西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 『復活いきなり閑話かよ』と思われる方、申し訳ありません。
 ぶっちゃけ執筆速度のリハビリ的な意味もあり、過去の没ネタ・没会話のストックを組み合わせて作った練習作です。
 ガルパン二次の作者様方の会話にちょこっと混ざって持論を語ったりしちゃったので、実際にそういう要素を例示してみたらどうなるかという意味もあり。

 執筆開始から現在まで6時間。なんや意外と速度落ちとらんやん!
 ……そりゃ趣味の紅茶語りが何割か占めていれば、考えずに書けるから早いというもの。
 本編だと色々と布石とか前後関係とか正史での流れとかプロットとか考えますものね。

 しかし、リハビリで結構書く速度は出せたので、本編も頑張ろうと思います。
 もののついでに進捗報告をしますと、そっちは現在およそ3000文字。木曜あたりの更新を目指します。


閑話:抽選会の日、公園にて

 さて、時は些か遡る。

 大会のトーナメント表抽選会当日、エリカが逆ギレからのバルカン半島ムカ着火ファイヤー爆破をして、修景の手によって喫茶店から強制退去となった後。ダージリンら聖グロリアーナの面々と出会い、公園でひとしきり会話を交わした後のことだ。

 

 タクシー召喚要請を見なかったことにしつつ、適当に時間を潰してまほの待つビジネスホテルへ向かうことにした修景とエリカ。聖グロ勢も抽選会に来ていない面々の為に土産を選ぶ作業があるのでお別れとなる。

 

「それでは、逸見さん。また今度、大会で」

「ええ。その時は容赦しませんよ」

 

 互いに暗黒物質(ダークマター)でも発生させてるのではないかと思うレベルの愚痴り合いで、世界観ガン無視で魔王とかが召喚できそうな瘴気漂う空間を作っていたダージリンとエリカは、謎の連帯感を互いに抱いたようでガッチリ握手。

 なお、両者ともにこの時点では『大会で戦う時』を想定した別れの言葉であり、後に大洗の一回戦で観戦スペースが隣り合った時には『いやあの時の別れのセリフでこれはちょっと』と互いに内心で思っていたりしたのは別の話となる。

 

 一方、この時点ではダージリンというよりはローズヒップとオレンジペコという年下組との絡みが多かった修景は、キャイキャイはしゃぐローズヒップとおずおずとした様子のオレンジペコ相手に会話中だ。

 

「……何故だろう。別れ際にお嬢様学校の御令嬢(おじょうさま)と連絡先交換したとかいう、男子校的には大イベントの筈なんだが。不思議と近所の子供とポケモン交換したくらいの感覚に近い……」

「なんでですのーっ!!? オレンジペコさん、わたくし達は侮辱されてますわよ!」

「……うーん。私の古いガラケーで連絡先交換出来なかったから、この場合近所の子供と見做されてるのは……」

 

 プンスコと憤るローズヒップ。しかし、修景が『近所の子供』感覚で接している該当者は誰か。八割答えは言いながらも、そこで断定しないだけの慈悲がオレンジペコにはあった。

 ちなみにスマホとガラケーだと通信による連絡先交換は難しいが、手動でメールアドレスなり電話番号なりを入力すれば、当然ながらやれると言えばやれる。この場合のオレンジペコが修景と連絡先を交換しなかったのは、正真正銘の『御令嬢』である彼女の腰が引けていたというのが最大の要因だろう。

 修景もそれを分かっていて、『手動ならば出来る』と提案しなかった面もある。

 

 オレンジペコは家族構成、父、母、自分。父以外の男性は家族構成に無し。そして聖グロリアーナという高級志向お嬢様学校の学生。戦車道という古風な武道を学んでいて、しかも後々の隊長株。麻雀で言えば数え役満レベルの箱入り御令嬢っぷりだ。そんな彼女からすれば、身元はある意味でしっかりしているとはいえ、初対面の年上の男性との連絡先交換はハードルが高かったのだろう。

 なお、家族構成や立場としては意外とオレンジペコに近い部分があるエリカも、修景とのファーストエンカウントでの第一声は大分どもった『ごきげんよう』であった。

 

「ふふふ、ですが宮古さんなのは妥協するとしても、男子校の学生さんの連絡先ですわーっ! なんか青春って感じでしてよーっ!」

「おい」

 

 一方、さっきまでの憤りから一瞬で思考転換し、超信地旋回もびっくりの転進速度で今度はキャイキャイとハシャいでいるローズヒップ。修景の控え目なツッコミも届かず、全身で楽しさを表現するように飛び跳ねているこちらは、御令嬢レベルで言えばどうだろうか。

 一流、二流、三流、そっくりさん、写す価値なし。バラエティ番組的な分類で言えば、彼女の令嬢ランクはどこに入るのか。評価は分かれるだろうが、彼女が画面に残れる事を祈りたい。

 

「はー……まぁ良いや。電話帳の登録名『ちんまいの』にしてやる」

「ちょっとぉ!? レディーへの扱いとしては不適切でございますわよ!」

「ふはは、妥協とか言いやがった仕返しだ。……いや待て。俺の電話帳『カエサル』とか居るぞ。あれよりマシか……?」

「外国の方ですの?」

「なんで紀元前の共和制ローマの指導者が唐突に出てくるんですか……」

 

 修景が呟いた内容にローズヒップが首を傾げて、オレンジペコが引きつった笑いでのツッコミを入れる。なんだかんだ、大洗に行った時のドタバタで数名とは連絡先を交換していた修景である。

 とはいえ恋愛脳な武部沙織と交換した連絡先であろうとも、用途は専ら妹の話となっている。修景側の意図はもとより、恋愛脳だがそれ以上に友人想いな沙織にとっての宮古少年は、『恋愛対象』というより『友人の兄』という位置付けが先にくるようだ。大洗で(みほ)を除けば最も修景との連絡を取っている彼女との会話は、客観的に見ても色気がない。

 みほ本人が他人に弱音を吐かないで抱え込む性質なのもあって、『妹の様子を時々教えてくれ』と修景が沙織に頼み込んだ結果である。前言をより正確に表現するならば、苦笑交じりにそれを了承して連絡先を交換した沙織にとって、修景少年の位置付けは『友人の“シスコン気味な”兄』と言うべきだろう。

 

 実例として、修景と沙織がLINEなどした場合の会話は以下のようなものとなる。

 

『ども、お久しぶりッス。最近みほの様子どう?』

『あ、お兄さんお久しぶりですー。大丈夫、元気にしてますよー。お兄さんは心配性ですよねー。でも、みぽりんみたいな妹さんが居ればそうもなっちゃうかなぁ。私も妹が居るんですけど……ん、そだ。みぽりんも華も、良いお家のお嬢様だからって家事とか出来ないとダメですよ? こないだみぽりんの家で集まった時に料理が―――』

 

 世話焼き気質でおしゃべり好きな沙織、喋る喋る。女子高生ならではというべきか、タップ速度も修景より遥かに早く正確だ。この文章の間に、当然のように種々様々なLINEスタンプも飛び回る。

 なお、みほや華の事を心配している沙織自身の女子力は非常に高い。みほの家にあんこうチームの5名が集まった時には、他が悲惨すぎて惨劇になりかけた夕食調理を一手に引き受け、素晴らしい腕前の家庭料理を披露していた。というか、包丁で手を切る五十鈴華はまだしも、家の中で飯盒炊爨を始めようとする秋山優花里の女子力が危険水準(デッドライン)だった。

 

 みほに最初に声をかけて、みほを庇って華と共に生徒会相手に論陣を張り、後輩のうさぎさんチームには大変懐かれ、幼馴染の冷泉麻子との間柄はもはやオカンと娘の如く。非常に面倒見が良く、誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力の高さ。修景とのやり取りも頻度が高いわけではないが、一度話し始めたならば淀みない。

 みほにとっても大洗にとっても、ある意味で精神的な支柱とも言える武部沙織という少女。敢えて欠点を挙げるならば、恋愛願望が強いのが玉に瑕だ。彼女が何故モテないのか。ひとえに大洗が女子校だという事が最大の要因だろう。

 修景相手に合コンの手配でも頼めば、お付き合いを希望する男子が群れをなして土下座しそうな優良物件なのだが。武部沙織という少女は良いのか悪いのかそれに気付かず。『結婚情報誌を隅々まで読む』という30代独身OLのような趣味を持ち、恋に恋する彼女が恋愛を経験するのはまだ先の話となりそうである。

 

 ともあれ、修景が大洗に行った時に連絡先を交換した数名のうち1人は沙織。

 では残りは誰かと言うと―――『歴女』である。そもそも、修景が大洗メンバーで最初に遭遇したのは彼女達だ。そしてその後に多方面に誤解を振りまき状況をややこしくしながらも、丁々発止と会話を交わした相手も彼女達であった。

 ある意味ではみほを除けば一番縁があるとも言える相手であり、なんとなくその場のノリで修景は別れ際に彼女達と連絡先を交換していた修景である。ローズヒップとの連絡先交換が『近所の子供とポケモン交換したくらいの感覚』ならば、歴女集団との連絡先交換は『自分トコの学園艦の連中と連絡先交換したくらいの感覚』だ。

 ソウルネームで電話帳に登録された彼女達の扱いは、壮絶な勘違いとアンジャッシュと精神的被害を多方面に―――それも無自覚に修景と彼女らで共闘して振りまいた事もあり、もはや男子校の身内ノリであった。というか、なんとなくで連絡先交換をしている辺り、女子校の生徒相手という意識も修景からはスポンと抜けている感がある。

 

 そんな彼女達―――例としてカエサルと修景がLINEなどした場合、会話例は以下のようなものとなる。

 

『おい、お兄さん! 山月記の作者って誰だっけヤバイ前の席とその前の席の奴が答えられなかったら私に来る!』

『授業中じゃねぇか。いやこっちも自習中だけど』

『良いから! 「聞いた、見た、勝った」を私にくれ!』

『お前カエサルの名言改竄すんなよカエサルのくせに。うわ、なんだこの文章。カエサルがゲシュタルト崩壊しそう。えーと……太宰治?』

『よし!』

 

 数分後。

 

『違ったじゃないか! 全然違ったじゃないか!』

『俺に聞くヒマあんならググった方が確実だったと思うんだわ俺。「Men willingly believe what they wish.(人は喜んで自己の望むものを信じるものだ)」とは、カエサルもよく言ったもんだ。あ、正解は中島敦な』

『ブルータス、またお前かァァァァァッ!!』

 

 ちゃんと自分で勉強しろやという気遣いを込めて―――という建前で表面をコーティングして、中身は八割からかいで答えた修景に、カエサルの叫びは怒髪天を衝く有様だった。この手のやり取りはこれが初回ではないので、『またお前か』はブルータス(修景)も言いたいだろう。

 そもそも授業中ならば授業に集中しろと言われ、『歴史関係以外はちょっと集中が』などと返すカエサルに、呆れながらも文学史という形で修景が興味を誘導したりと。

 会話のノリや相性は悪くないのだが、歴女さん達と修景のやり取りはやはり男子校の身内ノリであった。

 

「カエサルってのはアダ名でなー。お前らのローズヒップとかオレンジペコみたいなもんだろ」

「……そう言われるとぐうの音も出ませんが」

 

 ―――ともあれ。

 宮古修景という少年と戦車道女子の間で交わされる中身が有るんだか無いんだか分からない会話の実例はさておいて。『カエサル』というある意味で突拍子のない電話帳登録名に怯んだ様子のオレンジペコに対して修景が告げた言葉に、彼女は小さく口ごもる。

 アダ名にしろソウルネームにしろ伝統的に受け継がれた称号にしろ、呼称の突拍子の無さはお互い様だ。どんな呼び方だろうと、当人たちが納得して好んで使っていれば、他所様に何を言われる謂れもない。

 そもそも戦車道女子には、本名ではなくアダ名や称号を名乗っている人物も多いのである。

 

 そして、口ごもったオレンジペコに対して修景少年は―――ある意味で破局の切っ掛けとなる言葉を、こちらも口ごもりながら気まずそうに告げた。 

 

「……あと、俺は紅茶の銘柄とか良く分からんわけで。紅茶の銘柄で電話帳登録すると混乱しそうなのもあってな」

「勿体無い事この上ない話でしてよ! 丁寧に淹れた上等な紅茶はマジウメェですの!」

「言葉遣い……」

 

 修景の『紅茶については無知』発言に、ローズヒップが勢いよく応じる。

 オレンジペコが同輩に控え目に呈した苦言は、届いているのかいないのか。少なくとも、耳には届いていても脳までは届いていないだろう。なにせ反応を示さず、暴走娘(ローズヒップ)の言葉は止まる気配を見せていないのだから。

 

「宮古さんは知っている紅茶の銘柄とか無いんですの? 聖グロの淑女として、このわたくしが解説して差し上げますわ! 銘柄によっては、それの称号を持ってる人も居るかもですし! あ、わたくし達の名前以外で知ってる名前、ですのよ?」

「………………午後ティー」

「………………その称号を渡された人は、キレて良いですわね」

 

 しかし、熟考の末に告げられた修景の返しに、さすがのローズヒップも言葉が止まった。

 

 ―――聖グロ勢の名前と並べてみよう。

 『ダージリン、アッサム、午後ティー、ルクリリ』。異物感が半端ない。そしておそらく当人と周囲の気まずさも半端ない。聖グロの他の幹部と並ぶ立場でこんな称号を受け継がされた少女が居たならば、それはもはやイジメとして提訴しても八割勝てるだろう。

 午後の紅茶はあれはあれで否定するつもりはないローズヒップとオレンジペコだが、流石にそれを『紅茶の銘柄』と定義するのは両者ともに躊躇った。顔を見合わせ、オレンジペコがおずおずと声を出す。

 

「……あの。ダージリンとかローズヒップとかオレンジペコとか、紅茶としてはどういうものか分かります?」

「茶葉?」

「なんでしょう、オレンジペコさん。この『岡山ってどこ?』と聞いたら『日本』と返ってきたような感覚」

「うん、私も今同じような感覚。まぁ、興味ない人は興味ないのでしょうけど……」

 

 深々と溜息を吐くオレンジペコ。宮古少年から見ると妹よりも更に年下の相手であり、更に言えば年齢以上に小柄な少女だが、その彼女に『困った弟でも見るような目』で見られて修景は狼狽える。

 

 敢えてフォローするならば、宮古修景という少年は歴女との会話や後の大洗対サンダース戦でのダージリンとのやり取りからも分かるように、知識量は豊富で頭の回転も早い。

 ただし未だ高校生の身空である以上、知識量に関しては偏りがある。いわゆる学問、或いは姉妹が関わる戦車道、もしくは自分に今後必要だろうと思っている分野に対しては水準以上に博識だが、興味のない分野に対しては水準よりも疎い所もあるのだ。

 この場合、紅茶の話題はその『興味のない分野』にピンポイントで該当した。宮古修景、西住家に引き取られる前の時分の貧乏時代の粗食もあり、あまり飲食に関しては気を払わない人種である。美味い不味いより値段と栄養価を見るタイプだ。

 

 狼狽える修景に対し、両手を腰にやって『しょうがないなぁ』とでもいう雰囲気を出しながら、オレンジペコがもう一度溜息。もっと狼狽える修景。今この瞬間は、この両者を見てもどちらが年上か分からない有様だろう。

 

「紅茶としての『ダージリン』については、流石に耳にしたことはあるでしょう? 紅茶の中でも特に香りを重視される紅茶で、『世界三大銘茶』の一角とも呼ばれます。他のウバ茶やキーマン茶よりも、日本では一般的なので―――本当に日本においては紅茶の代表格ですね」

「アールグレイとかも聞いたことはあるんだが……」

「そちらは茶葉に対してフレーバーを添加して、柑橘系の香りをつけた紅茶ですね。茶葉にフレーバーを添加して香り付けしたものはフレーバーティーと総称されます。アールグレイティーは元となる茶葉は色々です。ダージリンティーはストレートティー……つまり、何も添加しないで茶葉だけで淹れる事に特に向いた茶葉ですので使われる事は少ないですけど、ダージリンを使ったアールグレイティーとかもありますよ」

 

 始まる講釈。どこか女教師のような雰囲気で、オレンジペコは片手を腰に、もう片方の手は人差し指を立てて顔の横に。

 オレンジペコ先生の紅茶講座に、修景はコクコクと頷いた。何故か横でローズヒップも頷いている。彼女も聖グロの戦車道メンバーの幹部候補生だけあり、『午後ティー』という銘柄を出す修景ほど悲惨なわけではないようだが、この様子を見るに細部の知識は不安が残る。

 

「紅茶は歴史も楽しみ方も種類も深いので、全ては語りきれませんが……。まずダージリンティーに絞れば、先に言った通り。特にストレートティーに向いた、香りを重視した紅茶。日本における紅茶の代表格。そう思って頂ければ、基礎部分は概ね間違っていませんね」

「……じゃあ、このちんまいのの名前。ローズヒップはどんな茶葉なんだ……ですか?」

「宮古さん、なんで敬語に……。いや、良いですけど。ローズヒップは正確には茶“葉”ではありません。バラの果実ですね。ヒップはお尻ではなくて、バラの果実を意味するものです。熟した実を採取・乾燥させたものなので、『葉』ではないのですよね。まぁ、『茶実』とかだと語呂が悪いので、私達も『茶葉』と言いますけど」

 

 続いて語られた内容に、やはり修景とローズヒップはコクコク頷く。

 何故ローズヒップも頷くのか。彼女自身の名に関する事ではなかったのか。『お尻ではなかったんですのね……』という口の中での小さな呟きに気付いたのは、並んで頷いていた修景のみ。『大丈夫かこいつ』という感情が彼の胸中に去来するが、紅茶の知識ではローズヒップ以下の修景には、流石に彼女も言われたくないだろう。

 

 なお、少し離れた所で、既に別れの挨拶を終えたエリカとダージリンが『何あの光景』とでも言うような胡乱な目を向けてきている。両者ともに挨拶が終わっており、修景、ローズヒップ、オレンジペコといった各々の連れを待つ状態である。

 しかし両名、『貴方が行って下さいよ』『いえ貴方こそ』とでもいうべき視線をチラチラ向け合っており、声を掛けには来ない。何故か一番おとなしい性格のオレンジペコが教師のように講義をし、そして残り2名が生徒のように講釈を受けている謎の光景に介入する役目を押し付けあっていた。

 

 参考までに、オレンジペコが語った通り、紅茶は産地や銘柄から始まり歴史的な事から実際の淹れ方、分類その他まで、語り尽くせない程の要素があるが、聖グロリアーナの淑女達の名前を簡単に分類解説すると以下のようになる。

 

 ダージリンは『紅茶の銘柄』であり、産地であるダージリン地方がそのまま名前となったもの。特に香りを重視しており、ストレートティーとしての用途が強い。世界三大銘茶の一角と言われている。

 アッサムも『紅茶の銘柄』。これも地方の名前がそのまま銘柄になっている。コクが強く、ミルクティーとしての用途が強い。チャイと呼ばれるインド式に甘く煮出したミルクティー用として一般的であり、インド国内での消費が多い。

 ニルギリも『紅茶の銘柄』。現地語でニルギリは『青い山』を意味し、紅茶のブルーマウンテンとも呼ばれる茶葉だ。優雅な香りと落ち着いた渋みが特徴であり、ストレートでも良し、レモンティー、ミルクティー、スパイスティーなどでも良しの万能選手と言えるだろう。

 ルクリリも『紅茶の銘柄』。ちなみに上記3名(或いは3銘柄)はいずれもインドが産地であり、名前もインドの地名が由来だが、ルクリリは遠くアフリカ東部のケニア原産である。香味と苦味が強く、ミルクティーとしてよく使われる。

 ローズヒップは『ハーブティーの銘柄』と言うべきか。ハーブティーと紅茶は実は全く違う種類の飲み物である。紅茶は茶葉を使用し、ハーブティーは茶葉を使用せず植物の実や茎などを使用したもの。なお、ハーブティーとしての『ローズヒップ』はハイビスカスとブレンドされている事が多く、ビタミン豊富で美容に良いとされている。ハイビスカスの影響で酸味が強いが、ローズヒップ本体のみならば酸味はそれほどでもない。

 卒業生としてはアールグレイという名前を受け継いだ戦車道女子も居た。アールグレイは『フレーバーティーの銘柄』。アールグレイは紅茶を元にしてベルガモットの精油で着香したものであり、先のオレンジペコ先生の講義の通り、『アッサムのアールグレイ』『ニルギリのアールグレイ』『ダージリンのアールグレイ』などが存在しうる。ややこしい。

 

 なお、実はローズヒップだけ『正確な定義論で言うならば紅茶ではない』という衝撃の事実があるのだが、日本においてはハーブティーも紅茶の一種として扱われている事が多いため、聖グロでも特に問題になったことはない。なんだかんだ、その辺りの感性は日本の学園艦である。

 銘柄以外にも使っていいならば、聖グロ幹部級の名称候補はそれこそ幾らでもあげられるだろうが。紅茶という文化は実は中国圏でもかなりのシェアを持っており、『正山小種』という紅茶の銘柄を呼称に使われる聖グロ女子が仮に居たならば周囲からの浮きっぷりに泣いていいだろう。

 他にも、紅茶ブレンドの種類としての『プリンス・オブ・ウェールズ』なども、戦車道女子の名前としては著しく不適切といえば不適切だ。戦車道“女子”なのに『王子(プリンス)』。宝塚系の人物でなければ、やはり泣いていい。

 

 なお、オレンジペコという名も『紅茶の銘柄』ではない。まさに当人のオレンジペコ先生は、眼の前に並ぶ生徒2名(修景とローズヒップ)に対して、眼鏡の似合いそうな女教師のような雰囲気で自身の名の由来を語り出す。

 

「私の頂いているオレンジペコという名前も、ローズヒップ同様に茶葉ではありません。ローズヒップとは違う意味で、ですけれども。オレンジペコというのは紅茶の等級。本来であれば枝先の新芽のすぐ下の1枚目の若葉を意味するものだったのですが、今では茶葉の大きさと形状で分類される事が多いです。オレンジペコは、茶葉の分類の中では最も大きく挽いた茶葉の事ですね」

 

 『その名前通り、もっと大きくなりたいんですけどね』と、矮躯のオレンジペコ先生は苦笑する。そのオレンジペコ先生を前に、彼女の同輩であるローズヒップは得心したように頷き、『オレンジペコ』という概念に対する彼女なりの咀嚼・解釈をして口に出した。

 

「つまり、『あらびき』ですのね?」

 

 オレンジペコ先生、笑顔がピシリと固まった。自らの誇りでもある聖グロリアーナの幹部クラス、或いはそれを期待される候補生にのみ与えられる紅茶にちなんだ呼称を、胡椒か何かのように言われればそうもなろう。

 固まった笑顔のまま、ローズヒップに対して無言でカツカツと歩を進めるオレンジペコ。何か危険な空気を感じたのか、『ぴっ!?』と悲鳴をあげて後退するローズヒップ。

 聖グロの未来を担う幹部候補生同士が、割としょうもない理由でキャットファイトに入る5秒前であった。

 

 結局の所、その一方的かつ『両手でほっぺたを引っ張る』というある意味で和やかなキャットファイトは、見かねた修景が止めに入るまで続き。

 少し遠くの責任者(ダージリン)はというと―――

 

「……ダージリンさん。あれ、凄いことになってますけど。止めに行かなくても良いんですか? 貴方の管轄ですよね?」

「こんな格言を知ってる? 『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』」

「今の時代はそれを育児放棄(ネグレクト)と言います」

 

 いつもの聖グロリアーナの面々とはタイプの違うエリカのツッコミに、『ああん』と何故か少し楽しげに返すダージリン。視線は惨劇(キャットファイト)から外したまま。

 ローズヒップの半ベソ悲鳴と慌てた修景の宥める声が、抽選会の会場である市の市営公園にて、騒がしく響いていたのだった。

 




 今、文字数を見てみたら9000文字て。うそやん。
 殆ど趣味の紅茶語りが半分くらいで、これをガルパン二次と呼んで良いのかどうか。

 ちなみに本来のスタート地点は『二次創作でオリ主がいてヒロインがいる場合、オリ主とヒロイン以外の人物が、ヒロインと全く関係ない掛け合いをした場合の例示』だったりします。

 ―――こうなりました。わぁ惨劇。主に私の計画性の無さが。
 本編はまえがきにも書いた通り、現在およそ3000文字。こちらはもう少しじっくり考えながら書きますので、木曜辺りを目処に今暫くお待ち下さい。

2019/03/20
ローズヒップ師匠とオレンジペコ先生の互いの呼称を整理。
ドリームタンクマッチ情報で、互いに「さん」付とのこと。

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