西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 だいたいあらすじで書きましたが、オリ主ものです。
 多くのガルパンおじさんのガルパン2次に影響されて手慰みで書き始めましたが、もはや何番煎じどころか煎じすぎて味もしていない有様のアレです。

 オリ主モノが苦手な方はご注意したうえでプラウダバック、もといブラウザバックして下さい。


10年前のお話

「泣き止みなさい」

 

 未だ幼い少年の代わりに少年の母の葬式を取り仕切った、少年の母の友人だという女性は、険しい表情でそう告げた。

 告げられたところで母を亡くしたばかりの7歳の少年に対しては、まるきり逆効果で泣き叫ぶ様を拡大させるだけであるのだが。

 

 しかし、言った女性―――年の頃20代の半ば程度の喪服の女性だ。艷やかで長いストレートの黒髪と、無表情に近いがどこか威圧し睨みつけるような、意思の強そうな美貌。真っ黒な喪服に包まれた身体つきは、未だ少年からはそのような評価など出ようはずもないが、モデルのようにスラリとした長身で、しかも出るとこは出た妙齢の美女である。その彼女からすれば予想外の反応だったのだろう。

 威圧するような視線はそのままだが、眉根を寄せるような表情を浮かべ、その柳眉が八の字に変わる。彼女をよく知る者、例えば彼女の夫である西住常夫(婿養子)だったり、彼女の友人“であった”亡くなった故人であれば、『困っている』と表現するであろう表情だ。

 

 つまり、彼女―――西住しほは、早逝した友人の遺児が大泣きしているのを前にして、どうして良いのか分からずに困り果てているのである。戦車道というこの世界においては一般的な女子スポーツにおいて麒麟児であり、努力家であり、文武両道そつなくこなす彼女だが、『泣く子をあやす』というのは苦手分野だ。

 彼女自身が二児の母であるのだが。さて、自分の子供が転んで泣いた時のように、抱きしめて撫でてやれば良いのか。彼女の子は両方共に娘であるため、娘と同年代の少年というのは彼女からしても中々のプレデターである。

 

「彼女には―――貴方のお母様には、貴方のことを頼まれています。奔放なあの子に懇願されるなんて、思ってもいませんでした。……もっと早く、頼ってくれれば」

 

 しかしそれでも、放置は出来ず。なんとかコミュニケーションを取らねばと、彼女からすれば清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟で言った内容は、しかし半ばから独白に変わる。

 高校卒業後すぐさま結婚し、実家である西住流戦車道の道場へ戻り、戦車道に子育てにと明け暮れた彼女だが。高校時代の旧友にして悪友―――彼女も自分同様に早婚したものが、離婚して母子家庭となり、働きすぎで身体を壊した挙句の早逝などとは、知らせを聞いた西住しほをして動転させるに足るだけの内容だった。

 友人が死の前日に、病院の看護師に頼んで出していたという彼女宛ての手紙も同様だ。

 

『自分は父も母も亡くなっており、頼れる親類は既に居ません。友人からの頼みとしては重いに過ぎるだろうけど、どうか私の子を貴方の元で育てるか―――無理ならば、信頼できるご家庭を探し、預けて頂く事は出来ませんか。

 貴方には貴方のご家族が居るのは分かっています。それでもどうか、お願いします』

 

 奔放で彼女を振り回すようだった友人らしくない、弱々しい筆致と文章の便箋を見て、大慌てで彼女が入院しているという病院に電話したところ、その日の朝に亡くなったと聞いた時には流石の西住しほをして、電話を手にしたまま膝から崩れ落ちかけた。

 遺族は7歳の少年のみで、遺産らしい遺産もなし。病院としても葬儀等の対応に悩んでいる様子だったので、故人からの手紙の話や自分が彼女の友人だったという話をして、葬式を自分の方で執り行えないかと申し出た。

 病院側も最初は何事かと思ったようだが、西住流本家の名が出た瞬間に話がトントン拍子で進みだした時には、分かっていたはずだが社会的地位の便利さというものを思い知ったものだった。

 

 ともあれ、少年が実質的に喪主を務められないため、そのような事情もあって彼女が弔問客への対応などを行って、葬式も無事に終了。主に学生時代の戦車道仲間が大勢訪れた葬式の後に、やっと落ち着いたところでの少年との対話。

 しほとしては悪友の最後の頼みを聞き受ける方向で考えており、家族にもそれを話して了承は取っている。まだ幼い娘達には細かい事情は伏せたし、理解しているかは怪しいのだが、問題の少年個人にはどのように説明したものか。

 

 言い方と相手の反応を脳内でシミュレートするしほだが、そのシミュレートも戦車道の時ほど上手く行くものではない。流石に二児の母であり、夫との恋愛結婚もあり、高校時代には黒森峰女学園の隊長として部隊を取り仕切っていたため、逆にそれらの経験から彼女としても自分がこの手のコミュニケーションが上手い方ではないのは自覚している。

 正確に表現するなれば、車長や隊長という上に立つ立場として誰かに信頼され従わせるのは得意なのだが、娘の幼稚園のママ友から飛び出すアイドルグループやドラマの話題には鉄面皮を維持しながらも内心で「?」となる事もあり、夫との恋愛は故人の言葉を借りるならば『あの時のしほは戦車というよりパンジャンドラム。自爆兵器、かつ動力はロケットで方向転換不能という意味で』と言われる有様だった。

 要は、西住しほという人物は余りに女傑過ぎて、ある意味においてこの手のコミュニケーションに不慣れで、非常に浮世離れしているのである。

 

「……ひっく……もしかして、お姉さんが西住さんって人……?」

 

 しかし、『貴方の事を母に頼まれた』というフレーズに対し、少年がしゃくりあげながらも顔を彼女に向けてきた。

 我が意を得たり。これぞ勝機と言わんばかりに、しほは重々しく―――ここで柔和な表情など作れない辺りが西住しほが西住しほたる所以であるが、頷きを返す。

 

「ええ。そういえば、『お母さんの友人』としか名乗っていませんでしたね。西住しほです」

「恋愛パンジャンドラムの?」

 

 あのアマ。

 荼毘に付されて墓に入った友人に対して内心で毒づきながらも、しほはぎこちなく頷いた。言葉で肯定をしないのはその評価へのせめてもの抵抗であるが、ここで違うと言えば更にややこしくなるという確信があったが故の苦渋の決断である。

 

「そっか」

 

 そして、西住しほ覚悟の『恋愛パンジャンドラム説への消極的肯定』に対して、少年は納得したように小さく呟き、ぐすりと鼻をすすり上げた。

 

「もし―――もし、その人が来てくれたらもう大丈夫だって、お母さんが言ってた」

 

 だって、と一拍。

 真っ赤になった目元を、安物の子供服の袖で拭い。

 

「西住しほさんは世界一凄い人なんだって。お母さん、いつも言ってたから」

「―――………なら、もっと早く連絡してくれれば」

「テレビとか新聞とかで、西住しほさんって名前が出たら、お母さん喜んで。邪魔、したら、いけないって言ってて―――」

 

 言っているうちに、在りし日の母の姿を思い出したのだろう。

 母子家庭の苦労か母の教育か、泣き止めば語り口調や言葉選びは年相応以上にしっかりしていた少年が、またしゃくりあげて泣き始める。

 だが、しほは今度は対応に迷うことなく、少年の高さに合わせるように膝をつき、抱きしめた。

 

「もう大丈夫です」

「―――っ!!」

 

 あとはもう、言葉にならず。母を呼んで泣き叫ぶ少年を、しほは泣き疲れて少年が眠るまで、ずっとずっと抱きしめ続けた。

 自分を遠くから応援し続けてくれた悪友であり、旧友であり、学生時代を共に過ごした仲間。

 そんな相手の、忘れ形見を。

 

 ―――これは少年、宮古修景が西住家で暮らすことになるほんの少しの前のこと。

 中学に上がり学園艦の寮に入るまでの間、幼馴染として過ごす事となった西住まほ、西住みほという姉妹と出会うほんの少しの前のこと。

 

 そして黒森峰女学園が10連覇を逃がし、その決定打となってしまった西住みほが逃げるようにして大洗へと転校する―――物語の始まるおよそ10年前のことであった。

 




スピンオフコミック『もっとらぶらぶ作戦です!』の弐尉マルコ氏の漫画を見てWorld of Tanks(※ガルパンとコラボしているネットゲーム。戦車のやつ)をやり始めて幾星霜。
心の師匠であるローズヒップ師匠のような動きはクルセイダーでは出来ません。

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