西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 思うだけで、まだ行かない。
 あと、しほママが比較的マイルドですが、戦車道の師範として見せる顔と個人として見せる顔があるようでもあり、公式スピンオフで『しぽりん』『ちよきち』と島田さんちのお母様と呼び合ってるのに近いようでもあり。

 ちなみにその『もっとらぶらぶ作戦です!』の設定を正史とする場合、しぽりんは娘と13歳までお風呂に入っていたそうです。

 ちなみに今更ですが、宮古くんの名前は「みやこ しゅうけい」です。


少年、大洗に行こうと思う

 さて、西住流戦車道といえば、数ある戦車道の流派の中でも特に長い歴史と伝統を誇るものである。島田流と双璧を為す、日本戦車道の代表と言って良い流派として知られており、世界的にも知名度が高い。

 

 撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し。鉄の掟、鋼の心、それが西住流―――とは、西住流宗家にして師範である西住しほの言葉だが。

 とにかく基本に忠実に、重火力と重防御を活かした突撃・殲滅を得意とする流派。基本に則り突き詰めた王道戦術、故に強いというタイプのものだ。命令系統の徹底まで含め、軍隊に近いノリの流派である。

 

 対照的なのは、日本において西住流と双璧を為す島田流。状況利用や臨機応変を得意とした、ある人物の評価を借りるならば「ニンジャ戦術」。

 西住流を侍とするならば、島田流は忍び。西住流の戦い方を軍隊とするならば、島田流の戦い方はゲリラと言うべきだろう。

 

 無論、双璧と言われるだけあってそのどちらが良いというものではなく、編成や状況、或いは流派を修めている者の腕次第で勝敗はまちまち。

 西住しほと島田千代という当代の両家の宗家跡取り娘は年代が全く同じという事もあり、学生時代から鎬を削っていたが、これについては総合的に引き分けというところだろう。

 これは当人らも歯噛みしながらも認めるところで、なんと高校3年間での直接対決の成績は公式戦だけで計上しても、練習試合まで含めても綺麗に引き分けなのだから当人たちも下手に言い募りようがない。

 

 ただし、20歳を越した辺りでの学生時代の友人での集まりでの事だが、軽くアルコールの入ったしほは恋愛においては勝者は自分と言った事がある。別にしほの夫を取り合った関係というわけではない。まだ学生の頃から大恋愛をして卒業後すぐに結婚という大車輪の動き(本人談)を見せた自分の方が勝者だという理論だ。

 ただし、

 

『でもその大車輪ってパンジャンドラムだったって聞いたけど』

 

 という、情報を漏らした内通者が一人しか思い浮かばないツッコミを他ならぬ島田千代から飛ばされて、そこはかとないドヤ顔も一瞬で崩されたという話もあるのだが。

 その時にはその話を漏らした内通者―――宮古修景の母は連絡がつかず不参加だったが、『まぁ総じて良い友人でライバル関係』というのは、西住しほと島田千代を指して、近い年代で彼女たちに親しい人物らの共通認識だ。

 

 ともあれ、若干話が逸れたが。西住流は島田流と双璧を為す、日本戦車道の代表とでもいうべき流派だ。道場も日本中、或いは世界中に道場を持つ立場にあり、その宗家にして師範である西住しほの日常は割合とハードである。

 各々の道場は印可状を持つ師範や師範代が経営して居るのだが、それでも西住流の名を冠する以上は無様な教えをさせるわけにはいかない為に、しほが認めた代理人、或いはしほ本人が抜き打ちで視察に飛んだり、経営方針の決定や練習試合のセッティングなどやるべきことは多岐にわたる。

 

 無論、多くは使用人や事務方として雇った人材が行っているのだが、しほにしかできない業務も多くあるため、一言で言えば『多忙』なのが西住しほの日常である。

 

 ―――そして、時は西住みほが大洗に転校した春。

 最初の週の平日、その終わり辺りで、その多忙なしほの元に急な来客が訪れていた。

 

 

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 自宅であり道場併設の母屋でもある西住家。

 豪邸と言えるその中には、西住流の師範としてしほが仕事をする執務室もある。

 

「ピアスは止めろと言った筈ですが」

「ああ、それまだ有効なんですか? 俺、もう高3なんですけど」

「当然でしょう。あの子に貴方の後見を頼まれた以上は、身内として躾けます」

 

 その執務室のソファにて、テーブルを挟んでしほと差し向かいで。

 中学に上がり学園艦に入るまで―――つまりは5年と少しほど前まで西住家に居候していた、宮古修景という名の少年がそこに居た。

 

 背が伸びたなと、なんとなしにしほは思う。

 彼の母である友人の死の直後は、まほどころかみほよりも背が低い小柄な少年だったのだが。

 中学に入ってからガンガンと伸びているそうで、帰省の度に驚かされた。今では163cmのまほに大差を付け、180cmの大台に乗っている。

 

 焦茶色の髪は癖毛であちらこちらに跳ねていて、ある意味行儀が悪いのだが。当の修景や西住姉妹らが小学生の時分に一生懸命整髪剤とドライヤーで直した結果、3分と保たずにピョンピョン跳ね始めたのを見て、下の娘であるみほが爆笑したという経緯がある為に、しほとしても彼の髪についてはピアスと違って何も言わない。

 ちなみに、高校時代に彼の母と同じようなやりとりをした経緯があったしほもかなり危なかった。学生当時のその場にたまたま同席していた島田千代が、仮に修景の髪を整髪剤で固めたあの場に居たならば爆笑必至だっただろう。

 まほが慌てて駆け寄って、跳ねるのを一生懸命に手で抑えようとしていたのも中々に笑いのツボを刺激した。抑える端から他の場所が跳ね始めるので、どこを抑えて良いのか分からなくなって、まほがどんどん涙目になっていくのだ。

 

 そして、どこか人を喰ったような飄々とした表情。

 跳ねる癖毛と飄々とした表情を見ていると、男女の差はあるが、やはりかつての友人の子なのだなと納得するしほである。

 その辺りの部分は、修景は亡くなった彼の母に非常に良く似ていた。或いは、年を経るに連れて似てきていると言うべきか。

 

 ちなみに先のピアスの話は、中学の学園艦に入ってすぐに開けてきた修景を、しほがガツンと叱ったことからくる流れだ。亡き悪友の頼みを受け、身内として受け入れたからには言うべきは言うのがしほの教育方針だった。

 ―――そこまで思い出して、ふと疑問に思う。修景は良くも悪くも、母に似て聡い子だ。一度ガツンとやられた事を今更繰り返すというのは、若干不自然に思える。

 

 そんなしほの疑問を他所に、今は比較的近場にある高校―――当然ながら黒森峰は女子校なので、全然違う学園艦に通っている修景は、別に未練も無さそうにピアスを外してポケットに入れる。

 

「これは一旦置きまして、みほの事ですが」

 

 そして、ぞんざいにピアスを仕舞った修景の言葉に対するしほの内心は、『やはりか』という納得が10割。

 長期休み以外は帰省して来ない修景が、こんな不自然な時期に―――それも“平日に”帰省してくるのだから、内容は相応に喫緊のことだとは予想出来る。

 そして最近、西住家周りで起こった喫緊の出来事―――その最大のものは間違いなく、西住みほの転校だ。

 

 幼馴染のような姉兄妹のような距離感で育ったまほ、修景、みほ。

 そのうち1人が黒森峰女学園の戦車道大会での大敗を機に戦車道を止めて、今年度から全く違う遠くの学校に転校したとなれば、それは修景としても気になるだろう。

 しかし、これは修景が来た段階で予想していた話題なので、しほとしても用意していた答えを返す。彼女としては、友人の忘れ形見に受験前の―――修景は大学進学を明確に決めて、部活などはやっていない学生だ―――時期に下手に心労をかけたくない故に、断るための回答だ。

 

「これは、西住家の問題です」

「おや、先程の問答で俺の取扱は身内扱いだったのではありませんか? それをすぐさま覆して家の問題というのは卑怯ですよ」

「……ああ。それでわざわざ、中学以来外していたピアスを付けて。全く、私は貴方の母に口で勝った事は殆ど無いのですが………貴方は段々と彼女に似てきますね」

「概ね、今の回答で機先を潰されるのは予想してましたから」

「可愛げのないところもそっくり」

 

 両者、一息。

 先程『菊代さん』と呼ばれる使用人が持ってきてくれた茶を互いに一口飲み、探り合うような目を互いに向ける。

 

 親子ではあるが、まほとみほはしほにとっては戦車道を教える師弟でもあった。

 師弟関係とは上下関係であり、自然と『師』の前では背筋が伸びる。

 他の一般家庭は知らないが、西住家においてはその母娘の誰もが―――しほとその母も辿った関係性だ。無論、そこに親子の愛情はあるが、同時に西住の母と娘は師弟でもあるのだ。

 そういう意味では、半ば身内だが上下関係の構築が薄い修景が、まほやみほよりもしほに対しては遠慮がない。

 

「落とし所は、どうされるおつもりですか」

「みほは戦車道から逃げました。……それならば、それで良いとは思っています。西住流は歴史が長い。そこに生まれた女児全てが、戦車道に適性があったわけではありません。戦車道以外の道に進んだ者も居ます。みほがそうなるならば、それでいいかと。……幸い、次代はまほが居てくれていますし」

「安心しました。喧嘩別れで追い出した、というわけではないんですね」

「叱責したのは事実です。戦車道に関しては、甘いことは言いません。言うべきは言いました。それを受け止めきれないならば、仕方のないこと。負けたことは責めます。戦車道から逃げることは―――悲しいことではありますが、責められません」

 

 同時に、しほとしても夫である常夫は別格として、学生時代からの付き合いである使用人の井手上菊代が次にきて、しかしその次くらいにはこの“息子”は遠慮や建前を省いて話せる相手だ。

 戦車道の外にあり、半ば以上“身内”で“家族”なのもある。戦車道を軸とした人生を歩んでいるしほからすれば、知り合いのリストに数少ないタイプの相手である。

 

 そして、先の西住みほ―――しほの2人の娘の、妹の方についてだが。

 黒森峰女学園は、10連覇の偉業を逃して優勝をプラウダ高校に譲った。

 その原因となったのは、西住みほ。彼女が濁流に落ちた味方車両の救助活動に“かまけた”為に敗北と相成ったとされているが―――

 

「辛いのは、みほもそうですけど。むしろ、まほじゃないですかね? ちょいと弱音も吐かれました」

「……あの子は、なんと」

「隊長だったのも、作戦を立てたのも自分だったのに、と。ただし、黒森峰を割るわけにはいかないから、みほを表立っては庇えなかった。その結果がこれだ、と」

「……貴方から聞いたのは内密にしておきます。ただ、気にはかけておきましょう」

「お願いします」

 

 ソファに腰掛けたまま、深々と修景が礼をする。娘に関する事だから、むしろ自分が頼むべきではなかろうかという考えもしほには浮かぶが、わざわざ口に出しまではしない。

 その代わり、まほには修景から聞いたとは言わないでおこうとは心に決める。

 修景に吐けば自分に流れるとわかれば、まほも弱音を吐く相手が居ないだろう。まほもあの年頃にしては抱えてるものが相当重い。弱音を吐ける相手がいることを喜ばしく思う程度には、西住しほは人の親だった。

 

「で、話を戻しますが。責めるつもりはない、ということは―――」

「今はあの子にとっては、黒森峰は針の筵だったのでしょう。そこから逃げて大洗に行く事は、西住流の師範としては叱責すべきでしょう。母としては―――それを、これ以上追い込むような真似はとても」

「じゃあ、この部屋通される前にちょっと抜けて見てみたら、みほの部屋がほぼそのまま残っていたのも」

「いつでも、戻ってきて良いようにと。女子の部屋を勝手に見たのは、今回ばかりは不問とします」

 

 どうやらしほの回答は、修景にとって満足いくものだったらしい。

 大きく息を吐くと、ぬるくなりかけの茶を一気に飲み干す。

 

「安心しました。それなら、俺からもう1つの提案にスムーズに繋げられます」

「もう1つの提案、ですか」

「……様子、見てきましょうか? しほおばさんやまほからだと、みほの様子とか見に行き辛いでしょう。そうなってくると常夫おじさんか俺ですが、俺の方がこういうときには身軽です」

「―――」

 

 しほは修景の提案を暫し吟味する。

 中学校以上に上がった学生は、学園艦に移り教育を受ける。それはこの世界において一般的、というか当然のことだ。親元から離れて学生寮暮らしなど、珍しくないどころか当然といえる。

 しかし、黒森峰に居づらくなって逃げるようにして関東の学園艦に転校した下の娘について、気にならないと言えば嘘になる。

 

 荒れた生活―――をするような子ではないが。内向的で優しすぎるところがある為、人に馴染めずクラスで浮いたりなどはしていないか。

 また、転校生であることからいじめなどに遭ってはいないか。

 

 この辺り、親としての不安や心配というのは、西住しほといえど当然あるものである。表には中々出ないので、娘当人含めた大多数には察され難いのだが。

 

「頼めますか? ただ、貴方自身の学業はどうなっていますか。まほ同様、貴方は今年が受験ですよ」

「志望校安定は大分余裕を持ってキープしてますよ。前々から説明してるじゃないですか」

「私は……進学する気がありませんでしたから、大学受験のシステムなど良く知らないのです。ですが、共通一次の存在くらいは」

「今はセンター試験です」

「……なんでも横文字にすれば良いという風潮は嫌いです」

 

 そして、修景に頼む路線は確定ながらも、悪友の忘れ形見であり半ば“息子”である彼に対しての気遣いは、さらりと切り替えされて。

 相変わらずの鉄面皮で―――ただし少しだけバツが悪そうに、今度はしほがぬるくなった茶を一気に飲み干した。

 

 そうして茶を飲み干したしほに対して、修景は既にカラの湯呑みを手元で弄びながら、苦笑交じりに声をかける。

 

「俺は戦車道の事に関しては口出しする気はありません。しほおばさんの、師範としてのみほへの叱責が正しいのかも分かりません。ただ、素人でもあのみほの行動の問題点は分かります」

「……言ってみなさい」

「救助活動するなら命綱くらいつけろと」

「それね」

 

 はぁ、と両者深々とため息。

 西住流師範としての西住しほが最も許せなかったのは勝利を逃す原因となった失態だが、母である西住しほが最も許せなかったのは、『濁流に落ちた味方を救助するのに命綱もなしに突っ込んでいった行動』だった。心臓が止まるかと。

 叱責のさなかに、その部分も注意はしているのだが。果たしてあの超絶落ち込みモードだったみほに届いているのかは疑問なところだ。少なくとも、重要な部分と思ってくれてはいないだろう。

 

「西住流は勝利こそ至上ですが、人命救助を悪という気はありません。ただ、命綱くらいつけてと。大会の会場には専門家が待機して居るんだから任せろと。私がどんな気持ちであれを見てたと」

「……お察しします」

 

 ―――かくして。

 しほから幾許かの軍資金を渡された修景少年は、未だ新学期が始まったばかりの大洗へと赴くことになったのだった。




 西住殿は人命救助は良いのだが、命綱くらいは付けるべきだったと思います。
 いや、あの世界の戦車道女子の身体能力の高さを考えると、あの程度の濁流は小川のようなものなのかも知らんけど。

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