西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 私よりガチャ運の良い人と、私より戦績の良いWoTプレイヤーの皆様は自走砲に灼かれて弾薬庫逝けばいいと思います(挨拶)。
今回は時系列が少し戻りまして、抽選会の帰りごろの閑話です。

 現在別件で時間を取られておりますので、更新が遅れております。30日以降はちょっと多めに時間を取れるようになる見込み。あくまで見込み。

 今回は突貫で書き上げた雑学多めの閑話となりますが、ご了承ください。
 本編の次の更新は30日以降になると思われます。


閑話:抽選会からの帰り道にて

 さて、抽選会からの帰り道。行きと同様、帰りも長い。

 関東から九州までの新幹線は、東京⇔博多間だけでもおおよそ5時間。それに加えて、抽選会の会場のある市から東京駅までの移動時間やら、博多から各々の学園艦への移動時間やらを考えると、一日の大半を移動時間に充てる事になる。

 行きは各々前日の授業終了後に学園艦を降りて実家に泊まり、翌朝に朝一の新幹線に乗ったから昼過ぎにはなんとか抽選会場に着いていたが。帰りはその分のアドバンテージが無い分だけ、余計に移動日の様相が強い。

 

 一応黒森峰は戦車道の授業用にヘリコプターなども所有しているのだが、「抽選会で関東へ行きます」「よし、ヘリを出そう」となるほど過保護な学園でもない。

 交通費と宿泊費、加えて土日を潰される分だけ些少な内申点へのプラスは出されるので、後は各々頑張れというスタンスだ。だからこそ、修景と同道するような事も出来るのだが。

 

 そして公共交通機関での移動が長くなると、必然的にやる事は限られる。

 寝る、遊ぶ、駄弁る、本を読む、勉強する。周囲の迷惑にならない程度にやれることなど、あってせいぜいその程度だ。天下の西住流の長女だろうが、その副隊長だろうが、西住家の長男(暫定)だろうが、それは変わらない。

 

 そして、まほ、エリカ共に学業に対しては勤勉で真面目なタイプではあるが、これは一般教養の授業の予習復習を適切に行っているというだけで、「伝統ある黒森峰の隊長・副隊長として恥ずかしくないように」という要素・意図が強い。

 要は両者ともにガリ勉というわけではなく、戦車道を人生のメインに据えているため、わざわざ旅行中に教科書を読む程でもないのである。

 どちらかと言うと大学で奨学金制度を狙っている修景の方がガリ勉だが、こちらは性格面でまほやエリカよりざっくばらん。旅行は旅行、勉強は勉強で切り分けて考えるタイプであり、他人と行く旅行に勉強道具を持ってくる程ではない。

 

 つまりはどういう事かと言うと、帰りの新幹線の中で時間を持て余した黒森峰組+αは、特にすることもなくダラダラとした雑談に興じていたのである。

 ある意味、ある程度気心の知れたメンバーだから出来る行為であり、まほの戦車道に関わらない素の姿を見る前だったエリカであれば尻込みしていた、或いは堅苦しい話に終始していたかもしれないが、修景という異物を介して『西住まほという黒森峰女学園の隊長も、完璧超人ではない』というのを理解したエリカからまほへの意識は、良い意味で壁が無くなってきている。

 

 とはいえ―――

 

「シュトゥルム・ティーガー………って、どんな奴だっけ? 名前はなんかガキの頃聞き覚えあるから、戦車道の規定内の車両なんだろうけど。俺、戦車道の試合で見た記憶無ぇぞ」

「あー……まぁ自走臼砲に分類される車両で、用途が特殊ですからね。戦車対戦車の戦いがメインの戦車道で見る機会は中々無いですよ」

「ロケット推進の38cm砲。最大6km先まで砲撃可能。基本的には城塞や陣地などの固定目標を狙う為の物だからな」

 

 ―――話題の内容がご覧の通り、戦車絡みなのはこのメンバーならでは、と言ったところだろう。西住家の長女、並びにそれに縁が深い者が2名。このメンバーでの会話は、気軽な雑談であっても戦車や戦車道からは外れにくいらしい。

 『好きな戦車はなんぞや』という些か以上に色気に欠ける話題を振ったのは、さて誰であったか。場の流れであったので誰が発端というわけでもないが、好きな○○というお題で歌手やアイドル、TV番組などではなく戦車になる辺りがこのメンバーらしい。

 

 そしてエリカが真っ先に好きな戦車として主張し、修景が首を傾げた『シュトゥルムティーガー』。これはティーガーの名を冠する通り、ドイツの有名な重戦車、ティーガー戦車のバリエーションの一つである。

 元々は海軍の所管になる筈だった38cmロケット砲を、ドイツ陸軍が無理やり引っ張ってきて、ティーガーの車体に搭載した自走臼砲。修理の為に後方に引き上げられたティーガーを改修して作られた物であるため、総生産数は18両と多くない―――のだが。

 ここに居る面々は知らない話ではあるのだが。秋山優花里が子供の時分に、博物館のような場所でシュトゥルムティーガーの前で母と一緒に撮った写真を大事に持っていたりもするので、戦車道というものがあるこの世界では日本に展示されている車両もあるのかもしれない。

 

「自走臼砲ねぇ……形状はどんなん?」

「ティーガーの大きさで、形状は砲身がもっと短いヘッツァーに近いですね。ずんぐりしてて可愛いですよ」

「……そうか?」

 

 そして、大口径短砲身という砲身を台形の箱に取り付けたような形状のシュトゥルムティーガーを、『可愛い』と表する逸見エリカ。この辺りは戦車道という女子の武道ならではの価値観なのかもしれない。

 いや、隣のまほが首を傾げているので、エリカ独自の価値観という可能性もあるが。

 

「で、隊長はどういう戦車が好きなんですか? ティーガーですか?」

「パンターF型だな。パンター戦車の最終進化系。G型を更に正統進化させ、新型の測距機や小型化しつつ性能面を全体的に強化した砲塔、新型の砲など多くの新要素を入れた、正統派の機能美が良い」

「実戦投入例は皆無ですけどね」

「……ギリギリで完成してなかったからな」

 

 エリカの言葉に心なしかムスッとした表情で、まほが腕を組んで頷いた。

 ちなみに戦車道規定では「終戦段階で開発完了/試作に着手されている事」が車両認可の条件であるため、「砲塔は出来ていた」「車体も生産ラインで生産はされていた」という段階まで進んでおり、あとはそれらを合体させるだけだったパンターF型は規定内の筈だ。その筈なのだが、黒森峰女学園で使用されているパンター車両は何故か伝統的にその1個前のG型、つまりは実質的な最終量産型である。

 修景の母が乗っていたのも、今の黒森峰で主力となっているのもG型の方だ。その辺り、もしかしたらまほは内心では今の黒森峰で使われているパンターをF型に更新したいのかもしれない。

 

「……パンターがお好きなら、何故隊長はティーガーにお乗りになっているんですか?」

「……そういえば、なんでだろう。1年の時に副隊長を任されて、その時に与えられた車両がティーガーだったからだったか。ティーガーも好きではあるし、そのまま特に降りる理由も無いまま……。それに何より、私一人の都合で車両を変えると他の乗員が再習熟まで大変だろうし……」

「意外とその辺、気は遣うんだよなぁ、こいつ」

「……別に」

 

 からかうような修景の言葉に、まほが車窓の外を向くようにそっぽを向いた。無表情ではあるが、修景どころかエリカからも分かるレベルの、分かりやすい照れ隠しだ。

 その様子にエリカは小さく笑った。畏敬・尊敬の念は変わらずあるが、親しみというこれまで無かった感情も、この西住まほという隊長に対して生まれてきている。

 これまでは無かったその変化が、エリカとしては嫌いではなかった。

 

「ふふ。まぁ、私もシュトゥルムティーガーではなくティーガーIIに乗ってますから、人のことは言えませんか。でも、ティーガーIIも好きです。自分の分身と言っても良いくらい。シュトゥルム・ティーガーとは別種の『好き』ですね」

 

 西住云々、まほがどうした、みほがどうした。そういう話を抜きにしても、逸見エリカという少女は本当に戦車が好きなのだろう。戦車について話す姿は、活き活きとしている。

 

「で、宮古先輩は何か好きな戦車とかはありますか? 戦車道自体は好きでもそういうのは無い、という男性も多いですけど」

 

 そして、エリカは自身の隣で車窓の外を向いたまほから、自身から見て斜め向かいに座る、にやにや笑いでまほを眺めている修景へと視線を移す。何故かこのタイミングで、修景がビクリと身を竦めたのを見て、エリカは小さく首を傾げた。

 

 ちなみに戦車道は女子の武道ではあるが、観戦という意味でならば男性ファンも多い。

 実際、現在の日本戦車道連盟の会長は男性であるし、整備などの裏方という立場で戦車道に関わっている男性もそれなりに居る。修景が目指している『経営学を学んで次代の西住流のサポートをしたい』というのも、広義においてはその範疇だ。

 まぁ、黒森峰や大洗などは女子校であるため、裏方まで含めて全員が女性であるのだが。

 

 そして、問われた修景は数秒の沈思黙考を経て、重々しく、しかし万感を込めるような口調で呟いた。

 

「―――ヒルドルブ」

「確かに戦車ですけどさぁ……いや待って、戦車?」

 

 出された回答にエリカは半眼で呆れたように呟き、首を傾げた。

 YMT-05ヒルドルブ。全長、全幅、重量全てがパンターG型の4倍~5倍ほどはある超弩級戦車。いや、戦車ではなくモビルタンクである。モビルスーツの技術を多く応用したことにより1人での操縦・運用が可能な弩級戦車ではあるが、性能試験の結果として様々な要因から不採用となった悲運の兵器である。―――TVアニメで。

 

「……エリカも知ってるのか? 聞いたことが無い戦車なんだが、どこの国の戦車だろうか。名前が全く分からないということは、戦車道の規定内の車両ではなく、ごく最近の車両か?」

「どこの国……。ジオン公国なんですよね、これ」

「だよな」

 

 真顔で首を傾げるまほ。苦笑して答えるエリカ。人を食ったような笑みを浮かべる修景。

 しかし直後、まほが放った一言によって二人の表情が凍りつく。

 

「じおんこうこく。……地図で言うとどこの辺りだ? 世界史にあったか、そんな国?」

「どこって」

「宇宙」

「うちゅう」

 

 エリカと修景の答えた内容を、なぜか舌っ足らずな調子でまほが鸚鵡返しに呟いて、数秒。

 まほは真顔のまま、しかし手の中で弄んでいたスマホを取り落とした。

 

「宇宙……? すまん、最近新聞やニュースを見ていなかったのだが、人類はいつから宇宙に進出したんだってそんなわけないだろう何を言っているんだお前たちは」

 

 そしてキレのあるツッコミの平手が、宙をビシッと叩く。非常に珍しい、西住まほのノリツッコミである。

 

「うわぁ隊長のノリツッコミとかレアな物見ましたけど、突っ込みたいのはこっちですよ。ヒルドルブ知らないのはまだ分かりますけど、ジオン公国の名前くらいは聞いたことあると思うんですけどね……」

「まほ、まほ。お前ガンダムって知ってる?」

「バカにするな。お前が子供の頃にみほにプラモデルを破壊されて泣いていただろう」

「はい今の話題ストップ俺が悪かったです。逸見さん何も聞いてないよね?」

「大丈夫です、しっかり記憶しました」

「すんな」

「しました」

 

 そして子供時代に妹に泣かされた事実を後輩に知られ、羞恥から話題を止めようとする修景。しかしエリカは、『良い事知っちゃった』とでも言いそうな笑顔でにこやかに応じるのみ。

 そのまま修景をスルーし、隣のまほへと向き直る。

 

「ジオン公国というのは、ガンダムに出てくる架空の国ですよ。で、そのシリーズに出てくるモビルタンクという、モビルスー……えーと、ロボットと戦車の合いの子みたいな試作兵器がヒルドルブなんです」

「道理で知らんはずだ。修景、架空の兵器ではなく、せめても開発・設計段階まで行った実在兵器を言え」

「っていうか俺は逸見さんが思いの外詳しいことに驚きだわ」

「ネットサーフィンが日課ですから、結構サブカルチャーとか知ってますよ? 私」

 

 修景の言葉に、エリカがクスクスと笑い、少し優越感を滲ませた表情を見せる。

 どうだ、戦車道以外何も知らない箱入り娘と思っていたかと言わんばかりの表情だ。横目でそれを見たまほが、面白がるように小さく笑った。

 

「……で、修景。実際のところお前の好きな戦車、教えてやったらどうだ?」

「……パンジャンドラム」

「……乗れと?」

「戦争に使うし、車輪付いてるから戦車でいいだろ」

「いや修景。あれは車輪付いてるというか、車輪そのものというか……」

 

 そしてヒルドルブに続く回答はパンジャンドラム。恋愛パンジャンドラムではない。それはまほの実母だ。

 パンジャンドラムは英国面のキマった失敗兵器として世界的に有名な、『ロケット推進式自走爆雷』である。ドイツ軍の防御陣地を破壊する為に作られたそれは、形状としては車輪か、もしくは糸を巻くボビンに近い。

 その中央に搭載した爆薬を、ロケット推進で―――何故かロケットで牽引するのではなく、ロケット噴射で回転する車輪で転がりながら目標にぶつけ、諸共に爆発するというものである。

 なお、当然ながら人が乗るものではないので、戦車には分類されない。

 

 ちなみにそのパンジャンドラム。

 現代みたいに細かい制御をリアルタイムで地形に合わせてコンピュータが処理するなど不可能なのに、不整地である砂浜を車輪が全力でカッ飛ばせばどうなるかを、途中で誰か気付かなかったのか。

 砂地で上手く接地摩擦が得られずにただ車輪が空転したり、ロケットが脱落したり、それだけならまだしも予測不可能な機動をして、試運転を見に来た人に襲いかかるなど。改良を重ねれば重ねるほど新たな問題が浮上し、結局は不採用となった兵器である。

 

 明らかに戦車ではない、というか兵器として分類する事すらちょっと気が引ける軍事産業廃棄物を例示されたエリカが、流石に面白くなさそうに眉を顰めた。

 

「真面目に答えてくださいよ、先輩。何か無いんですか? 好きな戦車」

「……ヴァリアント歩兵戦車」

「それ、操縦手が変速レバーに殴り殺されかかる戦車じゃないですか」

「カヴェナンター巡航戦車」

「今度は内部温度が上がりすぎて、操縦手どころか乗員すべてが蒸し焼きになりかける奴じゃないですか」

「アーチャー対戦車自走砲」

「それ操縦手が乗ったまま射撃すると、操縦手が砲塔のノックバックで撲殺される奴じゃないですか。なんで敵の攻撃ではなくセルフで死者が出かねない戦車ばかり―――というか、英国ばっかりじゃないですか!?」

「こいつ基本的に面白い物好きだから、ドイツよりも英国贔屓だぞ。基本は」

 

 含みのある表情でまほが―――口の端だけで珍しく意地悪く笑い、それに気付いた修景が渋面を作る。

 しかし徐々にヒートアップしてきたきらいのあるエリカはそれに気付かず、斜め向かいに座った修景に指を突きつけた。

 

「西住流はドイツ車両を主力とする事が多い流派ですよ!? お母様だってパンターG型に乗っていたのに、先輩の趣味は英国ですか!?」

「だってあの国、面白い兵器が色々あるんだもん……」

「『もん』とか言わないで下さいよ男子高校生」

「でもほら。ホームガード・パイクとか。ブルーピーコックとか。ジャック・チャーチルとか」

「あれ、おかしいな……。最後どう聞いても人名なんですけど」

 

 話が逸れてきているが、エリカは逸れた部分に聞き捨てて良いか判断に迷う言葉があったため、首を傾げて問い返す。

 それに頷いた修景は、内心で安堵しながらも―――まぁ後でまほにより、その安堵は無駄にされるのだが―――頷いて後輩の疑問に回答する。

 

「第二次世界大戦時に、ロングボウとバグパイプとクレイモア長剣で戦い抜いた二足歩行人型英国兵器だ。細かく説明するとまず正気が疑われるが」

「もうこの時点で正気を疑うんですけども。弓と笛と剣て。その人、第二次世界大戦じゃなくてモンスターハンターやってるんじゃないんですか?」

 

 ちなみに『ファイアーエムブレムの世界からやってきた転生者』『生まれる世界そのものを間違った男』などと言われるこの男。れっきとした実在の人物であり、第二次世界大戦という自動小銃や戦車、航空機が投入された戦争における、唯一無二の『ロングボウによる敵兵殺害』という公的記録を持つ人物である。

 英国コマンドー部隊において、奇襲作戦時にバグパイプを吹き鳴らしながらクレイモア(※地雷の方のクレイモア地雷ではなく、両手剣のクレイモア)による抜剣突撃を行い、しかも作戦の大成功を収めたり。はたまた別の場所では、ナポレオンよろしく戦列歩兵陣を組んで戦意高揚の為にバグパイプを吹き鳴らしながら突撃し、多くの捕虜を取ってみたり。

 

 参考までに、その辺りの時期での彼のメインウェポンを列挙すると、弓、両手剣、手榴弾、バグパイプという、『手榴弾』を『閃光玉』辺りに変えるとそのままモンスターハンター世界で通用しそうな狂気のラインナップだったという。

 『ファイティング・ジャック』或いは『マッド・ジャック』の異名を持つ彼については、興味のある人は調べてみるのも面白いだろう。ただし、書いてあることの正気を疑うことになるのは覚悟の上で、だが。

 

「で、ホームガード・パイクだが。第二次世界大戦時、ウィンストン・チャーチル首相が『もう槍でもなんでもいいから武器を作れ』という旨の切羽詰まった書簡を陸軍省に出して」

「あ、もうオチが読めました」

「とりあえず水道管に銃剣を溶接して生産された槍だ」

「読めましたけどそこまで雑だとは」

 

 ちなみにホームガードとはイギリスにおける本土決戦用の『民兵組織』であり、ドイツ軍の本土上陸の可能性に脅かされていた時期の彼らとしては、ガチで切羽詰まっていた可能性が極めて高い。

 文書をそのまま直訳して本当に槍を作った役人にはツッコミどころはあるものの、それらを配備されて訓練を行った民兵たちは、自分達の国や町を守ろうと必死だったのであろう。

 実際に彼らが本気でドイツ軍の上陸に対抗する為に用意した、自家用車を改造した手製の装甲車なども多く存在したそうだ。

 

「で、最後にブルーピーコック。これはあくまで開発・設計段階で終わった兵器だが、端的に説明すると核兵器とニワトリだ」

「あれ、おかしいな……。あの、先輩。今何か並列表記すると凄く違和感のあるものを、並べて口にしませんでした?」

 

 恐る恐る、違っていて欲しいという表情で質問するエリカ。

 それに対して修景は重々しく頷き―――つまりは肯定して、繰り返した。

 

「核兵器とニワトリだ」

「聞き間違いであってほしかったです。……なんですかそれ?」

「……冷戦の比較的初期に考案された核地雷なんだが、当時の電子機器は冷たさに弱かったらしくてな。埋めてしまうと、冬期の寒さでは作動しなくなる可能性があった。なのでニワトリを餌と水と核地雷と一緒に埋めて、ニワトリの体温で電子機器を保護するという物だ」

「核兵器をニワトリで管理とか、危険度の高さを考えたくもないんですけど」

「しかもこれ、情報機密が解除されて公的文書として国立公文書館から発表されたのが21世紀に入ってからの4月1日で、誰もがエイプリルフール・ジョークとしか思わなかったという。国立公文書館はわざわざジョークじゃない旨を説明する必要があったらしい」

「国を挙げてオチを付けなくても……」

 

 かくして斯様に話題は逸れ。内心で安堵の溜息を吐く修景の思惑通り―――そして、後でそれを無駄にされるのだが―――話は明後日の方向へ逸れて行く。

 結局その後も、博多駅に到着するまでの間。雑談はあちらにこちらにと話題が飛び、結局『好きな戦車』へと話題が回帰する事は無かったのだった。

 

 

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 ―――そして、夕刻。

 黒森峰学園艦へ向かう連絡船の中で、エリカは肩の凝りを解すように、大きく身体を伸ばした。背骨がゴキゴキと音を立てる。長く新幹線の座席に座っていた弊害だ。

 

「あー……あと少しで帰り着きますね、隊長」

「そして明日は平日。授業は通常通りだ。明日の一限くらい休みにしてくれると良いのだがな。そうもいかんか」

 

 連絡船の椅子に彼女と並んで座るまほも、疲れたように首を軽く回して、固まった筋肉をほぐしている。

 ちなみに、修景は自分の学園艦へ戻るため、その連絡船を待ってまだ港に居るはずだ。この辺りは運行スケジュールの運である。

 

「帰ったら風呂入って寝よう……」

「私も……」

 

 旅行帰りの疲労感―――しかも考えてみれば、帰りの新幹線の中では喋り通しだった為、今更ながらドッと疲れを自覚したまほとエリカが、各々疲れた声を上げる。

 とはいえ、連絡船が黒森峰に着くまで数十分。寝るには短いので、手持ち無沙汰にエリカがスマホを取り出してLINEを確認する。修景から何やらメッセージが届いているのを発見。内容を確認し、エリカは軽く安堵の声を上げた。

 

「あ、宮古先輩の方も船が来たそうですよ。無事に乗れたとか」

「それは良かった。―――ああ、修景と言えば。エリカ、あいつの好きな戦車を知っているか?」

 

 そして、出た名前に思い出したかのように―――というか実際今思い出して、まほは意地の悪い笑みを浮かべ、自らの後輩にして副隊長である少女を見る。

 滅多に見ない隊長の悪戯げな笑みに、エリカは小さく首を傾げた。

 

「パンジャンドラムじゃないんですか?」

「……姉として、あいつの脳がそこまで紅茶とマーマイトに侵されているとは思いたくない。あいつはあの場では色々と変なネタを口走っていたが、あれは単に話を逸らしたがっていただけだ」

 

 口元に手を当てて、くすくすと笑うまほ。

 その笑顔の理由が分からず、エリカは更に首を傾げる。そのエリカに、まほは修景が隠したがっていた「正解」をさらりと告げた。

 

「ティーガーIIだ。以前聞いたから間違いない」

「……普通じゃないですか。というか、私はティーガーIIの車長だから話題も合いそうなものなのに。なんでそれを隠そうとしたんですか?」

「ふふっ」

 

 不満げなエリカの疑問にまほは悪戯げに笑い―――修景が話題を振られて身を竦めたり、好きな車両を隠そうとした理由を、ズバリと言い当てた。

 

「ティーガーIIについては、お前が直前に話題に出していたからな。『自分の分身と言っても良いくらい』と」

「……あ」

「その直後に『ティーガーIIが好きです』などとは気恥ずかしくて言えないから、必死に話題を逸らしてたのだろう。私は見ててとても面白かったぞ。アレは相当必死だったな」

「……あー……」

 

 エリカは告げられた内容になんと応じて良いものか判断に困り、頬を掻いて視線をスマホへ向け直す。逃げた、とも言う。

 構わずまほはくすくすと笑っており、その笑い声を聞きながら、エリカはまたLINE画面を確認し、

 

『お疲れ様でした、宮古先輩。―――今度は、好きな戦車について誤魔化さずに話してくださいね!!』

 

 心なしか上機嫌に。軽快なタップで、返信を打ち込んだのだった。




 エリカとまほの「好きな戦車」は、公式プロフィール通りで。後は各々、自分の車両にも愛着がある感じで。

 ちなみに英国もそうですが、アメリカやロシアも中々の珍兵器を開発しています。
 そういう雑学的な紹介とかに需要はあるのか。
 なお、マッド・ジャックについてはこれでもまだ書き足りないくらい逸話が多く、かつ良い感じにイカれておりますので、興味のある人はぜひ調べてみてください。

3/30追記
 諸事情から暫く実家に戻ることになりましたが、実家のパソコンBD読み込まねぇ!!
 ……本編の内容を確認できない中で書くと試合内容に齟齬が出そうですので、今暫く更新はお待ち下さい。
 リアル事情優先ということで、ご容赦を。

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