西住家の少年   作:カミカゼバロン

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教訓:同じネタの擦り過ぎはやめましょう


少女、ウクレレの禍根を憂慮する

 さて、継続高校勢と宮古修景、逸見エリカの邂逅から程なくして、黒森峰や継続含む全ての第一回戦が終了した。

 この後、戦車道女子たちは各々自分の学園艦に引き上げて第二回戦に備えて、宮古修景は受験を前にしたテスト勉強に備える流れである。後者はだいたい徹夜で謎のテンションになった癖毛が締め切り前の作家ばりに脈絡のない発言をし始めるだけなので割愛する。姉曰く、『時節イベント』である。

 

 後者=修景の醜態は一切省くとして、前者―――全国大会の試合日程は、戦車道という武道にしてスポーツが持つ宿命、或いは機能的に当然の帰結だろう。戦車を使って試合をする以上、使った戦車の整備・修理の時間が相応程度に必要になるのだ。スーパーなロボットの大戦ゲームのように根性を捻り出せば回復するようなものではないのである。

 根性で回復し、熱血すれば攻撃力が上がるというなら、常時熱血スポ根のアヒルさんチームは八九式で天下が取れるだろう。火力不足を解消する画期的なシステムだ。実現できれば。

 

 なお、当然ながら戦車道のために他の学業に悪影響を及ぼすようでは選択科目として本末転倒であるため、整備・準備時間は無理をせずとも良い程度に十分な期間が取られている。大洗にとっては幸運なことに、その制度による時間的な余裕のおかげで試合と試合の合間に新たな戦車を捜索する事も可能になっていた。

 勿論、幾ら大洗の保有車両数が少ない=整備・修理の必要な台数が少ないといっても、通常の整備・修理も行いながら捜索してきた車両をレストアし、実戦投入可能な状態にするという事の労力・難易度は想像に難くない。具体的にそれを4名という少人数で可能とした大洗自動車部の技術力は想像を絶する。

 とはいえ、戦時中においては『時代を先取りしすぎた欠陥兵器』といえるものであったポルシェティーガーをレストアし、実戦投入可能なようにチューンするという事に関しては、さすがの自動車部でも相応の日数を要したようである。少し時系列を先取りする話となるが、プラウダ戦に投入されるルノーB1と同時期に発見されていたポルシェティーガーの実戦投入は、黒森峰女学園との決勝戦までお預けになるのは已む無しというべきだろう。むしろ、決勝までに間に合うのですら相当おかしい。

 

 ともあれ、第一回戦では大洗がサンダースを破るという大番狂わせが起きたが、それ以外は概ね順当。黒森峰女学園は知波単学園の『玉砕と呼ぶには少々悲壮感が足りていない全軍突撃』をあっさり捌いての一方的展開で勝利し、第二回戦へと駒を進めることとなっていた。

 ―――その第二回戦の相手こそ、先日エリカが遭遇した継続高校だったのである。

 

 そして今。

 戦車道全国大会、第二回戦=準々決勝。黒森峰女学園 VS 継続高校。試合会場として選ばれたエリアは、人が住んでいない山林区画。起伏と遮蔽が多い地形は、相性的にはゲリラ戦重視の継続高校にやや有利というところだろう。

 そして、その山林の近くに設営された選手の待機場。準々決勝とはいうもののまだ第二回戦であり、第一回戦と車両の上限数も同じである事もあって、第一回戦と会場規模や設備もそう変わらない。つまり、野原に『この辺です』という程度の大雑把な指定がされているだけのが待機場だ。一応、事前に草刈り程度はされている。

 

 その一角にある黒森峰女学園の待機所に、継続高校側からの挨拶が来ていた。

 それ自体はさして驚く内容ではない。戦車道は礼に始まり礼に終わる、武道にしてスポーツだ。ライバルであろうとも互いに友好的な関係である戦車道女子は少なくないし、こうやって試合前に挨拶を交わす機会も珍しくない。

 ただ、今の各学園艦の隊長には個性的な人物が多いとされている中で、特に掴み所がないと言われている帽子少女(ミカ)が来るというのは珍しい。珍しいが、挨拶に来たならば拒否する理由もない。

 

 そうしてBT‐42の乗員である3人の少女を迎えた黒森峰女学園だったが―――ミカがカンテレを大事そうに抱いたまま、据わった目で西住まほを睨みつけて来たのは流石に予想外だった。

 何やら謎の敵意を向けられている黒森峰女学園。しかしミカの右隣のミッコが下手な口笛を吹きながらそっぽを向いて全力で無関係アピールしているのと、左隣のアキが『スイマセン! スイマセン!』とぺこぺこぺこぺこと周囲の黒森峰女子達に頭を下げてきているので、敵意に敵意を向け返すにしても少々空気が弛緩している。

 唯一、西住まほの斜め後ろに控えた副隊長(逸見エリカ)だけはだいたいの原因と経過が分かっているので、誰にも聞こえない程度に小さく溜息を吐いた。あと、遠くに居る原因の片割れ(修景)を呪う言葉を口の中だけでこっそり呟いた。

 

「……やあ、黒森峰の隊長さん。挨拶は省こう。一つだけ、言わせて欲しい。―――この楽器は、ウクレレじゃなくてカンテレだ。ハワイじゃなくてフィンランドの楽器なんだ」

 

 いきなりなに言ってんだこいつ。

 開口一番、あまりにも脈絡がないミカの言葉に、周囲の黒森峰戦車女子達の困惑は天井に達した。

 

「えっ……!?」

 

 なんでそれで驚いてるんだこいつ。

 半歩後ずさりながらガチで驚くまほの言葉に、周囲の黒森峰女学園女子達の困惑は天井を越えた。

 

「……そ、そうなの? すまない。でも、弦があって同じ4文字で更には最後の文字がどっちも『レ』だから……」

「隊長、ややこしくなるから素直にゴメンナサイして貰って良いですか!? 血より濃い姉弟の絆というか、同レベルの感性はこんな場所でアピールしなくてもいいですから! 『でも』とか『だって』で言い訳するところまでそっくり!!」

 

 無自覚に火に油、もしくはガソリン、それもオクタン価の高いハイオクを投入するまほに対して、エリカは後ろから袖を引いてストップをかける。発言の内容も着目点も完全に修景と同レベルだ。姉弟の絆は良いのだが、こんな点まで似ないでほしい。

 一方で怒りの火にハイオクを投げ込まれたミカは、飄々とした笑みを浮かべてカンテレを『ポロロン』と爪弾いた。余裕の笑みは、まるでまほの無学を嘲笑っているかのようにも見える。

 

「…………」

「…………あっ」

 

 気のせいだった。ちょっと目尻に涙が浮かんでいるのに気付いてしまったエリカである。大好きな民族楽器であるカンテレに対するとんでもなくぞんざいな扱いに、単純に怒って拗ねているだけだった。

 飄々とした笑みや小馬鹿にした笑みではない。プルプルしながら色々と堪えているだけである。『意外と可愛らしいなこの人』という感想が脳裏に浮かんだエリカだが、一旦その感想をしまい込んで、ミカの右隣で下手な口笛を吹いているミッコに向けてズカズカと接近する。

 

「ちょっと、どうなってるの!? ファミレスで別れた時より悪化してるじゃない!」

「い゛!? いや、その、すっごい飄々としているミカがこのネタ擦ると拗ねるのが物珍しくて、カンテレで『アロハ・オエ』弾けないかとか言って暫くからかってたんだけど……」

 

 何の話をしているのかすら分からずに困惑する黒森峰女学園戦車道女子の輪の中心で、睨み合っているんだかなんだかよく分からない互いの隊長を一旦放置し、小声でミッコに問いかけるエリカ。

 対するミッコは暫しゴニョゴニョとした声で言い訳してから、

 

「ネタを擦り過ぎて、今朝ついに怒らせちゃって、なんか元凶にも文句を言ってやるとかなんとか。ゴメン」

「つまり、アンタの内輪の人間関係自損事故でしょう!? それで元凶の隊長に文句を言いに来たと!? あ、内輪の自損事故でもあるけど、元凶はそもそも隊長だったわ! ゴメン!」

「……いや、これはあたしが悪いわ。好きなものをそういう扱いされて嬉しいはずもないのに、ミカの珍しい反応が面白くて……」

「……ちゃんと反省してるならいいけど。やめてよホント、内ゲバされて不戦勝とか色んな意味で困るんだから」

 

 とても気まずそうに謝るミッコ。ツッコミから謝罪までをノンストップで切り替えて繰り出すエリカ。その後に各々眉根を寄せて、困った表情でポツポツと語り合う。

 周囲の黒森峰女子の視線が、隊長2名からこちらに移ってくる。だいたいの目が胡乱な表情で、『今度はなんだ』と言わんばかりである。隊長2名の謎すぎる会話に、戦車道とは無関係の案件だと察されていたせいでもあった。

 その中で、『だいたい』の中に含まれない数少ない例外が、心配そうに小走りに駆け寄ってくる。茶髪、癖毛、おっとりとした垂れ目。赤星小梅―――みほに救助された車両の車長を務めていた少女であり、今はパンターG型のうち1台を任されている戦車道女子だ。

 

「あの、エリカさん。事情は分かりませんが、何か行き違いや喧嘩があったのでしょうか?」

「あー……うん……えーと……」

 

 心の底から心配そうに向けられた小梅の視線に対し、エリカは気まずげに目を逸らす。

 

『ウクレレとカンテレの区別もつかない姉弟が、継続の隊長が持ってる楽器をハワイの陽気なウクレレだと勘違いしていました』

『弟の方が、先日ちょっと所有者本人の前でそれを言ってしまい、ウクレレじゃないもの(カンテレ)の持ち主が愕然としてました』

『その珍しい反応に味を占めたらしい、こちらのちっこい操縦手がネタを擦り続けていたら、今朝方に継続の隊長殿が怒って拗ねました』

『元凶・遠因といえる西住まほに対して、ちょうど試合日だったので勢いで文句を言いに来ました』

 

 ―――改めて列挙すると、どう考えてもそこまで真摯な心配の目を向けられるような案件ではない。原因・経過・起きた現象のどれもが、あまりにもしょうもなさ過ぎる。

 

 とはいえ、ミッコが反省していた通り。自分の好きなものをぞんざいに扱われたならば、不快感や怒りを抱くのは正常な反応だろうとエリカは思う。この場合は悪いのはカンテレに対する知識がぞんざいすぎた上に、素直に認めず『でも』『だって』と言い訳をした西住姉弟と、悪ノリしてネタを擦り続けたミッコである。

 今回はミカの側に立って、隊長(西住まほ)ちっこいの(ミッコ)から改めてミカに謝罪させよう。そう結論づけて、エリカは額に手を当てて天を仰いでから、小梅に対して向き直った。

 

「大丈夫。戦車道関係の話以外で、ちょっと継続の隊長さんに失礼なことになってただけだから。私は事情分かってるし、謝って話をつけてくるから。赤星さんは集まってるみんなを解散させて、試合の準備に戻らせて貰える?」

「……分かりました。その……なにか出来ることがあったら言ってくださいね」

「それには及ばないわ」

 

 敢えてやってほしいことを言うならば、出来れば関係者各位の恥を拡散させない為にも、何も言わずに距離をとってほしいエリカだった。

 ウクレレの傷は深かった。




 今回はちょっと短めで、5000文字に満たない量です。試合まで全部纏めるとクソ長くなると気付いた結果でもあります。次は黒森峰女学園 VS 継続高校。調査不足でなければ公式でお出しされている内容は現時点では無い筈なので、完全に捏造です。
 というより、珍しく修景の影響が試合に対して(今回はマイナスに)出ている回なので、『史実』より苦しい展開の黒森峰です。

 なお、BT‐42の主砲については、『なんでかパーシングの装甲ぶち抜ける不思議砲』という認識でいます。規定内改造でなんやかんやした結果、なんかいい感じに威力が上がったのでしょう。
 史実では対戦車火力不足とか言われてた車両ですが、ガルパンに対してあまり元の車両スペックに拘りすぎるのも野暮というものです。でもローズヒップさん、戦車は飛びませんしリミッターは外すものではありません。


追記:あとがき書いてから思い出しましたが、どっかの英国が塹壕超える為に飛ぶ戦車を開発してました。史実です。
   間違った指摘をローズヒップ師匠に向けていたことを、訂正してお詫びします。

追記2:関連書籍で全国大会の試合について解説されていたのを初めて知りました。
    漫画以外の関連書籍は手が回っていませんでした、申し訳ありません。
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