西住家の少年   作:カミカゼバロン

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なんだこのサブタイトル。

あと、今回はあまり話が進んでません。時間が、時間が


少年、脳内コラ作業に気合を入れる

 戦車道全国大会のトーナメント。その抽選会のあるとある街の駅前、安さが取り柄のビジネスホテルの廊下にて。安っぽいながらも、一応は設備として設置された大浴場からの戻り道。

 

「…………隊長、意地悪いです」

「すまん」

「…………隊長、いとわろし」

「古語が混ざるほどか」

 

 エリカが拗ねた。

 双方ともに風呂から上がり、玉の肌を上気させながら、部屋へ向かう道すがらに並んで歩いての会話である。

 原因は言うまでもなく、まほが半ば思い付きで言った修景とエリカについての、冗談とも本気とも付かない一言だ。

 

 水中息止め拗ねからの逆ギレ浮上戦術というコンボを決めたエリカをまほが宥めながら風呂から上がり、今は両者ともに部屋備え付けの浴衣に着替えていた。

 その代わりというわけではないが、各々の手には先程まで着ていた服が畳まれて持たれている。

 

 ―――ところで。

 今回、この宿の予約を取ったのは西住まほであり、彼女は最初から自分達黒森峰からの人員以外に、弟も同道するのを想定していた。

 最も、そのことについてまほは同行者に一切の説明をしていなかったわけだが―――ともあれ彼女が宿の予約をした以上、当然の流れとして。

 流石に部屋を一緒にするような暴挙はしていないが、

 

「お、修景」

「……っ!!」

 

 宮古少年も、同じホテルに滞在しているという事であり。ホテルの中を歩いていれば、遭遇する可能性もあるというもの。

 俯きがちに恨み言を言っていたエリカより、普通に歩いていたまほの方が先に、対面の通路から歩いてきた彼を発見した。

 姉に声を掛けられた修景もホテル備え付けの浴衣姿で、数瞬呆けたように立ち止まってから、誤魔化すように頭を掻いて彼女達に歩み寄る。

 

「よう。そっちは風呂上がりか?」

「ああ。すごく普通の……入浴剤を入れた風呂のような大浴場だった。そちらはこれから風呂か。期待はするなよ」

「別に期待はしていなかったがなー……。なんか今の聞くと部屋のユニットバスで良いんじゃないかって気もしてきた。まぁ、コインランドリーで結構時間食っちまったし、さっさと入ってさっさと上がるよ」

「時間を食った……混んでいたのか?」

「いんや。どっかの誰かさんが噴いてくれたジンジャーエールがシミになりかけてて、何度も洗ってなんとか取れたってだけ。なー、どっかの誰かさん?」

 

 そして修景から意地の悪い笑みと共に水を向けられたエリカは、しかし風呂でのまほとの会話を思い出す。

 話題自体は尊敬する隊長の珍しい悪ノリであったが。改めて自分以上に西住家に縁深い、少しだけ年上の少年をまじまじと見る。いつの間にか自然に話せるようになっていた、年の近い異性。今までのエリカの交友関係には無いタイプの人物だ。

 癖毛の茶髪、長身、人を食ったような意地の悪い笑み。いつもの“宮古先輩”。宮古修景である。特に意識するような事など何も無いなとエリカは自分の中で再確認し、自然な調子で言葉を―――

 

「ご、ごきげんよう……」

 

 ―――ダメだった。聖グロリアーナのような挨拶が口から出た。まるで初対面の焼き直しである。

 そのぎこちない挨拶に面食らった様子の修景は、慌てて片手を振って否定する。

 

「逸見さん、その反応なに!? 実際そこまで気にしてねぇから、ジンジャーエール噴射事件はそっちも気にすんなハイこの話は終わり!」

「あ、いえ……そ、それも申し訳ありませんでした。はい」

 

 てっきりジンジャーエールの件を余程気にしていたのかとでも思った修景の言葉に、白い肌を湯上がりで、或いは羞恥で僅かに上気させたエリカがぺこりと頭を下げる。

 それを見ながら、調子が狂ったとでも言いたげに修景は頭を掻く。

 

「……逸見さんに会ったら話そうと思ってた本題は他にもあったんだが。いきなりペース崩されたぞ、俺」

「本題……ですか?」

「コインランドリーで洗濯待ってる間に、みほとメールしててな。伝言がある」

 

 その言葉に、エリカがビクリと身を竦め、その様子を見た修景は肩を竦める。

 『やってしまった』という自覚はあるのだろう。みほに対して闇鍋のようにごちゃごちゃとした、愛憎混ざった感情があるのは事実であり、その原因の一端がみほにあるのは否定できない。

 だが、みほ以外の大洗勢に対しての彼女の攻撃的な態度は、理不尽な八つ当たりに過ぎなかった。何せ彼女達とエリカは初対面だったのだから、エリカがみほに抱く感情のとばっちりを受けた形に過ぎない。

 

 その自覚はある様子で俯くエリカに対し、横からまほが肩に軽く手を置く。

 落ち着け、ということか。代わりとでも言うように、まほが一歩前に出て修景と相対する。

 

「エリカのことについては、あの後にその場の皆には私からも謝っておいた。となると、みほの性格を考えると、責めるような話ではないだろう。―――内容は、私も聞いても?」

「ああ。……逸見さん、みほから。直接伝えるのはまだ怖いからってことで俺が頼まれたんだが―――」

 

 そしてまほの言葉に修景が頷き一つ。複雑な表情で、言葉を紡ぐ。

 

「『怒らせちゃってごめんなさい』だとよ」

「―――っ!!」

 

 その言葉を聞いたエリカの顔が朱に染まる。羞恥や風呂上がりの上気ではない。赫怒の赤だ。

 まほを押しのけるようにして前に出て、修景に詰め寄り―――半ば浴衣の胸ぐらを掴むようにして、声を荒げる。

 

「違うでしょ! 怒っていいのよ、あの子は!! 怒るべきなのよ!!」

「………」

「理不尽な真似をしたのは私の方でしょ!? それに、黒森峰に居た時だってそう! 理不尽な事を言われてもあの子は謝るばかりで反抗しないから、周りも調子に乗って責任を押し付けて……っ! 恥ずかしくないの!? 当時の三年やらが、寄って集って一年生に……っ!!」

「で、お前は」

 

 言い募るエリカの言葉を断ち切るように、修景が言葉を挟む。

 絶妙に息継ぎのタイミングで差し挟まれた言葉に、ついエリカの舌鋒が止まってしまう。その隙間を逃さず、彼はそのまま言葉を続けた。

 

「“恥ずかしくないの”っていうなら、お前はどうなんだ。連れ出した俺が言うのもなんだが、あの言い逃げで」

「……っ!」

 

 その言葉に、エリカが勢いを失って顔を俯かせる。

 十数秒。或いは数十秒。幸いにして他に人通りのないホテルの廊下で、それだけの沈黙を挟んでから、エリカは絞り出すように言葉を吐いた。

 

「……宮古先輩。伝言、お願いできますか」

「なんて伝える?」

「…………『貴方の友達には、言い過ぎた。悪いことをした』、と」

「分かった。伝えとく」

「……ごめんなさい。みほ本人には、まだ。心の整理が」

「分かってるよ。みほの方も、まだ色々整理付いてないみたいだしな。まぁ悪いようにはしない。上手く伝えとく」

 

 手をひらひらとさせながら、安心するようにと伝えた修景に、エリカが無言で頭を下げる。そのまま消沈した様子で修景の横を抜け、どうやらホテルの自室へと戻るようである。

 それを見送った修景は、小さく溜息。エリカについて行かずに、横に佇んでいる姉に声をかける。

 

「おい、まほ。実際、黒森峰が負けた後のみほってどうだったんだ?」

「……あの時期は私も一杯一杯だったので、完全には分かりかねる。だが、3年生のお歴々からすれば、1年生だったみほが副隊長、2年生の私が隊長というのは面白くなかったというのは、予想に難くない。だから―――」

「それが10連覇の偉業を逃した事により爆発し、みほの方に向いた、か」

「……私が、もっと上手くやれれば。立て直しに躍起になっていないで、みほの様子を気にかけて、気付いてやれていればな」

「もう今さら、覆水は盆に返らねぇよ。みほとはなんとか無事に話せたみたいだから良かったじゃねぇか。あいつも大洗で元気にやってるし、現状は最悪じゃない。後はどれだけここから良くしていくか。ハイ反省終了」

 

 パンパン、と軽く手を打ち合わせて、修景が話題の終わりを宣言。

 彼の言葉を受けて、今度はまほが小さく溜息を吐く。

 

「すまんな、愚痴を聞かせた」

「良いよ、姉弟だし」

「そうか」

「そーだよ」

 

 ふん、と鼻を鳴らして人を食ったような笑みを浮かべる弟と、薄く―――ただし、優しげに笑う姉。

 両者は軽く片手を掲げ、コツンとぶつけ合わせる。

 

「みほとは色々と話すことが出来た。友達にも、“また”恵まれたようだしな。あちらは大丈夫だろう。これで心配事が一つ減ったので、今後私は全国大会に向けて全力を尽くす」

「具体的には」

「戦車道で一杯一杯になるということだ。だから、残る心配事―――エリカとみほの関係はお前が見ていてやってくれ。エリカもみほも、なんだかんだとお前相手には色々話しやすいみたいだ。伝言の窓口にされる程度にはな」

「了ー解。なんか不味そうな動きがあれば耳に入れるわ。そっちもなんかあったら教えてくれ」

「任せろ。……頼む。みほを黒森峰から失った時の二の舞いのような事を、エリカで起こしたくはない。今、あの子は色々とナーバスになってしまっているからな」

 

 故に場を和ます冗談として、彼女らしくない悪戯な問いかけなども風呂でやってみたわけだが。効果は予想外に―――はて、有ったのか無かったのか。

 まぁ、あの冗談が現実になったところで損は無かろうと、まほは自分の中で結論づけて頷き一つ。結論ついでに、先の遭遇時から気になっていたことを一つ弟に問いかける。

 

「そういえば、修景」

「なんぞ?」

「さっき私達と遭遇した時、数瞬呆けていたろ。何か気になる点でもあったか? エリカがブラしてなかったとか」

 

 修景が今まで姉が見たことがないレベルの俊敏性で、エリカの去った先を振り返った。

 『こいつこんな素早い動き出来たのか』と、姉がどうでもいい驚愕に包まれる中で、地の底から響くような声が修景の口から漏れ始める。

 

「先に言ってくれれば……っ!! ガン見すれば、この安い浴衣なら透けて見えた可能性も……いや、背の高さによる高低差を利用すれば覗き込むように……っ!!」

「お前時々見せるその謎の情熱はなんなんだ。あくまで例えで、エリカはしっかりと下着とシャツの上から羽織ってたぞ、浴衣」

「そうか。ならばちょっと待ってろ、姉。今、脳内でさっきの逸見さんの浴衣姿から下着とシャツを除去するコラ作業に忙しい……!!」

「今は居ないエリカの代わりに言ってやるがセクハラだぞ。で、実際何か気になることでもあったのか?」

 

 問い直されて、修景がバツが悪そうに『あー』と意味のない声を上げながら頬を掻く。

 その反応に首をかしげる姉に対し、弟は周囲を一度確認してから、諦めたように小さな声で呟いた。

 

「……浴衣美人って良いなぁって。しかも湯上がりで白い肌が上気してて色気抜群。そりゃ見ちゃうよなぁ」

「ほう、弟にとはいえ褒められると悪い気はしないな。ありがとう」

「あ、お前は割と見てなかったわ」

 

 ホテルのスリッパに包まれたまほの足が、同じくスリッパに包まれた修景の足を踏んだ。

 体重をかけるというより、修景の足でスリッパの裏をゾリゾリとこそぐような動きだ。

 

「痛いというより、スリッパ裏の汚れがチクチクするからやめろ姉」

「そうか弟。だが、姉はその半分くらいは心が傷付いたんだぞ」

「実質ノーダメじゃん」

「まぁ実質ノーダメだからな」

 

 肩を竦めて、スリッパでゾリゾリするのをやめた姉が弟に背を向ける。

 その表情は、怒っているというより―――良く見ないと分からないが、いつもの鉄面皮だが楽しんでいるようで。

 修景にはその理由が思い至らず、首を傾げる。

 

「なんか楽しそうだな、まほ?」

「いや、なに。私の思い付きも案外アリだったかと思ってな。エリカに目を奪われていたと。ほうほう」

「本人には言わないで下さいお願いします」

「では代わりに、一つ質問に答えて貰おう」

 

 風呂場でエリカに向けたのと同様の、彼女にしては珍しい意地の悪い笑顔を浮かべながら。西住まほは、何事かと身構える自らの弟に問いかけた。

 

「お前にとって、逸見エリカとはどういう相手だ?」

「同志」

「ほう?」

「お互い西住家に深く関わって、そして多分お互いに、望んで西住の―――お前らの助けになりたがってる者同士。だから、同志」

「―――そう、か。私としてもお前とエリカの存在は非常にありがたいよ、修景。いつもありがとう。ここには居ないエリカにも、な」

 

 その言葉は、果たしてまほにとって望むものだったのか。一瞬だけ驚いたような顔をしたまほが、優しげな笑みを浮かべて感謝の言葉を告げる。

 だが、少し首を傾げた彼女は今の会話で浮かんだ疑問を、重ねてもう一つ質問をする。

 

「エリカは同志。でも胸は見たい」

「はい」

「見境ないなぁ、お前……」

「馬鹿野郎まほお前、男子校学園艦の青春のリビドーを舐めんじゃねぇ……!!」

 

 呆れた様子の姉に対し、しかし弟はこれが俺だと言わんばかりに胸を張る。

 そんなことで胸を張られても困ると、姉は珍しくツッコミに回った感想を胸中に抱くのだった。

 

 

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 ―――かくして、抽選会の日は終わり。

 翌日の朝の新幹線で九州の各々学園艦に戻った彼らは、また彼らの普段の生活へと戻っていく。

 

 黒森峰勢は、昨年の雪辱を果たすために厳しい訓練を繰り返し。

 修景は、まほ、エリカ、みほの各々と連絡を適度に取りながら、受験勉強に精を出し。

 遠く大洗でも、黒森峰勢との遭遇で発奮したあんこうチームが猛特訓を行い、それに釣られる形で全体の士気・練度はめきめきと上がっていく。

 

 かくして物語は全国戦車道大会、その本戦へと移行していくのだった―――。

 




 ちょっと上手く纏まった時間が取れないので更新速度が落ちそうですが、今回まではなんとか。
 ぼちぼち全国大会に入っていきます。

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