ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第667話 二人の武器選び

「うわぁ、空が青いなぁ」

「マイちゃん、こっちこっち!」

「あ、うん」

 

 しばらく空に見入っていたマイの手をエルザが引っ張った。

そして三人は、コラルの街の外れにあるヴァルハラ・ガーデンへと向かって歩き始めた。

 

「な、何かプレイヤーが多くない?しかも女の子が多い気がする……」

「まあいつもの事だよ」

「ここは観光名所になってるみたいだしな」

「か、観光名所?」

 

 その言葉通り、多くのプレイヤーが、正面にある塔のようなものを遠巻きに眺めていた。

そしてその視線は、次にこちらに向かってきた三人に注がれる事になる。

 

「凄く見られてるんだけど」

「まあこの道を通るのは、俺達しかいないからな」

「ここってば、うちの専用道みたいなものなんだよ」

「そうなんだ」

 

 塔の前の石畳の道は、プレイヤー間の不文律によって、

ヴァルハラ・リゾートのメンバーしか通らない事になっていた。

そして今、三人はその道を平気で歩いている。つまりはそういう事なのだ。

なのでその場にいるプレイヤー達は、そんな三人を興味津々で見つめているのだ。

 

「しかし顔を隠してる分、いつもよりも注目度が大きいか?」

「そうかもしれないね」

「この中で仮メンバーに登録したら、エルザとマイの名前がアナウンスされちまうな」

「面倒だけど、入館証をアイテム化してハチマン宛に発行するしかないね」

「だな、とりあえず注意を俺に引き付けるわ」

「どうやって?」

「こうやってだ」

 

 そしてハチマンはフードを外し、その顔をプレイヤー達に見せた。

 

「あっ、ザ・ルーラー様よ!」

「支配者様!」

「ハチマン様!やっとお姿を見る事が出来たわ!」

 

 ハチマンはそんなプレイヤー達に向けて軽く手を上げ、その場に大歓声が起こった。

それにより、プレイヤー達の視線はエルザとマイから完全に外れ、ハチマンに集まった。

 

「う、うわ、何か黄色い声が凄いね……」

「まあうちのリーダーと幹部連は格が違うからね、こうなるのは仕方ないかな」

「幹部って、誰?」

「黒の剣士のキリト、バーサクヒーラーのアスナ、絶対零度のユキノの三人だよ」

「へぇ、会ってみたいなぁ」

「そのうち会えるよきっと」

 

 そしてハチマンは塔の入り口で何か操作し、カード式の入館証を二人に差し出してきた。

三人はそれを使って塔の中に入り、ハチマンはやっと落ち着いたのか大きなため息をついた。

 

「はぁ、いつもの事ながら、相変わらずここは人が多いな」

「だねぇ、まあ仕方ないんじゃないかな?」

「びっくりしました、本当に凄かったです」

「まあ驚くよな……さて、上に上がるか」

 

 そして螺旋階段を上り、館が見えてくる頃、中から四人の人物が姿を現した。

 

「お~い、ハッチマ~ン!」

「誰がハッチマンだ、俺はハチマンだ」

「ハチマン、そのギャグは面白くない」

 

 最初にそう声をかけてきたのはリズベットだった。

 

「ハチマンさん、お待ちしてました」

「おうナタク、何か面白い武器は出来たか?」

「はい、リズさんと共同で色々取り揃えておきました!」

「悪いな、二人ともありがとな」

 

 次にナタクが朗らかな表情でそう言った。次に前に出てきたのはスクナである。

 

「待ちくたびれたわよ」

「悪い悪い、相変わらず人が多くてな」

「フン、鼻の下を伸ばしてるんじゃないわよ」

 

 スクナは不愉快そうにそう言ったが、

それはどこからどう見てもヤキモチを焼いているようにしか見えなかった。

 

「スクナは相変わらずツンデレだよねぇ」

「な、何よロビン……じゃなかった。今はエルザだったわね、

べ、別に私はそんなんじゃないから」

「それ、シノノンとスクナの共通の口癖だよね?」

「く、口癖?い、いや、確かにそうかもだけど、それはそのままの意味だから!」

「はいはい」

 

 そして最後にユイが、妖精姿でヒラヒラとハチマンの肩にとまった。

 

「パパ!」

「おうユイ、スクナが怖くなかったか?」

「なっ……」

「パパ、冗談でもそんな事を言っちゃだめですよ、スクナさんは本当に優しいんですから」

「ああ、そういえばこいつは重度のシスコンだったわ」

「あ、あんたね……」

「まあまあスクナちゃん、そのくらいで、ね?」

 

 スクナはぷるぷると拳を振り上げようとしたが、エルザに窘められてその手を引っ込めた。

 

「ユイ、今日はキズメルがあっちか?」

「うんパパ、あっちにいますよ」

「そうか、それじゃあ今日は、マイさんの事はお前に頼むな」

「任せておいて下さい!」

 

 そこで名前が出た事で、マイが一歩前に出て、四人に挨拶をした。

 

「しばらくお世話になります、マイです、宜しくお願いします」

「おお、本物だ……」

「当たり前だろ」

「後でサインして下さい!」

「スクナって意外にミーハーだよな」

「ハチマンさんの人脈はさすがですよね……」

「俺というか、会社絡みだけどな」

「ハチマン!早くマイちゃんに中を見てもらおうよ!」

「おう、そうだな」

 

 エルザが待ちきれないという風にハチマンにそう言ってきた。

どうやらマイに、ヴァルハラ・ガーデンの中を自慢したいらしい。

そして中に入ったマイは、その内装を見て目を輝かせた。

 

「うわ、凄い広い!それに豪華!」

「ふふん、でしょでしょ?」

「まさかこんな事になってるなんて、想像もしなかったよエルザちゃん」

「もっと褒めて褒めて!」

「凄いなぁ、これが最強と呼ばれるギルドの本拠地なんだ」

「この中を直接見た事のある人って、メンバー以外だと数人しかいないんだよ!」

「そうなんだ、それは光栄だなぁ」

 

 マイが本当に嬉しそうだったので、それを見ていた他の者達も嬉しくなった。

これが女優、桜島麻衣の持つ魅力の一つなのだろう。

そして一同はリビングのソファーに腰掛け、実務関連の相談を始めた。

 

「最初はやっぱり武器をどうするかだよね」

「CM撮影だし、やっぱり派手なのがいいのかな?」

「そうなると、二人とも大剣、もしくはいくつかの武器をとっかえひっかえがベストかな」

「性能はいまいちでもいいから、派手なエフェクトを出す武器や防具が必要か」

「いくつか作ってあるわよ、いわゆるネタ武器」

「おお、それじゃあ訓練場に移動するか」

 

 職人組の提案を受け、一同は訓練場へと向かった。

その途中で、ハチマンはエルザとマイにこう尋ねた。

 

「ところでそのキャラ、ステータスはどうなってるんだ?」

「う~ん、中の上くらいで、平均化されてる感じかな」

「なるほど、どんなスタイルもとれるようにか」

「本気武器はちょっと装備出来ないかも、でもまあネタ武器なら大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、必要ステータスは低いですから」

「なら安心だね!」

 

 訓練場についた後、その場には早速色々な武器が並べられた。

大剣、大鎌、鉄扇、鉄鞭、それ以外にも、

ハチマンでもよく分からない武器が多数並んでいた。

 

「とりあえず色々使ってみるか」

 

 ハチマンはそう言いながら、順に武器を試し振りしていく。

 

「大剣は慣れてないが、まあ普通に派手だよな」

「慣れてない……?」

「剣筋が凄まじく速いんですけど」

「ん、何だこのボタンは」

 

 ハチマンはそう言って何かを操作した。その瞬間に剣の腹に刻まれていた文字が発光した。

 

「おお」

「格好いい!」

「まあ何の効果も無い、ただの演出ですけどね」

「おお、やっぱりこういう武器っていいよな」

 

 ハチマンはしばらくそれをブンブン振り回した後、それを地面に突き刺した。

 

「ふ~む、こんな感じか」

「ハチマンって、そんなの大剣の扱いが上手かったっけ?」

「いや、単にこれが軽いだけだ、だから例えまともにヒットしても、

威力も大した事はなかったはずだぞ」

「あ、そういう事なんだね」

「まあネタ武器ですからね」

 

 そしてハチマンは、どんどん色々な武器を披露していった。

 

「大鎌か」

「今度は剣そのものじゃなく、剣筋が光るんだ」

「ゆらゆら揺れて、死神の鎌っぽいね!」

「鉄扇は……扱いが難しいな、開け閉めするタイミングがよく分からん」

「格好つけたい時に開けばいいんじゃない?」

「それか身を守る時ですかね」

「まあCMなんだし、開きっぱなしでもいいか」

 

 その鉄扇は攻撃がヒットした瞬間に光る仕様になっているようで、

地味な見た目に反し、その戦っている姿はとても華麗に見えた。

 

「鉄鞭はただのしなる棒だよな」

「長さもそれほどじゃないしね」

「さて、これはどうなるのか……」

 

 ハチマンはそう呟きながらボタンを押した。

その瞬間に鞭の先端に氷の結晶のようなエフェクトが現れ、

鞭を振るう度にそのエフェクトが周囲に散らばっていく。

 

「おお?」

「ぷっ、ハチマンが氷の妖精とかまったく似合わないんですけど」

「リズ、後で覚えてろよ」

 

 そう言いながらもハチマンは、真面目に武器を振るい続けた。

 

「で、ここからは俺もよく分からないんだが、

このぶ厚いバームクーヘンみたいな物体は何だ?」

「ロケットパンチです」

「……すまんナタク、もう一回言ってくれ」

「ロケットパンチです」

「え、マジで?」

「はい、それを腕に装着してこう叫んで下さい、『飛ばせ鉄拳、ロケットパンチ!』と」

「マジかよ……」

 

 さすがのハチマンも、それは恥ずかしかったらしい。

しばらく逡巡した後に、ハチマンは諦めたような顔でこう叫んだ。

 

「飛ばせ鉄拳、ロケットパンチ!」

 

 その瞬間に腕にはめた円筒部分が高速回転し、目標へ向かって飛んでいった。

 

 ゴガン!

 

 という音と共に、その円筒は見事に標的に命中し、

その二本の円筒部分は、勢いよくハチマン目掛けて戻ってきた。

 

「うおおおお、怖えよ!」

 

 だがその円筒は見事な軌跡を描いてハチマンの両腕にはまり、

ハチマンは手に直撃しなかった事に心底安堵した。

 

「何よハチマン、そんなのが怖いの?」

「その喧嘩、買ったぞリズ、ちょっとお前、自分でやってみろ」

「え?」

「大丈夫だ、全然怖くない、さあやってみろ」

「え~っと……」

「いいからさっさとやれ」

「う、うぅ……」

 

 口は災いの元とはまさにこの事だろう。早速のハチマンの仕返しのターンである。

 

「そ、それじゃ行くよ、と、飛ばせ鉄拳、ロケットパンチ!」

 

 リズベットが渋々と言った感じでそう叫ぶと、先ほどと同じように円筒が目標に命中し、

くるりと回ってこちらに戻ってきた。

 

「う、う、うわあああああん!」

 

 リズベットも怖かったのだろう、そう絶叫してバンザイの格好になったが、

円筒は見事にその動きをコントロールし、リズベットの両腕にはまった。

 

「はぁ、はぁ……」

「どうだ、怖かっただろ」

「う、うん、想像以上だった……ごめん……」

 

 さすがのリズベットもよほど肝を冷やしたのだろう、素直にそう謝った。

 

「さて、次はこれだが……」

「バル・バラです」

「え?まじで?」

「はい、ホーミングブーメランです」

「おぉ……」

 

 バル・バラの元ネタが出てくる作品は、ハチマンとキリトのお気に入りであり、

特にキリトはその技を度々パクって使用している常習犯なのである。

一例として、剣の衝撃波と共に敵の懐に飛び込む、

ブレイクダウン・タイフォーンもどきという技があげられる。

そしてこのセリフからして、どうやらナタクもその一員のようだ。

ハチマンはわくわくした表情でそれを目標に向けて投げつけ、

それは美しい軌道を描きつつ、光のエフェクトを発しながら目標に命中し、

そのままジェット噴射をして軌道を変え、見事にハチマンの手元に戻ってきた。

 

「おお」

「何か格好いいね」

 

 だがそんな賞賛にはまったく反応せず、ハチマンはこう言った。

 

「使えん」

 

 ハチマンはそのままバル・バラを下に落とし、続けてこう言った。

 

「まったくうちのナタクときたら、思い付きでこんな武器ばっか作っちゃってさぁ」

 

 その言葉にリズベットを始め、他の者達は思わず唖然とした。

だが当のナタクは、それを見た瞬間に割れんばかりの拍手をした。

 

「ハチマンさん、続きもいけます!」

「マジかよ、ナタク、信号弾!」

「はいっ!」

 

 イコマは事前に用意していたのだろう、本当に信号弾を上げた。

それは朱色、草色、桃色の三色であった。

 

「バーミリオン(朱)、グラスグリーン(草色)ピンク(桃)!」

「ナタク、早く調べろ、敵か味方か?」

「朱色はヴァルハラ、グラスグリーンは攻撃隊!そしてピンクは……」

 

 そして二人は同時に叫んだ。

 

「「アイシャ様だ~!!!」」

「あはははは、あはははははは」

「ナタク、よくやった!パーフェクトだ!」

「はい、準備しておいた甲斐がありました!」

 

 そんな二人の寸劇を、他の者達はポカンと眺めていた。

 

「な、何あれ……」

「私達には分からない世界ね」

「どうもヴァルハラ・コールの元ネタみたいだけど」

「まあ楽しそうだからいいんじゃない?」

「パパ、凄く嬉しそうです!」

 

 ハチマンとナタクの笑い声が周囲に響き渡る中、

他の者達は冷静にどの武器を選ぶか相談し始め、

エルザは大鎌とロケットパンチを、そしてマイは鉄扇とバル・バラを、

それぞれ同時装備するという事が決定された。

ちなみにバル・バラを選んだマイが、その真面目さ故に出典を調べ、

その出典元のマンガにはまったのはまた別の話である。


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