西住家の少年   作:カミカゼバロン

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 大洗に行くと言った……!
 だが、いつ行くとは言っていない……!
 10話後、20話後も可能だろうということ……!(利根川感)

 ちなみにロリータファッションでウサギのぬいぐるみを抱えていた幼い頃のエリカについては、『もっとらぶらぶ作戦です!』にて確認できますが、みほがヤンチャ娘過ぎる件。


少年、その前に黒森峰に行く

 さて、大洗に行くことになりました。今日から出発します―――とはならないのが、距離という概念の辛いところだ。

 自身の通う学園艦―――普通科の男子校を降りた時に、高校3年間の間のバイトで貯めた金で買ったバイク(※中古)は持ってきている。加えて暫く休む旨を教員とバイト先に伝えて、バイト先はシフトの調整もバイト仲間に頼んで終わらせている。かつ最低限の着替えもバイクに積んでいるため、大洗まで出発しようと思えば今からでも可能なのではあるが。修景少年としてはその前に寄る所があったのだ。

 

 ちなみに、バイクを学園艦から降ろす事まで含め自分の意見が通る前提で準備していた形ではあるが、実のところ修景自身はしほが首を縦に振らなくてもみほの様子を見に行くつもりで居た。違いはしほに内密にするかどうかと、しほから軍資金が出るかどうか程度だ。

 宮古修景という少年にとっても、西住みほは妹のような相手だ。しほの考えがどうあれ、修景自身としても話を聞いて心配する部分はあったのである。幸いにして、しほの考えは修景の想定の中では大分柔らかい部類のものであったため、いざとなればしほに内密で大洗まで行くという覚悟は無用の長物だったのではあるのだが。

 

 なお、参考ではあるが西住家のある熊本から計算すると、大洗までの距離は1,300kmを超えるものであり、バイク(※250CC)で行くという発想を修景少年は後に滅茶苦茶後悔する事になる。

 この辺りは青少年特有の向こう見ずさだが、途中のパーキングエリアで弱音吐いたらLINEでリアルタイムでまほから、合計2,500kmを超えた往復の(自業自得で)厳しい旅路を経た後に西住本家でしほからと、ステレオで西住流に『バカ?』と罵られ―――というよりいっそ(疲労ではなく頭を)心配された時にはかなり凹むのだが、これは後の話だ。

 まほもしほも、てっきり新幹線か飛行機辺りで行くのだろうとばかり思っていた話であった。当然である。乗り物の運転は集中と疲労を伴うと、戦車乗りである彼女らは修景以上に弁えていた。それが車ならばまだしも、全身を風に晒すバイクならば尚更だ。

 

 ともあれ、修景少年が西住家を出た後に向かったのは、九州南部を本拠地とする学園艦である黒森峰女学園だ。

 ちなみに黒森峰に限らず学園艦というものは大小の住宅やライフライン、店舗その他商業施設・娯楽施設どころか、何をどうやったのか山や川のような自然まで内包する超巨大艦船であるが、それだけに『学園艦』と言いつつも学校専用というわけでもなく、他所からの―――緊急ならばヘリ、そうでなければ連絡船などによる来訪者には割合寛容だ。

 黒森峰もまた、国内最大級の名門であるがゆえに設備も充実しており、外からの来訪者自体は珍しくもないどころか日常である。

 

 ちなみに、例えば大洗にて後にフラッグ車の装填手を務める秋山嬢の実家のように家族ぐるみで学園艦に住んで商売をしている家もあれば、学園艦の生徒が商売をしている店もある。

 黒森峰もその辺りは同様であり、外からの来訪者は外貨を稼ぐチャンスであると同時に、生徒が実地で学ぶチャンスでもある―――というのが、この世界における教育方針なのだろう。

 

 兎にも角にも、黒森峰は名門女学園ではあるのだが、そういった“外”からの来訪者、或いは大洗における秋山家のような例もあるため、男自体はそう珍獣扱いされるものではない。

 しかし、女子スポーツである戦車道の格納庫まで足を運ぶ男性―――それも同年代の少年―――というのはそれなりに珍しく。

 何を言いたいのかというと―――修景少年は黒森峰の戦車道履修者達の好奇の視線に晒されながら、戦車を格納するガレージに背を預けるようにし、立ったままで何時来るかも分からない西住まほを待ち続ける羽目になったのである。

 

 

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「誰だろう、あの人」

「他の学園艦のスパイとか」

「でも、どう見ても男の人だし、その割には堂々としてるけど……」

 

 ガレージ横に―――ただし邪魔にならないように立つ不審者に対して、黒森峰の戦車道履修者たちの反応は“気もそぞろ”というべきものだった。

 その理由は幾つかある。まず、年度と学年が変わったばかりであり、学園艦全体が―――これはこの時期はどこも一緒で、黒森峰に限った話ではないが―――どこか浮ついた空気になっていること。また、新規に戦車道を履修開始したばかりの1年生が多く居ること。

 黒森峰は名門の女学園であり、必然として言ってしまえば“お嬢様”な少女が多く、そういった少女は同年代の男性との接点が普通よりも少ないこと。

 戦車道自体が女性スポーツであり、男性がこの場に来る事自体が奇異な事であること。

 そして、西住まほら3年生は全員が新年度早々の学力テストで今日の戦車道の授業に遅れてくることから、2年生以下の履修者しかこの場に居ないこと。

 

 それらの理由が合わさって、修景少年と黒森峰のどちらにとっても不幸なことに、宮古修景少年は『謎の不審者』たるポジションを僅か1時間程の間に不動の物にしつつあった。

 西住まほという少女は良くも悪くも人目を引き、かつ戦車道一筋の人物像を持つ。故に『まぁ戦車道やってる格納庫にでも行きゃ居るだろ』という彼自身の判断の甘さが招いた結果である。

 居なかったからと慌ててスマートホンでLINEしようが電話しようが無反応。むしろ学力テスト中に反応が返ってくる方があらゆる意味で不味いので、ある意味においては当然なのだが。

 

 ともあれ、その『不審者』によって浮ついた空気に最も敏感に苛立っていたのは、西住みほの転校の後に副隊長として指名された逸見エリカという少女だった。

 どこかで欧米の血が混ざっているのか、髪色は色素のごく薄い灰色に近い亜麻色。戦車の外作業の際には割と日光に当たる筈なのに、肌は白くきめ細やか。挙句に瞳の色は緑色という、むしろどこかで欧米の血が混ざってないほうが不自然な容姿の美少女だ。

 

 そして、先の敗戦―――それ以上に西住みほの転校に苛立っていた逸見エリカにとって、この浮ついた空気に耐えること1時間。

 元々短気な傾向のある彼女にとっての我慢の限界が訪れつつあった。

 

「……ちょっと問い質してくる」

 

 身長は160cmに届かない為、決して大柄とはいえない彼女だが。その全身から怒気を漲らせた姿は、今の彼女を身長以上に大きな存在に見せていた。

 というか明らかに苛立って怒っているのが丸見えなので、ある意味修景以上に近寄り難かった。

 

 言い捨てるように他の履修者に告げ、ガレージの鉄の床にカツカツと足音高く響かせながら、逸見エリカ暁の出陣である。

 見送る履修者達の頭の中でワルキューレの騎行が特に意味もなく鳴り響く。

 

「副隊長が行った……!」

「ああ、あの機嫌の悪い副隊長が……!」

「これであの不審者もイチコロね! 今の副隊長に睨まれたら、私漏らす自信あるもの!」

「そんな事を威張って言わないでよ……」

 

 口々に小声で囁き合う―――名門黒森峰でそういう状況になる事自体が、“浮ついている”証拠なのだが―――生徒たち。彼女たちの見守る中で、スマホ画面を見ながら難しい顔をしていた少年の前にエリカは到着。つまり、修景はまほからの返信を待っていたのだが。

 ともあれエリカは、キッ、とでも擬音が付きそうな強い表情で少年を睨みつけ―――

 

「ご、ごきげんよう……」

「え? あ、どうも。ごきげんよう」

 

 ―――ダメだった。聖グロリアーナのような挨拶が口から出た。

 逸見エリカ、実は中々の箱入り娘(パンドラボックス)であり、家族構成は父、母、姉。

 幼い頃にはロリータファッションでうさぎのぬいぐるみを抱いているような少女であり、典型的な“御令嬢(おじょうさま)”だったのである。

 要は、黒森峰の平均閥値よりも、更に同年代の男性への対応能力・免疫力が低かったのだ。

 

「………」

「………」

 

 間。

 

「本日は、良いお日柄で……」

「曇ってますけど」

 

 間。ただし、やや長め。

 

「………」

「………」

 

 間。とても長く。

 

「えーと、黒森峰の戦車道履修者の方ですよね。何か御用で―――というより、自分が不審だったんで気になったんですよね。すいません、人を待っているのですが、LINEしても電話しても反応なくて」

「あ、そうだったんですね……」

 

(((副隊長、弱ェ―――ッ!!?)))

 

 問い質すどころか、相手から用件を察されて先んじて回答をされる始末である。

 隊長である西住まほの忠実な副官であり、負けん気が強い―――というよりそもそも気が強い逸見エリカという少女の意外な一面を見た気分な黒森峰の生徒達であった。

 

「もしかして、3年生の誰かですか? だとしたら、今頃は新学期の学力テスト中の筈ですが……」

「うわっちゃ……やっちまった。そりゃ反応ねぇわ」

 

 たはー、とでも言うように自分の額を手でぺしりと叩く少年。

 しかしそこからエリカに向き直り、20cmを超える身長差がなくなるくらい丁寧に頭を下げる。

 

「教えてくれて有難う御座います。練習の邪魔をして申し訳ない」

「あ、いえ……っ! ただ、そういう事情なら誰かに声をかけて貰えれば……っ!!」

「戦車道一筋の相手なんで、練習始まってるようならすぐに来るとばかり思ってました。いや、ホントすいません」

 

 崩した敬語と共に深々と頭を下げる修景に、エリカは両手を突き出して左右に振る。

 ともあれその会話が聞こえてきて、浮ついていた黒森峰戦車道履修者達の空気は、“浮ついた”から“気が抜けた”ものになる。

 

 3年生の誰か相手にノーアポイントメントで会いに来て、待ちぼうけを食らっているだけか、と。

 今度はそのお相手が誰だろうという囁き合いが始まるあたり、名門だろうと女の子の習性は変わらないということか。この年頃の女子というものは、すわ誰かの色恋沙汰かと思うと、急に盛り上がるものなのである。

 

「えぇと、そういう事情でしたら―――あ、誰をお待ちですか? お教えして貰えれば、来たらお伝えすることも出来ると思いますけど」

「あ、はい。待っている相手は―――」

 

 一拍。

 

「隊長の、西住まほなんですけど」

 

 唐突に投げ込まれた爆弾発言―――鉄のカリスマ、鋼の隊長である西住まほを訪ねてきた同年代の少年という事態に、黒森峰戦車道履修者達の空気は『浮ついた』→『気が抜けた』→『大混乱』の三段変形をここに完了したのだった。

 




 ちなみに、まえがきで言ったロリータエリカ。当時のまほとみほに遭っているのですが。
 さて、みほは覚えていませんが、まほの方はどうなのやら。

 ちなみにこの小説では、そのエピソードが出てくる予定があるかもしれないし無いかもしれない(見切り発車)

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