゃあとりあえず、来たメンバーには通信機を渡してくれな、

そしてこれがリオンの分だ。その通信機だけは特別製で、一発で全員に連絡がいくから、

もし何かあったらそのボタンを押すんだぞ、仲間達がすぐに駆けつけるから」

「了解」

「それとGGO組が少し遅れてくると思うから、そっちにはこの制服も渡してくれな」

「うん、預かるね」

「それじゃあ俺は街の全容を把握してくるから、後は任せた」

「あ、うん、行ってらっしゃい」

 

 そしてハチマンが去った後、リオンは何気なくメンバーリストを見た。

そこにはハチマンの名前のすぐ下にリオンの文字があり、

リオンはそれを見て、思わずニヤニヤしてしまった。そんなリオンに声をかける者がいた。

 

「ハイ、登録に来たわよ」

「あっ、もしかして、シノ……ン?」

「あれ、その声はもしかして、リオ……ン?」

 

 二人はお互いの事をうっかり本名で呼びそうになり、慌てて『ン』の文字を付け足した。

二人はもうすっかり仲良しであり、お互いの事を呼び捨てにするようになっていた。

 

「登録だね、今送るね」

「あ、うん、今日はどうしたの?もしかしてハチマンに連れてこられちゃった?」

「うん、受付嬢の代わりをしてくれって」

「あは、そうなんだ、で、他の人は?」

「えっとね、まだ誰も来てないんだけど、指示は聞いてるよ」

「ふむふむ」

 

 そしてリオンは、シノンに拠点探しをするようにというハチマンからの指示を伝えた。

 

「あとここは飛べないから注意してくれだって」

「オーケーオーケー、この後もたくさん人が来ると思うけど、頑張って」

「うん、シノンも気をつけてね」

「大丈夫、街の中で戦闘は出来ないから。それじゃあまた後でね」

 

 そう言いながらシノンはリオンに手を振ると、街中へと消えていった。

その後も、続々と参加予定の仲間達がリオンの下を訪れた。

クライン、エギル、キリト、リズベット、シリカの五人を始めとして、

ユキノ、ユイユイ、イロハ、ユミー、コマチ、セラフィム、クックロビン、フカ次郎、

フェイリス、クリシュナ、クリスハイト、リーファ、レコン、メビウス、レヴィ、

ナタク、スクナ、アルゴの順に、続々とヴァルハラ組がメンバー登録していく。

 

「う~ん、うちのナイツの制服って威圧感があるなぁ……

でも格好いいというか、いかにも強そう」

 

 リオンは仲間達の制服姿を見て、そんな感想を抱きつつ、

知らない人も多くいた為、その度に自己紹介をし、同時に今の状況を説明していった。

そしてアスナとソレイユが現れ、最後にロザリアがその姿を現した。

 

「あらリオン、ご苦労様」

「室長!」

「大丈夫?ナンパとかされてない?」

「ええと、今のところは大丈夫です」

「もしあまりにもしつこい奴らが現れたら、すぐにこのボタンを押すのよ。

まあこの制服とヴァルハラの文字を見て、声をかけてくる馬鹿もいないと思うけど」

「そうですね、みんなこのプラカードを見てギョッとしますから」

「それじゃあ私も行くわね、頑張って」

「あ、はい」

 

 そして次に、GGO組が順に姿を現していった。

レン、シャーリー、ゼクシード、ユッコ、ハルカ、闇風、薄塩たらこ、ミサキである。

特にレンは、ヴァルハラの制服をもらい、嬉しそうにはしゃいでいた為、

リオンはそのとてもかわいい姿にほっこりした。

もし理央が香蓮にリアルで会ったらそのギャップに驚く事は間違いない。

ちなみにエムは、リアルが忙しすぎて今回の参加は断念していた。

クックロビンはまだエムに、自分がALOをやっている事を教えていなかった為、

これは彼女にとっては幸いであった。バレたら多少は愚痴を言われた事であろう。

 

(うわぁ、こっちの人達は何か軍隊っぽい……それにしてもレンちゃんはかわいいなぁ……)

 

 リオンは絶対にレンちゃんと友達になろうと思いながら、リストをチェックし、

まだ到着していないプレイヤーが誰もいない事を確認した。

 

「さて、これで全員かな、これからどうすればいいんだろ、

このボタンを押したら全員戻ってきちゃうし」

 

 リオンがそう呟いた丁度その時、リオンに声をかけてくるプレイヤーの集団があった。

 

「ねぇ君、かわいいね、もし良かったら俺達のナイツに入らない?」

「す、すみません、間に合ってます」

 

 リオンは何とかそう言ったものの、内心ではテンパっていた。

こういった事に慣れていないせいである。

リオンの服装を見ても特にリアクションが無いのはGGO出身のプレイヤーだからであろう。

ちなみに今はプラカードを下に置いてしまっており、

リオンはその事に気づくと、慌ててプラカードを相手に見せる為に拾おうとした。

ヴァルハラの名前は他のゲームのプレイヤーでも知っている可能性が高いからだ。

だがそのプレイヤー達は、プラカードに手を伸ばしかけたリオンの手を掴んだ。

 

「まあまあそんな邪険にしなくてもいいじゃない、

こう見えて俺達は、GGOじゃかなり有名なプレイヤーなんだぜ」

「は、離して下さい」

「やだなぁ、変な事はしないって」

「そうそう、ちょっと話を聞いてくれるだけでいいからさ」

 

 さすがにこの状況はまずいと思ったリオンは、

こっそりともう片方の手で通信機のボタンを押した。

 

「ん?君、その手に持ってるのは………」

 

 そのプレイヤーがそう言いながらリオンのもう片方の手を掴もうとしたその瞬間に、

突然リオンの背後に現れたプレイヤーが、いきなりそのプレイヤーを殴り飛ばした。

 

「ぐわっ……て、てめえ、いきなり何しやがる!」

「それはこっちのセリフだ、てめえら、うちのリオンに何してやがる」

「ハ、ハチマン!」

 

 リオンはそう言って、素早くハチマンの背後に隠れた。

 

「ハ、ハチマン?ってもしかして、噂に聞くALOの、ザ・ルーラーか?」

「って事はあのヴァルハラかよ……やべえ、ずらかるぞ!」

「どうやって?」

 

 そのプレイヤーの背後には、既にキリトが仁王立ちしていた。

 

「俺はキリトだ、見た感じGGOのプレイヤーみたいだが、

それでも俺の名前は当然知ってるよな?」

「び、BoBの優勝者のキリト……」

「どうしたの?こいつらは何?」

「十人がかりとは、これはまた穏やかじゃないね」

「おうシノン、ゼクシード、こいつらはうちのリオンに何か用事があるらしい」

「げっ……」

「ま、まさか……」

 

 直後にシノンとゼクシードもその場に駆けつけ、八幡がその名を呼んだ為、

そのプレイヤー達は仰天した。偶然にもBoBの優勝者が三人とも集まったからである。

そしてその場には次々とヴァルハラ・ウルヴズのメンバーが集まってきた。

その数総勢三十七人。リオンに声をかけたプレイヤー達も十人ほどの集団であったが、

さすがに数が違いすぎて、まったく勝負にはならないだろう。

もっとも人数が少なくても勝負にはならないのだが。

 

「で?」

「あ、あの、すみませんでした……」

「もう二度とこいつに関わるな、分かったか?」

「は、はい!」

 

 そしてそのプレイヤーの集団は、脱兎の如く逃げ出していき、

リオンはハチマンにお礼を言った。

 

「あ、ありがと……そして皆さん、お騒がせしました……」

「まさかヴァルハラの名前を見てナンパしてくる馬鹿がいるなんて思ってなかったからな」

「まあこれは仕方ないよね、馬鹿はどこにもいるもんさ」

「リオンは何も悪くないからね」

「ごめん、丁度全員の登録が終わって、プラカードを下に置いた直後だったんだよね」

「ああ、そういう事か、事故だ事故、まあせっかく集合したんだし、

とりあえずこの先にある『フェンリル・カフェ』って店を貸し切って、

そこで集めた情報を一旦まとめよう」

「フェンリルって北欧神話に出てくる狼の怪物だよな?

まるでうちの為にあるような名前の店だな」

「だろ?そう思ってチェックしておいたんだよ」

 

 そしてヴァルハラ・ウルヴズのメンバー達は、移動を開始した。

その店は街の中心にあるビルの五階にあった為、

一同は順番にエレベーターで上へと向かった。

 

「あら、随分とおしゃれなお店じゃない」

「内装とかも凝ってるな、おい」

「これを全部AIが作ったのか、商売あがったりだな、アルゴ」

「楽でいいじゃないかよキー坊、むしろウェルカムだウェルカム」

 

 リオンはリオンで、始めて入るゲーム内での店に興奮していた。

 

「うわ、凄いリアル……」

「でしょ、それじゃあ何か注文してみよっか」

 

 シノンがそうリオンに声をかけ、リオンはそのままハチマンの隣に腰掛けると、

シノンと一緒にメニューを見て、その種類の豊富さに驚いた。

 

「うわ、凄く種類が多いね」

「まあ味の基本データさえあれば、その組み合わせでかなりの数の料理を用意出来るからな」

「材料とかの現物を用意する必要もないしね」

「そっか、確かにそうだね」

「まあ実際に食べる訳じゃないし、お腹が膨れたような気になるだけだけどね」

「ダイエットになっていいんじゃない?」

「まあそういう考え方もあるが、依存すると健康を害するから気をつけろよ、リオン」

「確かに……」

「それじゃあ各自休憩しつつ、持ち寄った情報を整理するとしようか」

 

 ハチマンのその言葉で続々と情報が集まった。だが中々これという物件は無い。

いい感じに拠点に出来そうな物件はいくつもあったが、どうも決め手に欠けるのだ。

 

「これはやはりアレじゃないからか……」

「だな、アレが足りないな」

「ハチマン君キリト君、アレって?」

「ん?そんなの決まってるだろ」

 

 そして二人はお互いの意思を確認するように顔を見合わせた後、こう言った。

 

「「秘密基地だ!」」

 

 ハチマンとキリトが同時にそう言い、一同はその言葉にうんうんと頷いた。

GGO組もそのノリにちゃんと付いていき、うんうんと頷いていたが、

唯一リオンだけが戸惑っていた。まあこれは仕方ないだろう。

 

「おいアルゴ、一つだけ聞かせてくれ、この街に、そういった施設は存在してると思うか?」

「う~ん、AIはSAOの二十五層までの街データを参考にこの街を生成したはずだから、

多分あるんじゃないかとは思うんだよナ」

「そうか……よし、今度は普通の物件じゃなく、そういったポイントを重点的に調べよう。

とりあえずこの店の貸し切り時間がまだ二時間残ってるから、一時間後にここに集合な」

 

 その指示を受け、一同は再び街へと散っていった。

 

「リオンは俺とアスナと一緒に行くか」

「そうだね、それなら何があっても心配ないしね」

「お、お願いします」

 

 こうして三人も、街のあちこちを丹念に調べ始めた。


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