西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 そろそろ原作5話に入ります。
 戦車喫茶であんこうチームとまほ、エリカが接触するイベントですね。

 この辺り、事前情報の差+宮古君という異物の存在もあって、少し展開変わります。


少年、抽選会に連行される

 さて、全て世は事も無し。少年少女の喜怒哀楽など関係なく、月日は進む。

 

 修景がしほから盛大な説教を食らい、主に行動の無計画さを叱られている頃には、大洗と聖グロリアーナの練習試合も終了し、内容としては下馬評通り聖グロリアーナの勝利となった。

 しかし大洗も5対5の殲滅戦で、聖グロリアーナの最終残存車両が隊長であるダージリンの乗るチャーチル1両だけだったという事まで考えると、大善戦をしたと言って良いだろう。とはいえ、その成果の殆どは大洗の隊長車である、西住みほが車長を務める四号戦車による成果なのだが。

 

 その結果を聞いた時の西住家の面々の反応は、『それくらいは当然』という表情を崩さないしほ、『よく頑張った』というメールを妹に送りたいが、これまでの経緯もあって送れなくて右往左往した挙句に諦めたまほというものである。

 父であり整備士である西住常夫は寡黙な人物であり、修景以上に戦車道に口を出すことは少ない為、こちらは無反応。とはいえみほに友人ができたと聞いた時には顔を綻ばせていたそうなので、家族の情や心配はしっかりとあるようだ。

 

 そして西住家の最後の一人、或いは半分くらい西住家な宮古家の最後の一人。ある意味最も気軽にみほにコンタクトが取れる立場である宮古修景はというと、こちらは直接みほとも顔を合わせているので、気負いなくメールを送っていた。

 

『お疲れさん。結果は聞いてるが、まぁ練習試合なんだし負けても気に病むなよ。つか善戦したっぽいし良くやった。ところでこのメールで最も重要なとこなんだけど、お嬢様学校ってやっぱり可愛い子居た?』

『お兄ちゃんそのメール後半必要?』

 

 などという心温まる兄妹のメールのやり取りがあり、妹からの視線は遂に氷点下に突入せん勢いであった。概ねいつもの事である。

 

 なお、その練習試合の顛末に一番劇的な反応を示したのは、やはりというかなんというか、西住家の人物ではなく逸見エリカだった。

 人づてに結果を聞いて荒れ狂う彼女と修景のLINEでの会話を抜粋しよう。

 

『なんだって負けてるのよ! 確かに聖グロリアーナは隊長のダージリンさん含めて強いけど、布陣を見るにクルセイダーも出してきてないじゃない!』

『そのダージリンさんって可愛い系? 綺麗系?』

『でも隊長車であるみほの車両だけで3両撃破というところは流石ね。まぁ当然ではあるけど、あの子の指揮に見合うだけの搭乗員が多少は居るのかしら』

『みほに写メとかあるかと聞いたら拒否られたんだけど、逸見さん持ってない? お嬢様学校って男子校的にマジ気になる』

『でも仮に私があの子の僚車に居たなら、逆に圧勝していたのに……!!』

『名前から察して西洋系の人かとも思ったんだけど、考えてみりゃ聖グロの幹部級って紅茶の名前で呼び合う習慣あるからわっかんねぇんだよなぁ。その名前で黒髪和服純和風とかも御嬢様っぽくて中々アリか?』

 

 前言を撤回する。これを会話と呼ぶのは憚られる。世の『会話』という概念に失礼だ。

 概ね双方言いたいことしか言っていない為、言葉のキャッチボールではなく言葉の砲丸投げである。LINEの既読マークは付いているが、双方ともに相手の言っている内容を自分の頭に入れているかは著しく怪しい。

 

 なお、最終的にその会話と呼ぶのも憚られる言葉の打ちっ放しは、互いに概ね言いたいことを吐き終えた後に、

 

『そういや黒森峰もお嬢様学校だったわ。まほとか逸見さんとか見てると忘れそうになるけど』

『最近はセクハラの概念って結構幅広く適用可能なんですよ宮古先輩』

 

 などと言った辺りで修景が平謝りをして終了と相成った。

 宮古修景と逸見エリカ、互いに西住家に縁深く関わっている者同士、みほや―――或いはみほが居なくなった為に双肩にかかる負担と責任が地味に、しかし大きく増えているまほについての情報交換を中心に、割合とLINEやメールで良く話すようになっていた。

 

 先の言葉の遠投のように中身がない会話、或いは会話と呼ぶのも憚られる雑なやり取りも多いが、修景とまほが話す時は更に中身が無い事が多いので、気にしてはいけない。

 むしろ修景とまほのLINEは、みほの話題や西住流に関する相談、その他の真面目スイッチが入る話題でない限りは無法地帯だ。

 以下、その会話を抜粋しよう。

 

『今日の3限、体育』

『腹減った早弁したい』

『おい弟、私のメモを余計な発言で流すな』

『おい姉、LINEは手前のメモ帳じゃねぇんだよ』

『お前の空腹状況こそどうでも良いから、勝手に食べていてくれ。それより今日はソフトボールの授業なのだが、何かアドバイスはあるか?』

『人体急所をよく理解しておけ。容赦は無用だ』

『弟。お前の頭の中で、ソフトボールと殺人拳の区別がちゃんとついているのか姉は心配だぞ』

『分かった分かった。じゃあもうちょい詳細に……。ソフトボールというよりウチの学園艦の体育祭なんかでやる対抗戦野球の、代々紅組に受け継がれてきた訓示だ。勝てないと思ったら選手全滅による勝利か、乱闘による有耶無耶を狙ったほうが良い。デッドボールはどうせ当てるなら急所を、そして敵主力を狙え』

『弟。お前の学園艦で、野球と殺人拳の区別がちゃんとついているのか姉は心配だぞ!?』

 

 前言を撤回する。これを会話と呼ぶのは憚られる。世の『会話』という概念に失礼だ。

 一応互いにやり取りが成立しているために言葉の砲丸投げではないが、なまじ双方向でのやり取りが成立しているだけに、言葉のキャッチボールではなく言葉のデッドボールというべき有様である。互いに遠慮も容赦も無いため、様々な意味で残念な事に、この調子がいつもの事だ。

 まほを半ば崇拝するエリカが見たら、卒倒しそうな雑な会話である。いや、最近のあれこれでエリカも薄々まほの隠れた残念さも察しているきらいがあるので、むしろ納得して溜息を吐くかもしれないが。

 

 ともあれ宮古少年周りは、まほやエリカ、みほと適度な、或いは無意味極まりないやり取りを挟みつつ、進学に向けての模試や学力テストで忙しく日々は過ぎていき。

 その間に、戦車道全国大会の抽選会の日を迎えたのだった。

 

 

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「戦車喫茶に行きたい」

 

 関東で行われた戦車道大会の抽選会に向かう前。黒森峰学園の戦車ガレージに併設されたブリーフィングルームで、意外にもそんなことを言い出したのは西住まほだった。

 ブリーフィングルームと言えど、その時は大した話をしていたわけではない。戦車道の大会の抽選会に行く日程について、黒森峰の代表として行く隊長(まほ)副隊長(エリカ)で、何時の便で行って何時の便で戻るか、宿泊はどこに泊まるかと、備え付けのパソコンで旅行サイトやJRの公式サイトを見ながら話し合っていただけである。

 

 他の面々は練習も終わって既に解散。この場に残っているのはまほとエリカだけだ。

 戦車道は選択科目、つまりは学業であるので、抽選会場まで行く旅費も宿代も学校のお金ではあるのだが。貴重な土日に関東まで行かされるこれを『お金を払わず関東旅行に行けるチャンス』と見るか、『休日が潰される罰ゲーム』と見るかは受け取る人物の感性によるだろう。

 

 そして、エリカはどちらかと言えば自分を旅行を楽しむ性質の人物ではないと思っており、まほもそのタイプだろうと当たりをつけていたのだが、存外とまほは楽しそうに―――よく見ないと分からない程度の表情の差だが―――旅行パンフなどを手に、Google先生の地図検索機能を駆使して目的地を示している。

 どうやら隊長殿は案外と旅行などを楽しめるタイプの感性をしているらしい。そしてその黒森峰の隊長殿は、旅行パンフに付箋付きで印を付けていた戦車喫茶、特に赤ペンでマルを付けた戦車ケーキが目に付くページを開きながら、エリカに視線を向ける。

 

「抽選会場の近くに、評判の良い戦車喫茶があるんだ。大会の抽選会が終わった後にでも寄っていきたいんだが、エリカはどう思う?」

「はぁ、それは構いませんけど」

 

 抽選会はそう大人数で行くものではない。くじ箱の中からトーナメントの番号を決めるくじを引くだけなので、別にそう人数が必要な話でもないのである。極論、誰か一人でも行けば良い。

 基本は隊長、或いは代表者が来ることになっていたが、過去には都合がつかなかった学校があったので、「じゃあ余った番号はアンツィオで」という時もあったそうだ。

 ちなみにその時の都合がつかなった理由は、日程の勘違いだったらしい。流石アンツィオである。

 

 ちなみに学校によれば大人数で来るところもあるが、黒森峰は会場が遠いこともあり、伝統的に隊長と副隊長の2人だけで抽選会場に行くことになっている。

 その為、西住姉妹が隊長副隊長を務めていた去年は、西住姉妹による姉妹旅行の様相を呈していた筈である。

 それを想像したエリカは、少し眉間に皺を寄せて、尊敬する隊長に問いかけた。

 

「……去年も、みほとそういう所に行ったんですか?」

「いや、去年はそれどころじゃなくてな。他にも関東の戦車博物館や戦車ショップ、その他にも行きたいところが多すぎて、最終的にはみほが疲れ切って『タクシーの中で待ってる。少し寝かせて……』などと言い出した」

 

 ちなみに博多⇔東京駅までを参考にすると、新幹線で5時間。昼に抽選会があることを考えると朝一番に東京に向かい、更に抽選会場のある市までの乗り継ぎがある。

 抽選会は土曜日なので、抽選会終了後は自由時間とその後の宿泊が取れるが、それにしても長距離移動は慣れていない人間にとっては相当に体力を使う。

 ただでさえハードなそれを、更に日中を市中引き回しの如く戦車ショップや博物館に連れ回されたみほの疲労は推して知るべしである。

 

「隊長の旅行に関する無計画さに、宮古先輩との確かな姉弟の絆を感じました。無理のない日程にしましょうね今年は!?」

「うん、去年はそういう行きたい所はだいたい回ったので、今年は戦車喫茶と他数か所だけで構わない」

「構います。いったいどこを回る気ですか。むしろ去年はどれだけ回ったんですか。不慣れな場所で公共交通機関を使いこなすのは大変ですし、タクシーで回ると出費が凄く嵩みますよ。というか去年はあちこちタクシーで回って出費は大丈夫だったんですか」

「うん、去年はそれでお母様に大目玉を食らった」

 

 『タクシーというものがあそこまで高いとは』と頷く隊長に、エリカは底知れない箱入り娘(ブラックボックス)感を感じた。エリカも良家の子女ではあるのだが、感性は明らかにまほの方が浮世離れしている。

 慄然と『これは私がしっかりしなければ』と感じたエリカは、奪い取るようにパソコンの前をまほと代わり、手慣れた操作で新幹線や周辺公共機関の日程などを確認していく。ネットサーフィンが日課なエリカは、パソコンの扱いには長けている方だ。

 

「……あっちも行きたいこっちも行きたいとなると、公共交通機関だけじゃ手が回りませんね、これは」

「公共交通機関を使わなければ?」

「タクシー使えば行けるかもしれませんけど……。隊長、去年師範に怒られたんじゃないですか? タクシー使ったなんて知られたら怒られますよ」

「大丈夫だ。私に考えがある」

 

 自信満々に言い切った西住まほに、逸見エリカはこれまでにない嫌な予感を感じた。

 喩えて言うならば、トランスフォーマーの司令官が『私にいい考えがある』と言い出した時。喩えて言うならば、ヤムチャがサイバイマンに挑む直前。

 しかしそれでも、逸見エリカは西住まほに対する信頼から、敢えてそれを否定することを躊躇い、小さく釘を刺す程度に留めた。留めてしまった。

 

「……今月、お小遣いが厳しいんで、全部タクシーなんていうのは勘弁して下さいよ? 隊長だって、去年がっつり怒られたっていうなら、今年師範から出るお小遣いは最低限になるでしょうし」

「大丈夫だ、抜かりはない」

 

 そう言い切ったまほに押し切られる形で、『じゃあ……』とでも言うようにして、戦車喫茶への同行を了承したエリカ。

 そしてその次の土日。抽選会場へ向かう新幹線にて―――

 

「……どうも」

「……いえ」

 

 2人掛けのシートの斜め向かいという、いつぞのレストランの時と同じ配置にて、ワイシャツとジーンズ姿のラフな格好の修景(財布)と黒森峰の制服姿のエリカは、形容しがたい表情で挨拶を交わし合った。

 エリカの横、財布(修景)の対面というポジションに座る制服姿のまほは、旅行パンフを片手にご機嫌に―――ただし、表情はいつもの鉄面皮のまま―――小さく鼻歌などを歌っていたのだった。

 

 

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 西住しほは、西住みほをきちんと、それも存外に強く気にかけている。

 これは最早西住家の人間や、そこの使用人の間では周知の事実だ。

 

 立場もあるので表立って接触はしていないし、自分が叱り飛ばしてトドメを刺した経緯から今更連絡も出来ず、更にはみほからも―――まだ彼女側がそこまで吹っ切れていないため、連絡も来ない。

 そういった状況で、みほと気楽に連絡が取れる修景を通して得られる情報に一喜一憂し、時には夫に対して晩酌ついでにその内容について、時に嬉しそうに、時に心配そうに語っている様は、『菊代さん』と呼ばれる使用人―――しほにとっては黒森峰時代からの友人であり、西住流の仲間でもある―――などには、非常に微笑ましく見られている。

 

 そんな彼女に対し、修景が『抽選会に来るだろうみほの様子を見に、土日に関東に出向いていいですか?』と問えば、結果はどうなるか。

 下の娘を気にかける母は、学園艦に通っている息子の口座に軍資金を振り込んで、更に息子に『ご友人達にも宜しく言っておきなさい。お土産も買っていくこと』とメールを送ったのである。

 

 ちなみに、修景としては当初は別にみほの様子を見に行くつもりは無かった。無かったが―――直前にまほから相談を受けていたのだ。

 曰く、『会場などでみほと顔を合わせた時、どうすれば良いか分からない。暇ならばみほの様子を見に行くついでについて来てくれないか?』

 

 その言葉は半分は本音であろうが、半分は詭弁である。主に修景という母から資金援助を受けられるナイスなお財布を確保する為の。

 しかしその詭弁を抜きとしても、実際のところまほとしては仮にみほと顔を合わせる事になった時にどのような事を言えば良いか分からないし、みほに対して明確な隔意を抱いているエリカまで横に連れていては世事に長けていない自分の手に余るという、現実的な判断もあったのだろう。

 その辺り、修景は既にみほ、並びにその友人らとも接触済みであり、エリカとの交友関係も有る為に口下手なまほよりも適任だ。つまり、いざという時の為の防波堤である。

 

 そしてその相談を受けた修景は、『ついでに戦車喫茶とか回るんでついて来い』というまほの言葉から、半分くらい財布確保が目的なのを察しながらも、まほ側の残りの半分の本音―――つまりはみほと接触した時の不安も察しては居たためそれを了承。後見人であるしほに『みほの様子を見に行くこと』を打診した結果が、この状況である。

 まほ、エリカ、修景の全員が抽選会場に向かうことになる為に、当然のごとく黒森峰組と修景は同道となる。修景もそれは知っていた。知っていたが―――

 

「……私、宮古先輩が来るって知らなかったんですけど」

「……俺、逸見さんが来るって知らなかったんだが」

 

 形容し難い半笑いで、頬をひくつかせるエリカと修景。

 両者の言葉を聞いて旅行パンフから顔を上げた西住姉は、いつもの真顔で重々しく頷いた。

 

「ああ、そういえば言ってなかったからな」

「言って下さい! 私、宮古先輩が居て何事かと思いましたよ!?」

「てっきり行くのまほだけだと思ってたわ! 黒森峰って副隊長も抽選行くんだね畜生! 他にも同行者居るって知ってりゃもうちょっと良い服着てきたわ!!」

 

 そして某レストランでの経験から、『小声で叫ぶ』という離れ業を習得したエリカと修景の突っ込みが、西住まほへと突き刺さった。

 なお、効果は今ひとつであった。

 




 次回、戦車喫茶!! 遭遇、あんこうチームと黒森峰!!
 何故か居る修景! っていうか戦車喫茶女の子ばかりなので普通に居心地悪そうな彼の明日はどっちだ!!

 次回、修景死す! デュエルスタンバイ!!

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